民法ゼロから民法#285

侵害不当利得の効果・現存利益と悪意の受益者(前編)

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第6章 法定債権 #285/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

預かったギターを売って旅行に使った、何を返すのか

冒頭の設例 Bは友人Aに、相場10万円のギターを預けた。Aは長く預かるうちに自分の物だと思い込み、中古店Cに10万円で売った。Cは事情を知らず、確認も尽くしていた。Aは代金を旅行などに使った。後で、Bの物だったと分かった。 図:冒頭の設例 Bは友人Aに、相場10万円のギターを預けた

  • Aは長く預かるうちに自分の物だと思い込み、中古店Cに10万円で売った
  • Cは事情を知らず、確認も尽くしていた
  • Aは代金を旅行などに使った
  • 後で、Bの物だったと分かった

預けた持ち主がB、手を出したのがA、買った中古店がCです。前回と同じ向きで、Aが勝手に使った人、Bが持ち主です。問いは2つです。1つめ、Aは何を返すのか。ギターそのものか、お金か。2つめ、使い切ったお金でも返すのか。答えの形を先に言います。ギターそのものは返せません。返すのはお金です。そして、そのお金の範囲は、Aが自分の物と信じていたか、人の物と知っていたかで変わります。信じていたなら、手元に浮いて残っている分だけです。知っていたなら、使い切っていても全部に、利息まで付きます。前回は、不当利得の分け方と、侵害不当利得の4つの要件を見ました。例に出した駐車スペースのAは、止めてはいけないと知っている設定でした。では、止めてよいと思い込んでいたなら、使っていた分は返すのか。この問いは、今回は置いておきます。今日はその手前の、返す物と、返す範囲を固めます。順番はこうです。まず、何を返すのか。原物が返せなければ、お金になります。次に、いくら返すのか。善意のとき、悪意のときで、範囲が変わります。そのうえで、善意の場合に鍵になる、浮いたかどうか、という見方を使います。続いて、途中で知った場合です。最後に、売った物が株式のような、代わりのきく物だった場合を見て、設例の結論をまとめます。

何を返すのか 原物と、返せないときのお金

返還の内容の流れ。手元に原物があるか→ある=原物を返す(原物返還の原則)/ない(滅失・第三者への売却で所有権が移った等)=価格相当額の金員。設例=ギターは中古店Cが即時取得→Aの手元にもBの手元にもない→お金。 図:返還の内容の流れ

  • 手元に原物があるか→ある=原物を返す(原物返還の原則)/ない(滅失・第三者への売却で所有権が移った等)=価格相当額の金員
  • 設例=ギターは中古店Cが即時取得→Aの手元にもBの手元にもない→お金

まず、何を返すのかです。原則は、原物の返還です。受益者の手元に、得た物そのものが残っているなら、その物を返します。他人の土地を権原なく使っている人は、その土地を返す義務を負う、というのが原則の形です。ここで、前回の話を1つ思い出します。侵害不当利得では、物そのものの返還は、物権的返還請求権が優先するという見解が有力でした。この見解に立つと、手元にある物の返還は、所有権に基づく請求で足ります。不当利得の請求の出番は、返せなくなって、価格に当たるお金を求める場面からです。そしてこの見解に立っても、返せないときに不当利得が使われる、という点は動きません。

BさんはCさんから取り戻せません。即時取得の回で見た、192条が働くからです。動産を取引で受け取った人が、相手を持ち主だと信じ、そう信じたことに落ち度も無いなら、相手が持ち主でなくても、その物の所有権を取得できます。占有を信じて買った人を守らなければ、誰も安心して動産を買えないからです。Cは事情を知らず、確認も尽くしていたので、ここに当たります。例外は193条で、盗まれた物と落とし物に限って、持ち主は2年間、取り戻せます。けれども、盗品と遺失物の回で見たとおり、預けた物を持ち逃げされた場合は、盗品でも遺失物でもなく、193条の外でした。ですから、Cの即時取得は動きません。Cがギターの所有権を取る以上、BはCに返せとは言えません。Aの手元にも、ギターはもうありません。つまり、原物の返還は不能です。なお、預かった物を勝手に売ったことは、預かる約束に反するので、債務不履行を理由とする請求も、別の根拠として立ちます。今日は、不当利得だけを見ます。原物が返せない。そこで、次の段階です。

