民法ゼロから民法#331

嫡出否認の訴え(否認権者・提訴期間)

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第7章 親族 #331/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

子が5歳のとき、夫は血縁がないと知った

冒頭の設例。A(母)・C(夫)・D(子)。AとCは婚姻している。Dは婚姻中に生まれ、772条1項でCの子と推定される。Cは出産の日に病院で出生を知った。時間軸=出生0(Cが出生を知る)→同居2年で別居→5歳でCが血縁がないと知る。問い=今から、Cは父子関係を否定できるか。Dの側から否定できるか。 図:冒頭の設例

  • A(母)・C(夫)・D(子)
  • AとCは婚姻している
  • Dは婚姻中に生まれ、772条1項でCの子と推定される
  • Cは出産の日に病院で出生を知った
  • 時間軸=出生0(Cが出生を知る)→同居2年で別居→5歳でCが血縁がないと知る
  • 問い=今から、Cは父子関係を否定できるか
  • Dの側から否定できるか

今日の問いは2つです。1つめ。今から、Cさんは、Dさんとの父子関係を否定できるでしょうか。2つめ。Dさんの側から、否定することはできるでしょうか。予想は、そこで置いておいてください。答えは、山場で出します。前の回で、推定は覆せる、と言いました。今日は、その続きです。誰が、誰を相手に、いつまでに、覆せるのか。それを、条文で引いていきます。

今日の地図。①推定を覆す道は、嫡出否認の訴えだけ ②誰が争えるか(4人)・誰を相手にするか ③いつまでに(3年/1年/子の特則) ④覆したら何が起きるか(監護費用)。貫く軸=争える人・相手・期間を絞る。理由=子の身分を早く安定させ、家庭の平和を守る。 図:今日の地図

  • ①推定を覆す道は、嫡出否認の訴えだけ
  • ②誰が争えるか(4人)・誰を相手にするか
  • ③いつまでに(3年/1年/子の特則)
  • ④覆したら何が起きるか(監護費用)
  • 貫く軸=争える人・相手・期間を絞る
  • 理由=子の身分を早く安定させ、家庭の平和を守る

今日の地図です。1つめ。推定を覆す道は、嫡出否認の訴えだけです。2つめ。争える人は4人で、相手も決まっています。3つめ。期間は、人ごとに起算点が違います。4つめ。覆したあと、子が費用を返すのかどうか、という点です。貫く軸は1本です。覆せる人と期間を、わざと絞っている。その理由は、子の身分を早く安定させ、家庭の平和を守るためです。この軸で、全部がつながります。

推定を覆す道は、嫡出否認の訴えだけ

推定を覆す道。嫡出子=婚姻関係にある男女から生まれた子。772条の推定は、推定であって擬制ではない=覆せる。ただし、覆すには嫡出否認の訴えによる(775条1項柱書)。認容判決が確定して初めて、推定が覆る。制限の理由=①第三者の不当な介入を防ぎ家庭の平和を守る ②子の身分関係を早く安定させる。 図:推定を覆す道

  • 嫡出子=婚姻関係にある男女から生まれた子
  • 772条の推定は、推定であって擬制ではない=覆せる
  • ただし、覆すには嫡出否認の訴えによる(775条1項柱書)
  • 認容判決が確定して初めて、推定が覆る
  • 制限の理由=①第三者の不当な介入を防ぎ家庭の平和を守る ②子の身分関係を早く安定させる

まず、前の回の復習です。婚姻中に生まれた子は、夫の子と推定されます。婚姻関係にある男女から生まれた子を、嫡出子と言います。この推定は、推定であって、擬制ではありません。擬制とは、事実に反していても、そう決めてしまうことです。推定は、反対の事実があれば覆せます。ただし、覆すときには、道が1つしかありません。嫡出否認の訴えです。775条1項の柱書に、そう書かれています。判決が確定して初めて、推定が覆ります。血縁がないと、はっきり分かっていても、訴えを起こさずに、父子ではないと言うことはできません。身近な喩えで言うと、町内会の名簿です。名簿の名前を、誰でも、いつでも書き換えられるとしたら、名簿は、いつまでも固まりません。名簿を信じて動いている周りの人も困ります。子の身分も同じです。誰でも、いつでも、父子関係を争えるとしたら、子の身分は、ずっと不安定です。そこで、争える人と期間を絞っています。理由は2つです。1つめは、第三者が不当に介入するのを防ぎ、家庭の平和を守ること。2つめは、子の身分を、早く安定させることです。

