民法ゼロから民法#333

任意認知と認知の無効

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第7章 親族 #333/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

知っていて認知した父が、あとから無効を言い出した

冒頭の設例。A(母)・C(父として認知した男性)・D(子)。AとCは婚姻していない。時間軸=Dの出生(2024年1月15日)→Cが認知届(2024年6月3日・血縁がないと知りながら)→認知後2年間Cが同居→別居→2028年、Cが認知の無効を主張したくなる。問い=Cは、血縁がないと知りながら認知したのに、あとから無効を主張できるか。Dの側・Aの側はどうか。 図:冒頭の設例

  • A(母)・C(父として認知した男性)・D(子)
  • AとCは婚姻していない
  • 時間軸=Dの出生(2024年1月15日)→Cが認知届(2024年6月3日・血縁がないと知りながら)→認知後2年間Cが同居→別居→2028年、Cが認知の無効を主張したくなる
  • 問い=Cは、血縁がないと知りながら認知したのに、あとから無効を主張できるか
  • Dの側・Aの側はどうか

今日の問いは、2つです。血縁がないと知りながら認知したCさんは、あとから、無効を主張できるのか。そして、Dさんの側と、Aさんの側は、どうなのか、です。予想は、置いておいてください。答えは、山場で出します。前の回の終わりで、嫡出でない子の父は、認知で決まる、と入口だけ見ました。今日は、その認知を、作り方から、争い方まで見ます。

今日の地図。1つめ=なぜ認知という行為が要るのか/2つめ=任意認知の方式と、誰の承諾が要るか/3つめ=認知は取り消せない・意思に基づかない認知は無効/4つめ=認知の無効の訴え(誰がいつまでに)と冒頭の答え。貫く軸=父子の血縁は外から見えないので認知という行為で決める→行為で決めたものを、どこまで、どう覆せるか。 図:今日の地図

  • 1つめ=なぜ認知という行為が要るのか/2つめ=任意認知の方式と、誰の承諾が要るか/3つめ=認知は取り消せない・意思に基づかない認知は無効/4つめ=認知の無効の訴え(誰がいつまでに)と冒頭の答え
  • 貫く軸=父子の血縁は外から見えないので認知という行為で決める→行為で決めたものを、どこまで、どう覆せるか

今日の地図です。1つめ。なぜ、認知という行為が要るのか。2つめ。任意認知です。どんな方式で、誰の承諾が要るのか。3つめ。認知は取り消せない、という話と、意思に基づかない認知は無効、という話です。4つめ。認知の無効の訴えです。誰が、いつまでに争えるのか。そこで、冒頭の問いに答えます。貫く軸は1本です。父子の血縁は、外から見えません。だから、認知という行為で決めます。では、行為で決めたものを、どこまで、どう覆せるのか。これを、確かめていきます。

なぜ認知という行為が要るのか

嫡出でない子の父子関係。母子関係=分娩の事実で当然に生じる。婚姻中の夫婦の子=772条の推定が手がかり(外から見える手がかり=婚姻)。婚姻していない男女の子(嫡出でない子)=手がかりがない→父子関係は認知で決まる。推定の外の子(離婚から301日目以降に生まれた子)も同じ。 図:嫡出でない子の父子関係

  • 母子関係=分娩の事実で当然に生じる
  • 婚姻中の夫婦の子=772条の推定が手がかり(外から見える手がかり=婚姻)
  • 婚姻していない男女の子(嫡出でない子)=手がかりがない→父子関係は認知で決まる
  • 推定の外の子(離婚から301日目以降に生まれた子)も同じ

