親権の内容(身上監護・財産管理)と親権の終了
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第7章 親族 #340/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
親は子の預金で自分の車を買ってよいのか
図:冒頭の設例
- A(祖父)、B(孫・10歳)、C(Bの母・Bの親権者)
- AがB名義の預金口座に300万円を入れて贈った
- Cはその口座を管理していたが、200万円を引き出して、自分の車の購入代金にあてた
- Bのためには使っていない
- 問い=Cは、Bの預金で自分の車を買ってよいのか
今日の問いは、1つです。Cさんは、Bさんの預金で、自分の車を買ってよいのでしょうか。自分の子の預金とはいえ、自分の車に使うことに引っかかりを覚える。その感覚は、大切にしてください。答えは、最後に確かめます。自分なりの見立てを頭に置いたまま、進みましょう。前の回は、親権とは何か、誰が親権者になるのかを見ました。最後に、親権者は具体的に何ができるのか、という問いを残しました。今日は、その答えの回です。
図:今日の地図
- ①身上監護(820条〜823条)②財産の管理(824条本文・827条)③代表(824条)④親権の終了と管理の計算(828条〜832条)⑤冒頭の答え
- 核心の1行=親権の中身は2本柱
- 身上監護と、財産の管理と代表
- どちらも、子のために行う
今日の地図です。5つ進みます。①身上監護。②財産の管理。③代表。④親権の終了と管理の計算。⑤冒頭の答えです。核心を、先に1行で言います。親権の中身は、2本柱です。身上監護と、財産の管理と代表です。そして、どちらも、子のために行います。貫く軸は、1本です。この権限は、誰のためのものか。親権の権限は、すべて、子のためにあります。この軸で、条文を1つずつ読みます。親権とは、子の監護と教育をして、子の財産を管理し、子を代表する、権利と義務でした。今日は、この定義を、条文に分けて見ていきます。
身上監護の中身 820条〜823条
図:身上監護の中身
- 820条=親権を行う者は、子の利益のために子の監護及び教育をする権利を有し、義務を負う
- 821条=人格の尊重と有害な言動の禁止(外枠)
- 条文のある内容=822条(居所の指定)・823条(職業の許可)・797条1項(15歳未満の縁組の代諾)
- 条文のない内容=命名・妨害排除
地図の①、身上監護です。身上監護とは、監護と教育をあわせた言い方です。子の世話をして育てること、そして、子を教え導くことです。土台は、820条です。親権を行う者は、子の利益のために、子の監護と教育をする権利を有し、義務を負います。権利であると同時に、義務です。この義務の面は、不法行為の回で見たとおり、子が他人に損害を与えたときに、親が監督義務者として責任を負う根拠にもなります。監護と教育の外枠は、前の回で見た821条です。もう一度、確かめます。
条文民法821条
民法第821条(子の人格の尊重等) 親権を行う者は、前条の規定による監護及び教育をするに当たっては、子の人格を尊重するとともに、その年齢及び発達の程度に配慮しなければならず、かつ、体罰その他の子の心身の健全な発達に有害な影響を及ぼす言動をしてはならない。
監護と教育は、子の人格を尊重し、年齢と発達の程度に配慮して行います。体罰その他の有害な言動は、してはなりません。この外枠の中で、親権者には、具体的な権限が与えられています。1つ目は、居所の指定です。822条です。
条文民法822条
民法第822条(居所の指定) 子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
子は、親権者が指定した場所に、居所を定めなければなりません。居所とは、住所と同じ意味ではなく、実際に住んでいる場所のことです。たとえば、親が転職して遠くへ引っ越すとき、子がどこに住むのかは、親権者が決めます。条文は、そのように定めています。子の育ちを守るために、住む場所を決める権限が、親権者に与えられているのです。ただし、これも子の利益のための権限です。親が自分の都合だけで、子の住む場所を振り回してよいという意味ではありません。
図:身上監護の後半
- 職業の許可(823条)=1項は親権者の許可が要る、2項は6条2項の場合に許可の取消しと制限ができる
- 縁組の代諾(797条1項)=15歳未満の子は法定代理人が承諾する
- 条文のない内容=命名・妨害排除(子の引渡しの請求)
2つ目は、職業の許可です。823条です。
条文民法823条
