親権の意義と親権者の決まり方
印刷のコツ
プリンターでは次の設定がおすすめです。
- 用紙:A4 / 向き:縦
- 拡大縮小:「実際のサイズ」(フィット縮小しない)
- 両面印刷:オン、とじ方は「長辺をとじる」(左綴じ)
- モノクロ印刷OK(強調は色でなく太字なので白黒でも読めます)
第7章 親族 #339/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
17歳の母が産んだ子の親権は誰が行うのか
図:冒頭の設例
- A(母・17歳の高校生・未婚)、B(Aが産んだ赤ちゃん)、C(Aの父)、D(Aの母)、E(Bの父・Aと婚姻しておらず、まだ認知していない)
- CとDは婚姻中の夫婦
- 問い=Bの親権は誰が行うのか
- Aも未成年
今日の問いは、1つです。生まれたBさんの親権は、誰が行うのでしょうか。母のAさん本人も、まだ未成年です。Bさんの親権者が誰になるのか、その答えは、最後に確かめます。自分なりの見立ては、頭に置いたまま進みましょう。前の回で、養親子のブロックが終わりました。今日からは、親権のブロックです。親権の細かな中身を見る前に、そもそも親権とは何か、そして誰が親権者になるのかを固める回です。
図:今日の地図
- ①親権とは何か(818条1項・820条・824条)②親の責務(817条の12)③子の地位×親権者の表④婚姻中⑤離婚後⑥嫡出でない子⑦養子⑧親が未成年のとき(冒頭の答え)⑨親権者の変更
- 核心の1行=親権は、子の利益のために行使する、監護・教育と財産管理の権利であり義務
- 誰が親権者かは、子の地位で決まる
今日の地図です。9つ進みます。①親権とは何か。②親の責務。③子の地位ごとの親権者の表。④婚姻中。⑤離婚後。⑥嫡出でない子。⑦養子。⑧親が未成年のとき。⑨親権者の変更です。核心を、先に1行で言います。親権は、子の利益のために行使する、監護・教育と財産管理の、権利であり義務です。そして、誰が親権者かは、子の地位で決まります。貫く軸は、1本です。親権者を決める鍵は、子が今、どの地位にあるかです。婚姻中の父母の子なのか、離婚した父母の子なのか、嫡出でない子なのか、養子なのか。条文は、この地位ごとに分かれています。親権者という言葉は、前に、未成年の子の法定代理人として出てきました。今日は、その親権者が誰になるのかを、条文の番号つきで揃えます。
親権は誰のための権利か 818条1項・820条・824条
図:親権の意義
- 818条1項=親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない
- 親権の2本柱=身上監護(820条・子の監護と教育)/財産の管理と代表(824条)
- どちらも、権利であり義務
地図の①、親権とは何かです。まず、818条です。
条文民法818条
民法第818条(親権) 1 親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければならない。 2 父母の婚姻中はその双方を親権者とする。 3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。 一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。) 二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの
読み解きます。今は1項だけを見ます。親権は、成年に達しない子について、その子の利益のために行使しなければなりません。2項と3項は、あとで使います。親権を、親のための権利と見るのは、いちばんの落とし穴です。条文が掲げる目的は、親の利益ではありません。子の利益です。たとえるなら、船長です。船長には、舵を握る権限があります。でも、それは船と乗客を安全に運ぶためのもので、好きな港へ向かう自由ではありません。親権も、子のために使う権限という性格です。では、何について行使するのか。中身は、2本柱です。1本目は、子の監護と教育です。820条です。
条文民法820条
民法第820条(監護及び教育の権利義務) 親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う。
親権を行う者は、子の利益のために、子の監護と教育をする権利を有し、義務を負います。監護は、子を手元で世話して育てること、教育は、子を教え導くことです。この柱を、身上監護といいます。権利の面は、子を育てる立場を、他人に奪われないということです。義務の面は、その立場にある以上、育てることを放り出せないということです。親が気分で子の世話を投げ出すのは、自由ではなく、義務に反します。2本目の柱が、子の財産の管理と代表です。824条です。