ここで問いです。母と子の関係は、産んだ時点で決まります。父と子の関係は、なぜ、同じように決まらないのでしょうか?嫡出推定の回で見ました。母は、分娩の事実で、当然に決まります。父は、外から見える手がかりで先に決めます。その手がかりが、婚姻でした。婚姻中の夫婦の子なら、夫の子と推定されます。手がかりが無い子は、どうでしょう。嫡出でない子、つまり、婚姻関係にない男女の間に生まれた子です。それと、離婚から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したと推定されますが、301日目以降に生まれた子は、772条2項の推定の外に出ます。この子の父は、別の回で扱う、と言いました。それが、今日です。答えは、認知で決まる、です。認知とは、父が、この子は自分の子だ、と認める行為です。779条は、前の回で全文を見ました。結論だけ繰り返します。嫡出でない子は、父または母が認知できる、です。

条文上は、母も出てきます。でも、母子関係は、産んだ事実で当然に生じるので、母の認知は、ほとんど使い場面がありません。今日は、父の認知に絞ります。

任意認知の方式と、出生届の転換

任意認知の方式(要式行為)。届出(781条1項)=戸籍法の定めるところにより届け出る/遺言(781条2項)。遺言認知=遺言の効力が生じる時(遺言者の死亡時)に効力が生じる。出生届の転換=嫡出でない子について、父が(1)嫡出子としての出生届、または(2)嫡出でない子としての出生届をし、受理されたとき→その届は認知届としての効力を有する(無効行為の転換)。 図:任意認知の方式(要式行為)

  • 届出(781条1項)=戸籍法の定めるところにより届け出る
  • 遺言(781条2項)。遺言認知=遺言の効力が生じる時(遺言者の死亡時)に効力が生じる。出生届の転換=嫡出でない子について、父が(1)嫡出子としての出生届、または(2)嫡出でない子としての出生届をし、受理されたとき→その届は認知届としての効力を有する(無効行為の転換)。

父が、自分から認める認知を、任意認知と言います。冒頭のCさんの認知も、これです。方式が決まっています。781条です。

条文民法781条

民法第781条(認知の方式) 1 認知は、戸籍法の定めるところにより届け出ることによってする。 2 認知は、遺言によっても、することができる。

1項は、届出です。2項は、遺言です。口頭で、お前は俺の子だ、と言っただけでは、認知になりません。どうして、方式がそんなに厳しいんですか。要式行為だからです。要式行為とは、法律で決まった方式を踏まないと、成立しない行為のことです。親子関係は、戸籍に載り、相続や扶養に結びつきます。誰が見ても、いつ認知がされたか分かる形に、しておく必要があります。名札の喩えで考えます。この子は私の子です、と書いた名札を、役所に預ける。これが、届出です。口で言っただけでは、名札は役所に残りません。遺言による認知は、遺言の効力が生じる時、つまり遺言をした人の死亡の時に、効力が生じます。届出は、遺言執行者がします。この細部は、相続のところで見ます。ここから、出生届の転換の話につながります。嫡出でない子について、父が、出生届を出した場合です。①嫡出子としての出生届。②嫡出でない子としての出生届。どちらも、本来は、おかしな届です。①は、婚姻していないのに、嫡出子だと届けています。中身が事実と違います。②は、届け出る人が違います。嫡出でない子の出生届は、母が出すものだからです。この届が、戸籍の担当者に受理されたとき、どうなるでしょう。判例を見ます。

判例最高裁判所第二小法廷判決 昭和53年2月24日(民集32巻1号110頁)

出生届と認知届の効力 嫡出でない子につき、父から、これを嫡出子とする出生届がされ、又は嫡出でない子としての出生届がされた場合において、右各出生届が戸籍事務管掌者によつて受理されたときは、その各届は認知届としての効力を有するものと解するのが相当である。けだし、……認知届は、父が、戸籍事務管掌者に対し、嫡出子でない子につき自己の子であることを承認し、その旨を申告する意思の表示であるところ、右各出生届にも、父が、戸籍事務管掌者に対し、子の出生を申告することのほかに、出生した子が自己の子であることを父として承認し、その旨申告する意思の表示が含まれており、右各届が戸籍事務管掌者によつて受理された以上は、これに認知届の効力を認めて差支えないと考えられるからである。

