民法ゼロから民法#290

不法原因給付の効果

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第6章 法定債権 #290/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

返せと言えないなら、その家は誰の物か

冒頭の設例 Bは、愛人関係を続けてもらう約束で、未登記の家をAに引き渡した。関係が終わり、Bが「家はまだ私の物だ。所有権に基づいて返せ」と言う。約束と贈与は90条で無効。不当利得では返せない。では、所有権に基づいてなら? 図:冒頭の設例 Bは、愛人関係を続けてもらう約束で、未登記の家をAに引き渡した

  • 関係が終わり、Bが「家はまだ私の物だ。所有権に基づいて返せ」と言う
  • 約束と贈与は90条で無効
  • 不当利得では返せない
  • では、所有権に基づいてなら?

受け取ったのがA、渡したのがBです。前回の最後に予告した、返せないとき、渡した物の所有権はどうなるのか、という問いの回です。前回は、708条で返せなくなるための3つの要件を見ました。不法であること、給付をしたこと、ただし書に当たらないこと、です。この設例の約束は公序良俗に反して無効ですが、未登記の建物は引渡しで給付に当たります。ですから、708条の不法原因給付が成立する、という前提で話を進めます。今日は、成立したあとに何が起きるか、という効果の話です。無効な約束で渡した物は、原則として返してもらえる。そこが出発点です。ただ、708条があるので、不当利得に基づいては返せません。ここまでは前回の結論です。では、所有権に基づいてなら、どうでしょうか。贈与が無効なら、所有権はBに残っているはずです。そうすると、そもそもこの家は、いま誰の物なのでしょうか。これが今日の問いです。先に、答えの形を言います。708条の不法原因給付が成立するなら、Bは家を返せと言えず、家の所有権はAのものになります。なぜそうなるのかを、順に見ていきます。

今日の道筋。物の話=①不当利得の返還請求は×→②所有権に基づく返還請求も×→③所有権は受け取った側へ。金額の話=④不法行為の損害賠償も×→⑤損益相殺も×。応用=返還の合意・渡した側の債権者。最後に効果のまとめ表。 図:今日の道筋

  • 物の話=①不当利得の返還請求は×→②所有権に基づく返還請求も×→③所有権は受け取った側へ
  • 金額の話=④不法行為の損害賠償も×→⑤損益相殺も×
  • 応用=返還の合意・渡した側の債権者
  • 最後に効果のまとめ表

道筋です。まず、物の話として、不当利得の返還請求、所有権に基づく返還請求、そして所有権の行き先を見ます。次に、金額の話として、不法行為の損害賠償と、損益相殺を見ます。最後に、応用として、返還の合意と、渡した側の債権者の扱いを確かめて、効果の表にまとめます。

効果1 不当利得の返還請求はできない

708条の効果1。不法原因給付が成立すると、給付者は不当利得(121条の2)に基づく返還請求ができない。ただし書に当たれば成立しない=返せる。今日は成立した場合の話。 図:708条の効果1

  • 不法原因給付が成立すると、給付者は不当利得(121条の2)に基づく返還請求ができない
  • ただし書に当たれば成立しない=返せる
  • 今日は成立した場合の話

1つめの効果は、条文どおりです。もう一度、条文を読みます。

条文民法708条

民法第708条 不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。

本文のとおり、給付をした者は、給付したものの返還を請求できません。無効な行為に基づく原状回復の請求、つまり不当利得に基づく返還請求ができなくなる、ということです。これは条文を読めば出てくる効果で、覚える規範ではなく、条文の内容です。ただし書に当たるなら、不法原因給付は成立せず、返せます。今日は、ただし書に当たらず、成立した場合だけを考えます。

効果2 所有権に基づく返還請求もできない

抜け道の図。贈与が無効→所有権は贈与では移らない=Bはまだ所有者。不当利得(債権)で返せなくても、所有権(物権)なら返せる? →認めると708条が空振りになる。→所有権に基づく返還請求も許されない。 図:抜け道の図

  • 贈与が無効→所有権は贈与では移らない=Bはまだ所有者
  • 不当利得(債権)で返せなくても、所有権(物権)なら返せる? →認めると708条が空振りになる
  • →所有権に基づく返還請求も許されない

