転用物訴権・第三者に対する給付
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第6章 法定債権 #292/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
修理代を支払ってもらえない修理業者は、所有者に請求できるか
図:冒頭の設例 Cが貸している業務用の機械を、借りたAが修理業者Bに頼んで直させた
- Aは修理代を支払えないまま倒産した
- Bの契約の相手はA
- しかしBの修理でCの機械の価値が上がっている
- BはCに修理代を請求できるか
記号は、前編から続けて使います。Bが損をした人で、ここでは修理をした業者です。Aが間に立つ人で、Bの契約の相手です。そしてCが、最後に利益を受けた第三者、つまり機械の所有者です。CとAの間は、賃料を払って機械を借りる契約、つまり賃貸借です。前編の復習です。騙取金、つまり、だまし取られたお金を受け取った債権者に、損をした人が返せと言えるのは、どんなときでしたか?債権者が、だまし取られたお金だと知っていたか、ほとんど気づけたのに注意を怠っていたとき、でした。因果関係はお金の連結で足りて、法律上の原因は、Cの悪意または重大な過失で欠ける、という2段でした。誤振込みのほうは、受取人の預金債権が成立するので、受取人の債権者には飛び越えられませんでした。
図:三者の地図の残り
- ②Bの給付がCの利益になる=Bは契約の相手Aに給付したのに、利益はCに(転用物訴権)③Aの指示でBがCに直接渡す=契約はBとAの間、お金はCへ(第三者に対する給付・カード)
- 前編=①順に渡る(騙取金・誤振込み)
- 共通の問い=契約の連鎖を飛び越えて、最後に利益を受けたCに請求できるか
三者が関わる型のうち、前編は、お金が順に渡る型でした。今日は残る2つです。1つめは、Bが給付した相手はAなのに、利益がCに生じる型です。今の機械の修理が、これです。転用物訴権と呼ばれる論点です。2つめは、Aの指示で、BがCに直接渡す型です。契約はBとAの間にあるのに、お金はCに渡ります。第三者に対する給付と呼ばれる場面と、クレジットカードの場面です。問いは、前編と同じ1つです。契約の連鎖を飛び越えて、最後に利益を受けたCに、請求できるか。これが今日の軸です。先に答えを言うと、飛び越えられるのは、Cが得をしたことを正当化する理由が無いときです。順番は、転用物訴権、第三者に対する給付、クレジットカードです。最後に、前編の2つも含めて、請求先の分かれ目を表で整理し、不当利得のブロックを締めくくります。
転用物訴権 何が問題か
図:703条の4要件と争点
- 受益=Cの機械の価値が上がった○/損失=Bは修理に財産と労務を提供した○/因果関係=修理を受け取ったのはAでも、BとCはつながるか?/法律上の原因なく=BはAに修理代金債権がある
- それでもCは、Bとの関係で利益を受ける理由がないと言えるか?
設例を整理します。Bの契約の相手はAで、Cとは何の契約もありません。Cからすれば、頼んでいない修理の代金を請求される話です。ただ、Bの修理のおかげで、Cの機械の価値が上がったのも事実です。Aが支払えないなら、Cがただで得をしたことにならないか。契約上の給付が第三者の利益になったとき、給付した契約当事者が、その第三者に不当利得の返還を求められるか。これが転用物訴権です。原則はそのとおりです。ただ、Aが無資力、つまり支払うだけの財産がないときは、Bは取り立てられません。そこで、Cに言えないか、という問いが出てきます。前編の騙取金では、Aの無資力は、問いのきっかけにすぎず、要件ではありませんでした。転用物訴権では、ここが違います。これから見る判例は、Aの無資力を、規範の中に入れています。条文は、前編と同じ703条です。
条文民法703条
民法第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。
4つの要件に当てはめます。Cは、機械の価値が上がったので、受益があります。Bは、修理に財産と労務を提供したので、損失があります。争われるのは、残りの2つです。修理を受け取ったのがAでも、BとCはつながるのか。そして、BはAに修理代金債権を持っているのに、Cとの関係で、Cが得をする理由がないと言えるのか。先に出どころを整理しておきます。4つの要件は、条文どおりの成立要件です。そのうち、どの程度のつながりを因果関係とするか、どういうときに法律上の原因がないとするかは、条文に書いておらず、判例が示した基準です。この設例は、実際の判例と同じ型です。通称、ブルドーザー事件と呼ばれる事案と、ビル改修事件と呼ばれる事案です。順に見ます。