図:民法824条
- 財産の管理及び代表
- 「親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。」
824条の本文です。親権を行う者は、子の財産を管理し、その財産に関する法律行為について、子を代表します。たとえば、子が祖父母から、預金を贈られたとします。その預金は、親権者が管理します。子の財産を売る契約をするときも、親権者が子を代表して契約します。ただし書もありますが、その中身は次の回で見ます。整理します。親権とは、子の監護と教育をして、子の財産を管理し、子を代表する、権利と義務です。離婚の回で見た定義と同じです。親権が子のための権利であることは、821条にも表れています。
条文民法821条
民法第821条(子の人格の尊重等) 親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。
監護と教育をするときは、子の人格を尊重し、年齢と発達の程度に配慮しなければなりません。そして、体罰その他、子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動は、してはなりません。条文は、体罰その他の有害な言動を、してはならないと言い切っています。しつけのつもりであっても、この線は動きません。子のための権利だから、子の人格を傷つける使い方は、権利の範囲に入らないのです。
親の責務は親権の有無と別 817条の12
図:親の責務(817条の12)
- 1項=子の人格を尊重し、年齢と発達の程度に配慮して養育する
- その子が自己と同程度の生活を維持できるよう扶養する。2項=婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使と義務の履行で、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力する。親権の有無とは別に、父母全員が負う。
地図の②、親の責務です。親権とよく似た条文が、もう1つあります。離婚の回で、土台として見た、817条の12です。
条文民法817条の12
民法第817条の12 (親の責務等) 1 父母は、子の心身の健全な発達を図るため、その子の人格を尊重するとともに、その子の年齢及び発達の程度に配慮してその子を養育しなければならず、かつ、その子が自己と同程度の生活を維持することができるよう扶養しなければならない。 2 父母は、婚姻関係の有無にかかわらず、子に関する権利の行使又は義務の履行に関し、その子の利益のため、互いに人格を尊重し協力しなければならない。
1項です。父母は、子の人格を尊重し、年齢と発達の程度に配慮して、子を養育しなければなりません。さらに、その子が自己と同程度の生活を維持できるよう、扶養しなければなりません。2項です。婚姻関係の有無にかかわらず、父母は、子に関する権利の行使と義務の履行で、その子の利益のため、互いに人格を尊重し、協力しなければなりません。主語が違います。親権は、親権者になった人だけが持ちます。817条の12は、父母であれば誰でも負います。たとえば、離婚して、親権者にならなかった親がいたとします。その親は、親権を行う立場にはありません。でも、子を養育し、扶養する責務は、残ります。親権の有無で、責務の有無は変わらない、と押さえてください。
子の地位で決まる 親権者の地図
図:子の地位×親権者の表(予告・親権者の欄は空欄)
- ①父母の婚姻中の子②父母が離婚した子(出生前の離婚を含む)③嫡出でない子④養子⑤親が未成年の子⑥親権者の変更。条文は地位ごとに分かれる=818条(婚姻中・養子)
- 819条(離婚・認知・変更)
- 833条(親が未成年)。
地図の③、子の地位ごとの親権者の表です。ここでは、まず骨組みだけを出します。親権者の欄は、これから埋めていきます。子の地位は、5つです。1つ目、父母が婚姻中の子。2つ目、父母が離婚した子。3つ目、嫡出でない子。4つ目、養子。5つ目、親が未成年の子です。さらに、親権者を決めたあとで変える、変更の問題があります。条文も、この地位ごとに分かれています。婚姻中の子と養子は、818条です。離婚した子と、認知された子と、変更は、819条です。親が未成年の子は、833条です。だからこそ、条文の番号から入らずに、子の地位から入ります。この子は、いま、どの地位にあるか。そう問えば、使う条文が決まります。冒頭のBさんは、どの地位でしょうか。Aさんは結婚していません。ですから、Bさんは、嫡出でない子です。そして、母のAさんが未成年です。Bさんは、嫡出でない子であり、親が未成年の子でもあります。地位が2つ重なっているのが、この設例の特徴です。
婚姻中の子と、一方が欠けるとき 818条2項・824条の2
図:設例S2
- A(夫)とB(妻)は婚姻中