物権的な返還請求権は、以前の回で見ました。物を占有している人に、所有者がその物の返還を求める権利でしたね。実際、贈与が無効であれば、所有権は贈与によっては移りません。判例も、そう言っています。

判例最大判昭45・10・21 民集24巻11号1560頁

無効な贈与では所有権は移るか 関係を続けるための建物の贈与の事案 右贈与が公序良俗に反し無効である場合には、本件建物の所有権は、右贈与によつては上告人に移転しないものと解すべきである。

次に、同じ判決の、いちばん大事な部分です。贈与者が建物を新築して、関係を続ける目的で受贈者に贈与して引き渡した事案で、先ほど言った未登記の建物です。カードにある上告人は受け取った側、これから出てくる被上告人は渡した側です。

判例最大判昭45・10・21 民集24巻11号1560頁

所有権に基づく返還請求は許されるか 関係を続けるための建物の贈与の事案 しかしながら、前述のように右贈与が無効であり、したがつて、右贈与による所有権の移転は認められない場合であつても、被上告人がした該贈与に基づく履行行為が民法七〇八条本文にいわゆる不法原因給付に当たるときは、本件建物の所有権は上告人に帰属するにいたつたものと解するのが相当である。けだし、同条は、みずから反社会的な行為をした者に対しては、その行為の結果の復旧を訴求することを許さない趣旨を規定したものと認められるから、給付者は、不当利得に基づく返還請求をすることが許されないばかりでなく、目的物の所有権が自己にあることを理由として、給付した物の返還を請求することも許されない筋合であるというべきである。かように、贈与者において給付した物の返還を請求できなくなつたときは、その反射的効果として、目的物の所有権は贈与者の手を離れて受贈者に帰属するにいたつたものと解するのが、最も事柄の実質に適合し、かつ、法律関係を明確ならしめる所以と考えられるからである。

この判決は、2つのことを言っています。1つは、所有権を理由にしても返せないこと。もう1つは、その結果、所有権が受け取った側に移ることです。まず1つめです。履行行為、つまり、贈与の約束を果たすために家を引き渡したことが、708条本文の不法原因給付に当たるときは、給付者は、不当利得に基づく返還請求ができないばかりでなく、目的物の所有権が自分にあることを理由に返還を請求することも許されない、という部分です。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】不法原因給付が成立すると、給付者は、不当利得に基づく返還請求だけでなく、所有権に基づく返還請求もできない。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文に書いていない。理由=みずから反社会的な行為をした者に、その行為の結果の復旧を訴求させない趣旨)

抜け道を塞ぐためです。出口に鍵をかけても、隣の窓が開いていたら意味がありません。不当利得では返せなくても、所有権に基づいてなら返せる、とすれば、結局、Bは家を取り戻せます。自分から反社会的な行為をした者に、その結果の復旧を求めさせない、という708条の趣旨が、請求の名前を変えるだけで崩れてしまいます。判決は、この趣旨から、所有権に基づく請求も許されない筋合だ、と言っています。ちなみに、答案では、これを708条の類推適用、として書くことが多いです。ただし、判決自身は類推という言葉を使わず、許されない筋合だ、と述べています。この点は、論文で論点になりうるところです。ここで、1問です。所有権に基づく返還請求も認められないとして、では、この家の所有権は、いま、どちらにあるでしょうか。

返せと言えないのに、所有者のままでいる。その落ち着かなさが、次の論点の入口です。

所有権は、返せない結果として受け取った側へ

所有権の帰属の流れ。①贈与は無効=所有権は贈与では移らない→②708条の趣旨でBは返還を請求できない→③反射的効果として所有権はAに帰属→④Bが保存登記を持つならAは移転登記を求められる。贈与が有効になったわけではない。 図:所有権の帰属の流れ

  • ①贈与は無効=所有権は贈与では移らない→②708条の趣旨でBは返還を請求できない→③反射的効果として所有権はAに帰属→④Bが保存登記を持つならAは移転登記を求められる
  • 贈与が有効になったわけではない

その前に、前回の確認です。前回見た、未登記の建物は、何をすれば708条の給付に当たりましたか?引渡しです。引渡しで給付が成立しているから、今日の効果の話に入れます。さきほどのカードの後半を、読み直します。贈与者において給付した物の返還を請求できなくなったときは、その反射的効果として、目的物の所有権は贈与者の手を離れて受贈者に帰属する、と書かれています。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】給付者が給付した物の返還を請求できなくなったときは、その反射的効果として、目的物の所有権は給付者の手を離れて受益者に帰属する。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文に書いていない。贈与が有効になるのではない=返せないことの反射として移る)

