民法ゼロから民法#291

騙取金による弁済・誤振込み

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第6章 法定債権 #291/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

だまし取ったお金で返された借金、債権者は返すのか

冒頭の設例 AはBからだまし取った100万円で、自分の借金をCに返した。Cはお金の出どころを知らず、ただ返してもらっただけ。お金は途中でAの物になっている。BはCに「それは私のお金だ」と言えるか。 図:冒頭の設例 AはBからだまし取った100万円で、自分の借金をCに返した

  • Cはお金の出どころを知らず、ただ返してもらっただけ
  • お金は途中でAの物になっている
  • BはCに「それは私のお金だ」と言えるか

記号を確認します。Bが損をした人で、お金を取られた人です。Aが間に立つ人で、Bから受け取った人です。そしてCが、最後に利益を受けた第三者、つまりAの債権者です。これまでの不当利得は、BとAの2人の話でした。今日は、そこに3人目のCが加わります。先に、答えの形を言います。Cが、そのお金がだまし取られたものだと知っていたか、ほとんど気づけたのに注意を怠っていたなら、BはCに、703条で返還を求められます。そうでなければ、言えません。なぜそう分かれるのかを、順に見ていきます。

三者の地図。①順に渡る=B→A→C(騙取金・誤振込みの差押え)←今日②Bの給付がCの利益になる=Bは契約の相手Aに給付したのに、利益はCに(次回)③Aの指示でBがCに直接渡す=契約はBとAの間、お金はCへ(次回)。共通の問い=契約の連鎖を飛び越えて、最後に利益を受けたCに請求できるか。 図:三者の地図

  • ①順に渡る=B→A→C(騙取金・誤振込みの差押え)←今日②Bの給付がCの利益になる=Bは契約の相手Aに給付したのに、利益はCに(次回)③Aの指示でBがCに直接渡す=契約はBとAの間、お金はCへ(次回)
  • 共通の問い=契約の連鎖を飛び越えて、最後に利益を受けたCに請求できるか

3人が関わる場面は、お金や利益の流れ方で、3つの型に分けられます。1つめは、順に渡る型です。BからAへ、AからCへと、お金が順に渡ります。今日の冒頭の設例と、誤って振り込んだお金を債権者に差し押さえられる場面が、これです。この型を、今日は掘り下げます。2つめは、Bが給付した相手はAなのに、利益がCに生じる型です。3つめは、Aの指示で、BがCに直接渡す型です。契約はBとAの間にあるのに、お金はCに渡ります。3つの型に共通する問いは、1つです。契約の連鎖を飛び越えて、最後に利益を受けたCに、請求できるか。契約の連鎖とは、BとA、AとCのように、当事者が1対1でつながっている関係のことです。清算は本来、そのつながりの相手との間でします。Bなら、Aとの間です。それを飛び越えて、Cに言えるか。これが軸です。

今日の場面は、契約の後始末だけでは割り切れません。契約を結んでいない3人目のCが出てくるからです。そこで判例は、公平の観念に基づいて、703条の要件、つまり因果関係と法律上の原因に当てはめて決めています。不当利得の回で見た、類型論を基本にしながら、公平の理念も適宜使う、という二段構えのうち、公平の理念が前に出る場面です。順番は、騙取金、誤振込みです。騙取金とは、だまし取られたお金のことです。そのお金で借金を返す場面を、騙取金による弁済と呼びます。最後に、2つを並べて、Cに飛び越えられるかの分かれ目を整理します。

騙取金による弁済 何が問題か

703条の4要件と争点。受益=CはAから弁済を受けた○/損失=Bは100万円を失った○/因果関係=Bのお金がCに届いたと言えるか?/法律上の原因なく=CはAに債権がある。それでもBとの関係で受け取る理由がないと言えるか? 図:703条の4要件と争点

  • 受益=CはAから弁済を受けた○/損失=Bは100万円を失った○/因果関係=Bのお金がCに届いたと言えるか?/法律上の原因なく=CはAに債権がある
  • それでもBとの関係で受け取る理由がないと言えるか?

