民法ゼロから民法#342

利益相反行為

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第7章 親族 #342/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

父の借金のために、子の土地を担保に出せるか

冒頭の設例。A(父・事業を営む・Bの親権者)、B(子・12歳)、C(銀行)。Aは事業資金1000万円をCから借りるため、Bを代理して、祖父から贈与されたB名義の土地にCのための抵当権を設定した。お金を借りたのはA。Bは何も借りていない。問い=この抵当権の設定は、Bに対して有効か。 図:冒頭の設例

  • A(父・事業を営む・Bの親権者)、B(子・12歳)、C(銀行)
  • Aは事業資金1000万円をCから借りるため、Bを代理して、祖父から贈与されたB名義の土地にCのための抵当権を設定した
  • お金を借りたのはA
  • Bは何も借りていない
  • 問い=この抵当権の設定は、Bに対して有効か

設例です。父のAさんが、事業資金として、銀行のCさんから1000万円を借りることにしました。担保は、12歳の子のBさんが持つ土地です。祖父から贈与された土地です。Aさんは、Bさんの親権者として、Bさんを代理して、Cさんのために抵当権を設定しました。借りたのは、Aさんです。Bさんは、何も借りていません。それなのに、Bさんの土地に、抵当権が付きます。今日の問いは、この抵当権の設定は、Bさんに対して有効か、です。借りたのは親で、土地を失うおそれがあるのは子です。親が子を代理できる、という原則だけでは割り切れない。この食い違いが、今日の中心です。答えは最後に確かめますから、自分なりの見立てを、頭に置いたまま進んでください。前の回までを、一言で受け直します。親権者は、子の財産を管理して、子に代わって法律行為をします。条文では、これを代表と呼びました。中身は、子を代理することです。親権者の代理権の根拠は、824条です。そして、親と子の利益がぶつかる行為は、別の回で見る、と言っていました。今日が、その回です。

今日の地図。①826条の2つの型と特別代理人②利益相反行為の効果③判断基準=外形説④事例×結論の表と冒頭の答え⑤相続放棄⑥遺産分割協議⑦特別代理人の権限と共同親権者の一方⑧108条・826条・860条の対応。核心の1行=親が子を代理するとき、親自身の利益と子の利益がぶつかる形をしていたら、親は自分で代理できない。家庭裁判所が特別代理人を立てる。 図:今日の地図

  • ①826条の2つの型と特別代理人②利益相反行為の効果③判断基準=外形説④事例×結論の表と冒頭の答え⑤相続放棄⑥遺産分割協議⑦特別代理人の権限と共同親権者の一方⑧108条・826条・860条の対応
  • 核心の1行=親が子を代理するとき、親自身の利益と子の利益がぶつかる形をしていたら、親は自分で代理できない
  • 家庭裁判所が特別代理人を立てる

今日の地図です。8つ進みます。①826条の2つの型と、特別代理人。②効果。③判断基準の外形説。④事例ごとの結論の表と、冒頭の答え。⑤相続放棄。⑥遺産分割の協議。⑦特別代理人の権限と、共同親権者の一方。⑧代理、親権、後見の対応です。核心を、先に1行で言います。親が子を代理するとき、親自身の利益と子の利益がぶつかる形をしていたら、親は自分では代理できません。家庭裁判所が、特別代理人を立てます。貫く軸は、1本です。子に代わって判断するはずの親が、その行為の当事者になっている。だから、判断を任せられない。任せられるかどうかは、親の気持ちではなく、行為の形で決めます。この軸で、条文と判例を読みます。

利益相反行為の2つの型と特別代理人 826条

826条の2つの型。1項=親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為(親と子)。例=AがBの土地をBから買う。2項=親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合に、その一人と他の子との利益が相反する行為(子どうし)。例=母が兄と妹の両方を代理し、兄の土地の一部を妹に贈与する。いずれも、親権者は家庭裁判所に特別代理人の選任を請求する。特別代理人=その行為のために家庭裁判所が選ぶ臨時の代理人。 図:826条の2つの型

  • 1項=親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為(親と子)
  • 例=AがBの土地をBから買う
  • 2項=親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合に、その一人と他の子との利益が相反する行為(子どうし)
  • 例=母が兄と妹の両方を代理し、兄の土地の一部を妹に贈与する
  • いずれも、親権者は家庭裁判所に特別代理人の選任を請求する
  • 特別代理人=その行為のために家庭裁判所が選ぶ臨時の代理人

地図の①、826条です。代理の回で、108条の特則として一度見た条文です。今日は、この条文の本体を扱います。冒頭の設例は、この条文の1項にあたります。先に条文を読み、そのあとで、当てはまる理由を確かめます。

条文民法826条

民法第826条(利益相反行為) 1 親権を行う父又は母とその子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。 2 親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合において、その一人と他の子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その一方のために特別代理人を選任することを家庭裁判所に請求しなければならない。

1項です。親権を行う父または母と、その子との利益が相反する行為については、親権を行う者は、その子のために、特別代理人を選任することを、家庭裁判所に請求しなければなりません。親と子の利益がぶつかる行為の例は、親が、子の土地を、自分で買う契約です。親は、できるだけ安く買いたい。子は、できるだけ高く売りたい。同じ契約の両側に、親が立ってしまいます。2項です。親権を行う者が数人の子に対して親権を行う場合に、その一人と他の子との利益が相反する行為についても、同じです。こちらは、子どうしの利益がぶつかる型です。例を挙げます。別の家族で考えます。母が、兄と妹の、両方の親権者です。母が、二人を代理して、兄の土地の一部を、妹に贈与する契約を結ぶとします。兄は失い、妹は得ます。母は、どちらの立場でも、公平に判断できる立場にはありません。

