成年後見人の選任と職務
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第7章 親族 #346/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
母の自宅を、後見人は売れるのか
図:冒頭の設例
- A(母・認知症)は長年暮らした自宅を離れ、C(施設)に入所した
- 自宅は空き家になっている
- B(長男・成年後見人)は、自宅の土地と建物(A名義)を売って、施設の費用に充てたい
- 問い=Bは、自分の判断で売れるのか
設例です。認知症が進んだ母のAさんが、施設に入りました。長年暮らした自宅は、空き家になっています。長男のBさんは、Aさんの成年後見人です。Bさんは、この自宅を売って、施設の費用に充てたいと考えています。土地も建物も、Aさんの名義です。今日の問いです。Bさんは、自分の判断で、この家を売れるのでしょうか。自由に売れるという見立ては、半分だけ正しいです。売る権限そのものは、あります。ただ、この家には、特別な扱いがあります。答えは、今日の後半で確かめます。前の2回では、未成年後見人を見ました。未成年者に、親権を行う人がいないか、いても財産を管理する権限がないときに、親の代わりに立つ人でした。今日は、大人の側、成年後見人の番です。
図:今日の地図
- ①後見の開始と登記②成年後見人の選任(843条)③職務の2本柱=療養看護(858条)と財産管理・代理(859条)④未成年後見人と違う3点=同意権がない/居住用不動産の処分は家庭裁判所の許可(859条の3)/死後の事務(873条の2)
- 核心の1行=成年後見人は、契約と財産の担当者
- 介護者ではない
今日の地図です。まず、後見が始まる手順と登記。次に、成年後見人がどう選ばれるか。それから、職務の2本柱として、療養看護と、財産管理・代理。最後に、未成年後見人と違う3点です。核心を、先に1行で言います。成年後見人は、契約と財産の担当者です。介護をする人では、ありません。会社の総務にたとえる見方は、役に立ちます。現場で手を動かす人ではなく、契約と書類と財産の窓口です。この1行が、最後の設例の答えまで通じます。
後見の開始と登記 7条・8条
図:開始の流れ
- 7条=精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者について、請求権者(本人・配偶者・四親等内の親族・検察官など)の請求により、家庭裁判所が後見開始の審判をする
- 8条=後見開始の審判を受けた者は成年被後見人とし、これに成年後見人を付する
- 審判の後、後見登記等ファイル(法務局)に記録される
- 戸籍ではない
1つ目、後見の開始です。要件は、成年被後見人の回で見ています。ここでは、結論と条番号だけ思い出します。7条です。精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く常況にある人について、請求を受けて、家庭裁判所が後見開始の審判をします。請求できる人には、本人も、検察官も入っていました。そして8条です。後見開始の審判を受けた人は、成年被後見人とします。これに、成年後見人を付する、と書かれています。呼び方を、確認します。守られる本人が、成年被後見人。守る人が、成年後見人です。「被」が入るのが、本人です。審判の記録は、戸籍ではありません。審判がなされると、その旨が、後見登記等ファイルに記録されます。管轄は法務局です。この登記は、だれでも自由に見られる公示ではありません。登記事項証明書を請求できるのは、本人、成年後見人、配偶者、四親等内の親族など、限られた人です。これは、後見登記等に関する法律10条の定めです。戸籍に載せないのも、本人の事情を、広く知らせないためです。8条の言い方に、注目してください。審判を受けると、本人になり、同時に、守る人を付ける。ここまでが、制度の設計です。では、その守る人は、だれが、どう決めるのでしょうか。次の項目です。
成年後見人の選任 843条
図:未成年後見との対比
- 未成年後見=開始しても、選任の請求がなければ席が空いたままのことがある(遺言の指定か、請求を受けた選任)
- 成年後見=後見開始の審判と同時に、家庭裁判所が職権で必ず選ぶ
2つ目、成年後見人の選任です。まず、前の回の未成年後見を思い出してください。未成年後見が始まったとき、後見人は必ず付いたでしょうか?違います。遺言の指定か、請求を受けた選任が要りました。請求がなければ、席が空いたままのことも、ありえました。では、成年後見は、どうでしょうか。条文を読みます。
条文民法843条
民法第843条(成年後見人の選任) 1 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する。 2 成年後見人が欠けたときは、家庭裁判所は、成年被後見人若しくはその親族その他の利害関係人の請求により又は職権で、成年後見人を選任する。 3 成年後見人が選任されている場合においても、家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前項に規定する者若しくは成年後見人の請求により又は職権で、更に成年後見人を選任することができる。 4 成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業及び経歴並びに成年被後見人との利害関係の有無(成年後見人となる者が法人であるときは、その事業の種類及び内容並びにその法人及びその代表者と成年被後見人との利害関係の有無)、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならない。