なお、推定の外にある子には、この訴えの制限がかからない場面があります。それは、別の回で扱います。ここは、論文で論点になりうる箇所です。

誰が否認できるか 774条 父・子・母・前夫

否認権者の表(1)。父=774条1項/子=774条1項(親権を行う母・親権を行う養親・未成年後見人が子のために行使できる=2項)/母=774条3項(子の利益を害することが明らかなときは不可)/前夫=774条4項(772条3項で子の父が定められる場合に限る・子の利益を害することが明らかなときは不可)。前夫の否認権を行使して新たに父と定められた者は、自らの嫡出であることを否認できない=5項。 図:否認権者の表(1)

  • 父=774条1項
  • 子=774条1項(親権を行う母・親権を行う養親・未成年後見人が子のために行使できる=2項)
  • 母=774条3項(子の利益を害することが明らかなときは不可)
  • 前夫=774条4項(772条3項で子の父が定められる場合に限る・子の利益を害することが明らかなときは不可)。前夫の否認権を行使して新たに父と定められた者は、自らの嫡出であることを否認できない=5項。

ここで問いです。冒頭とは別の、前の回の設例です。AさんがBさんと離婚して、30日後にCさんと再婚しました。離婚から100日後に、Dさんが生まれました。772条3項で、Dさんは、BさんとCさんのどちらの子と推定されるでしょうか?出生の直近の婚姻の夫なので、今の夫のCさんです。この設例は、あとで使います。まず、否認できる人を、774条で確認します。全文を出します。

条文民法774条

民法第774条(嫡出の否認) 第七百七十二条の規定により子の父が定められる場合において、父又は子は、子が嫡出であることを否認することができる。 2 前項の規定による子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親又は未成年後見人が、子のために行使することができる。 3 第一項に規定する場合において、母は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。 4 第七百七十二条第三項の規定により子の父が定められる場合において、子の懐胎の時から出生の時までの間に母と婚姻していた者であって、子の父以外のもの(以下「前夫」という。)は、子が嫡出であることを否認することができる。ただし、その否認権の行使が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。 5 前項の規定による否認権を行使し、第七百七十二条第四項の規定により読み替えられた同条第三項の規定により新たに子の父と定められた者は、第一項の規定にかかわらず、子が自らの嫡出であることを否認することができない。

否認できるのは、4人です。1項で、父と子。3項で、母。4項で、前夫です。1項の父と子は、推定の当事者です。ですから、当然に、否認できます。そこで、2項です。子の否認権は、親権を行う母、親権を行う養親、未成年後見人が、子のために行使できます。親権を行うとは、未成年の子を監護し、教育する権利と義務を持っている、という意味です。3項は、母です。母も、否認できます。母は、子を産んだ本人です。子の父が誰と定められるかは、子を育てる母の暮らしにも、直接かかわります。ただし、子の利益を害することが明らかなときは、否認できません。子の利益を守るための歯止めです。4項は、前夫です。前夫とは、子の懐胎から出生までの間に、母と婚姻していた、子の父以外の者です。設例のBさんです。