民法第823条(職業の許可) 1 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。 2 親権を行う者は、第六条第二項の場合には、前項の許可を取り消し、又はこれを制限することができる。
1項です。子は、親権者の許可を得なければ、職業を営めません。たとえば、高校生が放課後にアルバイトをするには、親権者の許可が要ります。2項は、許可を取り消す道を定めています。6条2項の場合、つまり、許可を得て営業をしている未成年者が、その営業に堪えられない事由があるときは、親権者は、許可を取り消し、またはこれを制限できます。たとえば、アルバイトを許可したものの、成績が大きく落ちて、体調も崩したとします。このときは、許可を取り消したり、働く時間を制限したりできます。取り消せます。許可は、出しっぱなしではありません。子が営業に堪えられなくなったときの安全弁として、823条2項があります。6条の営業の許可と、混ぜないでください。6条は、許可を得て営業をする未成年者が、その営業について、大人と同じように取引できる、という話でした。823条1項は、その手前で、子が職業に就くこと自体に、親権者の許可を求めるものです。3つ目は、縁組の代諾です。養子になる子が15歳未満のときは、法定代理人が、子に代わって縁組の承諾をします。797条1項です。親権者が、子に代わって承諾する形になります。細かな条件は、養子縁組の回で見ました。ここまでは、条文のある権限でした。次は、明文の条文がない内容です。1つは、命名です。生まれた子の名前は、親権者が決めると考えられています。たとえば、出生届に書く子の名前を決めるのは、親権者です。
もう1つは、妨害排除です。親権を行使しようとするときに、第三者がそれを妨げたら、その排除を求めることができます。典型は、子を引き取って育てている人に対する、子の引渡しの請求です。最高裁の判決で確かめます。
判例最判昭38・9・17 民集17巻8号968頁
子の引渡しの請求は、親権の行使に対する妨害の排除を求めるもの しかし、本件請求は、被上告人が右Dに対する親権を行使するにつき、これを妨害することの排除を、上告人に対し求めるものであつて、本件請求を認容する判決によつて、被上告人の親権行使に対する妨害が排除せられるとしても、右Dに対し被上告人の支配下に入ることを強制し得るものではなく、これは右Dが自ら居所を定める意思能力を有すると否とに関係のない事項であつて、憲法一三条の個人の尊重とも何ら関係のないものである。
事案を、短くします。子の法定代理人である親権者が、その子を引き取って養育している夫婦に、子の引渡しを求めました。判決は、この請求を、親権者が子に対する親権を行使するについて、その妨害の排除を求めるものだと位置づけました。結論は、親権者の請求が認められる、という方向です。判決は、この請求が、子の意思能力や、憲法13条の個人の尊重とは関係がない、とも述べています。この請求は、子を引き取っている人に、親権者の邪魔をやめるよう求めるものです。子に、親のもとへ行けと強制するものではありません。ですから、子が自分で住む場所を決められる年齢かどうかは、結論を左右しないのです。
条文には、妨害排除という言葉はありません。判決が、親権の行使に対する妨害の排除として認めたものです。ですから、条文のない内容に入れて覚えます。
図:身上監護の整理表
- 条文のある内容=居所の指定(822条)・職業の許可(823条・取消しと制限は2項)・15歳未満の縁組の代諾(797条1項)/条文のない内容=命名・妨害排除(最判昭38・9・17)
- どちらも子の利益のための権限
整理します。身上監護の内容は、条文のあるものと、ないものに分けて覚えます。条文のあるものは、居所の指定、職業の許可、縁組の代諾です。条文のないものは、命名と、妨害排除です。身上監護の権限は、どれも、子の利益のために使います。冒頭の問いの軸と、同じです。
財産の管理と、自己のためにするのと同一の注意 824条本文・827条
図:注意義務の比較
- 善管注意(その立場の人に通常求められる標準的な注意)=受任者(644条)・後見人(869条)/自己の財産に対するのと同一の注意(659条・報酬を受けない受寄者)/自己のためにするのと同一の注意(827条・親権者)=どちらも善管注意より軽い注意
- 軽いのは注意の程度
- 自分のために使ってよいのではない
地図の②、財産の管理です。管理とは、子の財産を守り、使い、手を入れることです。預金を安全に保つこと。子のために必要な支払いをすること。子の持ち家の傷んだところを修理すること。これらが管理です。管理は、誰のために行うのでしょうか。前の回の、818条1項です。子の利益のためです。冒頭の問いの手がかりは、ここにあります。では、管理するときに、親権者は、どれほどの注意を払う義務があるのでしょうか。827条です。