後見の制度を見直す改正法は、すでに成立していて、まだ施行されていません。今日は、現行の条文で説明します。1項から見ます。家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任します。職権とは、だれかの請求がなくても、裁判所が自分から動く、ということです。つまり、未成年後見では、席が空くことがありました。成年後見では、審判と同時に、席が埋まります。なぜ、成年後見だけ、必ず選ぶのですか。本人が、自分で動けないからです。それに、始まり方が違います。未成年後見は、親権を行う者がいない、という事実だけで始まり、裁判所は、請求があるまで関わりません。成年後見は、家庭裁判所の審判で始まるので、そのとき裁判所がすでに関わっています。成年被後見人は、事理を弁識する能力を欠く常況にあるので、請求を待っていると、本人を守る人が、いつまでも決まらないおそれがあります。だから、審判と同時に、必ず選びます。2項は、成年後見人が欠けたときです。亡くなった、辞めた、解任された、といった場合です。このときは、本人や親族などの請求か、職権で、選びます。3項は、すでに成年後見人がいても、必要があれば、更に選べる、という規定です。つまり、複数の成年後見人が、並び立てます。
図:複数の成年後見人
- 859条の2第1項=成年後見人が数人あるときは、家庭裁判所は、職権で、数人の成年後見人が、共同して又は事務を分掌して、その権限を行使すべきことを定めることができる
- 3項=第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足りる
複数いるときの調整を定めるのが、859条の2です。家庭裁判所は、数人の成年後見人が、共同して、または事務を分けて、権限を行使するよう、定めることができます。たとえば、財産の管理は弁護士、身の回りの契約は親族、という分け方です。第三者の意思表示は、その一人に対してすれば足ります。4項は、選ぶときに考えることです。本人の心身の状態、生活と財産の状況、候補者の職業と経歴、本人との利害関係の有無、そして、本人の意見。これらを含めて、一切の事情を考慮します。かっこ書きにあるとおり、候補者は、法人でもかまいません。欠格事由は、未成年後見人と同じ、847条です。未成年者、家庭裁判所で免ぜられた法定代理人など、破産者、本人に訴訟をした人など、行方の知れない人は、なれません。中身は、前の回で見た結論のままです。問いです。後見開始の審判をするとき、家庭裁判所は、成年後見人を選ぶのでしょうか?
職権で、必ず選びます。
職務その1 療養看護 858条
図:職務の2本柱
- 成年後見人の事務=①療養看護(858条)②財産の管理(859条)
- 療養看護=介護や看病に必要な法律行為
- 例=B(成年後見人)がA(本人)に代わって、C(施設)と入所契約を結ぶ
- 後見人が自分で介護・看病をする事実行為は、職務ではない
3つ目、職務です。成年後見人は、何をする人でしょうか。条文を読みます。
条文民法858条
民法第858条(成年被後見人の意思の尊重及び身上の配慮) 成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。
今日は、この条文を、事務の範囲の根拠として使います。生活、療養看護、財産の管理に関する事務。生活と療養看護は、どちらも本人の暮らしの面の事務で、ひとまとまりです。そこで、暮らしの面の代表として療養看護、もう1本を財産の管理として、職務の2本柱で見ます。意思を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮する、という部分は、次の回で、詳しく見ます。今日は、何をする仕事なのか、に絞ります。ここが、いちばん間違えやすいところです。療養看護とは、介護や看病に必要な、法律行為のことです。たとえば、老人ホームのような施設との入所契約。病院との入院契約。介護サービスの利用契約。本人に代わって、これらの契約を結ぶのが、後見人の仕事です。逆に、後見人が自分の手で、食事の世話をしたり、看病をしたりすることは、職務に含まれません。法律行為ではなく、事実としての行為だからです。冒頭の設例で確かめます。Aさんが施設に入るとき、入所契約は、BさんがAさんに代わって、施設のCさんと結びます。これが、療養看護にあたる仕事です。Bさんが毎日、施設に通って介護をするわけではありません。
契約や手続きを担う仕事だから、弁護士や司法書士のような専門職も、成年後見人になれます。問いです。成年後見人が、母の食事の世話をするのは、858条の療養看護にあたるでしょうか?あたりません。食事の世話は事実行為で、施設との契約が、後見人の職務です。
職務その2 財産管理と代理 853条・859条
図:就任後の流れ
- 選任 → 遅滞なく財産の調査に着手 → 1か月以内に調査を終えて目録を作る(家庭裁判所は期間を伸ばせる)→ 管理と代理(859条)
- 目録ができるまでは、急迫の必要がある行為だけ(854条)