転用物訴権 無資力の限度で認めた判例
図:最初の判例の整理
- 因果関係=BとCの間に直接の因果関係あり(Aが受領したことは妨げにならない)
- 法律上の原因=原則、BはAに修理代金債権があるのでCに請求できない
- 例外=Aが無資力で、修理代金債権が全部または一部無価値→その限度でCに請求できる
最初の判例、ブルドーザー事件です。次の2枚のカードの上告人は修理業者のB、被上告人は機械の所有者のC、訴外会社は借りて修理を頼んだAです。まず、因果関係の部分です。
判例最判昭45・7・16 民集24巻7号909頁
修理を受け取ったのが第三者でも因果関係はあるか 借りたブルドーザーの修理の事案 これによると、本件ブルドーザーの修理は、一面において、上告人にこれに要した財産および労務の提供に相当する損失を生ぜしめ、他面において、被上告人に右に相当する利得を生ぜしめたもので、上告人の損失と被上告人の利得との間に直接の因果関係ありとすることができるのであつて、本件において、上告人のした給付(修理)を受領した者が被上告人でなく訴外会社であることは、右の損失および利得の間に直接の因果関係を認めることの妨げとなるものではない。
判決は、修理でBに損失が生じ、Cに同額の利得が生じた、として、BとCの間に直接の因果関係がある、と言います。修理を受け取った人がC自身ではなくAであることは、因果関係を認める妨げにならない、とも述べています。判決の言葉は、直接の因果関係です。修理という1つの行為が、Bの損失とCの利得を同時に生んでいる、という見方です。不当利得の最初の回と前編で見た、社会通念上の因果関係とは、言葉が違います。答案では、この場面でも社会通念上の因果関係と書かれることがありますが、どちらで書いても、BとCのつながりが認められる、という結論は変わりません。次は、法律上の原因です。ここが分かれ目になります。
判例最判昭45・7・16 民集24巻7号909頁
修理代金の回収の見込みがないとき所有者に請求できるか 借りたブルドーザーの修理の事案 ただ、右の修理は訴外会社の依頼によるものであり、したがつて、上告人は訴外会社に対して修理代金債権を取得するから、右修理により被上告人の受ける利得はいちおう訴外会社の財産に由来することとなり、上告人は被上告人に対し右利得の返還請求権を有しないのを原則とする(自然損耗に対する修理の場合を含めて、その代金を訴外会社において負担する旨の特約があるときは、同会社も被上告人に対して不当利得返還請求権を有しない)が、訴外会社の無資力のため、右修理代金債権の全部または一部が無価値であるときは、その限度において、被上告人の受けた利得は上告人の財産および労務に由来したものということができ、上告人は、右修理(損失)により被上告人の受けた利得を、訴外会社に対する代金債権が無価値である限度において、不当利得として、被上告人に返還を請求することができるものと解するのが相当である。 (修理費用を訴外会社において負担する旨の特約が同会社と被上告人との間に存したとしても、上告人から被上告人に対する不当利得返還請求の妨げとなるものではない)
原則は、BはCに請求できません。修理はAの依頼によるもので、BはAに修理代金債権を持っているからです。Cの得は、いちおうAの財産に由来することになります。ただし、Aが無資力で、その債権の全部または一部が無価値になったときは、その限度で、Cの得はBの財産と労務に由来したものといえる。そこで、Bは、債権が無価値になった限度で、Cに不当利得の返還を請求できる、と解しました。括弧書きにも注目してください。2つあります。1つめは、AとCの間に、修理代はAが負担する、という特約があれば、A自身も、Cに不当利得の返還を求められない、という部分です。自然損耗、つまり、ふつうに使っていて生じる傷みの修理も含めて、です。2つめは、その特約があっても、BからCへの請求の妨げにはならない、という部分です。
⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】修理の依頼者Aの無資力で修理代金債権が無価値になったときは、その限度で、BはCに不当利得として返還を請求できる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文に書いていない。原則はBはAに請求し、Cには請求できない)