反射的効果とは、返せないことの結果として、ついてくる効果、という意味です。贈与そのものが有効になったわけではありません。贈与は無効のまま、返還を請求できないことの反射として、所有権がAに移る、ということです。判決の理由は、そう解するのが、最も事柄の実質に適合し、かつ、法律関係を明確ならしめるから、というものです。ここからは判決の言葉を離れて、この理由の中身を、思考実験で確かめます。もし所有権がBに残ったままだったら、どうなるでしょうか。家には、Aが住み続けます。Bは所有者なのに、返せとは言えません。家の値段をお金で払え、と言うのも、形を変えた取り戻しなので、このあと見るとおり、同じ理由で止められます。所有者と占有者のずれが、いつまでも続きます。Bに残るのは、名前だけの所有権です。それなら、家を現に使っているAの物にして、所有者と占有者をそろえるほうがいい。これが、判決の言う、法律関係を明確にする、の中身です。

登記の図。判決の事案=Bが自分名義の保存登記をして明渡しを請求(本訴)。Aは反訴で所有権移転登記手続を請求。登記はBの名義のまま→Aは保存登記の抹消を得て自分で登記し直す代わりに、Bに移転登記を求められる。 図:登記の図

  • 判決の事案=Bが自分名義の保存登記をして明渡しを請求(本訴)
  • Aは反訴で所有権移転登記手続を請求
  • 登記はBの名義のまま→Aは保存登記の抹消を得て自分で登記し直す代わりに、Bに移転登記を求められる

登記も見ます。判決の事案では、贈与者が、引渡しのあとで、自分の名義の保存登記をしていました。保存登記とは、まだ登記がなかった建物に、最初の登記を入れる手続です。そのうえで、贈与者が受贈者に明渡しを求め、受贈者が、反訴、つまり、訴えられた側が同じ裁判の中で逆に訴える形で、所有権移転登記を求めました。

判例最大判昭45・10・21 民集24巻11号1560頁

登記はどうなるか 関係を続けるための建物の贈与の事案 本件不動産の権利関係を実体に符合させるため、上告人が右保存登記の抹消を得たうえ、改めて自己の名で保存登記手続をすることに代え、被上告人に対し所有権移転登記手続を求める本件反訴請求は、正当として認容すべきものである。

最高裁は、受け取った人が、保存登記の抹消を得て、改めて自分の名前で保存登記をやり直す代わりに、渡した側に所有権移転登記を求めてよい、と認めました。登記を、実際の権利関係に合わせるためです。ですから、判決の事案のように、Bが先に自分名義の保存登記を入れていたなら、Aは所有者として、Bに移転登記を求められます。前回の、既登記の建物のときは、どうなるんですか?そこは前回の線のままです。登記済みの建物を、鍵と占有だけ渡して、名義は渡した側のままだと、給付に当たりません。前回見た、最高裁の判例です。給付が成立していないので、708条は使えず、渡した側の所有権に基づく返還請求は、708条に妨げられません。名義も受け取った側に移していたなら、給付が成立して、今日の効果が生じます。効果は、給付が成立して、はじめて生じるのです。設例の結論を、要件付きで確認します。給付が成立するなら、Bは家を返せと言えず、家の所有権はAのものになります。

効果3 不法行為の損害賠償も認められない

効果3。Bの主張=「Aが家を返さないのは不法行為だ。家の値段相当額を賠償せよ」。認めれば返還を認めたのと同じ→708条の趣旨が崩れる→認められないと解されている(学説・答案上の整理。判例が結論を示した論点ではない)。 図:効果3

  • Bの主張=「Aが家を返さないのは不法行為だ。家の値段相当額を賠償せよ」
  • 認めれば返還を認めたのと同じ→708条の趣旨が崩れる→認められないと解されている(学説・答案上の整理。判例が結論を示した論点ではない)