価格相当額と、善意・悪意で変わる範囲 703条と704条

返す範囲は受益者の主観で変わる。善意=受け取る理由(法律上の原因)がないと知らなかった/悪意=知っていた。過失の有無は問わない。設例=自分の物と信じて売ったA=善意/人の物と知って売ったA=悪意。 図:返す範囲は受益者の主観で変わる

  • 善意=受け取る理由(法律上の原因)がないと知らなかった/悪意=知っていた
  • 過失の有無は問わない
  • 設例=自分の物と信じて売ったA=善意/人の物と知って売ったA=悪意

原物が返せないとき、受益者は、その物の価格に当たるお金を返す義務を負います。ギターなら、相場の10万円です。ただし、どこまで返すのかは、受益者が善意か悪意かで違います。この回の中心です。条文を2つ読みます。

条文民法703条

民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

利益の存する限度において返す、とあります。次の704条が悪意の受益者を別に定めているので、703条は、善意の受益者についての規定だと分かります。善意の受益者は、利益の存する限度、つまり現存利益の返還義務にとどまります。

条文民法704条

民法第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

悪意の受益者は、受けた利益に利息を付けて返します。前段です。この場合に、なお損害があるときは、その賠償もします。後段です。善意と悪意の意味を確認します。善意とは、法律上の原因がない、つまり受け取る理由がないと知らなかったことです。悪意は、知っていたことです。過失があったかどうかは問いません。設例なら、自分の物と信じて売ったAは善意です。人の物と知っていて売ったAは悪意です。703条の範囲では、利益が残っていない分は返しません。理由は、受け取る理由があると信じて使った人に、不当利得がなかった場合以上の不利益を与えるのは酷だからです。信じて使った分まで返させると、知らないうちに、自分の財布を傷めてしまいます。悪意の受益者には、この保護がありません。知っていて使ったのですから、使い切っていても、受けた利益の全部を返します。利息にも触れます。悪意の受益者の利息は、受け取った時から付く、とされています。最高裁が、そう述べたのは、借主が貸金業者に払い過ぎた利息、いわゆる過払金を、貸金業者が返す事案でした。

悪意の受益者でも、損害賠償が必ず付くわけではありません。そこが誤解しやすい点です。最高裁の判断を読みます。

判例最判平21・11・9 民集63巻9号1987頁

704条後段の位置づけ 民法704条後段の規定は、悪意の受益者が不法行為の要件を充足する限りにおいて、不法行為責任を負うことを注意的に規定したものにすぎず、悪意の受益者に対して不法行為責任とは異なる特別の責任を負わせたものではないと解するのが相当である。 …… 不当利得制度の下において受益者の受けた利益を超えて損失者の被った損害まで賠償させることは同制度の趣旨とするところとは解し難い。

事案は、貸金業者に払い過ぎた利息の返還訴訟です。借主は、弁護士費用の賠償も、704条後段を根拠に求めました。最高裁は、後段は新しい責任を作ったのではなく、不法行為の要件を満たす限りで、その責任を負うことを確認したにすぎない、として否定しました。理由の核は、不当利得は受けた利益を返させる制度で、損失者の損害まで償わせる制度ではない、という点です。設例で言います。悪意のAがBの損害を賠償する場合があります。たとえば、Bが代わりのギターを借りるのに、3万円かかったとします。この分の3万円をAが賠償するのは、Aの売却が故意の不法行為として、709条の要件を満たすからです。悪意だから自動的に付く、のではありません。反対に、善意のAでも、不注意があって709条の要件を満たすなら、不法行為として別に請求できます。703条そのものからは、損害賠償は出ない、ということです。

善意と悪意の比較表(2×3)。縦=善意の受益者(703条)/悪意の受益者(704条)。横=元本・利息・損害賠償。善意=利益の存する限度(現存利益)/付かない/703条からは出ない(709条の要件を満たせば別に)。悪意=受けた利益の全部(使い切っていても)/付く(前段・受益の時から)/なお損害があれば(後段=不法行為の要件を満たす限りで)。 図:善意と悪意の比較表(2×3)

  • 縦=善意の受益者(703条)
  • 悪意の受益者(704条)。横=元本・利息・損害賠償。善意=利益の存する限度(現存利益)
  • 付かない
  • 703条からは出ない(709条の要件を満たせば別に)。悪意=受けた利益の全部(使い切っていても)
  • 付く(前段・受益の時から)
  • なお損害があれば(後段=不法行為の要件を満たす限りで)。