1項は、親自身が当事者の側に立つ型です。2項は、親は当事者ではなくても、二人の子の間で、利益が分かれる型です。どちらも、親が両側の判断を引き受けられない点は、同じです。特別代理人とは、その行為のために、家庭裁判所が選ぶ、臨時の代理人です。親権者は、その行為については、子を代理することも、子の法律行為に同意することもできません。代わりに、特別代理人が、代理し、同意します。だれのために請求するかにも、注意してください。1項は、その子のために請求します。2項は、その一方のために請求します。子が2人なら、一方にだけ特別代理人を立てれば足ります。この点は、あとの遺産分割で使います。なぜ、家庭裁判所を挟むのでしょうか。代理の回で見た108条2項は、本人があらかじめ許諾すれば、利益相反の行為も許されるとしていました。しかし、未成年の子は、許諾の意味を判断できません。だから、子の代わりに、家庭裁判所が、判断を引き受ける人を選ぶのです。

利益相反行為の効果 無権代理と同じ扱い・同意は無効

効果の流れ。親権者が特別代理人を立てずに自分でBを代理した場合=無権代理と同じ扱い(108条2項本文の考え方)→追認のない間はBに効力を生じない(113条1項)→Bが成年に達したあと追認すれば契約の時にさかのぼって有効(116条本文)。親権者が子の法律行為に同意した場合=同意は無効→5条1項の同意がない行為→取り消すことができる(5条2項)。 図:効果の流れ

  • 親権者が特別代理人を立てずに自分でBを代理した場合=無権代理と同じ扱い(108条2項本文の考え方)→追認のない間はBに効力を生じない(113条1項)→Bが成年に達したあと追認すれば契約の時にさかのぼって有効(116条本文)
  • 親権者が子の法律行為に同意した場合=同意は無効→5条1項の同意がない行為→取り消すことができる(5条2項)

地図の②、効果です。設例で、Aさんが特別代理人を立てずに、自分でBさんを代理して、抵当権を設定してしまった場合を考えます。その前に、思い出してください。無権代理の行為を、本人が追認すると、いつの時点にさかのぼって有効になるのでしたか?契約の時にさかのぼって有効になります。116条の本文でした。親権者が自分で代理した場合は、この無権代理と同じ扱いになります。代理の回で見たとおり、826条は、108条の利益相反を、親と子の場面に当てはめた特則です。ですから、効果も108条2項と同じで、代理権を有しない者がした行為とみなされます。あとで見る遺産分割の判決は、これを、追認のないかぎり無効、と書きます。ただ、この無効は、代理の回で見た、本人に効力を生じない、という整理と同じです。113条1項です。本人が追認しなければ、効力は生じません。本人は、Bさんです。12歳のBさんには、追認するかどうかを判断できません。そこで、Bさんが成年に達したあとに、本人として、追認するかどうかを決められます。追認すれば、116条本文により、契約の時にさかのぼって有効になります。次に、親権者が、子の法律行為に同意した場合です。たとえば、17歳のBさんが、自分で、Aさんの借金のための抵当権の設定契約を結び、Aさんが同意したとします。

条文民法5条

民法第5条(未成年者の法律行為)第1項・第2項 1 未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。 2 前項の規定に反する法律行為は、取り消すことができる。

未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意が必要です。反すれば、取り消すことができます。ところが、利益相反の行為に、親権者が与えた同意は、無効です。有効な同意がない行為として、Bさんの行為は、5条2項により、取り消せます。代理では、Bさん自身は何も意思表示をしていません。だから、無権代理として、効力が生じないのです。同意では、Bさん自身が意思表示をしています。ただ、有効な同意を欠いているので、未成年者の行為として取り消せるのです。相手方が事情を知らなくても、利益相反の行為にあたれば、この扱いは変わりません。相手方から見て判断できる形で、利益相反かどうかの線を引く必要があります。その線の引き方が、次の外形説です。

利益相反かどうかの判断基準 外形説

外形説。規範=利益相反行為にあたるかは、親権者が子を代理してなした行為自体を、外形的客観的に考察して判定する。親権者の動機・意図では判定しない。理由=動機・意図は相手方には分からない。相手方に不測の損害を与えないため(取引の安全)。判旨(最判昭42・4・18)=「親権者が子を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであつて、当該代理行為をなすについての親権者の動機、意図をもつて判定すべきでない」。 図:外形説

  • 規範=利益相反行為にあたるかは、親権者が子を代理してなした行為自体を、外形的客観的に考察して判定する
  • 親権者の動機・意図では判定しない
  • 理由=動機・意図は相手方には分からない
  • 相手方に不測の損害を与えないため(取引の安全)
  • 判旨(最判昭42・4・18)=「親権者が子を代理してなした行為自体を外形的客観的に考察して判定すべきであつて、当該代理行為をなすについての親権者の動機、意図をもつて判定すべきでない」

地図の③、外形説です。問題は、どこまでを利益相反行為とみるか、です。たとえば、Aさんが、借りたお金を、Bさんの学費に使うつもりだったとします。この意図があれば、利益相反ではなくなるのでしょうか。判例の基準は、こうです。利益相反行為にあたるかどうかは、親権者が子を代理してなした行為自体を、外形的、客観的に考えて判定します。親権者の動機や意図では、判定しません。これを、外形説と呼びます。代理の回でも、108条の利益相反を、この物差しで判断しました。表の2行目で使う判決も、同じ基準を述べています。理由は、取引の安全です。親権者が心の中で何を考えていたかは、取引の相手方には分かりません。意図で決めると、相手方は、いつ無効になるか分からない契約を結ぶことになります。だから、相手方にも見える、行為の形で、線を引くのです。ここは、論文で論点になりうる箇所です。親権者の行為が利益相反行為にあたるかを、行為の外形で判断する、と書けるようにしてください。判決を見ます。次の判決は、同じ借入れの中に、利益相反行為にあたる部分と、あたらない部分があった事件です。