即時取得の回の復習です。お金の所有権は、お金を持っている人のところに移るのでしたか?金銭は、占有している人が所有者になる、でした。ですから、だまし取られたお金でも、Aの手に渡れば、お金はAの物として扱われます。Bは、Aにも「所有権に基づいて返せ」とは言えません。即時取得の回では、取られた人は、取った人に不当利得の返還を求める、というところで終わっていました。ところが、Aが無一文なら、そのAへの請求は、取れる見込みがありません。Aから取れないなら、最後にお金を受け取ったCに言えないか、という問いが出てくるのです。ただし、Aが無資力であることは、あくまで問いの動機です。Cに請求するための要件ではありません。Cに請求する根拠は、703条です。条文を読みます。

条文民法703条

民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

要件は4つでした。受益、損失、因果関係、法律上の原因なく、です。設例に当てはめます。Cは、Aから借金の返済を受けました。受益はあります。Bは100万円を失いました。損失もあります。ですから、争われるのは、残りの2つです。1つは、因果関係です。Cが受け取ったのは、Bのお金そのものではありません。途中でAの物になり、Aの他のお金と混ざっているかもしれません。それでも、Bの損失とCの利益は、つながっていると言えるのか。もう1つは、法律上の原因です。CはAに貸したお金の債権を持っていて、返済を受ける理由があります。それでも、Bとの関係では、受け取る理由がないと言えるのか。先に出どころを整理しておきます。4つの要件は、条文どおりの成立要件です。そのうち、因果関係をどの程度のつながりで足りるとするか、そして、どういうときに法律上の原因がないとするかは、条文に書いておらず、判例が示した基準です。

騙取金による弁済 因果関係は社会通念上のつながりで足りる

因果関係の図。B→A(だまし取られた)→Aの口座で他のお金と混ざる/一部を使い込み、同額を別のお金で補う→C(弁済)。「社会通念上、Bのお金でCの利益をはかったと認められるだけの連結」があれば因果関係あり。 図:因果関係の図

  • B→A(だまし取られた)→Aの口座で他のお金と混ざる/一部を使い込み、同額を別のお金で補う→C(弁済)
  • 「社会通念上、Bのお金でCの利益をはかったと認められるだけの連結」があれば因果関係あり

まず因果関係です。ここで問いです。だまし取られたお金が、途中でAの口座に入って、他のお金と混ざりました。それでも、Bのお金がCに届いたと言えるでしょうか。結論を先に言うと、混ざっていても因果関係は認められます。直感とは逆ですが、最高裁の判断を見ましょう。1つの長い一文なので、3つに区切って読みます。次のカードの甲は、お金をだまし取った人、つまりAです。乙はだまし取られた人、つまりB。丙は、Aが借金を返した債権者、つまりCです。

判例最判昭49・9・26 民集28巻6号1243頁

騙取された金銭で弁済を受けた債権者に不当利得は成立するか 騙取金で債務を弁済した事案 およそ不当利得の制度は、ある人の財産的利得が法律上の原因ないし正当な理由を欠く場合に、法律が、公平の観念に基づいて、利得者にその利得の返還義務を負担させるものであるが、いま甲が、乙から金銭を騙取又は横領して、その金銭で自己の債権者丙に対する債務を弁済した場合に、乙の丙に対する不当利得返還請求が認められるかどうかについて考えるに、

1つめの区切りは、問いの立て方です。不当利得の制度は、公平の観念に基づいて、利得者に返還義務を負わせるものです。そのうえで、AがBからお金をだまし取り、そのお金で債権者のCに借金を返した場合に、BからCへの不当利得返還請求が認められるかを考える、と述べています。