読み解きます。結論は、父が出した出生届は、認知届としての効力を持つ、です。理由は、認知届の中身にあります。認知届とは、父が、役所に、この子は自分の子だ、と承認して申告する、意思の表示です。父の出生届にも、子が生まれたことの申告に加えて、父として、自分の子だと承認する意思の表示が、含まれています。受理された以上、認知届の効力を認めてよい、というわけです。この出生届は、出生届としては、無効です。でも、認知届としては、有効です。ある行為が、本来の形では無効でも、別の行為の要件を満たすなら、そちらとして有効にする。これを、無効行為の転換と言いました。以前の回の、嫡出子の出生届が認知に転換する話は、この判例の結論です。決め手は、意思の表示が含まれていることです。判例だから、ではありません。父が、自分の子だと申告する意思を、出生届の形で、役所に出しているからです。

誰の承諾が要るのか 認知する側の能力

認知の能力と承諾(780〜783条)。認知する側=未成年者でも法定代理人の同意は不要(780条)・ただし意思能力は要る・代理に親しまない。認知される側=成年の子→子の承諾(782条)/胎児→母の承諾(783条1項)・出生した子について772条で父が定められるときは胎児認知は効力を生じない(783条2項)/死亡した子→直系卑属があるときに限り(783条3項)・直系卑属が成年なら、その承諾。 図:認知の能力と承諾(780〜783条)

  • 認知する側=未成年者でも法定代理人の同意は不要(780条)・ただし意思能力は要る・代理に親しまない。認知される側=成年の子→子の承諾(782条)
  • 胎児→母の承諾(783条1項)・出生した子について772条で父が定められるときは胎児認知は効力を生じない(783条2項)
  • 死亡した子→直系卑属があるときに限り(783条3項)・直系卑属が成年なら、その承諾。

認知は、父の意思でします。でも、いつでも、父だけの意思で、できるわけではありません。認知される側の場面ごとに、承諾が要る場合があります。まず、認知する側の能力から。

条文民法780条

民法第780条(認知能力) 認知をするには、父又は母が未成年者又は成年被後見人であるときであっても、その法定代理人の同意を要しない。

未成年者でも、認知するのに、親の同意は要りません。以前、営業の許可の回で、認知は年齢の制限がない、と一言だけ見ました。その結論です。理由は、認知が、身分行為だからです。親子の関係のような身分を作る行為では、本人の意思そのものが大切だ、と考えられているからです。だから、親の同意は、求めません。ただし、意思能力は要ります。意思能力とは、自分のしていることの意味が分かる能力です。分からない人がした認知は、無効です。そして、認知は、代理に親しみません。代理人が、本人に代わって、認知することはできません。親子の関係を認める意思は、本人のものだからです。なお、この780条は、成年後見の見直しで、成年被後見人の部分が変わる改正が、すでに決まっています。まだ施行されていないので、今は、この条文のとおりです。未成年者の部分は、変わりません。次に、認知される側です。

条文民法782条

民法第782条(成年の子の認知) 成年の子は、その承諾がなければ、これを認知することができない。

子の側にも、義務が生じます。認知されると、親子の関係ができて、父の扶養を、子がする場面も出てきます。成年になった子を、突然、認知して、将来の扶養を求めるような、父の都合のよい認知を、防ぐためです。

条文民法783条

民法第783条(胎児又は死亡した子の認知) 1 父は、胎内に在る子でも、認知することができる。この場合においては、母の承諾を得なければならない。 2 前項の子が出生した場合において、第七百七十二条の規定によりその子の父が定められるときは、同項の規定による認知は、その効力を生じない。 3 父又は母は、死亡した子でも、その直系卑属があるときに限り、認知することができる。この場合において、その直系卑属が成年者であるときは、その承諾を得なければならない。