772条3項で、子の父が定められる場合に限ります。つまり、再婚後の、今の夫の子と推定される場合です。設例では、DさんはCさんの子と推定されます。このCさんの推定を、前夫のBさんが、否認できるのです。なぜ、前夫に否認権があるのでしょうか。3項のもとでは、前夫が血のつながった父であっても、子は、今の夫の子と推定されます。前夫が、法律上も子の父になる道は、今の夫の推定を覆すことしかありません。前夫が否認して推定が覆ると、前の回で見た772条4項の繰り上がりで、Dさんは、Bさんの子と推定されます。ただし、前夫にも、子の利益を害することが明らかなときは、否認できない、というただし書があります。前夫の否認でも、子の利益を守るための歯止めがかかるのです。5項です。前夫の否認権を使って、新たに父と定められた人は、自分の嫡出であることを、否認できません。設例で言えば、Bさんが否認して、Cさんの推定が覆り、DさんがBさんの子と推定されたとします。Bさんは、そのあとで、自分の子ではない、と言うことができません。自分で否認しておいて、あとから逃げることを、防ぐ規定です。

否認権の喪失 出生後の承認 776条

否認権の喪失。776条=父又は母は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、それぞれその否認権を失う。失うのは父と母だけ(子と前夫の否認権は消えない)。出生前の承認は含まない。承認=この子は自分の子だと認めること。 図:否認権の喪失

  • 776条=父又は母は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、それぞれその否認権を失う
  • 失うのは父と母だけ(子と前夫の否認権は消えない)
  • 出生前の承認は含まない
  • 承認=この子は自分の子だと認めること

否認権は、失われることがあります。776条です。

条文民法776条

民法第776条(嫡出の承認) 父又は母は、子の出生後において、その嫡出であることを承認したときは、それぞれその否認権を失う。

承認とは、この子は自分の子だと認めることです。父や母が、子が生まれたあとに、承認したら、その人の否認権は消えます。自分で認めておいて、あとから、やはり違う、と覆せるとしたら、子の身分は、いつまでも固まりません。だから、承認した人の否認権は、そこで消えます。冒頭のCさんが、生まれたDさんを抱いて、僕の子だ、と喜んでいたとします。それが、出生後に自分の子だと認めたことにあたるなら、Cさんの否認権は消えます。すると、その後に血縁がないと分かっても、あとで見る3年の期間内であっても、否認できません。読み違えやすい点が、2つあります。1つめ。失うのは、父と母だけです。条文は、父又は母、と書いています。消えるのは、承認した本人の否認権だけです。子と前夫の否認権は、承認では消えません。2つめ。失うのは、子の出生後に承認した場合です。出生前の承認は、含まれません。ですから、Cさんが承認しても、Dさんの否認権は残ります。Dさんは、自分の子と認められたあとでも、否認の訴えを起こせます。

誰を相手に訴えるか 775条

否認権者×被告×提訴期間の表(被告の列まで)。父の否認権=被告は子又は親権を行う母(775条1項1号)/子の否認権=被告は父(2号)/母の否認権=被告は父(3号)/前夫の否認権=被告は父及び子又は親権を行う母(4号)。親権を行う母を被告とすべき場合(1号・4号)で親権を行う母がないときは、家庭裁判所が特別代理人を選任する(2項)。提訴期間の列はこのあと埋める。 図:否認権者×被告×提訴期間の表(被告の列まで)

  • 父の否認権=被告は子又は親権を行う母(775条1項1号)
  • 子の否認権=被告は父(2号)
  • 母の否認権=被告は父(3号)
  • 前夫の否認権=被告は父及び子又は親権を行う母(4号)。親権を行う母を被告とすべき場合(1号・4号)で親権を行う母がないときは、家庭裁判所が特別代理人を選任する(2項)。提訴期間の列はこのあと埋める。

次は、相手です。嫡出否認の訴えは、誰が訴えるかによって、相手が決まります。775条1項です。全文を出します。

条文民法775条

民法第775条(嫡出否認の訴え) 次の各号に掲げる否認権は、それぞれ当該各号に定める者に対する嫡出否認の訴えによって行う。 一 父の否認権 子又は親権を行う母 二 子の否認権 父 三 母の否認権 父 四 前夫の否認権 父及び子又は親権を行う母 2 前項第一号又は第四号に掲げる否認権を親権を行う母に対し行使しようとする場合において、親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。