- C(子・6歳)
- 婚姻中=AとBの双方が親権者(818条2項)
- 別居していても、離婚するまでは婚姻中=双方
- Aが死亡、またはAが長期入院で意思表示できない→Bが行う(824条の2 第1項)
地図の④、婚姻中です。設例を変えます。夫のAさんと、妻のBさんは、婚姻中です。6歳の子のCさんがいます。818条2項です。父母の婚姻中は、その双方を親権者とする。条文は、短い1文です。AさんとBさんは、ともに、Cさんの親権者です。婚姻中の父母は、一緒に子を育てる立場にあります。ですから、どちらか一方に寄せずに、2人ともが親権者です。別居しても、離婚するまでは、婚姻中です。ですから、親権者は双方のままです。どちらが子と暮らしているかは、関係ありません。親権者が双方のとき、親権は2人で共同して行うのが原則です。824条の2 第1項の本文が、そう定めています。
図:民法824条の2 第1項
- 「親権は、父母が共同して行う。ただし、次に掲げるときは、その一方が行う。」一方のみが親権者であるとき/他の一方が親権を行うことができないとき/子の利益のため急迫の事情があるとき(各号の中身は次の回)
- 設例S2=Aが死亡したら、Bが行う
- Bが長期入院で意思表示できないときは、Aが行う
ここで、1つ疑問が出ます。2人のうち一方が欠けたら、どうなるのでしょうか。一方が欠けたからといって、親権が止まってしまうと、子の世話も、財産の管理も止まります。それでは子の利益になりません。だから、残る一方が、1人で行います。同じ824条の2 第1項が、ただし書で、一方だけが行う場合を定めています。一方のみが親権者であるときや、他の一方が親権を行うことができないときは、残る一方が行います。設例で見ます。Aさんが亡くなったら、Bさんが、1人で行います。Bさんが長期の入院で、意思を表示できなくなったときは、Aさんが行います。ただし書には、ほかに急迫の事情がある場合もあります。それも含めて、共同して行うときの細かな点は、次の回で見ます。
離婚後と、出生前の離婚 819条1項・2項・3項・5項
図:離婚後の親権者
地図の⑤、離婚後です。ここは、前に離婚の回で、詳しく見ました。確認だけします。思い出してください。離婚したあと、親権者は、必ず一方に決まるのでしょうか?双方又は一方、と条文に書いてあったので、必ず一方ではなく、双方も選べました。819条1項と2項です。
条文民法819条1項・2項
民法第819条(離婚又は認知の場合の親権者)第1項・第2項 1 父母が協議上の離婚をするときは、その協議で、その双方又は一方を親権者と定める。 2 裁判上の離婚の場合には、裁判所は、父母の双方又は一方を親権者と定める。
協議離婚は、1項です。父母が協議で、双方又は一方を親権者と定めます。裁判離婚は、2項です。裁判所が、父母の双方又は一方を定めます。協議が調わないとき、または協議ができないときは、5項があります。家庭裁判所が、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をします。この5項は、あとで嫡出でない子のところでも使います。裁判所が、双方にするか一方にするかを決めるときは、7項の物差しを使います。子の利益のため、一切の事情を考慮し、双方にすると子の利益を害するときは、必ず一方にします。この中身は、前に見たとおりです。婚姻中は必ず双方で、離婚後は、双方か一方かを選べる。違いは、ここです。離婚には、特別な場面があります。子の出生前に、父母が離婚した場合です。3項です。
条文民法819条3項
民法第819条(離婚又は認知の場合の親権者)第3項 3 子の出生前に父母が離婚した場合には、親権は、母が行う。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
子の出生前に父母が離婚した場合、親権は、母が行います。ただし、子の出生後に、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができます。子が生まれたとき、手元で育てているのは、通常は母だからです。出発点は母にして、出生後に、協議で双方又は父にもできます。この型は、冒頭の設例と並べて見ると、見通しが立ちます。出生前に離婚した母も、結婚していない母も、親権の出発点は母です。結婚していない母のほうは、次に見ます。
嫡出でない子の親権者 819条4項・5項と準正
図:嫡出でない子の親権者の時系列
- 出生→母が親権者(認知前の法律上の親は母だけ)→父が認知→親権は母が行う(819条4項本文)→父母の協議で、双方又は父を親権者と定めることができる(同項ただし書)→協議が調わない・できないときは家庭裁判所の審判(同条5項)
- 父母が婚姻して嫡出子の身分を取得(準正・789条)→婚姻中は双方(818条2項)