図:ブルドーザー事件の事案と判決の行方
- 修理業者が、会社の依頼で、会社が所有者から借りていたブルドーザーを修理した(約51万円相当)
- 会社は倒産し回収は困難に
- 業者は所有者に請求
- 最高裁は無資力の限度で請求できると解し、原審を破棄して、無価値になった範囲を審理させるために差し戻した
事案です。修理業者が、会社の依頼で、その会社が所有者から借りていたブルドーザーを修理しました。約51万円相当です。会社は、ほどなく倒産し、回収はきわめて困難になりました。業者は、所有者がそのあと機械を引き揚げて売却し、代金の一部として利得が残っている、と主張して、所有者に請求しました。最高裁は、無資力の限度で請求できると解したうえで、原審の判断を破棄し、無価値になった範囲を審理させるために差し戻しました。請求を認めた、と言い切る判決ではありません。ここは言い過ぎないでください。
転用物訴権 対価関係なしの場合に限る判例
図:次の判例の事案
- 所有者Cは、Aに店舗用ビルを貸すにあたり、権利金を取らない代わりに、修繕・造作の工事はすべてAの負担とし、返還時にAは金銭請求をしない、と約束
- Aは所在不明、Bも事実上倒産
- BがCに残代金相当を請求→上告棄却
変形の設例を置きます。Cが、店舗用のビルをAに貸すときに、こう決めていました。権利金、つまり、借りるときに賃料とは別に一度だけ払う、返ってこないお金は、取らない。その代わり、修繕や内装の工事は、すべて借りるAの負担にする。借りたAの頼みで、業者のBが改装工事をしました。Aは行方が分からなくなり、Bの工事代金は残ったままです。BはCに請求できるでしょうか。さっきの判例の結論をそのまま当てはめてよいかを、次の判例、ビル改修事件が絞りました。カードの上告人は工事をした業者のB、被上告人は所有者のCです。
判例最判平7・9・19 民集49巻8号2805頁
賃借人が無資力のとき、所有者が不当利得を負うのはどんな場合か 賃借人に頼まれた建物修繕工事の事案 甲が建物賃借人乙との間の請負契約に基づき右建物の修繕工事をしたところ、その後乙が無資力になったため、甲の乙に対する請負代金債権の全部又は一部が無価値である場合において、右建物の所有者丙が法律上の原因なくして右修繕工事に要した財産及び労務の提供に相当する利益を受けたということができるのは、丙と乙との間の賃貸借契約を全体としてみて、丙が対価関係なしに右利益を受けたときに限られるものと解するのが相当である。けだし、丙が乙との間の賃貸借契約において何らかの形で右利益に相応する出捐ないし負担をしたときは、丙の受けた右利益は法律上の原因に基づくものというべきであり、甲が丙に対して右利益につき不当利得としてその返還を請求することができるとするのは、丙に二重の負担を強いる結果となるからである。
判決の甲は工事をした業者のB、乙は借りたA、丙は所有者のCです。Aが無資力になって、Bの請負代金債権が無価値になった場合でも、Cが法律上の原因なく利益を受けたと言えるのは、CとAの賃貸借契約を全体として見て、Cが対価関係なしに利益を受けたときに限る、と言います。
⭐ 論文で書く規範:【規範(判例で立てる)】Aの無資力でBの請負代金債権が無価値になった場合に、CがBに対して法律上の原因なく利益を受けたといえるのは、CとAの賃貸借契約を全体としてみて、Cが対価関係なしに利益を受けたときに限られる。 (解釈で立てる規範(出どころ=判例)。条文に書いていない。決め手=Cが何らかの形で利益に相応する出捐や負担をしていたなら、Bに返すとCに二重の負担を強いる)
決め手は、二重の負担です。Cが、賃貸借契約の中で、何らかの形で、その利益に見合う出捐、つまり財産を出すことや、負担をしていたなら、Cの得は、法律上の原因に基づくものです。それなのに、Bにも返せとなると、Cは同じ得に対して、2回、負担することになります。設例では、Cは権利金を取らず、その代わりに、工事の負担をAに負わせていました。判決は、Cが受けた利益は、通常なら受け取れた権利金の支払いを免除した、という負担に相応するもので、法律上の原因なく受けたものとは言えない、とし、Bの上告を棄却しました。
判例最判平7・9・19 民集49巻8号2805頁
事案へのあてはめ 賃借人に頼まれた建物修繕工事の事案 前記一の2によれば、本件建物の所有者である被上告人が上告人のした本件工事により受けた利益は、本件建物を営業用建物として賃貸するに際し通常であれば賃借人であるDから得ることができた権利金の支払を免除したという負担に相応するものというべきであって、法律上の原因なくして受けたものということはできず(……)