職務の2本柱の、もう1本、財産の管理と代理です。始める前に、思い出してください。未成年後見人が未成年者の財産を管理する場面で、後見人と未成年者の利益が相反する行為は、どうするのでしたか?860条で826条を準用して、家庭裁判所に特別代理人を請求します。後見監督人がいれば、監督人が代表します。未成年後見の場面で見た条文を、今度は、大人の後見人の場面で使います。成年後見人が就任して、最初にやることは、管理ではなく、調査です。853条です。後見人は、遅滞なく、被後見人の財産の調査に着手します。そして、1か月以内に、調査を終えて、目録を作ります。この期間は、家庭裁判所が伸ばせます。目録ができるまでの間は、854条により、急迫の必要がある行為だけをする権限を持ちます。
引っ越しの前に、荷物のリストを作ることを、考えてください。何がどこにあるか分からないまま運ぶと、あとで物が無くなったとき、元から無かったのか、運ぶ途中で無くなったのか、確かめようがありません。後見も同じです。預かる財産の範囲を、最初に確定します。設例でいえば、Aさんの預金、年金、自宅の土地と建物の一覧です。そうしないと、管理の責任を測れません。
条文民法859条
民法第859条(財産の管理及び代表) 1 後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する。 2 第八百二十四条ただし書の規定は、前項の場合について準用する。
図:859条の中身
- 1項=財産を管理し、財産に関する法律行為について本人を代表する(包括的な法定代理)
- 2項=824条ただし書の準用=本人の行為を目的とする債務を生ずる場合は本人の同意が要る(例=本人を働き手とする雇用契約)
- 代理の対象外=遺言・婚姻のような本人の意思そのものによる行為
- 利益相反(外形で判断)=特別代理人(860条・826条の準用)
1項を、骨組みに分けます。後見人は、被後見人の財産を管理します。そして、その財産に関する法律行為について、被後見人を代表します。代表とは、本人に代わって契約などをして、その効果を本人のものにすることです。つまり、成年後見人は、成年被後見人の法定代理人です。しかも、この代理は、包括的です。預金の管理、不動産の管理、必要な契約。財産に関する法律行為について、広く、本人に代わって行えます。個別に委任状をもらうのではなく、条文が、代理権を与えています。2項は、824条ただし書の準用です。本人の行為を目的とする債務を生ずる場合には、本人の同意が要る、という前の回の結論が、ここにもかかります。たとえば、後見人が、本人を働き手として、ある会社と雇用の契約を結ぶ場合です。働くのは、本人の体です。本人の体を縛る約束は、後見人だけでは決められません。ここで要るのは、働く本人自身の同意で、このあと見る、後見人が本人の契約に与える同意とは、別の話です。ひとつ、確認します。遺言や婚姻のような、本人の意思そのものによるべき行為は、代理できません。代理の対象は、財産に関する法律行為です。利益相反のときの扱いを、ここでも使います。後見人が、本人の土地を、自分で買い取るような形のときは、外形で見て利益が相反します。外形で見るとは、後見人の動機や、実際に損か得かではなく、行為そのものの形で判断する、ということです。利益相反の回で見た基準です。買い手が後見人自身だと、本人のために値段を交渉する人がいません。だから、その行為だけ、別の人を、特別代理人に選びます。860条です。
前に、無権代理人が、のちに本人の成年後見人に就職した場合を見ました。後見人就職の回で使った条文が、まさに、この859条です。後見人は、本人の財産を管理し、代表する立場だからです。問いです。成年後見人は、成年被後見人の財産に関する法律行為を、どの立場で代理するでしょうか?法定代理人です。859条で、包括的に代表します。
未成年後見人と違う3点 ①同意権がない 9条
図:3点の違いの予告
- 成年後見人は、未成年後見人とほぼ同じ権限(財産の管理と代理)
- 財産の管理と代理で答案に効く違いは3点
- ①同意権がない(9条)②居住用不動産の処分は家庭裁判所の許可が要る(859条の3)③死後の事務は、範囲が限られる(873条の2)
成年後見人は、財産の管理と代理では、未成年後見人とほぼ同じ権限を持ちます。ただし、財産の管理と代理で答案に効く違いが、3点あります。この3点を、ひとまとめで覚えます。1つ目から、順に見ます。思い出してください。成年被後見人が、日用品の買い物のような日常生活の行為を単独でしたとき、取り消せるのでしたか?日用品の購入などは、取り消せません。9条のただし書です。それ以外の行為が、この先の話です。1つ目は、同意権です。未成年後見人は、未成年者の法律行為に同意する権限を持ちます。同意を得てした行為は、原則として取り消せません。5条です。では、成年後見人はどうか。9条です。成年被後見人の法律行為は、取り消すことができます。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為は、この限りではありません。
成年後見人が、あらかじめ同意していても、取り消せるのですか。取り消せます。事理を弁識する能力を欠く常況にある人は、同意を受けても、その内容どおりに行動できると、期待できないからです。同意する意味が、ありません。取り消せる人には、本人のほか、法定代理人である成年後見人も入ります。120条です。結論です。成年後見人の道具は、代理、取消し、追認です。同意だけが、ありません。もう1つ、付け加えます。婚姻や離婚、認知のような身分行為は、本人の意思によるべきものです。成年後見人の同意や代理は、問題になりません。問いです。成年後見人が同意した契約を、成年被後見人が結びました。取り消せるでしょうか?