条文民法827条
民法第827条(財産の管理における注意義務) 親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行わなければならない。
親権を行う者は、自己のためにするのと同一の注意をもって、その管理権を行います。自分の物を扱うときと同じ程度の注意でよい、ということです。善管注意と並べます。善管注意は、その立場の人に通常求められる、標準的な注意でした。それに比べると、827条は軽い注意です。親権者は、善管注意義務までは負いません。827条は、前に見た注意義務の一覧に入っていました。一覧の、条文の言葉が少し違うもの、という行に、親権者の827条がありました。寄託の回で見た、報酬を受けない受寄者と同じ型です。ちなみに、後見人は、善管注意の側です。こちらは別の回で見ます。軽いといっても、どこまで軽くなるのか。そこが問題です。たとえるなら、子の貯金箱の番人です。番人は、自分の財布を扱う程度の気配りで番をすれば、足ります。
注意が軽くてよいからといって、子の預金で自分の車を買うことは、許されません。827条が軽くするのは、注意の程度だけです。使い道を、自分のために広げる条文ではありません。貯金箱の番人は、自分の財布を扱う程度の気配りで足りますが、中身を自分の財布に移してよい理由にはなりません。2つの場面を、並べます。1つ目。Cさんが、Bさんの定期預金の書替えを忘れて、利息が少し減りました。これは、注意の程度の問題です。827条の物差しで測る場面です。2つ目。CさんがBさんの預金で、自分の車を買いました。これは、注意が足りなかったという話ではありません。そもそも、子のための管理ではありません。注意が軽いか重いかを論じる前の問題です。ここは、論文で論点になりうる箇所です。注意の程度の話と、流用の話を、混ぜずに書き分けてください。
代表の範囲と、824条ただし書
図:代表の範囲
地図の③、代表です。代理の回を、思い出してください。親権者は、どんな法定代理人でしたか?条文が代理権を生む、という話でした。親権者は、824条で代理権が生まれます。824条を、あらためて全文で確かめます。
条文民法824条
民法第824条(財産の管理及び代表) 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
本文です。親権を行う者は、子の財産を管理し、その財産に関する法律行為について、子を代表します。代表とは、子に代わって法律行為をすることです。親権者は、子の法定代理人です。しかも、包括的な代理です。ですから、個別に子から授権を受ける必要はありません。子の預金から、子の習い事の費用を払う。子の財産を売る。こうした財産に関する法律行為を、まとめて代理できます。ただし、代表できるのは、財産に関する法律行為に限られます。相続の承認や放棄も、財産に関する行為として含まれます。逆に、婚姻、離婚、任意認知は、親権者でも代理できません。代理の回で見たとおり、結婚するか、離婚するか、誰かを認知するかは、その人自身の意思で決めることだからです。代理の回では、例外として797条1項を挙げました。15歳未満の子の縁組の承諾を、法定代理人がする定めです。条文が特に代理を認めた例は、ほかにもあります。子の嫡出否認権は、774条2項が、親権を行う母が子のために行使できると定めています。ただし、例外を数え上げて暗記する必要はありません。整理は、3行です。財産の行為は、包括的に代理できる。身分の行為は、原則として本人の意思による。例外は、個別の条文があるときだけ。
図:824条ただし書
- 子の行為を目的とする債務(例=子が自分で働く雇用契約)を親権者が子に代わって負わせるには本人の同意が要る/労働基準法58条1項=親権者又は後見人は、未成年者に代つて労働契約を締結してはならない=同意があっても親は代わって結べない・子が自分で親権者の同意を得て結ぶ
- 代表のほかに同意(5条1項)も親権者の権限