- 設例S1=Bの親権者は母A(Eは未認知=法律上の父でない)
- Eが認知した後は、AとEの協議で双方又は父
地図の⑥、嫡出でない子です。冒頭の設例に戻ります。Aさんは17歳で、結婚していません。Bさんは、結婚していない父母のあいだに生まれた子、つまり嫡出でない子です。婚姻は、18歳にならなければできません。731条です。ですからAさんは、Bさんが生まれた時点で、結婚できません。Bさんは、嫡出でない子として生まれます。嫡出でない子のうち、父が認知した子の親権者は、819条4項が定めています。
条文民法819条4項
民法第819条(離婚又は認知の場合の親権者)第4項 4 父が認知した子に対する親権は、母が行う。ただし、父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができる。
読み解きます。本文です。父が認知した子に対する親権は、母が行います。ただし書です。父母の協議で、父母の双方又は父を親権者と定めることができます。ここで、認知の回で見た、認知の意味を確認します。認知は、結婚していない父と子のあいだに、法律上の親子関係をつくる行為です。認知される前は、Eさんは、法律上のBさんの父ではありません。認知の前のBさんの親権者は、母のAさんです。認知の前は、Bさんの法律上の親は、産んだ母のAさん1人だけです。母と子の親子関係は、産んだという事実で決まるからです。親権は親が子について持つものですから、親が母しかいない以上、親権者も母です。父のEさんには、親権者になる道がありません。法律上の父ではないからです。Eさんが認知したあとは、どうなるでしょうか。4項の本文のとおり、親権は、母のAさんが行うままです。そのうえで、ただし書により、AさんとEさんの協議で、双方を親権者にもできますし、Eさんだけを親権者にもできます。協議が調わないときや、協議ができないときは、5項です。
条文民法819条5項
民法第819条(離婚又は認知の場合の親権者)第5項 5 第一項、第三項又は前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をすることができる。
第1項、第3項または前項、つまり4項の協議が調わないとき、または協議ができないときは、家庭裁判所が、父又は母の請求によって、協議に代わる審判をします。最後に、準正です。認知した父と母が、あとから婚姻すると、子は嫡出子の身分を取得します。789条です。そうなると、子は、もう嫡出でない子ではありません。父母の婚姻中の子になります。親権者は、818条2項で、父母の双方です。819条4項の型は、嫡出でない子である間のルールです。
養子の親権者 818条3項・離縁・養親の死亡
図:設例S3
- A(養親・おじ)とB(養親・おば)は夫婦
- C(養子・姪・10歳)
- D(Cの実の父)・E(Cの実の母)
- 縁組の成立→親権者はAとB(818条3項)
- DとEは養親の配偶者ではない=この条文の親権者に入らない
地図の⑦、養子です。縁組によって、養子の親権者は、誰になるのでしたか?養親と、養親の配偶者である実の父母、の2種類でした。もう一度、条文で確かめます。
条文民法818条3項
民法第818条(親権)第3項 3 子が養子であるときは、次に掲げる者を親権者とする。 一 養親(当該子を養子とする縁組が二以上あるときは、直近の縁組により養親となった者に限る。) 二 子の父母であって、前号に掲げる養親の配偶者であるもの
養子の親権者は、2種類あります。1つ目は、養親です。縁組が2つ以上あるときは、直近の縁組の養親に限ります。2つ目は、子の父母であって、その養親の配偶者であるものです。設例を作ります。夫のAさんと、妻のBさんが、姪のCさん、10歳を養子に迎えました。Cさんの実の父は、Dさん、実の母は、Eさんです。問いです。養親の配偶者ではない実の親、つまりDさんとEさんは、縁組のあとも、Cさんの親権者に入るのでしょうか。入りません。普通養子縁組では、DさんとEさんとの親子関係は、縁組のあとも続きます。それでも、親権者は、この条文の2つの型で決まります。DさんとEさんは、養親のAさんやBさんの配偶者ではありません。2つ目の型に当たらないので、この条文の親権者に入りません。縁組のあと、Cさんの親権者は、夫婦そろって養親になったAさんとBさんの2人です。2人とも、1つ目の養親に当たります。設例を変えます。夫のAさんが、再婚した妻のBさんの連れ子の、5歳のCさんを養子にしました。この場合は、養親のAさんが1つ目、Aさんの配偶者でもあるCさんの実の母のBさんが2つ目で、AさんとBさんの2人が、親権者です。前の回の特別養子縁組でも、連れ子の例で、親権者はこの2人でした。この条文は、特別養子縁組でも同じです。では、縁組が終わると、親権者はどうなるのか。2つの場面を見ます。