次に、金額の話です。Bが、こう言ったとします。Aが家を返さないのは不法行為だ、家の値段に当たる額を賠償しろ、と、709条です。

条文民法709条

民法第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

不法行為の要件そのものは、別の回で扱います。ここで押さえたいのは、結論の筋道だけです。家の値段を賠償させれば、お金の形で家を取り戻したのと、ほとんど変わりません。これを認めると、返還を認めない708条の趣旨が、また崩れます。ですから、不法行為による損害賠償請求も認められない、と解されています。これは、708条の趣旨からの学説の整理です。さきほどの所有権の判決も、扱ったのは物の返還で、損害賠償ではありません。

効果4 損益相殺にも、同じ趣旨が及ぶ

損益相殺の図。業者Bが貸付けとして10万円をAに交付/Bは元利金として合計30万円をAから取り立て。AがBに損害賠償を請求。Bは「10万円はAの利益だから引け」と主張→引けない(708条の趣旨)。 図:損益相殺の図

  • 業者Bが貸付けとして10万円をAに交付/Bは元利金として合計30万円をAから取り立て
  • AがBに損害賠償を請求
  • Bは「10万円はAの利益だから引け」と主張→引けない(708条の趣旨)

今度は、向きが逆です。渡した人が、不法行為の加害者として訴えられる場面です。設例を置きます。著しく高い利息を取って、違法にお金を取る業者がBです。Bは、貸付けとして10万円をAに渡し、元利金として、合計30万円をAから取り立てました。AがBに、不法行為による損害賠償を求めます。ここで、Bはこう主張します。Aは、貸付けで10万円の利益を得ている。だから、損害は30万円から10万円を引いた、20万円だ、と、この、被害者が同じ出来事で得た利益を、損害額から差し引く調整が、損益相殺です。賠償額の予定を見た回で、債務不履行の損害賠償について出てきましたね。不法行為での細かいルールは、別の回で扱います。問題です。業者が貸した10万円は、損害額から引けるでしょうか。

判例は、引けない、としました。

判例最判平20・6・10 民集62巻6号1488頁

貸付けの元本は、損害額から引けるか 著しく高利の貸付けの事案 民法708条は,不法原因給付,すなわち,社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に係る給付については不当利得返還請求を許さない旨を定め,これによって,反倫理的行為については,同条ただし書に定める場合を除き,法律上保護されないことを明らかにしたものと解すべきである。 したがって,反倫理的行為に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも,上記のような民法708条の趣旨に反するものとして許されないものというべきである。

事案です。業者の組織が、非常に高い利率で貸付けをして、元利金などの名目で違法にお金を取り立てていました。貸付けとしてお金を渡すこと自体が、違法にお金を取るための手段でした。被害者が損害賠償を求めたところ、1つ前の裁判所、原審は、貸付けとして受け取った金額を損害額から引きました。最高裁は、反倫理的行為、つまり、社会の倫理、道徳に反する醜悪な行為に当たる不法行為の被害者が、その行為に係る給付を受けて利益を得ても、その利益を損害額から引くことは、708条の趣旨に反するので許されない、としました。次のカードの上告人らは被害者側、被上告人は業者側です。

判例最判平20・6・10 民集62巻6号1488頁

事案へのあてはめ 著しく高利の貸付けの事案 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,著しく高利の貸付けという形をとって上告人らから元利金等の名目で違法に金員を取得し,多大の利益を得るという反倫理的行為に該当する不法行為の手段として,本件各店舗から上告人らに対して貸付けとしての金員が交付されたというのであるから,上記の金員の交付によって上告人らが得た利益は,不法原因給付によって生じたものというべきであり,同利益を損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として上告人らの損害額から控除することは許されない。

設例に戻ります。Bは、貸した10万円を、損害額から引けません。引けるなら、業者は、貸した元本を取り戻したのと同じ結果になるからです。708条は、業者からの不当利得の返還請求を許しません。損害賠償の場面で引くことを認めれば、それは返還を認めたのと同じになってしまいます。設例では、貸した10万円を引かず、取り立てられた全額を損害として扱ってかまいません。ただし、実際の判決は、損害額を決めたのではなく、控除を認めた原審を破棄して、審理を差し戻したものです。射程も言い過ぎないでください。この判決が引けないと言うのは、被害者が得た利益が、不法原因給付によって生じたものである場合です。どんな利益が引けるかという一般論は、別の回で扱います。同じ考え方の判例がもう1つあります。投資の話でだまして出資金を取った者が、実際には買っていないのに、配当金の名目でお金を交付していた事案です。次のカードの上告人らは被害者側、被上告人はだました側です。