判例最判昭37・10・2 民集16巻10号2059頁

親権者の担保設定と外形による判断 親権者が子の法定代理人として、子の名において金員を借受け、その債務につき子の所有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に借受金を親権者自身の用途に充当する意図であつても、かかる意図のあることのみでは、民法八二六条所定の利益相反する行為とはいえないから、子に対して有効であり、これに反し、親権者自身が金員を借受けるに当り、右債務につき子の所有不動産の上に抵当権を設定することは、仮に右借受金を子の養育費に充当する意図であつたとしても、同法条所定の利益相反する行為に当るから、子に対しては無効であると解すべきである。

読み解きます。冒頭の文が、基準そのものです。親権者が、子の名で借りて、子の不動産に抵当権を設定した場合は、借りたお金を自分の用途に充てる意図があっても、それだけでは利益相反ではなく、子に対して有効です。逆に、親権者自身が借りて、子の不動産に抵当権を設定した場合は、借りたお金を子の養育費に充てる意図でも、利益相反行為にあたり、子に対しては無効です。意図は、どちらの結論も動かしません。

判例最判昭37・10・2 民集16巻10号2059頁

親権者の担保設定と外形による判断・事案への適用 ……されば、右借財の意図が同女自身の営業資金に充当するにあつたこと、所論の通りであつたとしても、同女が上告人等を代理して上告人等の名において前記金員を借受け、かつその債務につき上告人等の右持分の上に抵当権を設定したことは、民法八二六条所定の利益相反する行為に当らないのであつて、上告人等に対して有効である。……さればとて、同女が上告人等の法定代理人として、前記債務の内同女自身の負担部分につき上告人等の前記持分の上に抵当権を設定したことは、仮に借受金を上告人等の利益となる用途に充当する意図であつたとしても、同法条所定の利益相反する行為に当るから、上告人等に対しては無効であるとなさざるを得ない。

続きは、この基準を、事件の事実にあてはめた部分です。次の板で、事件を分けて見ます。

昭和37年判決の事案の分解。親権者の母と子らが、共同債務者として6万円を借りる。子らの名で借りた部分の担保=利益相反に当たらない(意図が母の営業資金でも)→子らに対して有効。母自身の負担部分の担保=利益相反に当たる(意図が子の利益になる用途でも)→子らに対して無効。決め手=その債務はだれの債務か。 図:昭和37年判決の事案の分解

  • 親権者の母と子らが、共同債務者として6万円を借りる
  • 子らの名で借りた部分の担保=利益相反に当たらない(意図が母の営業資金でも)→子らに対して有効
  • 母自身の負担部分の担保=利益相反に当たる(意図が子の利益になる用途でも)→子らに対して無効
  • 決め手=その債務はだれの債務か

事件は、母が、子らを代理して、自分も共同の借り手になった事案でした。母は、子らの持分と自分の持分に、抵当権を設定しました。判決は、1つの借入れを、2つに分けて判断しました。子らの名で借りた部分の担保は、有効です。母が、その金を自分の営業資金に使うつもりだったとしても、変わりません。一方、母自身の負担部分の担保は、無効です。母が、その金を子のために使うつもりだったとしても、変わりません。決め手は、その債務が、だれの債務か、です。子の債務の担保なら、子と親の利益はぶつかっていません。親の債務の担保なら、子の財産が、親の借金のために使われます。そこで利益がぶつかります。使い道という内心ではなく、だれの債務かという外形で、判断が分かれるのです。この判決が決めたのは、利益相反行為にあたるか、までです。あたらないとされた部分でも、親の使い道が、まったく問題にならないわけではありません。その扱いは、表の当てはめで確かめます。

当てはめ 事例ごとの結論の表と冒頭の答え

事例×結論の表。①AがBの名でCから借入れ、B名義の土地に抵当権(使途はAの事業資金)=非該当(最判昭37・10・2)②BがCから借り、Aは連帯保証人=非該当(最判昭42・4・18=外形上、親権者と子との間に利益相反関係は存しない)③Aの友人Dの債務のためにB名義の土地に抵当権(物上保証)=非該当(最判平4・12・10=第三者の債務の担保に供する行為は利益相反行為に当たらない)④Aの債務の担保にB名義の土地に抵当権(冒頭の設例)=該当(最判昭37・10・2)⑤Aの債務の代物弁済にB名義の土地を渡す=該当(最判昭35・2・25=Bが事業で生活上の利益を受けていても該当)⑥AがBに自分の土地を売る=該当(826条1項)。見る点=その債務はだれの債務か。 図:事例×結論の表

  • ①AがBの名でCから借入れ、B名義の土地に抵当権(使途はAの事業資金)=非該当(最判昭37・10・2)②BがCから借り、Aは連帯保証人=非該当(最判昭42・4・18=外形上、親権者と子との間に利益相反関係は存しない)③Aの友人Dの債務のためにB名義の土地に抵当権(物上保証)=非該当(最判平4・12・10=第三者の債務の担保に供する行為は利益相反行為に当たらない)④Aの債務の担保にB名義の土地に抵当権(冒頭の設例)=該当(最判昭37・10・2)⑤Aの債務の代物弁済にB名義の土地を渡す=該当(最判昭35・2・25=Bが事業で生活上の利益を受けていても該当)⑥AがBに自分の土地を売る=該当(826条1項)
  • 見る点=その債務はだれの債務か