1項は、胎児です。胎児とは、まだお母さんのおなかの中にいる子です。胎児を認知するには、母の承諾が要ります。胎児は、まだ自分で承諾できません。それに、おなかの子の父が誰かを、いちばんよく知っているのは、母です。母の承諾を条件にして、事実と違う認知が混ざりにくくし、母の意思も尊重するのです。もし、CさんがDさんを、生まれる前に認知していたら、Aさんの承諾が要りました。権利能力の回で、胎児認知に触れました。2項です。胎児認知のあとに、その子が生まれて、772条で父が定められるときは、胎児認知は、効力を生じません。推定が優先する、ということです。認知は、嫡出でない子にするものです。生まれた子に、772条で父が決まるなら、その子には、もう法律上の父がいます。そこに認知の父が加わると、父が2人になってしまいます。だから、推定のほうを優先します。婚姻中の夫の子と推定される子について、別の男性が、胎児のうちに認知しても、その認知は無効です。3項は、死亡した子です。子がすでに亡くなっていても、その子に直系卑属がいるときに限り、認知できます。直系卑属とは、子、孫のように、自分より下の世代の血族のことです。

意味は、その子の子、つまり孫との関係です。亡くなった子を父が認知すれば、父と、その孫の間に、直系血族の関係ができます。孫が成年のときは、孫の承諾が要ります。ここで、場面と承諾者を、並べます。成年の子は、子の承諾。胎児は、母の承諾。死亡した子は、直系卑属がいる場合だけで、直系卑属が成年なら、その承諾。そして、認知する側の法定代理人の同意は、要らない。

認知は取り消せない・意思に基づかない認知は無効

認知がうまくいかない3つの場面。(1)意思に基づかない(なりすましの届出・意思能力なし)→血縁があっても無効(最判昭52)。(2)詐欺・強迫で認知した→血縁がある限り取り消せない(785条)。(3)血縁がない→認知の無効の訴え(786条)。軸=意思の有無/血縁の有無。 図:認知がうまくいかない3つの場面

  • (1)意思に基づかない(なりすましの届出・意思能力なし)→血縁があっても無効(最判昭52)
  • (2)詐欺・強迫で認知した→血縁がある限り取り消せない(785条)
  • (3)血縁がない→認知の無効の訴え(786条)
  • 軸=意思の有無/血縁の有無

ここで問いです。設例を少し変えます。Cさんは、Dさんと血縁があるのに、だまされて、認知してしまったとします。取り消せるでしょうか?直感では、詐欺なら取り消せそうに見えます。でも、結論は、取り消せません。785条です。

民法785条(認知の取消しの禁止)。認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。 図:民法785条

  • 認知の取消しの禁止
  • 認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。

785条は、1文です。認知をした父又は母は、その認知を取り消すことができない。詐欺や強迫で認知させられた場合でも、血縁上の父子関係があるかぎり、取り消せない、と考えられています。理由は、認知が、親子関係を作る行為だからです。一度、父として認めた以上、血縁があるのに、あとから、やっぱり取り消す、とすると、子の地位が、いつまでも不安定になります。血縁のある子の身分を、簡単に動かせないようにしてあります。覆る場面があります。1つが、意思に基づかない認知です。判例を見ます。

判例最高裁判所第二小法廷判決 昭和52年2月14日(集民120号47頁)

意思に基づかない認知 認知者の意思に基づかない届出による認知は、認知者と被認知者との間に親子関係があるときであつても、無効であると解するのが相当である。

読み解きます。例えば、第三者が、Cさんの名前で、勝手に認知届を出した場合です。Cさんの意思に基づかない届出です。この認知は、CさんとDさんの間に、血縁があっても、無効です。名札の喩えで言います。他人が勝手に名札を付けても、Cさんの名札ではありません。認知は、自分の意思で、自分の子だと認める行為です。意思が無ければ、認知としての効力は、生じません。整理します。意思に基づかない認知は、血縁があっても無効。意思はあって、だまされた場合は、血縁があるかぎり、取り消せない。血縁が無い場合は、別の道です。次に見る、認知の無効の訴えです。冒頭のCさんの場面は、これに当たります。