判例最判平20・6・24 集民228号385頁

仮装の配当金は、損害額から引けるか 架空の投資話でだまし取った事案 社会の倫理,道徳に反する醜悪な行為(以下「反倫理的行為」という。)に該当する不法行為の被害者が,これによって損害を被るとともに,当該反倫理的行為に係る給付を受けて利益を得た場合には,同利益については,加害者からの不当利得返還請求が許されないだけでなく,被害者からの不法行為に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも許されないものというべきである(……)。 ……本件各仮装配当金の交付は,専ら,上告人らをして被上告人が米国債を購入しているものと誤信させることにより,本件詐欺を実行し,その発覚を防ぐための手段にほかならないというべきである。

仮装の配当金は、出資金をだまし取るための手段にほかならない、として、同じように、損害額から引くことは許されないとされました。

返還の合意は有効

返還の合意。708条=給付者の返還請求に法律上の保護を与えないだけ。受領者に、給付を正当な原因があるものとして保留させる趣旨ではない。→任意に返すことも、合意で返す特約も有効(90条で無効にもならない)。 図:返還の合意

  • 708条=給付者の返還請求に法律上の保護を与えないだけ
  • 受領者に、給付を正当な原因があるものとして保留させる趣旨ではない
  • →任意に返すことも、合意で返す特約も有効(90条で無効にもならない)

ここまでの話は、Aに返す気がない場合でした。では、Aが自分から、やっぱり返すよ、と約束した場合はどうでしょうか。たとえば、違法な賭けの負け金の20万円を受け取ったAが、あとから、返す、と約束したとします。

判例最判昭28・1・22 民集7巻1号56頁

返還の特約は有効か 物資の買入れで交付した金員の事案 元来同条が不法の原因のため給付をした者にその給付したものの返還を請求することを得ないものとしたのは、かかる給付者の返還請求に法律上の保護を与えないというだけであつて、受領者をしてその給付を受けたものを法律上正当の原因があつたものとして保留せしめる趣旨ではない。従つて、受領者においてその給付を受けたものをその給付を為した者に対し任意返還することは勿論、曩に給付を受けた不法原因契約を合意の上解除してその給付を返還する特約をすることは、同条の禁ずるところでないものと解するを相当とする。そして、かゝる特約が民法九〇条により無效であると解することのできないことも多言を要しない。

判決の事案は、賭博ではありません。物資の買入れで交付した金員について、受け取った側が返すと約束して、手形を振り出した事案です。判決は、仮に不法原因給付であるとしても、と置いて判断しています。判決の理由は、708条は、渡した側の請求に法律上の保護を与えないだけで、受け取った側に、それを正当なものとして持たせ続ける趣旨ではない、というものです。ですから、受け取った側が任意に返すことも、合意で返す約束をすることも、708条は禁じていません。その約束が90条で無効になることもありません。設例の賭けの負け金でも同じです。Aが返すと約束したなら、その約束に基づく請求は、708条に妨げられません。約束が無ければ、請求できない、という点は変わりません。

渡した側の債権者は、どうなるか

債権者の三者図。C=Bにお金を貸している債権者/B=給付者/A=受け取った側。Bは家をAに渡し、給付が成立。C→Aの矢印。債権者代位権(Bの権利を代わりに使う)=×。詐害行為取消権(C自身の権利)=Bの返還請求権の有無とは別に検討(整理。判例なし)。 図:債権者の三者図

  • C=Bにお金を貸している債権者/B=給付者/A=受け取った側
  • Bは家をAに渡し、給付が成立
  • C→Aの矢印
  • 債権者代位権(Bの権利を代わりに使う)=×
  • 詐害行為取消権(C自身の権利)=Bの返還請求権の有無とは別に検討(整理。判例なし)

最後の応用です。Bにお金を貸している債権者がいたとします。Cとします。Bが家をAに渡し、不法原因給付が成立しました。Cは、AにBの家を返せと言えるでしょうか。2つの手段で考えます。ここで、前に見た制度の確認です。債権者代位権は、誰の権利を、代わりに使う制度でしたか?債務者の権利、被代位権利を、債権者が代わりに行使する制度でした。条文を確認します。