判例最判昭49・9・26 民集28巻6号1243頁

因果関係はどの程度のつながりで足りるか 騙取金で債務を弁済した事案 騙取又は横領された金銭の所有権が丙に移転するまでの間そのまま乙の手中にとどまる場合にだけ、乙の損失と丙の利得との間に因果関係があるとなすべきではなく、甲が騙取又は横領した金銭をそのまま丙の利益に使用しようと、あるいはこれを自己の金銭と混同させ又は両替し、あるいは銀行に預入れ、あるいはその一部を他の目的のため費消した後その費消した分を別途工面した金銭によつて補填する等してから、丙のために使用しようと、社会通念上乙の金銭で丙の利益をはかつたと認められるだけの連結がある場合には、なお不当利得の成立に必要な因果関係があるものと解すべきであり、

2つめの区切りが、因果関係です。判決は、お金の所有権がCに移るまでの間、そのままBの手の中にとどまっている場合にだけ因果関係がある、とはしませんでした。AがそのままCのために使っても、自分のお金と混ぜても、両替しても、銀行に預けても、一部を使い込んだあとで、同額を別のお金で補ってから使っても、かまいません。社会通念上、Bのお金でCの利益をはかったと認められるだけの連結があれば、因果関係がある、としました。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】騙取金が途中で混ざる・預けられるなどしても、社会通念上、Bの金銭でCの利益をはかったと認められるだけの連結があれば、不当利得の成立に必要な因果関係がある。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文に因果関係の程度は書いていない。直接の流れや同じお金であることまでは要らない)

連結の境界ペア。連結あり=だまし取ったお金を口座で自分のお金と混ぜたあとCに返した/一部を生活費に使い同額を別に用意してCに返した。連結なし=給料でためたお金や車を売ったお金でCに返した(Bのお金でCの利益をはかったとは言えない)。 図:連結の境界ペア

  • 連結あり=だまし取ったお金を口座で自分のお金と混ぜたあとCに返した/一部を生活費に使い同額を別に用意してCに返した
  • 連結なし=給料でためたお金や車を売ったお金でCに返した(Bのお金でCの利益をはかったとは言えない)

境界を、例で引きます。連結がある例です。Aが、だまし取ったお金を口座に入れ、自分のお金と混ぜたあと、その口座から引き出して、Cに返しました。あるいは、だまし取ったお金の一部をいったん生活費に使い、あとから同じ額を別に用意して、Cに返しました。どちらも、お金の出どころをたどれば、Bのお金に行き着きます。社会通念上、つながりがあります。連結がない例も挙げます。Aが、Bからお金を取ったことと関係なく、自分の給料でためたお金や、自分の車を売ったお金で、Cに返した場合です。この場合は、そもそもBのお金でCの利益をはかったとは言えません。連結はありません。なぜ連結で足りるのでしょうか。この事案の1つ前の裁判所、原審は、お金に同一性がないとして、因果関係を否定しました。同じお金かどうかを厳密に求めると、口座に入れて混ぜた時点で、つながりが切れてしまいます。最高裁は、その見方を採りませんでした。事案です。公金を詐取していた役人が、発覚をおそれて、穴埋めのために、団体の経理担当者に借り入れさせたお金を受け取りました。役人はそのお金を、自分の口座に入れ、一部は個人の事業資金にも使い、別に用意したお金で補ってから、国への弁償として国に渡しました。損をした団体が、国に不当利得の返還を求めた、という事案です。団体がB、役人がA、国がCです。最高裁は、役人が国に損害賠償として支払ったお金は、社会観念上なお団体のお金に由来する、として、因果関係を否定した原審を破棄し、法律上の原因を調べさせるために、差し戻しました。国に返還を命じたのではありません。国が返すかどうかは、差し戻された先で、法律上の原因を調べてから決まります。

不当利得の最初の回で、受益と損失のつながりは、あれがなければこれがない、という厳密な関係までは要らない、と言いました。そのとき、騙し取られたお金の事案で最高裁もそう認めている、と紹介した判決が、いま読んだこの判決です。