父が否認するときの相手は、子又は親権を行う母です。子が否認するときの相手は、父です。母が否認するときの相手も、父です。前夫が否認するときは、父、そして、子又は親権を行う母の両方が相手です。軸は、1つです。否認される側が、相手になります。父の推定を覆すなら、父か、子かの、否認される側が相手です。ただし、前夫が訴えるときは、今の父と、子の両方が、結論に直接かかわるので、両方を相手にします。冒頭の家族で言えば、Cさんが否認するなら、相手はDさんか、親権を行うAさんです。Dさんが否認するなら、相手はCさんです。もう1つ。親権を行う母を相手にするのは、父が否認するときと、前夫が否認するときです。このとき、親権を行う母がいなければ、家庭裁判所が、特別代理人を選びます。775条2項です。特別代理人とは、親権を行う母の代わりに、子の側の相手方として訴えを受ける人のことです。

提訴期間 3年・起算点は人ごとに違う 777条

提訴期間(表の完成)。777条=各号の時から3年以内。父=父が子の出生を知った時/子=その出生の時/母=子の出生の時/前夫=前夫が子の出生を知った時。起算点は、父・前夫は知った時、子・母は客観的な出生の日。3年は除斥期間(過ぎれば却下)。 図:提訴期間(表の完成)

  • 777条=各号の時から3年以内。父=父が子の出生を知った時
  • 子=その出生の時
  • 母=子の出生の時
  • 前夫=前夫が子の出生を知った時。起算点は、父・前夫は知った時、子・母は客観的な出生の日。3年は除斥期間(過ぎれば却下)。

ここで問いです。時効と除斥期間は、どちらも期間が過ぎたあとに権利が消える点が同じです。では、完成猶予と更新や、援用が要るかどうかは、どう違うでしょうか?除斥期間には、完成猶予や更新の定めがなくて、援用も要りません。第1章の、除斥期間の回で見た区別です。除斥期間は、決められた期間を過ぎれば、それで終わりの期間でした。嫡出否認の訴えの3年は、この除斥期間です。期間が過ぎているかどうかは、当事者が言い出さなくても、裁判所が自分で調べます。これを、職権で調べる、と言います。全文を出します。

条文民法777条

民法第777条(嫡出否認の訴えの出訴期間) 次の各号に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、それぞれ当該各号に定める時から三年以内に提起しなければならない。 一 父の否認権 父が子の出生を知った時 二 子の否認権 その出生の時 三 母の否認権 子の出生の時 四 前夫の否認権 前夫が子の出生を知った時

期間は、どの否認権も3年です。違うのは、起算点です。父と前夫は、子の出生を知った時。子と母は、出生の時です。なぜ、分かれるのでしょうか。母は、子を産んだ本人なので、出生の時を、必ず知っています。子は、出生の時から推定の当事者で、親権を行う母などが、子の代わりに訴えられます。ですから、子と母は、出生の時から数えます。父と前夫は、出生を知らないまま、時間が過ぎることがあります。知らないうちに期間が終わると、争う機会がありません。それで、知った時から数えます。第1章では、除斥期間は、権利が発生した時から数える、と見ました。ただ、起算点を条文が書いていれば、その時から数えます。777条は、各号で、起算点を書いています。

喩えで言うと、手紙が、届いた日と、発送された日の違いです。父と前夫は、届いた日、つまり、出生を知った日が起算点です。子と母は、発送された日、つまり、出生という客観的な日が起算点です。引っかかりやすいのは、父の起算点です。血縁がないと知った時、ではありません。条文の文言どおり、子の出生を知った時です。血縁がないと知った時から数えると、何年たっても、期間が始まらないことがありえます。それでは、子の身分が、いつまでも固まりません。間に合うかどうかの線を、確かめます。父が出生を知った日から3年以内なら、提訴できます。3年を過ぎたあとに、血縁がないと分かっても、提訴できません。3年は除斥期間なので、過ぎていれば、訴えは却下されます。設例に当てはめます。Cさんは、出産の日に、病院で出生を知りました。起算点は、Dさんの誕生日です。3年は、Dさんが3歳のときに満了します。血縁がないと知ったのは、Dさんが5歳のときです。もう、2年過ぎています。Cさんは、提訴できません。母のAさんも同じです。起算点は、Dさんの出生の時で、3年は、3歳で満了します。Aさんも、提訴できません。ここで問いです。Cさんが海外に赴任していて、Dさんの出生を知ったのが、誕生日の1年後だったとします。Cさんの3年は、いつ終わるでしょうか?