地図の④、当てはめです。外形説を使って、事例ごとに結論を出します。設例のAさんとBさんを使います。表を読む前に、問いです。Aさんが、借りたお金は、Bさんの学費に使うと言っています。Aさんが借りて、Bさんの土地を担保にするのは、利益相反にあたるでしょうか?あたります。意図は問わないのでした。見るのは、債務者はだれか、です。この問いを、すべての行に、当てはめます。1行目です。AさんがBさんの名で、Cさんから借りて、B名義の土地に抵当権を設定します。お金の使い道は、Aさんの事業資金です。債務者は、Bさんです。ですから、利益相反にはあたりません。意図が事業資金でも、結論は変わりません。先ほどの判決の、子の名で借りた部分と同じです。2行目です。Bさんが、Cさんから借ります。Aさんは、その連帯保証人になります。保証人になるのは親ですが、主債務者は子です。外形上、親と子の間に、利益相反の関係はない、とされています。連帯保証では、Bさんが返せないときに、Aさんが自分の財産から払います。危険を負うのは親の側で、子の財産が、親の借金のために使われる形にはなりません。だから、利益はぶつからないのです。3行目です。Aさんの友人のDさんの債務のために、Bさんの土地に抵当権を設定します。物上保証です。判例は、親権者が子を代理して、子の不動産を第三者の債務の担保に供する行為は、利益相反行為にあたらない、としています。債務者は、親でも子でもない、第三者です。

判断は二段階。①利益相反行為にあたるか=外形で判断する。見る点=その債務はだれの債務か。あたれば、親権者は自分で代理できない(826条)。②あたらなければ、代理権の濫用か=107条。親権者が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をし、相手方がその目的を知り、又は知ることができたとき、代理権を有しない者がした行為とみなす。親権者=特段の事情が要る(最判平4)。 図:判断は二段階

  • ①利益相反行為にあたるか=外形で判断する
  • 見る点=その債務はだれの債務か
  • あたれば、親権者は自分で代理できない(826条)
  • ②あたらなければ、代理権の濫用か=107条
  • 親権者が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をし、相手方がその目的を知り、又は知ることができたとき、代理権を有しない者がした行為とみなす
  • 親権者=特段の事情が要る(最判平4)

ただし、1行目と3行目のような、利益相反にあたらない場合でも、そこで終わりではありません。代理権の濫用の回で、親権者の場面を見ました。まず利益相反行為にあたるか、あたらなければ次に、代理権の濫用か、という順序でした。代理権の濫用は、107条です。相手方が、親の目的を知り、または知ることができたときは、代理権を有しない者がした行為とみなされます。使い道の意図は、利益相反の判断では使わず、こちらの判断で使います。親権者では、特段の事情が要ります。前の回で見たとおりです。

事例×結論の表。①AがBの名でCから借入れ、B名義の土地に抵当権(使途はAの事業資金)=非該当(最判昭37・10・2)②BがCから借り、Aは連帯保証人=非該当(最判昭42・4・18=外形上、親権者と子との間に利益相反関係は存しない)③Aの友人Dの債務のためにB名義の土地に抵当権(物上保証)=非該当(最判平4・12・10=第三者の債務の担保に供する行為は利益相反行為に当たらない)④Aの債務の担保にB名義の土地に抵当権(冒頭の設例)=該当(最判昭37・10・2)⑤Aの債務の代物弁済にB名義の土地を渡す=該当(最判昭35・2・25=Bが事業で生活上の利益を受けていても該当)⑥AがBに自分の土地を売る=該当(826条1項)。見る点=その債務はだれの債務か。 図:事例×結論の表

  • ①AがBの名でCから借入れ、B名義の土地に抵当権(使途はAの事業資金)=非該当(最判昭37・10・2)②BがCから借り、Aは連帯保証人=非該当(最判昭42・4・18=外形上、親権者と子との間に利益相反関係は存しない)③Aの友人Dの債務のためにB名義の土地に抵当権(物上保証)=非該当(最判平4・12・10=第三者の債務の担保に供する行為は利益相反行為に当たらない)④Aの債務の担保にB名義の土地に抵当権(冒頭の設例)=該当(最判昭37・10・2)⑤Aの債務の代物弁済にB名義の土地を渡す=該当(最判昭35・2・25=Bが事業で生活上の利益を受けていても該当)⑥AがBに自分の土地を売る=該当(826条1項)
  • 見る点=その債務はだれの債務か

4行目です。これが、冒頭の設例です。Aさんの債務の担保として、Bさんの土地に抵当権を設定します。債務者は、Aさん本人です。判例は、親権者自身が借りて、子の不動産を担保にする行為は、子のために使う意図でも利益相反だとしました。ですから、利益相反行為にあたります。5行目です。Aさんの債務の代物弁済として、Bさんの土地をCさんに渡します。代物弁済とは、本来の給付に代えて、別の物で債務を果たすことです。債務者は、Aさんです。Bさんの財産で、Aさんの借金を消す形ですから、判例は、これも利益相反行為としました。Bさんが、Aさんの事業のおかげで、生活上の利益を受けていても、変わりません。6行目です。AさんがBさんに、自分の土地を売ります。または、Aさんが、Bさんの土地を、自分で買います。826条1項の、典型です。1行目から3行目と、4行目から6行目の違いは、債務者や取引の相手が、親本人かどうか、の1点です。誤答は、2つあります。借りたお金を子の学費に使うなら、該当しない。そして、親が保証人になるなら、該当する。どちらも違います。学費という意図は、問いません。親が保証人でも、子が主債務者なら、該当しません。冒頭の問いに答えます。Aさんの債務の担保としてBさんの土地に抵当権を設定する行為は、利益相反行為です。Aさんは、自分では代理できず、特別代理人の選任を、家庭裁判所に請求しなければなりません。Aさんが自分で代理して設定した抵当権は、追認のない間は、Bさんに対して効力を生じません。Bさんが成年に達したあとに追認すれば、有効になります。