騙取金による弁済 法律上の原因は、Cの悪意・重過失で欠ける

法律上の原因の分かれ目。AとCの間=債権があるので受け取る理由あり。BとCの間=Cが悪意または重過失なら、Cを保護する理由なし→不当利得。Cが悪意でも重過失でもない→受領は保護される方向(判決が直接言ったのは、悪意または重過失の場合)。 図:法律上の原因の分かれ目

  • AとCの間=債権があるので受け取る理由あり
  • BとCの間=Cが悪意または重過失なら、Cを保護する理由なし→不当利得
  • Cが悪意でも重過失でもない→受領は保護される方向(判決が直接言ったのは、悪意または重過失の場合)

次に、法律上の原因です。同じ一文の、3つめの区切りです。Cが、Aからお金を受け取るについて、悪意または重大な過失があるときは、Cがそのお金を取得することは、だまし取られたBとの関係では、法律上の原因がなく、不当利得になる、と書かれています。

判例最判昭49・9・26 民集28巻6号1243頁

債権者が悪意または重過失のとき法律上の原因はあるか 騙取金で債務を弁済した事案 また、丙が甲から右の金銭を受領するにつき悪意又は重大な過失がある場合には、丙の右金銭の取得は、被騙取者又は被横領者たる乙に対する関係においては、法律上の原因がなく、不当利得となるものと解するのが相当である。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】Cが、騙取された金銭を受領するにつき悪意または重大な過失があるときは、Cの取得は、Bに対する関係で法律上の原因がなく、不当利得となる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文に書いていない。悪意=だまし取られたお金だと知っている/重過失=ほとんど気づけたのに注意を怠った)

悪意とは、だまし取られたお金だと知っていたことです。重大な過失とは、ほとんど気づけたのに、注意を怠ったことです。ここで、不当利得の最初の回の定義に戻ります。法律上の原因がない、とは、財産の移動を、その当事者の間で正当だとするだけの、実質的・相対的な理由がない、ということでした。実質的とは、形ではなく中身で見る、という意味です。相対的とは、人ごとに見る、という意味です。AとCの間では、債権があるので、受け取る理由があります。でも、BとCの間では、話が変わりえます。Cが、だまし取られたお金だと知っていた、あるいは、ほとんど気づけたのに注意を怠った。そのCを、Bとの関係で守る理由は、ありません。Cの主観まで見て、守る理由があるかを判断する。これが実質的で、AC間とBC間で結論が変わりうる。これが相対的です。

Cの主観の境界ペア。悪意(だまし取ったお金だと知っていた)→BはCに返還を求められる/重大な過失と評価される場合(返済に困っていたAが突然大金を持参しても出どころを確かめない、など)→求められる/何も知らず軽い不注意にとどまる→Cの受領は保護される方向でBは言えない。 図:Cの主観の境界ペア

境界のペアで確かめます。1つめ。Cは、Aから、人からだまし取ったお金で返す、と聞かされていました。そのうえで、Aが突然大金を持ってきて、借金を全額返したので、受け取りました。出どころを知っていたのですから、悪意です。法律上の原因はなく、BはCに返還を求められます。同じように、Aが日ごろから返済に困っていたのに、突然まとまった現金を持参してきた。それでもCは、出どころを何も確かめなかった。ほとんど気づけたのに注意を怠った、と評価されるなら、重大な過失にあたりえます。この場合も、Bは言えます。2つめ。Cは、何も知らず、Aの返済を普通の弁済として受け取りました。軽い不注意があったとしても、重大とまでは言えない。この場合は、Cの受領は保護される方向で、BはCに言えません。ただし、ここは出どころを分けます。判決が直接言ったのは、悪意または重大な過失があるとき、の結論だけです。何も知らなければ保護される、というのは、その反対側から導かれる通説的な整理です。理由としては、金銭は動産よりも流通を保護すべきだ、と説明されます。お金は、受け取るたびに出どころを調べなければならないとしたら、誰も安心して受け取れず、使えなくなります。何も知らずに返済を受けたCに、あとから返せと言えるなら、まさにそうなります。ですから、何も知らないCは守られる方向になる、という説明です。判決の言葉ではありません。実は、この事案で国が受け取ったお金は、1口だけではありませんでした。同じ判決は、別のお金についても判断しています。国が善意で受け取ったお金については、法律上の原因があるとして請求を退けた原審が、そのまま是認されました。これに対して、もう1口のお金は、国に悪意または重大な過失があったかを調べるために、差し戻されました。同じ判決の中で、扱いが分かれているわけです。