起算点が、知った時だから、Dさんの出生から4年で終わります。では、Dさんが5歳で血縁がないと知ったら、どうでしょう。4年で終わっているので、やっぱり、経過後です。起算点が動いても、この設例では、結論は変わりません。反対に、間に合う場合も見ます。Dさんが1歳のときに、Cさんが血縁がないと知ったとします。出生を知った日から3年以内です。提訴できます。相手は、775条1項1号で、子又は親権を行う母です。親権を行うAさんを、被告にします。

否認された子の新たな推定を覆す 778条 1年

4項の2段の板に期間を書き足す。1段目=A─C(婚姻)→D=3項でCの子と推定→否認(3年=777条)。2段目=Cの子との推定が覆る→A─B(婚姻)→D=4項でBの子と推定→さらに否認(確定を知った時から1年=778条)。前夫Bが前夫の否認権で覆した場合、Bは774条5項で再否認できない。 図:4項の2段の板に期間を書き足す

  • 1段目=A─C(婚姻)→D=3項でCの子と推定→否認(3年=777条)
  • 2段目=Cの子との推定が覆る→A─B(婚姻)→D=4項でBの子と推定→さらに否認(確定を知った時から1年=778条)
  • 前夫Bが前夫の否認権で覆した場合、Bは774条5項で再否認できない

冒頭とは別の、前の回の設例に戻ります。AさんがBさんと離婚して、Cさんと再婚し、Dさんが生まれました。DさんはCさんの子と推定されます。この推定が、否認で覆されたとします。前の回で見たとおり、772条4項は、否認された夫との婚姻を除いて、次に直近の婚姻の夫へ、推定を繰り上げます。すると、DさんはBさんの子と推定されます。この新しい推定に対して、さらに否認できるでしょうか。できます。ただし、期間は、777条の3年ではありません。778条の、1年です。全文を出します。

条文民法778条

民法第778条 第七百七十二条第三項の規定により父が定められた子について第七百七十四条の規定により嫡出であることが否認されたときは、次の各号に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、前条の規定にかかわらず、それぞれ当該各号に定める時から一年以内に提起しなければならない。 一 第七百七十二条第四項の規定により読み替えられた同条第三項の規定により新たに子の父と定められた者の否認権 新たに子の父と定められた者が当該子に係る嫡出否認の裁判が確定したことを知った時 二 子の否認権 子が前号の裁判が確定したことを知った時 三 母の否認権 母が第一号の裁判が確定したことを知った時 四 前夫の否認権 前夫が第一号の裁判が確定したことを知った時

対象は、否認が確定して、新たに父と定められた子です。この子について、新たな父、子、母、前夫が、さらに否認する場合は、1年以内です。起算点は、それぞれが、最初の否認の裁判が確定したことを知った時です。1回目の否認の裁判が確定するころには、子が生まれてから、もう相当の時間がたっています。しかも、確定したことを知れば、そこから、すぐに、否認するかどうかを考えられます。それで、確定を知った時から、1年に絞りました。設例です。Cさんの子との推定が、Aさんの否認で覆りました。新たに父と定められたBさんは、確定を知った時から1年以内に、否認の訴えを提起できます。DさんとAさんも、同じく、確定を知った時から1年です。

新たな父が、もともと前夫で、自分の否認で父になった人なら、774条5項が働きます。前夫の否認権で新たに父と定められた人は、自分の嫡出を否認できません。ですから、Bさんは、そもそも否認できません。1年かどうか、という前に、否認ができない、という場面です。

