保佐人・補助人の職務
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第7章 親族 #348/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
父の自宅を、保佐人は取り消せるのか、売れるのか
図:冒頭の設例
- A(父・被保佐人)は、保佐開始の審判を受けている
- B(長男・保佐人)は家庭裁判所Dに選ばれた
- ある日、AはBに黙って、自宅をC(知人)に売ってしまった
- 問い=①Bはこの売買を取り消せるのか ②Bが、Aに代わって自宅を売りたいときは、何が要るのか
設例です。認知症の入り口と診断されたAさんは、保佐開始の審判を受けました。家庭裁判所は、長男のBさんを、保佐人に選んでいます。ある日、Aさんは、Bさんに黙って、長年住んだ自宅を、知人のCさんに売ってしまいました。今日の問いは2つです。1つ目。Bさんは、この売買を取り消せるのでしょうか。2つ目。反対に、BさんがAさんに代わって、自宅を売りたいときは、何が要るのでしょうか。1つ目の見立ては、当たっています。2つ目の見立ては、外れます。取り消せることと、代わって売れることは、別の話です。この差が、今日の中心です。答えは、後半で確かめます。前の回の終わりに、問いを残しました。保佐人や補助人は、同意権や代理権を持つのか、でした。今日は、その答えを出します。
図:今日の地図
- ①保佐・補助の開始と選任②保佐人の同意権と取消権③保佐人の代理権(冒頭の答え)④利益相反と臨時保佐人⑤補助人の職務⑥監督人⑦成年後見人・保佐人・補助人の比較表
- 核心の1行=守る側の道具の量は、家庭裁判所が決める
今日の地図です。まず、保佐と補助が始まるときの手順と、人の選ばれ方。次に、保佐人の道具を、同意権と取消権、それから代理権の順に見ます。そのあと、利益がぶつかる場面、補助人の道具、見張る役の順に進み、最後に、成年後見人、保佐人、補助人を、1枚の表に並べます。核心を、先に1行で言います。守る側の道具の量は、家庭裁判所が決めます。工具箱にたとえます。成年後見人は、工具箱ごと渡されます。保佐人は、止める道具が入った箱を渡され、代わりにやる道具は、申請して足してもらいます。補助人は、空の箱から始まり、必要な工具だけを、裁判所が入れていきます。この見方で、最後まで通します。
保佐・補助の開始と選任 876条の2第1項・876条の7第1項
図:開始と選任の流れ
- 保佐=事理を弁識する能力が著しく不十分(11条)/補助=不十分(15条1項)
- 請求権者の請求→家庭裁判所Dの審判→審判と同時に、職権で保佐人(補助人)を選任
- 審判の記録は後見登記等ファイル(法務局)
- 本人の同意=補助は本人以外の請求のとき(15条2項)、保佐の開始には要らない
1つ目、開始と選任です。開始の要件は、被保佐人と被補助人の回で見ています。ここでは、結論だけ思い出します。保佐は、精神上の障害により、事理を弁識する能力が著しく不十分な人が対象です。11条です。補助は、不十分な人が対象です。15条1項です。どちらも、請求を受けて、家庭裁判所が審判をします。本人の同意が要るかどうかも、ここで整理します。補助の開始は、本人以外の人が請求するとき、本人の同意が要ります。15条2項です。保佐の開始には、同意の要件が書かれていません。戸籍ではなく、後見登記等ファイルに記録されます。管轄は法務局です。外から見える札、と呼んできたものです。保佐も補助も、成年後見と同じ札の仕組みです。さて、開始のあと、守る人を、だれが、どう決めるのか。条文です。
条文民法876条の2第1項・第2項
民法第876条の2(保佐人及び臨時保佐人の選任等) 1 家庭裁判所は、保佐開始の審判をするときは、職権で、保佐人を選任する。 2 第八百四十三条第二項から第四項まで及び第八百四十四条から第八百四十七条までの規定は、保佐人について準用する。
1項です。家庭裁判所は、保佐開始の審判をするときは、職権で、保佐人を選任します。職権とは、だれの請求がなくても、裁判所が自分から動く、ということです。条文の番号に、注意してください。成年後見人の選任は843条でした。保佐人は876条の2、補助人は876条の7です。似た制度なのに、条文の番号が違います。同じ内容が、保佐の側、補助の側に、それぞれ置かれているからです。未成年後見は、請求がなければ、席が空くことがありました。保佐も補助も、成年後見と同じです。審判と同時に、必ず席が埋まります。本人の判断力が落ちているので、守る人が決まらない時間を、作らないためです。2項は、準用です。成年後見の規定を、借りてきます。843条の2項から4項、つまり、欠けたときの選任、複数の選任、法人の選任、選ぶときに考えることです。そして、844条から847条、つまり辞任、解任、そして欠格です。欠格の中身は、847条のとおりです。未成年者、法定代理人や保佐人、補助人の役を、家庭裁判所で免ぜられたことのある人、破産者、本人に訴訟をした人、行方の知れない人は、なれません。結論は、前に見たとおりです。複数の人を選ぶことも、法人を選ぶことも、できます。補助人も、同じです。876条の7の1項で、職権で選任します。2項で、同じ規定を準用します。この条文は、補助人の説明のところで、全文を読みます。ここで、法定後見という言葉を、1つ入れます。後見、保佐、補助の3つをまとめて、法定後見と呼びます。条文の言葉ではなく、通称です。3つとも、本人の判断力が落ちたあとに、家庭裁判所の審判で始まる点が共通です。本人が元気なうちに、自分で任せる人を決めておく仕組みと、区別するための名前です。