Cが何も知らずに受け取っていた場合、BはCに返せと言えない方向です。因果関係の連結があっても、法律上の原因があるからです。判決が示したのは、Cが悪意または重過失のときに守る理由がなくなる、ということです。補足です。Cが悪意の受益者なら、704条のとおり、受けた利益に利息を付けて返すことになります。ただし、判決はこの点に触れていません。条文どおりの整理として、一言だけ添えておきます。

設例への答えと答案の流れ。①Cが何も知らず、不注意も軽い→BはCに言えない/②Cが悪意または重過失→因果関係は連結で足り、法律上の原因も欠く→703条で返還請求できる(利得の存する限度。悪意なら利息付き)。答案=703条→因果関係=社会通念上の連結→法律上の原因=悪意または重過失→返還請求できる。 図:設例への答えと答案の流れ

  • ①Cが何も知らず、不注意も軽い→BはCに言えない
  • ②Cが悪意または重過失→因果関係は連結で足り、法律上の原因も欠く→703条で返還請求できる(利得の存する限度。悪意なら利息付き)
  • 答案=703条→因果関係=社会通念上の連結→法律上の原因=悪意または重過失→返還請求できる

設例に戻ります。AがBからだまし取った100万円で、Cに借金を返しました。Cが何も知らず、不注意も軽いなら、BはCに言えません。Cが悪意または重大な過失なら、因果関係は連結で足りて、法律上の原因もないので、BはCに703条で返還を求められます。答案の流れは、703条を挙げて、因果関係は社会通念上の連結で足りる、法律上の原因は、Cが悪意または重大な過失のときに欠ける、と書いて、返還請求できる、と結論を出します。ここは論文で論点になりうるところです。

誤振込み 預金債権は原因関係と切り離される

誤振込みの設例 Bは、家賃を支払うつもりで、取引のないAの口座に誤って100万円を振り込んだ。Aにお金を貸しているCが、Aの預金債権を差し押さえた。Bは「それは私のお金だ」と言って、差押えをやめさせられるか。 図:誤振込みの設例 Bは、家賃を支払うつもりで、取引のないAの口座に誤って100万円を振り込んだ

  • Aにお金を貸しているCが、Aの預金債権を差し押さえた
  • Bは「それは私のお金だ」と言って、差押えをやめさせられるか

2つめの場面は、誤振込みです。設例です。Bが、家賃を支払うつもりで、取引のないAの口座に、誤って100万円を振り込みました。Aにお金を貸しているCが、Aの預金債権を差し押さえました。Bは「それは私のお金だ」と言って、差押えをやめさせられるでしょうか。寄託の回の復習です。銀行預金は、何という契約でしたか?消費寄託、でした。預金は、銀行との消費寄託契約です。預金債権とは、その契約に基づいて、銀行に預けたお金を返してもらう権利のことです。問いは2つです。1つめは、間違った振込みでも、受取人のAに預金債権が生じるのか。2つめは、生じるなら、Bは差押えを止められるのか、です。まず1つめです。どう思いますか。

結論を先に言うと、誤った振込みでも預金債権は成立します。直感とは逆ですが、最高裁の判断を見ます。次のカードの上告人は差押えをしたC、被上告人は振り込んだBです。

判例最判平8・4・26 民集50巻5号1267頁

原因関係のない振込みで預金債権は成立するか 誤振込みと差押えの事案 振込依頼人から受取人の銀行の普通預金口座に振込みがあったときは、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在するか否かにかかわらず、受取人と銀行との間に振込金額相当の普通預金契約が成立し、受取人が銀行に対して右金額相当の普通預金債権を取得するものと解するのが相当である。