子の特則 778条の2 冒頭の答え

子の否認権の期間フロー(板4)。出生から3年以内か→はい=提起できる/過ぎている→父との同居(最も長い期間)が3年を下回るか→はい=21歳に達するまで(子が自分で・ただし書あり)/いいえ=不可。設例=同居2年→21歳まで。変形=同居ちょうど3年→不可(下回る=3年未満)。 図:子の否認権の期間フロー(板4)

  • 出生から3年以内か→はい=提起できる
  • 過ぎている→父との同居(最も長い期間)が3年を下回るか→はい=21歳に達するまで(子が自分で・ただし書あり)
  • いいえ=不可。設例=同居2年→21歳まで。変形=同居ちょうど3年→不可(下回る=3年未満)。

ここから、冒頭の答えに入ります。子の否認権には、3つの特則があります。条文は、778条の2です。全文を出します。

条文民法778条の2第1項

民法第778条の2 第1項 第七百七十七条(第二号に係る部分に限る。)又は前条(第二号に係る部分に限る。)の期間の満了前六箇月以内の間に親権を行う母、親権を行う養親及び未成年後見人がないときは、子は、母若しくは養親の親権停止の期間が満了し、親権喪失若しくは親権停止の審判の取消しの審判が確定し、若しくは親権が回復された時、新たに養子縁組が成立した時又は未成年後見人が就職した時から六箇月を経過するまでの間は、嫡出否認の訴えを提起することができる。

1項は、親権者などがいない間の延長です。期間が終わる前の6か月以内に、親権を行う母も、養親も、未成年後見人もいなかったとします。すると、親権が回復した時、養子縁組が成立した時、未成年後見人が就職した時から、6か月を経過するまで、子は提起できます。子を代わりに訴える人がいない間に、期間が過ぎてしまうのを、防ぐ規定です。続けて、2項から4項です。

条文民法778条の2第2項〜第4項

民法第778条の2 第2項・第3項・第4項 2 子は、その父と継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が三年を下回るときは、第七百七十七条(第二号に係る部分に限る。)及び前条(第二号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず、二十一歳に達するまでの間、嫡出否認の訴えを提起することができる。ただし、子の否認権の行使が父による養育の状況に照らして父の利益を著しく害するときは、この限りでない。 3 第七百七十四条第二項の規定は、前項の場合には、適用しない。 4 第七百七十七条(第四号に係る部分に限る。)及び前条(第四号に係る部分に限る。)に掲げる否認権の行使に係る嫡出否認の訴えは、子が成年に達した後は、提起することができない。

2項が、今日の山場です。子は、父と継続して同居した期間が、3年を下回るときは、21歳に達するまで、嫡出否認の訴えを提起できます。同居した期間が2つ以上あるときは、そのうち、最も長い期間で見ます。下回る、は、3年未満です。3年ちょうどは、入りません。同居の期間は、子が父と、実際に一緒に暮らした期間で見ます。婚姻が続いていても、別居している間は、数えません。なぜ、同居の長さで分けるのでしょうか。父と長く一緒に暮らしていれば、父と子としての暮らしが、もうできあがっています。それを後から壊すのは、相当ではありません。反対に、同居が短ければ、守るべき暮らしが、まだ育っていません。21歳という線は、18歳で成年になってから、3年考えられる年齢です。ただし書があります。子の否認権の行使が、父による養育の状況に照らして、父の利益を著しく害するときは、提起できません。父が、長く子を養育してきたのに、あとから否認されたら、父の利益を、著しく害する、という場面です。3項です。2項の場面では、774条2項は、適用されません。つまり、親権を行う母などが、子の代わりに訴えることはできません。子が、自分で、自分の判断で、訴えます。大きくなってから、自分の身分を、自分で決められるようにするための特則です。4項は、前夫です。前夫の否認権は、子が成年に達した後は、提起できません。前夫の否認は、今の家庭に入り込んで、子との間に、新しく法律上の父子関係をつくる面があります。子が大人になるほど長い時間がたってから、前夫の一方的な意思で、父子関係をつくるのは、行き過ぎです。そこで、成年に達した後は、できなくしました。