カードのDは、借りたAのことです。ここで問いです。Cが、権利金を取らない代わりに、修繕は借りる人の負担にしていた。修理業者のBは、Cに修理代を請求できるでしょうか。できません。Cは、権利金の免除という負担に見合う利益を受けていて、Bにも支払えば二重の負担になるからです。
図:2つの判例の比較
- 最初の判例=Aが無資力で修理代金債権が無価値なら、その限度でBはCに請求できる(費用負担の特約があっても妨げにならない)
- 次の判例=Aの無資力でも、CとAの賃貸借を全体として見て、Cが対価関係なしに利益を受けたときに限る(Cに二重の負担を強いない)
- 次の判例は最初の判例に触れていない
最初の判例との関係です。最初の判例は、Aの無資力の限度で請求できる、と解し、AC間に費用負担の特約があっても妨げにならない、と言っていました。この判例は、Cが賃貸借を全体として見て、対価関係なしに利益を受けたときに限る、としました。結論の幅を狭める方向だ、と整理されます。ただし、この判決は、最初の判例に触れていません。判例変更、つまり、最高裁が前の判例を改めた、と書いた判決ではない、という点は押さえてください。
転用物訴権 認められる場合と、代わりの道
図:転用物訴権の分岐
- ①CがAに何の見返りもなく、賃貸借全体で対価なしに利益を受けた→BはCに請求できる可能性
- ②Cが、Aに修繕費を負担させる代わりに賃料を安くする・権利金を免除するなど、利益に見合う負担をしていた→請求できない(法律上の原因あり)
- 修繕はAの負担なのに、賃料はふつう・権利金も取っていたなら、①側
- 修繕がもともとCの負担なら、AがCに償還を求められる=対価なしとは言えない→代わりの道
- 代わりの道(整理)=AがCに持つ権利をBが代わりに行使(債権者代位権)
分かれ目を整理します。Cが、Aに修理の負担を負わせながら、その見返りを何も与えず、賃貸借全体で対価なしに利益を受けたなら、BはCに請求できる可能性があります。たとえば、修繕はAの負担という約束なのに、賃料はふつうの額のままで、権利金も取っていた場合です。この場合、Cの得に見合う負担がないので、Bに返しても二重の負担にはなりません。反対に、修繕費をAの負担にする代わりに、賃料を安くしたり、権利金を免除したりしていたなら、Cはその利益に見合う負担をすでに引き受けています。法律上の原因があり、請求できません。先ほどの設例が、こちらでした。復習です。賃借人が、賃貸人の負担すべき修繕の費用を、自分で立て替えたとき、賃貸人にいつ請求できましたか?
賃貸借の回で見ました。立て替えたら、直ちに請求できる、でした。修繕は、本来、貸している側の義務でした。修繕義務です。条文は606条1項です。ですから、修理の費用も、本来は賃貸人のCが負担すべきものです。そうであれば、AがCに、修理代に当たる費用の償還を求める権利を持つ場面がありえます。そのときは、Bは、その権利をAに代わって行使できます。このとき、Cは、Aに償還する義務という負担を負っていますから、対価関係なしに利益を受けたとは言えません。債権者代位権は、債務者に属する権利を、債権者が代わりに行使する制度でした。この制度は、債務者が無資力であることを要件にする、と判例が読んでいました。転用物訴権が問題になるのも、Aが無資力のときですから、ここはかみ合います。反対に、修理代はAが負担する、と決めていたなら、AがCに求める権利は出てきません。この道は使えません。代わりの道が使えるなら、不当利得を認めるまでもない、と整理されます。ただし、これは判決の内容ではなく、整理です。答案の流れは、703条、因果関係あり、法律上の原因は、賃貸借を全体として対価関係なしに利益を受けたときに限る、対価があるなら請求できない、です。ここも、論文で論点になりうるところです。ここまでの転用物訴権と、前編の騙取金で、問いは同じでした。契約の相手Aを飛び越えて、Cに請求できるか。騙取金は、Cが悪意または重大な過失のとき。転用物訴権は、Cが対価関係なしに利益を受けたとき。どちらも、Cの受益を正当化する理由が無いときに、飛び越えられます。
第三者に対する給付 契約の清算は誰との間か
図:第三者に対する給付の設例 Bは、Aに300万円を貸し、Aの指示でCにそのお金を直接渡した
- 後でAがその貸借契約を取り消した
- BはAとCのどちらに返還を求めるべきか
- B=損をした人、A=契約の相手、C=第三者