振込依頼人と受取人の間に、振込みの原因になる法律関係があるかどうかにかかわらず、受取人と銀行の間に、振込金額相当の普通預金契約が成立します。受取人は、銀行に対して、その金額の預金債権を取得する、ということです。成立します。原因関係がなくてもです。理由は、振込みの仕組みにあります。銀行は、各資金移動の原因となる法律関係には立ち入らずに、安全、安価、迅速に処理する仕組みを取っています。預金契約の成否を、原因関係の有無に左右させる定めも、銀行が預金者との間であらかじめ決めている取引のルール、普通預金規定にはありません。

判例最判平8・4・26 民集50巻5号1267頁

預金債権の差押えを止められるか 誤振込みと差押えの事案 また、振込依頼人と受取人との間に振込みの原因となる法律関係が存在しないにかかわらず、振込みによって受取人が振込金額相当の預金債権を取得したときは、振込依頼人は、受取人に対し、右同額の不当利得返還請求権を有することがあるにとどまり、右預金債権の譲渡を妨げる権利を取得するわけではないから、受取人の債権者がした右預金債権に対する強制執行の不許を求めることはできないというべきである。

誤振込みの結論。振込み→受取人Aが銀行に対し預金債権を取得(原因関係の有無にかかわらない)。BがAに持つのは不当利得返還請求権にとどまる。預金債権の譲渡を妨げる権利はない→Cの差押えに対する第三者異議は認められない。 図:誤振込みの結論

  • 振込み→受取人Aが銀行に対し預金債権を取得(原因関係の有無にかかわらない)
  • BがAに持つのは不当利得返還請求権にとどまる
  • 預金債権の譲渡を妨げる権利はない→Cの差押えに対する第三者異議は認められない

2つめの問いの答えです。Bは、Aに対して、同じ額の不当利得返還請求権を有することがある。ただし、それにとどまります。この権利は、Aに、同じ額を返して、と求める権利です。預金債権そのものは、1つめの答えのとおり、Aのものです。差押えを止める手段は、第三者異議の訴えです。第三者異議とは、差し押さえられた財産について、自分の権利を主張して、強制執行をやめさせる訴えです。ところがBは、差し押さえられた預金債権について、主張できる自分の権利を持っていません。判決は、これを、預金債権の譲渡を妨げる権利を取得しない、と言っています。ですから、Aの債権者のCがした差押えを、止めることはできません。判決の事案も、Bが、差押えをしたCに、第三者異議の訴えを起こしましたが、請求は棄却されました。

⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】振込みがあったときは、振込みの原因となる法律関係の有無にかかわらず、受取人は銀行に対し振込金額相当の普通預金債権を取得する。振込依頼人は受取人に不当利得返還請求権を有することがあるにとどまり、受取人の債権者の差押えは止められない。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文に書いていない。決め手=銀行は各資金移動の原因となる法律関係を関知せず処理する仕組み)

三者の型で見ます。Bは、お金を直接受け取ったAに、不当利得の返還を求められます。一方、Aの債権者のCがした差押えは、止められません。判決が言ったのは、差押えを排除できない、というところまでです。ここは、気をつけてください。受取人は返さなくてよい、という意味ではありません。Bは、Aに返還を求められる。でも、預金債権が成立している以上、Cの差押えは止められない。この2つを分けて覚えます。補足を一言。同じ流れの判例があります。原因関係のない振込みの受取人が、銀行に預金の払戻しを請求した場合です。権利の濫用とは、形の上では権利があっても、その使い方が許されないため、行使が認められないことです。受取人が振込依頼人に不当利得返還義務を負うというだけでは、権利の濫用にはなりません。権利の濫用になるのは、払戻しの請求が不正に金員を取得する行為で、詐欺罪などの犯行の一環をなす場合のように、認めることが著しく正義に反する特段の事情があるときです。預金債権が成立する、という結論の延長にある判例です。