認知の無効の訴え 誰がいつまでに

冒頭の設例の整理。認知の無効の訴え(786条)の主張権者×起算点。C(認知をした者)=認知の時(2024年6月3日)から7年→2031年6月3日まで。D(子)またはその法定代理人A=認知を知った時から7年→2031年6月3日まで。D自身=同居2年で3年を下回る→21歳に達するまで(2045年1月ごろ)。A(子の母)=認知を知った時から7年・子の利益を害することが明らかなら不可。 図:冒頭の設例の整理

  • 認知の無効の訴え(786条)の主張権者×起算点
  • C(認知をした者)=認知の時(2024年6月3日)から7年→2031年6月3日まで
  • D(子)またはその法定代理人A=認知を知った時から7年→2031年6月3日まで
  • D自身=同居2年で3年を下回る→21歳に達するまで(2045年1月ごろ)
  • A(子の母)=認知を知った時から7年・子の利益を害することが明らかなら不可

ここで問いです。少し前の回で、嫡出否認の訴えは、誰が、いつまでに、起こせるか、見ました。覚えているでしょうか?父は、子の出生を知った時から、3年です。子は、出生の時から、3年です。ただし、同居が、3年に満たなければ、21歳までの特則がありました。その型を、頭に置いてください。今回の認知の無効の訴えは、その型と、ほぼ同じです。冒頭の設例に戻ります。Cさんは、血縁がないと知りながら、認知しました。冒頭では、あとから覆すのはずるい、という予想が出ました。まず、条文から見ます。

条文民法786条1項

民法第786条(認知の無効の訴え) 1 次の各号に掲げる者は、それぞれ当該各号に定める時(第七百八十三条第一項の規定による認知がされた場合にあっては、子の出生の時)から七年以内に限り、認知について反対の事実があることを理由として、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、第三号に掲げる者について、その認知の無効の主張が子の利益を害することが明らかなときは、この限りでない。 一 子又はその法定代理人 子又はその法定代理人が認知を知った時 二 認知をした者 認知の時 三 子の母 子の母が認知を知った時

反対の事実とは、血縁がない、ということです。それを理由に、無効の訴えを起こせます。名札で言えば、中身が違っていた名札です。貼り替えは、裁判所に頼みます。起こせる人は、3人です。1号、子、またはその法定代理人。認知を知った時から7年。2号、認知をした者。認知の時から7年。3号、子の母。認知を知った時から7年です。ただし、母の主張が、子の利益を害することが明らかなときは、できません。母は、子とは別の立場の人です。例えば、父と仲違いしたからといって、母の都合で、子から父を外すことも、ありえます。そこで、子の利益を守るための歯止めを、母にだけ掛けています。嫡出否認の、母の否認権と、同じ歯止めです。胎児のうちに認知した場合は、子の出生の時から、7年です。

条文民法786条2項〜4項

民法第786条(認知の無効の訴え)第2項から第4項 2 子は、その子を認知した者と認知後に継続して同居した期間(当該期間が二以上あるときは、そのうち最も長い期間)が三年を下回るときは、前項(第一号に係る部分に限る。)の規定にかかわらず、二十一歳に達するまでの間、認知の無効の訴えを提起することができる。ただし、子による認知の無効の主張が認知をした者による養育の状況に照らして認知をした者の利益を著しく害するときは、この限りでない。 3 前項の規定は、同項に規定する子の法定代理人が第一項の認知の無効の訴えを提起する場合には、適用しない。 4 第一項及び第二項の規定により認知が無効とされた場合であっても、子は、認知をした者が支出した子の監護に要した費用を償還する義務を負わない。