相続放棄と利益相反

設例S2。C(亡父・多額の借金を残した)、A(母・Bの親権者)、B(子・12歳)。相続人はAとBだけ。AもBも相続を放棄したい。①Aは自分は放棄せず、Bだけを代理して放棄=該当②Aがまず自分の放棄をして、そのあとBを代理して放棄/Aの放棄と同時にBの放棄=非該当。939条=放棄した者は、初めから相続人とならなかったものとみなす→他の相続人の相続分が増える。 図:設例S2

  • C(亡父・多額の借金を残した)、A(母・Bの親権者)、B(子・12歳)
  • 相続人はAとBだけ
  • AもBも相続を放棄したい
  • ①Aは自分は放棄せず、Bだけを代理して放棄=該当②Aがまず自分の放棄をして、そのあとBを代理して放棄/Aの放棄と同時にBの放棄=非該当
  • 939条=放棄した者は、初めから相続人とならなかったものとみなす→他の相続人の相続分が増える

地図の⑤です。ここから、新しい設例で、相続放棄を見ます。母のAさんと、子のBさんの家族です。Bさんは12歳です。父のCさんが亡くなり、多額の借金が残りました。相続人は、母のAさんと、子のBさんだけです。二人とも、相続を放棄したい。問いは、母のAさんが、子のBさんを代理して、Bさんの分を放棄してよいか、です。親と子の利益がぶつかる形の行為は、親権者が代理できません。ぶつかるかどうかは、行為の外形で決めます。放棄は、利益がぶつかるのでしょうか。まず、放棄の効力を、条文で確かめます。

条文民法939条

民法第939条(相続の放棄の効力) 相続の放棄をした者は、その相続に関しては、初めから相続人とならなかったものとみなす。

放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます。すると、他の相続人の相続分が、増えます。設例でも、Bさんが放棄すれば、Aさんの相続分が増えます。ここに、利益がぶつかる関係が生まれます。損か得かは、問題にしません。判決が見ているのは、放棄によって、相続分が増える相続人が生ずる、という関係です。割合が動く関係があるかどうかを、見ます。行為の性質で判断する点は、外形説と同じです。判決の中身は、2つに分かれます。1つ目は、放棄でも利益相反行為になりうること。2つ目は、それでも利益相反行為にならない場合があること、です。

判例最判昭53・2・24 民集32巻1号98頁

相続の放棄と利益相反 共同相続人の一部の者が相続の放棄をすると、その相続に関しては、その者は初めから相続人とならなかつたものとみなされ、その結果として相続分の増加する相続人が生ずることになるのであつて、相続の放棄をする者とこれによつて相続分が増加する者とは利益が相反する関係にあることが明らかであり、また、民法八六〇条によつて準用される同法八二六条は、同法一〇八条とは異なり、適用の対象となる行為を相手方のある行為のみに限定する趣旨であるとは解されないから、相続の放棄が相手方のない単独行為であるということから直ちに民法八二六条にいう利益相反行為にあたる余地がないと解するのは相当でない。

読み解きます。1文目は、放棄をする者と、それで相続分が増える者とは、利益が相反する関係にある、と述べます。さらに、放棄は相手方のない単独行為ですが、相手方がないからといって、利益相反行為にあたる余地がない、とは言えない、と述べます。判決が比べている当時の108条は、自己契約や双方代理のように、相手方のいる行為を前提にした条文でした。契約と違って相手方がいなくても、826条は働きます。なぜ、相手方がいなくても働くのか。826条が見ているのは、親が、子に代わって判断できる立場にあるかどうかです。親自身の取り分が増えるなら、相手方がいてもいなくても、親は子の側に立って判断できません。

判例最判昭53・2・24 民集32巻1号98頁

相続の放棄と利益相反・例外 ……共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者を後見している場合において、後見人が被後見人を代理してする相続の放棄は、必ずしも常に利益相反行為にあたるとはいえず、後見人がまずみずからの相続の放棄をしたのちに被後見人全員を代理してその相続の放棄をしたときはもとより、後見人みずからの相続の放棄と被後見人全員を代理してするその相続の放棄が同時にされたと認められるときもまた、その行為の客観的性質からみて、後見人と被後見人との間においても、被後見人相互間においても、利益相反行為になるとはいえないものと解するのが相当である。

2文目は、例外です。後見人が、まず自分の放棄をしてから、被後見人全員を代理して放棄したとき。あるいは、自分の放棄と、被後見人全員を代理した放棄が、同時にされたと認められるとき。この場合は、行為の客観的性質から、利益相反行為にならない、とされました。注意点があります。この事件の事案は、後見人が被後見人を代理した放棄です。ただし、860条が826条を準用しているので、親権者の場合にも、同じ基準で考えます。ですから、設例のAさんとBさんに置き換えて、説明します。

設例への当てはめ。①子だけ放棄=Aは放棄せず、Bだけを代理して放棄→Aの相続分が増える→該当。②先に・同時に放棄=Aは先に放棄している(または同時)→Aはもう相続人ではない→相続分が増える人がAではない→非該当。子が数人で、その一部だけを放棄させる場合=放棄する子と、相続分が増えるほかの子との間で、利益がぶつかりえる→子どうしで2項の型になりうる。 図:設例への当てはめ