騙取金と誤振込み Cに飛び越えられるかの分かれ目と、設例の答え

騙取金と誤振込みの対比。騙取金=Bのお金が、途中でAを通ってCに届いた。Cが受け取ったのは「Bのお金に由来する弁済」。Cが悪意または重過失なら、BはCに飛び越えて703条で請求できる(判例)。誤振込み=Bのお金は、銀行を通ってAの預金債権になった。Cが差し押さえたのは「Aの預金債権」。BはAに不当利得の返還を求められるが、Cの差押えは止められない(判例)。分かれ目=Cが手にしたもの(整理)。 図:騙取金と誤振込みの対比

  • 騙取金=Bのお金が、途中でAを通ってCに届いた
  • Cが受け取ったのは「Bのお金に由来する弁済」
  • Cが悪意または重過失なら、BはCに飛び越えて703条で請求できる(判例)
  • 誤振込み=Bのお金は、銀行を通ってAの預金債権になった
  • Cが差し押さえたのは「Aの預金債権」
  • BはAに不当利得の返還を求められるが、Cの差押えは止められない(判例)
  • 分かれ目=Cが手にしたもの(整理)

2つの場面を並べます。どちらも、Bのお金がAを通って、最後にCのところに出てきます。ところが、結論は反対です。騙取金は、Cが悪意または重大な過失なら、BはCに飛び越えて請求できます。誤振込みは、BはAに不当利得の返還を求められるだけで、Cの差押えは止められません。違いは、Cが手にしたものです。これは、2つの判決の理由づけを並べた整理で、判決が2つを直接比べたわけではありません。騙取金では、Cが受け取ったのは、Bのお金に由来する弁済でした。ですから、Bのお金とCの利益の連結を見て、あとはCを守る理由があるかどうかを見ます。誤振込みでは、Cが差し押さえたのは、Aの預金債権です。振込みがあれば、原因関係がなくても、AはBのお金とは別に、銀行に対する預金債権を取得するからです。騙取金でCの主観を見たのは、Cが受け取ったことを、Bとの関係でも正当と言えるかを問うためでした。誤振込みで問われたのは、差し押さえられた預金債権について、Bに主張できる権利があるか、です。カードの判決の言葉にも、差押えをしたCが事情を知っていたかどうかは出てきません。たとえば、Bが100万円を誤って振り込んだとします。Aが預金債権を取得したうえで、Cがその預金債権を差し押さえた。Bに残るのは、Aへの不当利得返還請求だけです。一方、Aがだまし取った100万円でCに借金を返した場合は、Cが悪意または重大な過失なら、Bは、Aを飛び越えて、Cに返還を求められます。

ここで問いです。誤振込みで、Aの債権者のCが預金債権を差し押さえました。Bは、それは私のお金だと言って、差押えをやめさせられるでしょうか。預金債権が成立している以上、止められない、でした。Bさんに残るのは、Aさんへの不当利得の返還請求ですね。では、冒頭の設例に戻ります。AがBからだまし取った100万円で、Cに借金を返しました。Cが、そのお金がだまし取られたものだと知っていたか、ほとんど気づけたのに注意を怠っていたなら、BはCに、703条で返還を求められます。そうでなければ、言えません。お金の所有権がAに移っていても、因果関係は、社会通念上の連結で足りるからです。前編のまとめです。3人が関わる場面の問いは、契約の連鎖を飛び越えて、最後に利益を受けたCに請求できるか、でした。お金が順に渡る型では、騙取金なら、悪意または重大な過失のCに飛び越えられ、誤振込みなら、Cの差押えを止められません。次は、残る2つの型です。修理代を支払ってもらえない修理業者は、修理された機械の所有者に、請求できるのか。転用物訴権と呼ばれる論点から入ります。

参照条文

  • 民法703条

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