図:養子の親権者の変化
- 縁組の成立→養親A・Bが親権者
- 離縁→養親子関係が終わり、実の父母D・Eの親権が回復(通説・実務)
- 養子が15歳未満で実の父母が離婚している場合の離縁後の親権者は協議で定める(811条3項)
- 養親A・Bの双方が死亡→実の父母の親権は回復せず、未成年後見が始まる(通説・実務)
1つ目は、離縁です。養子が養親と離縁すると、養親子の関係が終わります。すると、実の父母の親権が回復する、とされています。設例なら、AさんとBさんと離縁すれば、DさんとEさんが、再び親権者です。実の父母が離婚していたら、離縁のあとの親権者は、誰でしょうか。811条3項です。
条文民法811条3項
民法第811条(協議上の離縁等)第3項 3 前項の場合において、養子の父母が離婚しているときは、その協議で、その双方又は一方を養子の離縁後にその親権者となるべき者と定めなければならない。
前の項、つまり2項は、養子が15歳未満のときの協議離縁を定めています。その離縁の協議は、養親と、離縁のあとに養子の法定代理人となる人とのあいだでします。3項は、その場合に、養子の父母が離婚しているときの定めです。父母の協議で、双方又は一方を、離縁後に親権者となるべき者と定めなければなりません。前に見た、離縁の回の条文です。2つ目は、養親が亡くなる場合です。養親のAさんとBさんが、ともに亡くなったとします。このとき、DさんとEさんの親権は、回復しません。未成年後見が始まります。未成年後見は、親権を行う人がいない子のために、親に代わる人がつく仕組みです。
養親の死亡は、縁組そのものを終わらせないからです。離縁の回で見たとおり、死亡しただけでは、縁組は終わりません。離縁ではないので、実の父母の親権は戻りません。この整理は、通説と実務です。未成年後見の始まり方は、別の回で見ます。ここでは、離縁なら実の父母に戻り、養親の双方の死亡では戻らない、という違いを押さえてください。
親が未成年のとき 833条・867条1項 冒頭の答え
図:親が未成年のとき
- 833条=父又は母が成年に達しない子であるときは、その子について親権を行う者が、その子に代わって親権を行う
- 867条1項=未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行う
- 設例S1=Bの親権者は母A(Eは未認知=法律上の親は母だけ)/Aは未成年→行使はAの親権者C・Dが代わって行う(833条)
- Aに親権者がなく、未成年後見人がいるときはその人(867条1項)
地図の⑧、親が未成年のときです。冒頭の答えに入ります。もう一度、整理します。Bさんの親権者は、誰でしょうか。Bさんは嫡出でない子で、まだ認知されていません。法律上の親は母のAさんだけですから、親権者は、母のAさんです。ここまでは、見た通りです。問題は、Aさんが17歳、つまり、成年に達していないことです。833条です。
条文民法833条
民法第833条(子に代わる親権の行使) 父又は母が成年に達しない子であるときは、当該子について親権を行う者が当該子に代わって親権を行う。
読み解きます。父又は母が、成年に達しない子であるときは、その父又は母について親権を行う者が、その父又は母に代わって、親権を行います。設例では、Bさんの母のAさんが、成年に達していない子です。Aさんについて親権を行う者は、Aさんの父のCさんと、母のDさんです。ですから、Aさんに代わって、CさんとDさんが、Bさんに対する親権を行います。祖父母のCさんとDさんが、Bさんの親権者になる、ということですか。少し違います。二層で考えます。Bさんの親権者は、母のAさんです。ただし、Aさんが未成年なので、その親権の行使を、Aさんの親権者であるCさんとDさんが、Aさんに代わって行います。親権者と、行使する人は、別です。なぜ分けるのか。Aさん自身が、まだ未成年で、親権に服している立場だからです。前に見たとおり、未成年者は、自分の契約でも、原則として法定代理人の同意が要ります。その人に、Bさんの世話や財産の管理を1人で任せきりにすると、Bさんの利益を守りきれません。そこで、Aさんの親権者が、代わって行います。もし、Aさんに親権者がいなくて、Aさんに未成年後見人がいるなら、どうなるか。867条1項です。
条文民法867条1項
民法第867条(未成年被後見人に代わる親権の行使)第1項 未成年後見人は、未成年被後見人に代わって親権を行う。