2つめの型です。新しい問いを立てます。契約が取り消されて、渡したものが第三者に渡っていたとき、誰に返還を求めるか。記号を、もう一度言います。Bが損をした人、Aが契約の相手、Cが第三者です。設例です。Bが、Aに300万円を貸しました。ただし、お金は、Aの指示で、Cに直接渡されました。あとで、Aがこの貸借契約を取り消しました。BはAとCのどちらに返還を求めるべきでしょうか。復習です。契約が取り消されたとき、渡したものは、どの条文で返しますか?取り消された契約は初めから無効とみなされて、121条の2第1項で原状回復、でした。無効な行為に基づいて給付を受けた人は、相手方を原状に復させる義務を負います。では、その義務を負うのはAとCのどちらかです。
図:第三者に対する給付の原則
- CがAとの関係で受け取る理由を持つ(例=AがCに借りていたお金をこの300万円で返した)→Cの受け取りはAとの間で正当化される
- 取り消された契約の清算は契約当事者のBとAの間で行う→BはAに返還を求める
現に受け取ったのがCでも、Cに請求できるとは限りません。Cは、ふつう、Aとの関係で受け取る理由を持っています。たとえば、AがCに借りていたお金を、この300万円で返してもらった、という場合です。Cの受け取りは、Aとの間で正当化されています。だから、取り消された契約の清算は、契約の当事者であるBとAの間で行います。BはAに、返還を求める。これが原則です。判例を見ます。カードの甲は借主のA、乙は貸主のB、丙は第三者のCです。
判例最判平10・5・26 民集52巻4号985頁
貸付金が第三者に渡った後に契約が取り消されたとき借主は利益を受けたか 貸付金を第三者に振り込ませた事案 消費貸借契約の借主甲が貸主乙に対して貸付金を第三者丙に給付するよう求め、乙がこれに従つて丙に対して給付を行った後甲が右契約を取り消した場合、乙からの不当利得返還請求に関しては、甲は、特段の事情のない限り、乙の丙に対する右給付により、その価額に相当する利益を受けたものとみるのが相当である。 けだし、そのような場合に、乙の給付による利益は直接には右給付を受けた丙に発生し、甲は外見上は利益を受けないようにも見えるけれども、右給付により自分の丙に対する債務が弁済されるなど丙との関係に応じて利益を受け得るのであり、甲と丙との間には事前に何らかの法律上又は事実上の関係が存在するのが通常だからである。
判決は、借主Aは、特段の事情がない限り、BがCにした給付によって、その価額に相当する利益を受けたものとみる、としています。お金は直接にはCに渡っていて、Aは利益を受けないように見えます。しかし、Aは、その給付でCに対する自分の債務が弁済されるなど、Cとの関係に応じて利益を受けうる。そしてAとCの間には、事前に何らかの関係があるのが通常だ、というのが理由です。なお、この判決は、改正前の条文のもとで、703条と704条の言葉で判断しています。今の条文なら、BとAの間の清算は、121条の2第1項です。ほかに、判決は、BにAとCの間の事情の主張立証を求めるのは酷だということ、Aから受け取ってCに渡した場合と扱いを分けるのは衡平に反することも、理由に挙げています。
⭐ 論文で書く規範:【整理】取り消された契約の清算は、契約当事者であるBとAの間で行う。BはAに返還を求める。Cに飛び越えるのが原則ではない。 (整理(判決は一般論としてAが利益を受けたとみる)。取消し後の清算は現行法では121条の2第1項(判決は改正前の703条・704条で判断))
軸としては、契約の相手に請求するのが原則で、Cには飛び越えない、ということです。例外は、Aが利益を受けていない場合です。次のカードの上告人は借りた人のA、被上告人は貸主のBです。Dは強迫した者、Eは受取先の会社です。
判例最判平10・5・26 民集52巻4号985頁
特段の事情があるとき借主は利益を受けたといえるか 強迫されて貸付金を第三者の口座に振り込ませた事案 しかしながら、本件の場合、前記事実関係によれば、上告人とEとの間には事前に何らの法律上又は事実の関係はなく、上告人は、Dの強迫を受けて、ただ指示されるままに本件消費貸借契約を締結させられた上、貸付金をEの右口座へ振り込むよう被上告人に指示したというのであるから、先にいう特段の事情があった場合に該当することは明らかであって、上告人は、右振込みによって何らの利益を受けなかったというべきである。