  • ①子だけ放棄=Aは放棄せず、Bだけを代理して放棄→Aの相続分が増える→該当
  • ②先に・同時に放棄=Aは先に放棄している(または同時)→Aはもう相続人ではない→相続分が増える人がAではない→非該当
  • 子が数人で、その一部だけを放棄させる場合=放棄する子と、相続分が増えるほかの子との間で、利益がぶつかりえる→子どうしで2項の型になりうる

設例の①です。Aさんが、自分は放棄せず、Bさんの分だけを代理して放棄します。Bさんの放棄で、Aさんの相続分が増えます。放棄する者と、相続分が増える者が、親と子に分かれていますから、利益相反行為にあたります。設例の②です。Aさんが、まず自分の放棄をします。そのあとで、Bさんを代理して放棄します。または、二人の放棄が、同時にされます。この場合、Aさんは、すでに相続人ではありません。Bさんの放棄で、相続分が増える人が、Aさんではないので、利益相反行為にはあたりません。判決は、被後見人全員を代理して放棄した場合を言っています。設例は、子がBさん1人なので、これにあたります。子が何人かいて、その一部だけを放棄させる場合は、子どうしの間でも相続分が動きます。この場合は、放棄する子と、相続分が増えるほかの子との間で、利益がぶつかりえます。2項の型の利益相反になりうる、と押さえてください。問いです。Aさんが先に放棄しました。そのあとで、Bさんを代理して放棄します。特別代理人は、必要でしょうか?

先に自分が放棄しているなら、特別代理人は不要です。順番が、結論を分けます。先に、または同時に、自分も放棄する。この場合は、利益相反行為にあたらず、親権者が代理できます。放棄の方式や、放棄ができる期間などは、別の回で詳しく見ます。

遺産分割の協議と利益相反

設例S3。D(祖父・被相続人)、A(母・相続人ではない・B・Cの親権者)、B(孫・12歳)、C(孫・9歳)、E(特別代理人)。B・Cの父はDより先に亡くなり、B・Cが代襲して相続人になった。①AがB・Cの両方を代理して協議=該当(826条2項)・追認のない間は無効②AはBだけを代理し、Cには特別代理人E=適法。特別代理人の数=子の人数−1(母が相続人でないとき・2人なら1人)。1項の型=相続人が親権者と子のとき、親権者が子を代理して協議=該当。 図:設例S3

  • D(祖父・被相続人)、A(母・相続人ではない・B・Cの親権者)、B(孫・12歳)、C(孫・9歳)、E(特別代理人)
  • B・Cの父はDより先に亡くなり、B・Cが代襲して相続人になった
  • ①AがB・Cの両方を代理して協議=該当(826条2項)・追認のない間は無効②AはBだけを代理し、Cには特別代理人E=適法
  • 特別代理人の数=子の人数−1(母が相続人でないとき・2人なら1人)
  • 1項の型=相続人が親権者と子のとき、親権者が子を代理して協議=該当

地図の⑥、遺産分割の協議です。放棄は、相続から抜ける行為でした。今度は、残った相続人どうしで、遺産を分ける行為です。遺産分割とは、共同相続人どうしで、遺産を、だれがどれだけ取るかを決めることです。まず、1項の型です。父が亡くなり、相続人が、母と、未成年の子だとします。母が、子を代理して、遺産分割の協議に加わる。これは、母の取り分と、子の取り分を、母自身が決める行為です。ケーキを切る人が、自分も食べる形です。利益相反行為にあたります。法定相続分どおりに分ける、と決まっていても、協議そのものが利益相反です。母は、子のために、特別代理人を立てます。次に、2項の型です。新しい設例です。祖父のDさんが亡くなりました。Dさんの子、つまり孫のBさんとCさんの父は、Dさんより先に亡くなっています。この場合、孫のBさんとCさんが、父に代わって相続人になります。これを、代襲相続といいます。Bさんは12歳、Cさんは9歳です。二人の親権者は、母のAさんです。Aさんは、Dさんの子の配偶者なので、相続人ではありません。問いは、Aさんが、BさんとCさんの両方を代理して、遺産分割の協議に加わってよいか、です。

判例最判昭48・4・24 集民109号183頁

数人の子を代理した遺産分割協議 民法八二六条所定の利益相反する行為にあたるか否かは、当該行為の外形で決すべきであつて、親権者の意図やその行為の実質的な効果を問題とすべきではないので……親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割の協議をすることは、かりに親権者において数人の子のいずれに対しても衡平を欠く意図がなく、親権者の代理行為の結果数人の子の間に利害の対立が現実化されていなかつたとしても、同条二項所定の利益相反する行為にあたるから、親権者が共同相続人である数人の子を代理してした遺産分割の協議は、追認のないかぎり無効であると解すべきである。

読み解きます。基準は、行為の外形で決めます。親権者の意図や、行為の実質的な効果は問題にしません。ここは、これまでの外形説と同じです。そのうえで、親権者が、共同相続人である数人の子を代理して、遺産分割の協議をすることは、2項の利益相反行為にあたります。親権者が、すべての子に公平にするつもりでも、結果として、子の間に利害の対立が表に出ていなくても、同じです。協議が、どうなるかも書かれています。追認のないかぎり無効です。設例で、Aさんが二人を代理して成立させた協議は、BさんとCさんが追認しないかぎり、無効です。

子の間でぶつかっていないように見えても、該当します。分け方は、いくらでも決められるからです。ケーキで言えば、切る人は自分で食べなくても、二人の皿の大きさを、一人で決めています。遺産の分け方を決める場面で、一人の親権者が、二人の取り分を決める。この行為の性質上、子の間で利害が対立するおそれがあります。別の判決の事件です。子が2人いて、遺産を、すべてほかの共同相続人に取得させる協議が成立しました。子は、二人とも何も取得しません。原審は、利益は相反しないとしましたが、破棄されました。どちらの子にどれだけ渡すかを、一人の親権者が決めているからです。結果として二人とも何も取らなくても、行為の性質上、利害が対立するおそれがあります。