未成年後見人は、未成年被後見人に代わって、親権を行います。Aさんに未成年後見人がいれば、その人が、Aさんに代わって、Bさんに対する親権を行います。親権を行う人がいなくなれば、未成年後見が始まります。その開始の中身は、別の回で見ます。Aさんが成年に達すれば、833条の要件である、成年に達しない子であるときに当たらなくなります。ですから、Aさんが自分で、Bさんに対する親権を行います。18歳で成年になるのは、4条です。Aさんが18歳になった日から、CさんとDさんが代わって行う必要は、なくなります。ここは、論文で論点になりうる箇所です。親権者は誰かと、その行使は誰かを、分けて書けるようにしてください。地図を見たとき、Bさんは、嫡出でない子であり、親が未成年の子でもある、と言いました。嫡出でない子という地位で、親権者は母のAさんに決まり、親が未成年の子という地位で、行使する人が決まります。誰が親権者かは、子の地位で決まる。今日の軸のとおりです。
親権者の変更 819条6項
図:親権者の変更
- 協議だけでは変えられない
- 家庭裁判所が、子の利益のため必要があると認めるとき、子又はその親族の請求によって変更できる(819条6項)
- 子自身も請求できる
- 変更先は一方に限らない(7項は6項の裁判も対象にしている)
- 設例=離婚後に定めた母Bが転居を重ね、子Cの通学が続かない
地図の⑨、親権者の変更です。前に、離婚の回で見ました。思い出してみましょう。親権者の変更は、父母の協議だけでできるのでしょうか?違います。家庭裁判所が関わる、という話でした。819条6項です。
条文民法819条6項
民法第819条(離婚又は認知の場合の親権者)第6項 6 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子又はその親族の請求によって、親権者を変更することができる。
押さえる点は3つです。1つ目、変更は、必ず家庭裁判所です。2つ目、請求できるのは、子又はその親族です。子自身も、請求できます。3つ目、子の利益のため必要がある、と家庭裁判所が認めることが、条件です。設例を作ります。離婚のとき、母のBさんを親権者と定めました。ところが、Bさんは転居を繰り返し、子のCさんが、小学校に通い続けられなくなりました。この場合、Cさん自身も、父のAさんも、Cさんの祖父母も、家庭裁判所に、変更を請求できます。一方に限りません。7項は、6項の裁判も対象にして、双方を親権者とするか、一方にするかを判断する物差しを定めています。ですから、変更の結果として、双方が親権者になることもあります。協議だけで変えられない理由は、親権者が誰かが、子の生活を左右するからです。親の都合だけで動かさないよう、子の利益のため必要かどうかを、家庭裁判所が確かめます。
今日の地図(保存版)
図:子の地位×親権者の表(完成)
- 父母の婚姻中の子=父母の双方(一方が死亡・行使できないときは他方が行う)
- 818条2項・824条の2 第1項。父母が離婚した子=協議・裁判で双方又は一方
- 819条1項・2項(不調は5項・物差しは7項)。出生前に父母が離婚した子=母(出生後に協議で双方又は父)
- 819条3項。嫡出でない子=母(認知後に協議で双方又は父)
- 819条4項・5項(準正なら818条2項)。養子=養親と、養親の配偶者である父母
- 818条3項。親が未成年の子=親の親権者(又は未成年後見人)が、親に代わって行う
- 833条・867条1項。親権者の変更=家庭裁判所が、子又はその親族の請求で
- 819条6項。
最後にまとめます。柱は、3本です。1本目。親権の意義です。親権は、子の利益のために行使する、監護・教育と、財産の管理と代表の、権利であり義務です。818条1項、820条、824条です。父母の責務は、親権の有無とは別に、父母の全員が負います。817条の12です。2本目。親権者の決まり方です。決める鍵は、子の地位です。婚姻中の子は、父母の双方。離婚した子は、協議や裁判で、双方又は一方。嫡出でない子は、母が出発点で、認知のあとは協議で双方又は父。養子は、養親と、養親の配偶者である父母。親権者の変更は、家庭裁判所が、子又はその親族の請求で行います。3本目。親が未成年のときです。未成年の母が産んだ子の親権者は、その母です。ただし、その行使は、母について親権を行う者、または未成年後見人が、母に代わって行います。冒頭の答えです。Bさんの親権者は、母のAさんです。ただし、Aさんが成年に達していないので、行使は、Aさんの親権者であるCさんとDさんが、Aさんに代わって行います。Aさんが18歳になれば、Aさんが自分で行います。
親権者になる人と、実際に行う人が別、というのが、今日いちばんの発見でした。次の回は、その親権の中身を見ます。親権者は、具体的に、何ができるのでしょうか。
参照条文
- 民法818条
- 民法820条
- 民法821条
- 民法817条の12
- 民法819条1項・2項
- 民法819条3項
- 民法819条4項
- 民法819条5項
- 民法818条3項
- 民法811条3項
- 民法833条
- 民法867条1項
- 民法819条6項