この事案では、借りた人は、強迫されて契約を結ばされました。そのうえで、貸付金を、自分と何の関係もない会社の口座に振り込むよう、ただ指示されただけでした。借りた人は、振込みによって何の利益も受けなかった、とされました。結論は、貸主の請求の棄却です。貸主の請求を認めた判決ではありません。なぜでしょうか。ふだんなら、貸主が受取先にお金を渡したことで、借りた人の受取先への借金が消えるなどして、借りた人は得をします。ところが、この事案では、借りた人と受取先の会社の間に、もともと何の関係もありませんでした。消える借金もなく、借りた人は何も得ていません。不当利得は、得をした人に返させる制度ですから、得をしていない借りた人には、返せと言えないのです。また、特段の事情は、強迫の一言ではありません。受取先との間に事前の関係がなく、指示されるままだったこと、これらをあわせて、利益がないとみたのです。その場合、貸主は、借りた人には返せと言えない結果になります。強迫した人への責任は、次の不法行為のブロックで扱います。
クレジットカード 無効な立替払いの清算
図:クレジットカードの設例 カード会社Bが、会員Aの利用代金を加盟店Cに立替払いした
- ところがAとBの契約が無効だった
- BはAとCのどちらに返還を求められるか
- 結論(整理)=A○・C×
最後は、短く確認するだけです。カード会社のBが、会員Aの利用代金を、加盟店のCに立替払いしました。ところが、AとBの間の契約が、無効でした。Bは、AとCのどちらに返還を求められるでしょうか。整理としては、Bが請求できるのは、会員のAです。無効なのは、AとBの間の立替払いの契約だけで、AとCの売買は有効だったとします。Bが代金を立て替えたことで、AのCへの代金の支払いは済んだことになります。ですから、Aは、自分では代金を払わずに、商品を手にしたという利益を受けています。加盟店のCには、請求できません。Cは、売買代金として受け取っていて、法律上の原因があるからです。これは、第三者に対する給付と同じ型です。清算は、契約の相手方との間で行う。ただ、これは判例の結論ではなく、第三者に対する給付の型を当てはめた整理です。
請求先の分かれ目と、設例の答え
図:まとめ表
- 場面×請求先×結論×分かれ目×出どころ
- ①騙取金(前編)=BからC=Cが悪意または重過失なら○(判例)②転用物訴権=BからC=Cが賃貸借を全体として対価関係なしに利益を受けたときに限り○(判例。最初の判例は無資力の限度で肯定)③第三者に対する給付=BからA(契約当事者)が原則(整理。判例は一般論としてAが利益を受けたとみる。強迫の事案は利益なし)④誤振込み(前編)=BからAに不当利得返還請求・Cの差押えは止められない(判例)⑤カード=カード会社BからA○・加盟店C×(整理)
表で整理します。前編の2つも入れます。出どころの列も見てください。判例の結論なのか、整理なのかを、区別して覚えるためです。1つめ、騙取金。請求先はC。Cが悪意または重大な過失のとき、請求できます。これは判例です。2つめ、転用物訴権。請求先はC。Cが賃貸借を全体として、対価関係なしに利益を受けたときに限り、請求できます。これも判例で、最初の判例は無資力の限度で認めましたが、次の判例が、対価関係なしに限る、としました。3つめ、第三者に対する給付。請求先は契約の相手のAが原則です。これは整理で、判例は、一般論として、借主が利益を受けたとみています。強迫された事案では、利益なしとされました。4つめ、誤振込み。間違えてAの口座に振り込んだBは、Aに不当利得の返還を求められますが、Aの預金を差し押さえたCは止められません。Aの預金債権が成立しているからです。5つめ、カード。請求先は会員のAで、加盟店のCではありません。これは整理です。全体を通す軸は、1つです。契約の連鎖を飛び越えてCに請求できるのは、Cの受益を正当化する理由がないときです。悪意や重大な過失があるとき。対価なしに丸もうけしたとき。そうでなければ、清算は、関係のある当事者の間で行います。冒頭の設例に戻ります。Cの機械を、借りたAの頼みでBが直し、Aは修理代を支払えないまま倒産しました。Cが、賃貸借を全体として見て、対価関係なしに利益を受けたのでなければ、BはCに修理代を請求できません。最初の判例は無資力だけで足りるとしましたが、次の判例が、その結論を狭めました。
転用物訴権の対価関係と、前編の騙取金の因果関係と法律上の原因は、論文で論点になりうるところです。これで、不当利得のブロックが一巡しました。不当利得は、得をした人から得を返してもらう制度でした。わざとでも、うっかりでも、他人に損をさせたら賠償しなければならない。不当利得が得を返す制度だとすれば、不法行為は、損を埋める制度です。
参照条文
- 民法703条