取り消せます。同意の有無は関係ありません。
未成年後見人と違う3点 ②居住用不動産の処分 859条の3
図:自宅売却の図
- B(成年後見人)がA(本人)に代わって、D(買主)に自宅を売る
- E(家庭裁判所)の許可がある=有効
- 許可がない=無効
2つ目です。冒頭の問いに、戻ります。空き家になった母の自宅を、成年後見人の長男が、売れるか。まず、権限です。859条で、Bさんは、Aさんの財産を管理し、代理します。だから、売る権限そのものは、あります。ただし、です。条文を読みます。
条文民法859条の3
民法第859条の3(成年被後見人の居住用不動産の処分についての許可) 成年後見人は、成年被後見人に代わって、その居住の用に供する建物又はその敷地について、売却、賃貸、賃貸借の解除又は抵当権の設定その他これらに準ずる処分をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。
骨組みに分けます。主体は、成年後見人です。場面は、成年被後見人に代わって、処分する場合です。対象は、成年被後見人の居住の用に供する、建物またはその敷地です。行為は、売却、賃貸、賃貸借の解除、抵当権の設定、その他これらに準ずる処分です。そして、要件が、家庭裁判所の許可です。なぜ、住まいだけ、特別なのですか。ほかの財産と、何が違うのですか。住まいは、本人の生活の土台だからです。住み慣れた家を失うと、環境が一変し、本人の暮らしそのものが崩れかねません。預金の引き出しなら、あとで補えます。住まいは、戻すのが難しい。だから、後見人の判断だけで決めず、家庭裁判所のチェックを入れます。
Aさんは、もう施設にいて、家は空き家です。それでも、居住の用に供する建物ですか。当たります。居住の用に供するとは、現に住んでいる場合に限りません。入所の前に住んでいた建物や、将来、戻る可能性がある建物も含まれます。設例のAさんは、長年、その家で暮らしていました。空き家になっても、Aさんが住んでいた家です。対象です。反対に、Aさんが持っている貸しアパートで、Aさん自身は一度も住んだことがない建物なら、居住の用に供する建物ではありません。859条の3の許可の対象から、外れます。入所してから、どれだけ経つと対象でなくなるのか。その限界には、ここでは踏み込みません。住まいだった建物は、対象になる。ここまでを、押さえてください。賃貸の部屋に住んでいた場合も、同じです。施設に入るので賃貸借を解約する、という場面も、賃貸借の解除に当たります。許可が要ります。許可を得ずに処分したら、どうなるか。許可は、効力要件です。許可を欠く処分は、無効です。
条文に、基準は書かれていません。事情を見て決める、というところまで、言えます。たとえば、施設の費用の支払いに、売却が必要か。売る価格は適正か。本人の暮らしへの影響は。こうした点が、見られます。結論です。Bさんが、自分の判断で売ることは、できません。家庭裁判所の許可を得て、はじめて、有効に売れます。総務担当にたとえるなら、実印を預かっていても、住まいの売却だけは、裁判所の確認印が要る、ということです。契約と財産の担当者でも、暮らしの土台には、ブレーキがかかります。問いです。空き家になっている母の自宅の売却に、家庭裁判所の許可は、要るでしょうか?