正しい進め方。AはBだけを代理する。Cには、家庭裁判所が選ぶ特別代理人Eを立てる。BとCは、それぞれ別の代理人で協議に加わる。特別代理人の数=子の人数−1。AがBとCの両方を代理した場合=被代理人全員につき2項違反→全員の追認がないかぎり、協議は全員分が無効。 図:正しい進め方

  • AはBだけを代理する
  • Cには、家庭裁判所が選ぶ特別代理人Eを立てる
  • BとCは、それぞれ別の代理人で協議に加わる
  • 特別代理人の数=子の人数−1
  • AがBとCの両方を代理した場合=被代理人全員につき2項違反→全員の追認がないかぎり、協議は全員分が無効

では、正しい進め方を確かめます。設例では、Aさんは、Bさんだけを代理します。Cさんには、特別代理人のEさんを立てます。BさんとCさんが、それぞれ別の代理人で協議に加わる形です。一人の親権者が代理できる子は、1人だけです。残りの子には、それぞれ、別に選任された特別代理人が必要です。ですから、特別代理人は、子の人数マイナス1です。子が2人なら1人です。これは、母が相続人でない場合の数です。母自身も相続人なら、母はどの子とも利益がぶつかるので、子の人数分の特別代理人が要ります。問いです。母は相続人ではなく、子が3人います。特別代理人は、何人必要でしょうか?

母が1人を代理して、残りの2人に、別々の特別代理人が必要です。2人だと思います。もし、Aさんが、BさんとCさんの両方を代理したら、どうなるか。判決は、被代理人全員につき、2項に違反する、としました。協議は、被代理人全員の追認がないかぎり、無効です。全員分が、まとめて無効になります。遺産分割の方法や、その効力は、別の回で詳しく見ます。

特別代理人の権限と、共同親権者の一方とだけ利益が相反する場合

設例S4。A(父・債務者・親権者)、B(母・親権者)、C(子・13歳)、D(銀行)、E(特別代理人)。AとBは双方が親権者。AがDから借りる事業資金のために、C名義の土地に抵当権を設定したい。Aは代理できない。判例=Bが単独で代理することはできない。特別代理人EとBが共同してCを代理する(最判昭35・2・25)。特別代理人の権限=当該行為だけ。一方のみが親権者のときは、特別代理人だけを立てる。 図:設例S4

  • A(父・債務者・親権者)、B(母・親権者)、C(子・13歳)、D(銀行)、E(特別代理人)
  • AとBは双方が親権者
  • AがDから借りる事業資金のために、C名義の土地に抵当権を設定したい
  • Aは代理できない
  • 判例=Bが単独で代理することはできない
  • 特別代理人EとBが共同してCを代理する(最判昭35・2・25)
  • 特別代理人の権限=当該行為だけ
  • 一方のみが親権者のときは、特別代理人だけを立てる

地図の⑦です。ここまで、特別代理人を立てる場面を見てきました。では、立てられた特別代理人は、何ができるのか。まず、その権限です。特別代理人は、親権者の請求により、家庭裁判所が選任します。選任の申立ては、子の住所地の家庭裁判所にします。親権者のほか、利害関係人も、申し立てられます。特別代理人の権限は、その行為についてだけです。ほかの財産の管理は、特別代理人ではなく、親権者が引き続き行います。次に、新しい設例です。今度は、登場人物が違います。冒頭の設例と同じく、父の借金のために子の土地を担保にする形ですが、違うのは、親権者が二人いることです。父のAさんと、母のBさんは、双方が親権者です。子のCさんは、13歳です。Aさんは、銀行のDさんから事業資金を借りるために、Cさんの土地に抵当権を設定したい。問いは、Aさんの債務なので、Aさんは代理できません。それなら、親権者のBさんが、単独で代理してよいか、です。共同行使の回の原則を、思い出してください。双方が親権者のときは、共同して親権を行うのが原則です。Bさんだけが、親権の行使として代理する形は、この原則に反します。

判例最判昭35・2・25 民集14巻2号279頁

共同親権者の一方に利益相反がある場合 本件のような場合には、利益相反の関係にある親権者は特別代理人の選任を求め、特別代理人と利益相反の関係にない親権者と共同して代理行為をなすべきものとする原判決の見解を正当としてこれを支持し

読み解きます。利益相反の関係にある親権者は、特別代理人の選任を求めます。そして、特別代理人と、利益相反の関係にない親権者が、共同して代理行為をします。設例では、Aさんが、特別代理人の選任を、家庭裁判所に求めます。特別代理人のEさんと、Bさんが共同して、Cさんを代理します。共同行使の原則から考えると、利益相反のあるAさんの席を、特別代理人が埋める形です。判例は、単独では認めません。双方が親権者のときは、共同して行うのが原則だからです。特別代理人は、Aさんの代わりに、共同の場に加わります。ですから、Bさんと、Eさんの共同で、Cさんを代理します。一方のみが親権者のときは、違います。親権者が利益相反の関係にあれば、他方の親権者はいません。この場合は、特別代理人だけを立てます。問いです。双方が親権者の父の債務の担保です。母は、単独で代理できるでしょうか?