ここまでを、2行3列の表にまとめます。縦が、善意と悪意。横が、元本、利息、損害賠償です。善意の受益者は、元本が利益の存する限度、利息は付かず、損害賠償は703条からは出ません。悪意の受益者は、元本が受けた利益の全部で、使い切っていても減りません。利息が付き、なお損害があれば、不法行為の要件を満たす限りで賠償します。この表を、自分で書けるようにしてください。設例に当てはめる予告です。売却代金は10万円でした。善意のAなら、残っている分だけ。悪意のAなら、10万円の全部に利息、損害があれば賠償です。善意のときの、残っている分とは何か。次に見ます。

現存利益は、浮いたかどうか

売却代金10万円の使い道。旅行に6万円(代金が無ければ行かなかった旅行)/借金の返済に4万円。見方=そのお金が無くても、どのみち出ていくはずだった分が浮いたかどうか。 図:売却代金10万円の使い道

  • 旅行に6万円(代金が無ければ行かなかった旅行)/借金の返済に4万円
  • 見方=そのお金が無くても、どのみち出ていくはずだった分が浮いたかどうか

現存利益に入る前に、総則の、失踪宣告の取消しの回を思い出してください。1問です。失踪宣告が取り消されたとき、生活費に使った分と、旅行に使った分は、返す必要がありますか?生活費は、そのお金が無くても払うはずの分だったので、返します。旅行は、無ければ行かなかった出費なので、返さなくてよいです。その見方が、そのまま使えます。受け取ったお金を、何に使ったか。そのお金が無くても、どのみち出ていくはずだった分が、浮いたかどうか。浮いていれば、利益は残っています。浮いていなければ、利益は残っていません。たとえで言えば、財布の穴埋めです。家賃や借金の返済は、そのお金が無ければ、自分の財布から払うはずでした。代金を回したことで、財布の減りを防げました。その分が、残っている利益です。旅行は、代金があるからこそ行けた出費です。財布の穴を埋めたのではなく、使っただけです。だから、残っていません。ギャンブルなどの浪費も同じで、現存利益は否定されます。逆に、生活費や債務の弁済のような有益な支出は、本来その支出に充てるはずだった別の財産が、現に減らずに残っていると評価できるので、肯定されます。では、設例です。代金10万円のうち、6万円を旅行に使い、4万円を借金の返済に回しました。善意のAは、いくら返しますか?

借金の返済に回した4万円だけ、浮いているので、4万円です。旅行に使った分の6万円は返さず、4万円を返します。もし10万円を全部旅行に使っていたなら、現存利益は0で、返す額も0です。言うだけでは足りません。最高裁の判断です。

判例最判平3・11・19 民集45巻8号1209頁

金銭の現存利益の立証 金銭の交付によって生じた不当利得につきその利益が存しないことについては、不当利得返還請求権の消滅を主張する者において主張・立証すべきところ、……

事案は、銀行が、手形の取立金が入金されたと誤って信じ、預金者に1700万円を払い戻したものです。銀行は、払い戻しの約3時間後に、返還を請求しました。最高裁は、利益が残っていないことは、返還請求権が消えたと主張する側、つまり受益者が主張し、立証しなければならない、としました。利益が消えた、というのは、いったん生じた返還の請求権が消えた、という主張です。設例なら、旅行に使い切ったと言うAが、示す側です。Bが、残っていることを示す必要はありません。ここで言い過ぎないでください。同じ判決には、受け取ったお金を、取立ての依頼として第三者に渡していた場合の判断もあります。そのときは、第三者に返還を求められる債権があるので、その価値に当たる利益を、受益者はなお持っている、とされました。お金を人に渡した、というだけで、利益が消えるとは限りません。渡した相手に返還を求められる債権があるなら、その価値が、利益として残ります。

善意から悪意に変わったとき

時間軸。ギターを売って代金10万円を受け取る→旅行に6万円(善意の間)→Bから指摘されて知る(ここから悪意)→残り4万円を使い切る→請求。知る前に失われた6万円は返さない/知った後に失った4万円は減らない=返す額は4万円。 図:時間軸

  • ギターを売って代金10万円を受け取る→旅行に6万円(善意の間)→Bから指摘されて知る(ここから悪意)→残り4万円を使い切る→請求
  • 知る前に失われた6万円は返さない/知った後に失った4万円は減らない=返す額は4万円