2項は、子の特則です。認知後に、認知した人と、継続して同居した期間が、3年を下回るとき、子は、21歳に達するまで、自分で訴えを起こせます。嫡出否認の、子の特則と、同じ型です。理由も同じです。認知した人と長く暮らしていれば、親子としての暮らしが、もうできあがっています。同居が短ければ、守るべき暮らしが、まだ育っていません。21歳は、18歳で成年になってから、自分で3年考えられる年齢です。3年ちょうどは、入りません。下回る、が条件です。ただし、認知した人の養育の状況に照らして、その人の利益を著しく害するときは、できません。例えば、同居は短くても、別居のあと、ずっと養育費を払い、子の進学まで支えてきた人です。3項は、法定代理人が提起するときは、この特則は使わない、です。4項は、費用です。認知が無効になっても、子は、認知した人が育てるのに使った費用を、返さなくてよい。認知が無効になると、父子関係は、はじめから無かったことになります。すると、認知した人は、他人の子の費用を払っていたことになり、子に返せ、と言えそうです。でも、子は、何も悪くありません。すでに育ててもらった費用を、あとから請求されないように、子を守るための例外です。これも、嫡出否認の、費用の償還が不要、という規定と、同じ型です。設例に当てはめます。認知をしたCさんは、認知の時から7年です。期限は、2031年6月3日です。子のDさんの側は、どうでしょう。Dさんは、まだ赤ちゃんで、自分では知りようがありません。そこで、子の側は、法定代理人のAさんが、認知を知った時から数えます。Aさんが知ったのは、2024年の6月3日です。だから、子の側も、2031年6月3日までです。Dさん自身は、同居が2年で、3年を下回ります。だから21歳に達するまで、2045年1月ごろまで、提起できます。Cさんは、別居のあと、ほとんど会っていないので、このただし書に当たるとは、言いにくい場面です。母のAさんは、7年以内ですが、子の利益を害することが明らかなら、できません。

認知をした者自身による無効の主張(最判平成26年1月14日)。結論=認知者も無効を主張できる(血縁がないと知りながら認知した場合も同じ)。理由=血縁のない認知はそもそも無効/認知をするに至る事情はさまざま。限界=権利濫用の法理などで制限されうる。今の786条=1項2号「認知をした者」・認知の時から7年。 図:認知をした者自身による無効の主張(最判平成26年1月14日)

  • 結論=認知者も無効を主張できる(血縁がないと知りながら認知した場合も同じ)。理由=血縁のない認知はそもそも無効
  • 認知をするに至る事情はさまざま。限界=権利濫用の法理などで制限されうる。今の786条=1項2号「認知をした者」・認知の時から7年。

ここで、冒頭の予想に戻ります。血縁がないと知りながら、自分で認知した人が、あとから、無効を主張することは、許されるでしょうか。判例を見ます。

判例最高裁判所第三小法廷判決 平成26年1月14日(民集68巻1号1頁)

認知者による認知の無効の主張 血縁上の父子関係がないにもかかわらずされた認知は無効というべきであるところ,認知者が認知をするに至る事情は様々であり,自らの意思で認知したことを重視して認知者自身による無効の主張を一切許さないと解することは相当でない。……そうすると,認知者は,民法786条に規定する利害関係人に当たり,自らした認知の無効を主張することができるというべきである。この理は,認知者が血縁上の父子関係がないことを知りながら認知をした場合においても異なるところはない。

読み解きます。ここで、判旨の利害関係人は、改正前の786条の言葉です。今の786条では、1項2号に、認知をした者と、はっきり書いてあります。結論は、認知した人も、無効を主張できる、です。理由は2つです。血縁がない認知は、そもそも無効だ、ということ。そして、認知をするに至る事情は、さまざまなので、自分の意思で認知したことだけを重く見て、無効の主張を、一律に許さない、というのは相当でない、ということです。血縁がないと知りながら認知した場合も、同じです。なぜ、知っていた人にも、主張を許すのか。血縁が無いのに、認知した時の一言だけで、父子関係を一生固定するのは、行き過ぎだからです。その代わり、今の786条は、認知をした者が主張できる期間を、認知の時から7年に区切っています。子の地位が、いつまでも揺れないようにするためです。ただし、この判決は、権利濫用の法理などで、具体的な事案に応じて、主張を制限することは可能だ、とも述べています。前の回の、出征した夫の事件でも、権利の濫用が、争う側の歯止めとして出てきました。ここでも、同じ歯止めです。無制限に認められる、という意味ではありません。