判例は、特別代理人と母が共同して代理する、としています。

代理・親権・後見の対応 108条・826条・860条

対応板。代理一般(108条2項)=代理人と本人の利益が相反する行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。ただし、本人があらかじめ許諾した行為は例外。親権(826条)=利益相反行為は、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求する。後見(860条・851条4号)=826条を後見人に準用。ただし、後見監督人がある場合は準用しない。後見監督人が被後見人を代表する(851条4号)。違いの軸=だれが判断を引き受けるか。 図:対応板

  • 代理一般(108条2項)=代理人と本人の利益が相反する行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす
  • ただし、本人があらかじめ許諾した行為は例外
  • 親権(826条)=利益相反行為は、家庭裁判所に特別代理人の選任を請求する
  • 後見(860条・851条4号)=826条を後見人に準用
  • ただし、後見監督人がある場合は準用しない
  • 後見監督人が被後見人を代表する(851条4号)
  • 違いの軸=だれが判断を引き受けるか

地図の⑧、対応板です。代理、親権、後見の、3つの条文を並べます。その前に、思い出してください。108条2項の利益相反は、本人があらかじめ許諾すれば、例外になります。それは、何のための例外でしたか?本人が納得しているなら、守る必要がないからでした。本人の許諾が、判断を引き受ける役目を果たします。ところが、未成年の子は、許諾を判断できません。ですから、親権の826条では、本人の許諾の代わりに、家庭裁判所が選ぶ特別代理人が、判断を引き受けます。後見の場合は、860条です。後見人にも、826条を準用します。ただし、後見監督人がある場合は、準用しません。後見監督人は、後見人の仕事を見張るために選ばれる人です。後見人とは別の立場なので、利益がぶつかる場面でも、子の側に立って判断できます。後見監督人があれば、特別代理人は立てず、後見監督人が、被後見人を代表します。851条4号に、後見監督人の職務として定められています。3つを並べると、違いは、判断を引き受ける人です。代理一般では、本人です。親権では、家庭裁判所が選ぶ特別代理人です。後見では、後見監督人があればその人で、なければ特別代理人です。保佐や補助では、監督人がなければ、利益がぶつかるとき、臨時保佐人や臨時補助人が選ばれて、判断を引き受けます。後見の本体は、別の回で見ます。後見の制度を見直す改正法が、すでに成立していて、まだ施行されていません。今日は、現行の条文で説明します。施行後は、860条が準用の相手にするのは、未成年後見人になります。

今日の地図(保存版)

4本柱+冒頭の答え。①826条=1項(親と子)・2項(子どうし)の利益相反→特別代理人を家庭裁判所に請求。違反=追認のない間は効力を生じない/同意は無効で取り消せる②外形説=動機・意図でなく行為の外形。親自身の債務の担保・代物弁済=該当/子の名の借入れ・子が主債務者で親が保証・第三者の債務の担保=非該当(代理権の濫用は別)③相続放棄・遺産分割=先に又は同時に自分も放棄なら非該当/子だけなら該当。親権者と子・数人の子の遺産分割は該当・特別代理人は子の人数−1(親権者も相続人なら子の人数分)④特別代理人=当該行為のみ。共同親権者の一方とだけ相反なら判例は特別代理人と他方が共同。冒頭の答え=Aの債務の担保は利益相反行為。

  • 4本柱+冒頭の答え
  • ①826条=1項(親と子)・2項(子どうし)の利益相反→特別代理人を家庭裁判所に請求
  • 違反=追認のない間は効力を生じない/同意は無効で取り消せる②外形説=動機・意図でなく行為の外形
  • 親自身の債務の担保・代物弁済=該当/子の名の借入れ・子が主債務者で親が保証・第三者の債務の担保=非該当(代理権の濫用は別)③相続放棄・遺産分割=先に又は同時に自分も放棄なら非該当/子だけなら該当
  • 親権者と子・数人の子の遺産分割は該当・特別代理人は子の人数−1(親権者も相続人なら子の人数分)④特別代理人=当該行為のみ
  • 共同親権者の一方とだけ相反なら判例は特別代理人と他方が共同
  • 冒頭の答え=Aの債務の担保は利益相反行為

最後にまとめます。柱は、4本です。1本目。826条です。1項は親と子、2項は子どうしの利益がぶつかる行為で、親権者は特別代理人の選任を、家庭裁判所に請求します。親権者が自分で代理すると、追認のない間は効力を生じません。同意は無効で、子の行為は取り消せます。2本目。外形説です。動機や意図ではなく、行為の外形で決めます。親自身の債務の担保や代物弁済は、該当します。子の名の借入れ、子が主債務者で親が保証人の場合、第三者の債務の担保は、該当しません。該当しない場合は、代理権の濫用が別に残ります。3本目。相続放棄と遺産分割です。親権者が、自分は放棄せず、子の分だけ放棄するのは、該当します。先に、または同時に、自分も放棄するなら、該当しません。親権者と子、または数人の子を、親権者が代理する遺産分割の協議は、該当します。特別代理人は、親権者が相続人でなければ子の人数マイナス1、親権者も相続人なら子の人数分です。4本目。特別代理人です。権限は、その行為についてだけです。双方が親権者で、一方とだけ利益が相反するときは、特別代理人と、他方の親権者が共同して代理する、というのが判例です。

冒頭の問いに戻ります。Aさんが、自分の事業資金の借入れのために、Bさんの土地に抵当権を設定する行為は、利益相反行為です。Aさんは自分で代理できず、特別代理人の選任を請求します。自分で代理した設定は、追認のない間、Bさんに効力を生じません。ここは、論文で論点になりうる箇所です。親権者の行為が利益相反行為かを外形で判断し、あたらなければ代理権の濫用を続けて検討する。この二段階を、頭に置いてください。

参照条文

  • 民法826条
  • 民法5条
  • 民法939条

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