次に、途中で状況が変わる場合です。Aは、はじめは自分の物と信じていました。ところが、旅行で6万円を使ったあと、Bの指摘で、人の物だったと知りました。そのとき、手元に4万円が残っていて、Aはそれを、その後に使い切りました。ここで返す額は、いくらになるでしょうか。当初は善意でも、法律上の原因がないと認識した時以後は、悪意の受益者として扱います。そして、認識した後に利益が消えても、返す範囲は減りません。最高裁の判断を読みます。

判例最判平3・11・19 民集45巻8号1209頁

認識後の利益の消滅 善意で不当利得をした者の返還義務の範囲が利益の存する限度に減縮されるのは、利得に法律上の原因があると信じて利益を失った者に不当利得がなかった場合以上の不利益を与えるべきでないとする趣旨に出たものであるから、利得者が利得に法律上の原因がないことを認識した後の利益の消滅は、返還義務の範囲を減少させる理由とはならないと解すべき

先ほど、善意の人が守られる理由を言いました。信じて使った人に、不当利得がなかった場合以上の損をさせない、という趣旨です。その趣旨が当てはまるのは、信じている間だけです。知ってしまった後は、もう信じて使った人ではありません。ですから、知った後に使い切っても、返す額は減りません。設例③です。旅行の6万円は、知る前に使いました。ここは減ります。まだ残っていた4万円は、知った時点で残っていました。その後に使い切っても、減りません。返す額は、4万円です。1問です。Bに指摘されて知った後に、残っていた4万円を使い切りました。返す額は、減りますか?

減りません。知った後の消滅は、返す額を減らさないからです。では、知る前に旅行へ使った6万円は、返しますか?知る前に、善意の間に失った分なので、返さなくてよいです。知る前と後で、境目の線が引かれます。判決の事案は、返還の請求を受けてはじめて、誤りに気づいた、というものでした。そのため、請求を受けた時点で、いくら利益が残っているかが検討されました。この事案では、気づいた時と請求を受けた時が重なっていました。基準として押さえるのは、請求を受けた時ではなく、法律上の原因がないと認識した時です。もう1つ、短答で問われる点があります。善意の受益者が、不当利得の返還を求める訴えを起こされて、敗訴したとき、訴えが起こされた時から悪意の受益者とみなす、というのが通説です。占有の回で見た、訴えられた時から悪意とみなす、189条2項と同じ形で、これを類推します。訴えられた時点で、受け取る理由が無いかもしれないと気づく機会を持つから、という理屈です。

代わりのきく物を売ったとき 売却代金相当額

株式の値動き。Bの上場株式100株を、Aが自分の物と思い込んで売り、売却代金100万円。売却後に60万円相当へ下落=口頭弁論終結時の価格なら40万円免れる/150万円相当へ上昇=口頭弁論終結時の価格なら利益を50万円超えて返す。→原則として売却代金相当額(100万円)。 図:株式の値動き

  • Bの上場株式100株を、Aが自分の物と思い込んで売り、売却代金100万円
  • 売却後に60万円相当へ下落=口頭弁論終結時の価格なら40万円免れる/150万円相当へ上昇=口頭弁論終結時の価格なら利益を50万円超えて返す
  • →原則として売却代金相当額(100万円)

最後に、売られた物がギターではなく、株式のような、代わりのきく物だった場合です。代替性のある物と言います。同じ銘柄の株100株は、どれも同じ価値です。設例を変えます。Bの上場株式100株を預かっていたAが、自分の物と思い込んで売りました。売却代金は100万円です。株は第三者の手に渡り、原物は返せません。ここで、論点が2つ出ます。1つめ、同じ銘柄の株を買い直して返す義務があるのか。2つめ、お金で返すなら、いくらか。1つめから行きます。結論は、価格に当たるお金の返還にとどまる、です。理由は、買い直して返すことを認めると、受益者に、同じ物を調達する義務を課すことになるからです。Aが得たのは、売った時の100万円です。それなのに、買い直しを求められて、株が値上がりしていれば、元の100万円を超えて、持ち出さなければなりません。受けた利益の返還以上の負担になります。2つめです。ここが判例の中心です。お金で返すなら、事実審の口頭弁論が終わる時、つまり、判決前の最後の審理の時の、株の価格を基準にするのか。それとも、売った時の売却代金を基準にするのか。数字で見ます。売却代金は、100万円です。売った後で、株が下がって、60万円相当になったとします。口頭弁論終結時の価格を基準にすれば、返すのは60万円です。Aは40万円を免れます。売って100万円を手にしたのに、不公平です。逆に、株が上がって、150万円相当になったとします。口頭弁論終結時の価格なら、150万円です。Aは、手にした100万円を、50万円超えて返します。受けた利益より多く返させるのは、これも不公平です。