冒頭の答え(Dの時間軸)。D出生(2024年4月1日以後)=Cが出生を知った日→2歳=AとCが別居(Cとの同居は2年)→3歳=父Cの3年(出生を知った時から)と母Aの3年(出生の時から)が満了→5歳=Cが血縁なしと知る(起算点にならない)→子D=同居2年<3年=778条の2第2項で21歳に達するまで提起できる(ただし書あり)。変形=同居ちょうど3年→不可。 図:冒頭の答え

  • Dの時間軸
  • D出生(2024年4月1日以後)=Cが出生を知った日→2歳=AとCが別居(Cとの同居は2年)→3歳=父Cの3年(出生を知った時から)と母Aの3年(出生の時から)が満了→5歳=Cが血縁なしと知る(起算点にならない)→子D=同居2年<3年=778条の2第2項で21歳に達するまで提起できる(ただし書あり)。変形=同居ちょうど3年→不可。

冒頭の答えを、出します。1つめ。父のCさんは、出生を知った日から3年が、Dさんの3歳で満了しています。5歳で血縁がないと知っても、提起できません。2つめ。母のAさんも、出生から3年が過ぎているので、提起できません。3つめ。子のDさんです。原則の3年は、すでに過ぎています。ただし、Dさんが、Cさんと同居したのは、出生から別居までの、2年です。3年を下回ります。ですから、Dさんは、21歳に達するまで、提起できます。Dさんは5歳なので、あと十数年あります。しかも、774条2項は適用されないので、Dさんが、自分で訴えます。ただし書に当たるかどうかは、別に見ます。設例では、Cさんは別居後、養育にほとんど関わっていません。父の利益を、著しく害するとは、言いにくい場面です。

ここで問いです。AさんとCさんが、出生からちょうど3年同居して、別居していたら、どうでしょう。子は、21歳まで、否認できるでしょうか?同居が3年ちょうどなので、3年を下回りません。2項は使えなくて、原則の3年も過ぎているので、提起できません。2年と3年ちょうどで、結論が分かれます。この境界を、確実に覚えておいてください。父の期間は早く閉じて、子の身分を安定させる。それでも、父と子の暮らしが育たなかった子には、大人になってから自分で争える窓を残す。これが、今日の軸です。

否認されても、子は監護費用を返さない 778条の3

監護費用の償還の制限(778条の3)。嫡出否認が認められた場合でも、子は、父であった者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。理由=否認の効果は出生時にさかのぼる→そのままなら、他人の子の費用を払ったことになり、不当利得の返還義務が生じうる→子の利益を保護するため、返還義務を否定。 図:監護費用の償還の制限

  • 778条の3
  • 嫡出否認が認められた場合でも、子は、父であった者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。理由=否認の効果は出生時にさかのぼる→そのままなら、他人の子の費用を払ったことになり、不当利得の返還義務が生じうる→子の利益を保護するため、返還義務を否定。

最後の論点です。否認が認められると、子は、費用を返すのでしょうか。778条の3です。

条文民法778条の3

民法第778条の3(子の監護に要した費用の償還の制限) 第七百七十四条の規定により嫡出であることが否認された場合であっても、子は、父であった者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。

償還とは、払った分を返すことです。嫡出否認が認められても、子は、父であった者が支出した、子の監護の費用を返さなくてよい、と定めています。Dさんの否認が認められても、Cさんが同居の2年間に払った養育の費用を、Dさんは返さなくてよいのです。理屈の上では、父であった人が、子に費用を返してもらえそうに見えます。否認の効果は、出生の時にさかのぼる、と解されます。これが遡及効です。さかのぼると、父であった者は、他人の子の費用を、払い続けたことになります。すると、不当利得の返還義務が、子に生じうるはずです。ただ、それでは、子が、すでに育ててもらった費用まで、あとから請求されます。子は、何も悪くありません。そこで、子を保護するために、返還義務を否定しました。遡及効に対する、子を守るための例外です。範囲を確認します。否定されるのは、子の償還義務です。母など、本来、子を養う義務を負う人が返すかどうかは、この条文には書かれていません。この条文から言えるのは、子は返さない、という点だけです。否認された子の相続は、第8章で扱います。