次は、824条のただし書です。前の回から持ち越した宿題でした。その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければなりません。言い換えます。子自身が行為をすることを内容とする債務、たとえば、子が自分で働くという債務を負う契約です。これを親が子に代わって引き受けるには、子本人の同意が要ります。たとえば、親が子に代わって、子が毎日工場で働く雇用契約を結んだとします。子の時間と体を、本人の意思なしに縛ることになります。それを防ぐのが、このただし書の趣旨です。代理の回では、子を働かせる雇用契約には、子本人の同意が要る、と見ました。民法だけなら、そのとおりです。ところが、労働基準法58条1項は、さらに進んでいます。親権者は、未成年者に代わって、労働契約を締結してはならない、と定めています。親が子に代わって働き口と条件を決め、子を働かせる。この弊害は、子の同意を条件にしても防ぎきれないので、代理そのものを禁じています。ですから、雇用契約は、子の同意があっても、親が子に代わって結ぶことはできません。子が自分で、親権者の同意を得て結びます。代表のほかに、同意もあります。子が自分で法律行為をするときに、親権者が同意を与える。これは5条1項で、前に見ました。代理と同意の、両方が、親権者の権限です。最後に、代理の回で見た利益相反の考え方は、親権者にも及びます。親と子の利益がぶつかる行為は、親権者が代表できない場面があります。親権者の場合の扱いは、別の回で詳しく見ます。
親権の終了と管理の計算 828条・829条・830条・832条
図:管理の計算の流れ
地図の④、親権の終了と管理の計算です。子が成年に達すれば、親権は終わります。成年は、4条の定める18歳です。財産の管理も、ここで終わります。管理が終わると、親権を行った者は、子の財産について、報告と清算をします。828条です。
条文民法828条
民法第828条(財産の管理の計算) 子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なくその管理の計算をしなければならない。ただし、その子の養育及び財産の管理の費用は、その子の財産の収益と相殺したものとみなす。
本文です。子が成年に達したときは、親権を行った者は、遅滞なく、管理の計算をしなければなりません。たとえば、Cさんが、Bさんの口座を何年も管理してきたとします。Bさんが成年になったら、入ったお金と出たお金を1件ずつ並べ、Bさんの財産がいま、いくら残っているはずなのかをはっきりさせて、Bさんに示します。この作業が、管理の計算です。ただし書です。子の養育と財産の管理の費用は、子の財産の収益と相殺したものとみなします。
図:相殺とみなすの意味
子の財産から収益が出ていて、同時に、子の養育に費用がかかっているとします。その収益と費用を、差引きゼロとして扱う、ということです。細かい費用を逐一計算せず、そのまま精算したことにする趣旨です。ただし書の読み方の軸は、こうです。いま見たとおり、このただし書は、細かな精算を省くための定めです。親に収益を与える定めではありません。ですから、親権者には、子の財産の収益を受け取る権利はありません。精算を省いてよいのは、養育の費用を正確に計算するのが難しく、費用と収益の差が際立っていない場合です。差が際立てば、精算を省く理由がなくなるので、余剰を子に返します。条文は、みなす、と言い切っていますが、この趣旨から、範囲を絞って読むのです。数字で見ます。子名義のアパートの家賃収入が、1年で10万円。養育の費用は、1年で12万円。この程度の差なら、差引きゼロです。親は、子に何も返さず、また、足りない分を請求することもしません。反対の例です。子名義の不動産の収益が、1年で1000万円。養育の費用が、1年で100万円。差が際立っています。この場合は、余剰を子に返します。よくある誤答は、収益があれば、養育の費用の名目で、全部受け取ってよい、というものです。違います。差が際立つときは、余剰は子のものです。
図:時効と第三者の特例
- 832条1項=親権を行った者と子の間の管理上の債権は管理権が消滅した時から5年で時効/2項=成年前に管理権が消滅し法定代理人がいないときは成年到達または後任の就職時から起算
- 830条=第三者が管理させない意思を表示→親権者の管理に属さない(管理者は第三者が指定。指定がなければ家庭裁判所が選任)/829条=第三者が反対の意思を表示→828条ただし書は適用しない
次に、時効です。832条です。
条文民法832条
民法第832条(財産の管理について生じた親子間の債権の消滅時効) 1 親権を行った者とその子との間に財産の管理について生じた債権は、その管理権が消滅した時から五年間これを行使しないときは、時効によって消滅する。 2 子がまだ成年に達しない間に管理権が消滅した場合において子に法定代理人がないときは、前項の期間は、その子が成年に達し、又は後任の法定代理人が就職した時から起算する。