要ります。母が住んでいた建物と敷地だからです。許可なく売ると、無効です。居住用不動産の処分は、論文でも論点になりうる箇所です。
未成年後見人と違う3点 ③死後の事務 873条の2
図:873条の2の構造
3つ目は、死んだあとの事務です。まず、原則から言います。本人が死亡すると、後見は終了します。成年後見人の代理権も、終わるのが原則です。それなら、亡くなった直後は、だれも動けなくなりませんか。そこが、問題です。相続人が、まだ財産を管理できない間に、施設の費用を払ったり、火葬を手配したり、傷んだ家を守ったりする人がいない、という空白が生じます。そこで、873条の2が、一定の行為に限って、成年後見人に権限を認めました。
条文民法873条の2
民法第873条の2(成年被後見人の死亡後の成年後見人の権限) 成年後見人は、成年被後見人が死亡した場合において、必要があるときは、成年被後見人の相続人の意思に反することが明らかなときを除き、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、次に掲げる行為をすることができる。ただし、第三号に掲げる行為をするには、家庭裁判所の許可を得なければならない。 一 相続財産に属する特定の財産の保存に必要な行為 二 相続財産に属する債務(弁済期が到来しているものに限る。)の弁済 三 その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結その他相続財産の保存に必要な行為(前二号に掲げる行為を除く。)
骨組みに分けます。要件は、成年被後見人が死亡したこと。必要があること。そして、相続人の意思に反することが明らかなときを除くこと。期間は、相続人が相続財産を管理することができるに至るまで、です。できる行為は、3つに限られます。1号は、相続財産に属する、特定の財産の保存に必要な行為。2号は、相続財産に属する債務で、弁済期が到来しているものの弁済。3号は、火葬または埋葬に関する契約の締結、その他、相続財産の保存に必要な行為で、前の2つを除くものです。許可が要るのは、3号だけです。1号の保存と、2号の期限が来た支払いは、だれが相続人でも、いずれしなければならないことです。3号は、火葬や埋葬のほか、その他の相続財産の保存に必要な行為も含む受け皿です。1号と2号ほど、中身が決まっていません。相続人の考えと食い違うおそれもあります。だから、家庭裁判所が確かめる仕組みです。設例を、進めます。Aさんが、亡くなりました。施設の利用料に、未払い分があります。すでに、弁済期が来ています。これを払うのは、2号です。許可は要りません。ただし、そのために本人名義の預貯金を払い戻すときは、家庭裁判所の許可が要る扱い、3号になります。次に、火葬の契約を結ぶ場合です。3号です。家庭裁判所の許可が要ります。最後に、空き家の屋根が壊れて、雨漏りがしているとします。応急の修理は、財産の保存に必要な行為ですから、1号です。
遺産を分けることも、家を売ることも、できません。財産は、Aさんが亡くなった時点で、相続人のものになっています。分け方や、売るかどうかを決めるのは、相続人です。後見人に残るのは、相続人が来るまでの、保存、弁済、火葬や埋葬の契約だけです。閉店後の店で、店じまいの応急対応だけを任された人、と考えてください。未成年後見人には、この規定はありません。成年後見人だけに認められた、死後の権限です。問いです。本人の死亡後、成年後見人は、施設の未払い費用を払えるでしょうか。火葬の契約は、結べるでしょうか?未払い費用は、2号で、許可なしで払えます。火葬の契約は、3号で、家庭裁判所の許可が要ります。
今日の地図(保存版)
図:冒頭の答えと3点の違い
- 答え=Bは自分の判断では売れない(売る権限はあるが、居住の用に供する建物・敷地の処分は家庭裁判所の許可が要る。859条の3)
- ①開始と同時に必ず選任(843条)②職務=療養看護(施設や病院との契約)と財産管理・包括的な代理(858条・859条)③3点の違い=同意権なし(9条)/居住用不動産は許可(859条の3)/死後の事務は限られる(873条の2・3号のみ許可)
最後にまとめます。まず、冒頭の答えです。Bさんは、空き家になった母の自宅を、自分の判断では売れません。売る権限はありますが、居住の用に供する建物と敷地の処分には、家庭裁判所の許可が要ります。859条の3です。許可なく売れば、無効です。確認は、3つです。1つ目。後見開始の審判をするとき、家庭裁判所は、職権で、必ず成年後見人を選びます。843条です。2つ目。職務の2本柱は、療養看護と、財産管理・代理です。療養看護は、介護そのものではなく、施設や病院との契約などの法律行為です。財産の管理と代理は、859条により、法定代理人として包括的に行います。3つ目。財産の管理と代理で答案に効く、未成年後見人との違い3点です。同意権はなく、取り消せます。居住用不動産の処分には、家庭裁判所の許可が要ります。死後の事務は、保存、弁済、火葬などに限られ、3号だけ許可が要ります。
契約と財産の担当者だけど、住まいと、死んだあとは、別枠なのですね。次の回では、714条の回で見た、認知症の人の線路の事故を、成年後見人の側から見直します。同居して母の世話をする成年後見人が、母の起こした事故の責任を負うのか、です。
参照条文
- 民法843条
- 民法858条
- 民法859条
- 民法859条の3
- 民法873条の2