ここは、論文で論点になりうる箇所です。

嫡出否認の訴えと認知の無効の訴えの比較。争う対象=推定が及ぶ子の父子関係/認知で成立した父子関係。同じ点=子の同居3年未満の特則(21歳まで)・費用の償還は不要。違い=期間(否認は原則3年/認知の無効は原則7年)。 図:嫡出否認の訴えと認知の無効の訴えの比較

  • 争う対象=推定が及ぶ子の父子関係/認知で成立した父子関係
  • 同じ点=子の同居3年未満の特則(21歳まで)・費用の償還は不要
  • 違い=期間(否認は原則3年/認知の無効は原則7年)

嫡出否認と、ならべて整理します。否認は、推定が及ぶ子、つまり嫡出子を、争う訴えです。認知の無効は、認知で成立した父子関係を、争う訴えです。子の3年同居の特則と、費用の償還不要は、同じ型です。違うのは期間で、否認は原則3年、認知の無効は原則7年です。この7年は、否認の期間とのバランスと、民法のほかの期間制限を見比べて、決められました。認知を前提にした親子の暮らしが、長く続いたあとは、もう覆さないほうがよい、という考えです。行為で決めた父子関係も、血縁が無ければ、この期限の中で覆せる、ということです。

今日の地図(保存版)

今日のまとめ。1=嫡出でない子の父子関係は認知で決まる(任意=届出か遺言の要式行為・出生届は認知届に転換する)。2=承諾(成年の子・胎児は母・死亡した子は直系卑属)/認知は取り消せない/意思に基づかない認知は無効。3=認知の無効の訴え(子・認知者・母・原則7年・子は3年同居未満なら21歳まで・認知者も主張できる)。冒頭の答え=Cも2031年6月3日まで主張できる。 図:今日のまとめ

  • 1=嫡出でない子の父子関係は認知で決まる(任意=届出か遺言の要式行為・出生届は認知届に転換する)
  • 2=承諾(成年の子・胎児は母・死亡した子は直系卑属)/認知は取り消せない/意思に基づかない認知は無効
  • 3=認知の無効の訴え(子・認知者・母・原則7年・子は3年同居未満なら21歳まで・認知者も主張できる)
  • 冒頭の答え=Cも2031年6月3日まで主張できる

最後にまとめます。柱は、3本です。1本目。嫡出でない子の父子関係は、認知で決まります。任意認知は、届出か遺言の、要式行為です。父が出した出生届は、認知届に転換します。2本目。成年の子は子の承諾、胎児は母の承諾、死亡した子は直系卑属がいる場合だけで、成年ならその承諾が要ります。認知は取り消せません。ただし、意思に基づかない認知は、血縁があっても無効です。3本目。血縁がない認知は、無効の訴えで争います。起こせるのは、子、認知をした者、子の母で、原則7年です。子は、同居が3年に満たなければ、21歳までです。認知をした者も、血縁がないと知りながらした場合でも、主張できます。冒頭の答えです。Cさんは、血縁がないと知りながら認知しても、認知の時から、7年。つまり、2031年6月3日までは、無効を主張できます。Dさんの側も、Aさんの側も、それぞれの期限の中で、争えます。ただし、Aさんの主張は、子の利益を害することが明らかなら、できません。

知っていたかどうかより、血縁があるかどうかと、期限の中かどうかで、決まるんですね。ところで、認知をしない父に対しては、子の側から、訴えで父子関係を成立させる道があります。次の回では、強制認知と、認知の効果を見ます。

参照条文

  • 民法781条
  • 民法780条
  • 民法782条
  • 民法783条
  • 民法786条1項
  • 民法786条2項〜4項

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