1項です。親権を行った者と子の間に、財産の管理について生じた債権は、管理権が消滅した時から5年間行使しないと、時効で消滅します。2項は、成年になる前に管理権が消えた場合です。たとえば、子がまだ15歳のときに、親権者が、家庭裁判所の審判で、財産を管理する権限を失ったとします。このとき、子に代わりの法定代理人がいないと、子は権利を行使しにくいので、期間は、子が成年に達した時、または後任の法定代理人が就職した時から数えます。就職とは、ここでは、新しい法定代理人がその役目に就くことです。冒頭の設例に当てはめます。Bさんが成年に達したら、Cさんは、管理の計算をします。すると、あるはずの預金と、実際の預金の差が、はっきりします。車に使った200万円は、Bさんのための費用ではないので、差し引けません。Cさんは、その分をBさんに返さなければなりません。この返還を求めるBさんの権利が、832条の、財産の管理について生じた債権です。管理権が消滅した時から、5年で時効にかかります。最後に、補足を1つ見ます。設例を変えます。祖父のAさんが、贈るときに、この預金は母のCさんには管理させない、と表示していたとします。830条です。
条文民法830条1項・2項
民法第830条(第三者が無償で子に与えた財産の管理)第1項・第2項 1 無償で子に財産を与える第三者が、親権を行う父又は母にこれを管理させない意思を表示したときは、その財産は、父又は母の管理に属しないものとする。 2 前項の財産につき父母が共に管理権を有しない場合において、第三者が管理者を指定しなかったときは、家庭裁判所は、子、その親族又は検察官の請求によって、その管理者を選任する。
無償で子に財産を与える第三者が、親権者に管理させない意思を表示したときは、その財産は、親権者の管理に属しません。設例なら、Cさんは、その預金を管理できません。管理する人がいなければ、家庭裁判所が、請求によって管理者を選びます。
条文民法829条
民法第829条(財産の管理の計算の特例) 前条ただし書の規定は、無償で子に財産を与える第三者が反対の意思を表示したときは、その財産については、これを適用しない。
829条は、これと対になる定めです。無償で財産を与える第三者が、反対の意思を表示したときは、828条ただし書の、差引きゼロの扱いが、その財産には及びません。たとえば、贈る人が、この財産から上がる収益は、子のためにきちんと残してほしい、と考える場合です。こう表示しておけば、親は、収益と養育の費用を差引きゼロで済ませられず、実際の額で計算して精算することになります。なお、さきほど2項の例で挙げた、管理する権限を失わせる審判は、親権者が管理をひどく誤ったときなどに使われる制度です。詳しくは、別の回で見ます。
今日の地図(保存版)

- 2本柱+冒頭の答え
- ①親権の中身=身上監護(820条〜823条)/財産の管理と代表(824条・827条)/どちらも子のため
- ②財産管理の約束事=注意は自己のためにするのと同一/代表は財産の行為に限る/成年に達したら管理の計算(828条)/債権は管理権が消滅した時から5年(832条)
- 冒頭の答え=許されない
- 流用した分は、成年到達時の管理の計算で返す責任を負う
最後にまとめます。柱は、2本です。1本目。親権の中身です。身上監護と、財産の管理と代表です。身上監護は、820条から823条まで。居所の指定、職業の許可、縁組の代諾があり、命名と妨害排除は、条文のない内容です。財産の管理と代表は、824条と827条です。どちらも、子のために行います。2本目。財産の管理の約束事です。注意は、自己のためにするのと同一の注意で、善管注意より軽い。ただし、軽いのは注意の程度で、使い道ではありません。代表は、財産の行為に限られ、婚姻、離婚、任意認知は代理できません。ただし書で、子の行為を目的とする債務は、本人の同意が要ります。子が成年に達したら、管理の計算をして、債権は管理権が消滅した時から5年で時効にかかります。冒頭の設例に戻ります。母のCさんが、10歳のBさんの預金で、自分の車を買うことは、許されません。親権者が子の財産を管理するのは、子のためです。自分の車に使うのは、管理ではなく、流用です。Cさんは、Bさんが成年に達したときに管理の計算をして、使った分をBさんに返す責任を負います。銀行など第三者との関係は、代理の回で見た、代理権の濫用の問題になります。親権者の場合の扱いは、別の回で詳しく見ます。親権者が二人いるとき、この権限を、どう分けて行使するのか。それは、次の回で見ます。
軽くなるのは注意の程度だけで、使い道は子のため、というのが、今日いちばんの発見でした。権限の目的が、子の利益にある。この軸を忘れなければ、条文の細かな違いも、整理できます。
参照条文
- 民法821条
- 民法822条
- 民法823条
- 民法827条
- 民法824条
- 民法828条
- 民法832条
- 民法830条1項・2項
- 民法829条