条文民法423条1項

民法第423条第1項 債権者は、自己の債権を保全するため必要があるときは、債務者に属する権利(以下「被代位権利」という。)を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利及び差押えを禁じられた権利は、この限りでない。

1つめ、債権者代位権です。Cは、Bに属する権利を、代わりに使うことになります。でも、Bは、708条のせいで、返還を求める権利を失っています。代わりに使える権利が、もともと無いのです。ですから、Cは、債権者代位権で、Aに家の返還を求めることはできません。条文と、制度の性質から、論理で導けます。2つめ、詐害行為取消権です。

条文民法424条1項

民法第424条第1項 債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができる。ただし、その行為によって利益を受けた者(以下この款において「受益者」という。)がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでない。

この条文の受益者は、その行為で利益を受けた人、という意味で、詐害行為取消権の条文の中での呼び方です。設例では、家を受け取ったAが、これに当たります。詐害行為取消権は、債権者C自身の権利です。債務者の行為の取消しを、Cが裁判所に請求する制度で、Bの権利を代わりに使うものではありません。要件は、詐害行為取消権の回で見た5つのままです。1つめ、Cの貸金があること。2つめ、Bの財産が、借金を払うのに足りないこと。そして3つめ、Bが家を渡して、Cを害したこと。4つめ、Bがそれを知っていたこと。5つめ、Aも知っていたこと。取消権は、Bの権利を借りるわけではないので、Bが返還請求権を失っていても、そのことで行使が止まるわけではありません。

分かれ目は、誰の権利か、です。代位権は、Bの権利を借りるので、Bに無ければ使えません。取消権は、Cの権利なので、Bに返還請求権があるかどうかとは別に考えられます。ただし、取消権のほうは判例がなく、実際に認められるかは、この性質からの整理にとどまります。

効果のまとめと、設例の答え

効果のまとめ表。請求の根拠・場面×結論×出どころ。①不当利得返還請求=×(条文)②所有権に基づく返還請求=×・所有権は受益者に帰属(判例)③渡した側からの不法行為の損害賠償=×(学説の整理・判例が示した結論ではない)④渡した側が損害額から引く(損益相殺)=できない(判例)⑤返還の合意=有効(判例)⑥給付者の債権者=代位権×・取消権=Bの返還請求権の有無とは別に検討(整理。判例なし) 図:効果のまとめ表

  • 請求の根拠・場面×結論×出どころ
  • ①不当利得返還請求=×(条文)②所有権に基づく返還請求=×・所有権は受益者に帰属(判例)③渡した側からの不法行為の損害賠償=×(学説の整理・判例が示した結論ではない)④渡した側が損害額から引く(損益相殺)=できない(判例)⑤返還の合意=有効(判例)⑥給付者の債権者=代位権×・取消権=Bの返還請求権の有無とは別に検討(整理。判例なし)

表で整理します。出どころの列も見てください。条文から出る結論なのか、判例が立てた規範なのか、判例が無いのかを、区別して覚えるためです。1つめ、不当利得の返還請求は、できません。これは条文です。2つめ、所有権に基づく返還請求も、できません。そして、所有権は、反射的効果として、受け取った側に移ります。これは判例です。3つめ、渡した人が、不法行為の損害賠償として家の値段を求めることも、同じ理由で、認められないと解されています。これは学説の整理で、判例が結論を示したわけではありません。4つめ、向きが逆で、渡した側が不法行為で訴えられたとき、自分が渡した10万円を、損害額から引くことはできません。これは判例です。5つめ、返還の合意は有効です。これも判例です。6つめ、渡した側の債権者は、債権者代位権を使えません。詐害行為取消権は、Bの権利を借りるものではないので、Bの返還請求権の有無とは別に考えます。ここは判例がありません。冒頭の設例に戻ります。関係を続けてもらう約束で、未登記の家を引き渡した。給付が成立するなら、Bは、不当利得でも所有権でも、返せと言えません。そして、家の所有権は、反射的効果として、Aに移ります。所有権に基づく返還請求にも708条の趣旨が及ぶこと、そして、反射的効果として所有権が受益者に帰属すること。この2つは、論文で論点になりうるところです。次は、お金や利益が、3人以上の間を流れたときの不当利得を見ます。たとえば、だまし取ったお金で、借金を返された債権者の場合です。

参照条文

  • 民法708条
  • 民法709条
  • 民法423条1項
  • 民法424条1項

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