最高裁の判断です。

判例最判平19・3・8 民集61巻2号479頁

代替性のある物を売却した場合 受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負うと解するのが相当である。 …… その返還すべき利益を事実審口頭弁論終結時における同種・同等・同量の物の価格相当額であると解すると、その物の価格が売却後に下落したり、無価値になったときには、受益者は取得した売却代金の全部又は一部の返還を免れることになるが、これは公平の見地に照らして相当ではないというべきである。また、逆に同種・同等・同量の物の価格が売却後に高騰したときには、受益者は現に保持する利益を超える返還義務を負担することになるが、これも公平の見地に照らして相当ではなく、受けた利益を返還するという不当利得制度の本質に適合しない。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】受益者は、法律上の原因なく利得した代替性のある物を第三者に売却処分した場合には、損失者に対し、原則として、売却代金相当額の金員の不当利得返還義務を負う。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文に書いていない。理由=口頭弁論終結時の価格を基準にすると、下落で免れ・高騰で利益を超えて公平に反する。例=預かった株を自分の物と思い込んで売った)

この規範の読み方です。売却代金が基準で、株の値動きには左右されません。100万円で売ったなら、60万円に下がっても、150万円に上がっても、基準は100万円です。善意のAなら、そこからさらに、現存利益の限度に絞られます。悪意のAなら、100万円に利息です。範囲の話は、先ほどの2×3表のとおりです。この判決が判断したのは、株のような、代わりのきく物を売った場合です。ギターのような、中古で一つ一つ状態が違い、同じ種類の別の物では置き換えにくい物、つまり不代替物を売った場合の基準までは、判断していません。たとえば、相場10万円のギターを12万円で売っていたらどちらで測るかは、この判決の外です。設例のギターは、相場も売却代金も10万円なので、どちらで測っても10万円です。なお、ここは論文で論点になりうる箇所です。

ギターの結論と、まとめ

設例の結論。①善意で、旅行6万円+借金返済4万円=返す額は4万円(旅行は浮かない・借金返済は浮いた)/①'善意で、全部旅行=0(ただし使い切ったことはAが立証)/②悪意=10万円の全部+利息、なお損害があれば(709条の要件を満たす限りで)賠償/③途中で悪意=4万円(知る前の6万円は減る・知った後の4万円は減らない)。原物は返せない→売却代金10万円。 図:設例の結論

  • ①善意で、旅行6万円+借金返済4万円=返す額は4万円(旅行は浮かない・借金返済は浮いた)
  • ①’善意で、全部旅行=0(ただし使い切ったことはAが立証)
  • ②悪意=10万円の全部+利息、なお損害があれば(709条の要件を満たす限りで)賠償
  • ③途中で悪意=4万円(知る前の6万円は減る・知った後の4万円は減らない)
  • 原物は返せない→売却代金10万円

冒頭の問いに戻ります。Aは、何を、いくら返すのか。何を、は、お金です。ギターは、Cが即時取得したので、原物は返せません。お金の額は、売却代金の10万円が基準です。いくら、は、Aの主観で決まります。善意で、旅行に6万円、借金返済に4万円なら、浮いたのは4万円です。全部を旅行に使っていたなら0です。ただし、使い切ったことは、Aが示さなければなりません。悪意なら、10万円の全部に利息を付けて返します。使い切っていても、減りません。なお損害があれば、不法行為の要件を満たす限りで、賠償も加わります。途中で知った場合は、知った後の消滅は減らさないので、旅行の6万円は返さず、知った時点で残っていた4万円を返します。2つめの問いです。使い切ったお金でも、返すのか。使ったから返さない、が通じるのは、信じている間だけです。悪意の間、そして知った後は、使い切っても返します。今日のまとめを、3点言います。1つめ、原物が返せるなら原物、返せないなら価格相当額のお金です。2つめ、範囲は、善意なら現存利益、つまり浮いて残っている分だけ、悪意なら全部に利息、なお損害があれば不法行為の要件を満たす限りで賠償です。金銭の場合は、現存利益がないことは、受益者が示し、知った後に使い切っても減りません。3つめ、代わりのきく物を売ったときは、原則として売却代金相当額を返します。

参照条文

  • 民法703条
  • 民法704条

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