改正の適用範囲

経過措置。施行日=2024年4月1日。新しい772条は、施行日以後に生まれる子に適用。父の否認権は、施行日以後に生まれた子に新法を適用(施行日前に生まれた子は従前の例)。子・母の否認権は、施行日前に生まれた子にも適用するが、期間は施行の時から1年を経過する時まで。この回の設例は、すべて施行日以後に生まれた子。 図:経過措置

  • 施行日=2024年4月1日
  • 新しい772条は、施行日以後に生まれる子に適用
  • 父の否認権は、施行日以後に生まれた子に新法を適用(施行日前に生まれた子は従前の例)
  • 子・母の否認権は、施行日前に生まれた子にも適用するが、期間は施行の時から1年を経過する時まで
  • この回の設例は、すべて施行日以後に生まれた子

適用範囲を、1つだけ言っておきます。嫡出否認のルールは、2024年4月1日に、新しくなりました。この日を、施行日と言います。今日見てきた条文は、どれも、新しい条文です。今日の設例は、すべて、施行日以後に生まれた子です。施行日前に生まれた子の父の否認は、従前の例、つまり、前のルールによります。子と母の否認権は、このとき新しくできた権利です。施行日の前から、戸籍のないままの人を救うために、施行日前に生まれた子にも、使えるようにしました。ただし、期間は、施行の時から1年を経過する時まででした。この1年は、もう終わっています。ですから、今の試験では、施行日以後に生まれた子を、前提に引けば足ります。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ。①推定を覆す道は嫡出否認の訴えだけ(家庭の平和・身分の早期安定)②否認権者4人×被告×期間の表(父・前夫=出生を知った時/子・母=出生の時/いずれも3年)③新たな推定への否認=確定を知った時から1年 ④子の特則=同居3年未満なら21歳まで・自分で/前夫は成年後は不可 ⑤否認されても子は監護費用を返さない ⑥冒頭の答え=父・母は不可・子は21歳まで可(自分で)。 図:今日のまとめ

  • ①推定を覆す道は嫡出否認の訴えだけ(家庭の平和・身分の早期安定)②否認権者4人×被告×期間の表(父・前夫=出生を知った時/子・母=出生の時/いずれも3年)③新たな推定への否認=確定を知った時から1年
  • ④子の特則=同居3年未満なら21歳まで・自分で/前夫は成年後は不可
  • ⑤否認されても子は監護費用を返さない
  • ⑥冒頭の答え=父・母は不可・子は21歳まで可(自分で)

最後にまとめます。柱は、6本です。1本目。推定を覆す道は、嫡出否認の訴えだけです。争える人と期間を絞る理由は、家庭の平和と、子の身分の早期安定です。2本目。否認権者は、父、子、母、前夫の4人です。相手は、775条で決まります。期間は、どれも3年です。起算点は、父と前夫が、出生を知った時。子と母が、出生の時です。3本目。新たな推定を、さらに否認するときは、最初の否認の裁判が確定したことを知った時から、1年です。前夫の否認権を使って父になった人は、自分で否認できません。4本目。子の特則です。父と同居した期間が、3年を下回るときは、子は21歳に達するまで、自分で提起できます。前夫の否認権は、子が成年に達した後は、提起できません。5本目。否認が認められても、子は、監護費用を返しません。6本目。冒頭の答えです。父のCさんは、出生を知った日から3年が過ぎていて、できません。母のAさんも、できません。子のDさんは、同居が2年で、3年を下回るので、21歳までなら、自分で提起できます。

父は、血縁がないと知っても、出生を知った日から3年を過ぎたら、もう争えないんですね。でも、子は、大人になってからでも争える窓が、残っているんですね。次の回では、嫡出の推定が及ばない子と、親子関係不存在確認の訴えを見ます。

参照条文

  • 民法774条
  • 民法776条
  • 民法775条
  • 民法777条
  • 民法778条
  • 民法778条の2第1項
  • 民法778条の2第2項〜第4項
  • 民法778条の3

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