問いです。保佐開始の審判をするとき、家庭裁判所は、保佐人を選ぶのでしょうか?職権で、必ず選びます。
保佐人の同意権と取消権 13条・120条
図:保佐人の同意を要する行為
- 13条1項=十個のリスト(元本の領収・借財や保証・不動産その他重要な財産の売買など・訴訟行為・贈与や和解・相続の承認や放棄・新築や大修繕など・長期の賃貸借)
- 三号=不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為
- 13条2項=リストの外へ広げる
- 日用品の購入など日常生活に関する行為は、除く
2つ目、保佐人の同意権と取消権です。始める前に、思い出してください。被保佐人が、日用品の買い物のような日常生活の行為を、単独でしたとき、取り消せるのでしたか?取り消せません。日用品の購入その他日常生活に関する行為は、除かれていました。では、それ以外はどうなるのか。13条の1項に、十個のリストがあります。借金や保証、不動産の売買、訴訟、贈与、相続の承認や放棄、新築や大修繕などです。リストの中身は、被保佐人の回で、全文を読んでいます。今日は、番号を引くだけにします。冒頭の設例です。自宅の売却は、3号にあたります。不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為、です。つまり、Aさんが自宅を売るには、保佐人Bさんの同意が要ります。Aさんは、Bさんに黙って売りました。同意がありません。ここで、13条の2項から4項を読みます。
条文民法13条2項〜4項
民法第13条(保佐人の同意を要する行為等) 2 家庭裁判所は、第十一条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求により、被保佐人が前項各号に掲げる行為以外の行為をする場合であってもその保佐人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、第九条ただし書に規定する行為については、この限りでない。 3 保佐人の同意を得なければならない行為について、保佐人が被保佐人の利益を害するおそれがないにもかかわらず同意をしないときは、家庭裁判所は、被保佐人の請求により、保佐人の同意に代わる許可を与えることができる。 4 保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。
2項です。十個のリストの外の行為についても、家庭裁判所は、同意を要する旨の審判ができます。請求するのは、11条の請求権者や、保佐人、保佐監督人です。リストの外へ、広げられます。ただし、日用品の購入などは、広げても対象になりません。13条2項には、本人の同意の要件が書かれていません。条文にある要件だけを言えば、請求する人と、家庭裁判所の審判です。本人の同意が条文に出てくる場面は、あとで整理します。3項は、保佐人が反対するときです。たとえば、Aさんが、生活費のために必要な不動産の売却をしたいのに、Bさんが、理由なく反対している場合です。Aさんの利益を害するおそれがないのに同意しないなら、Aさんの請求で、家庭裁判所が、同意に代わる許可を出せます。保佐人が絶対のブレーキにならないための、逃がし弁です。4項が、結論です。同意も、代わる許可も得ずにした行為は、取り消せます。取り消せる人は、120条1項です。制限行為能力者本人、その代理人、承継人、そして、同意をすることができる者です。つまり、被保佐人のAさん自身も、同意をする立場の保佐人Bさんも、取り消せます。
取り消さずに認めることも、できます。取り消せる行為を、あとから確定させるのが、追認です。同意をする立場の保佐人にも、追認ができます。つまり、保佐人の手元には、同意権、取消権、追認権があります。冒頭の1つ目の答えです。AさんはBさんの同意なく、自宅を売りました。13条4項により、Bさんは、この売買を取り消せます。同意を得て売ったなら、取り消せません。同意のブレーキを踏んだ上で、本人が決めた、ということになるからです。問いです。保佐人の同意なく、被保佐人が自宅を売りました。取り消せるのは、だれでしょうか?
被保佐人本人も、保佐人も、取り消せます。
保佐人の代理権 876条の4・876条の5
図:冒頭の答えの分岐
- 取り消す=同意権・取消権(13条4項)
- 代わって売る=代理権付与の審判(876条の4)が要る
- D(家庭裁判所)が、特定の法律行為(自宅の売却)について、B(保佐人)に代理権を付与
- 本人以外の請求なら、Aの同意が要る
3つ目、保佐人の代理権です。冒頭の2つ目の問いに、答えます。BさんがAさんに代わって、自宅を売れるのか。結論から言います。保佐人は、当然には、代理権を持ちません。同意権、取消権、追認権、代理権の四つの道具のうち、代理権だけは、最初から付いていません。成年後見人は、859条で、包括的な代理権を持ちます。保佐人には、それに当たる条文がありません。同意権でブレーキは踏める。けれども、本人に代わって、運転することは、できない。同意権は信号機、代理権は運転代行、と考えてください。では、代わって売るには、どうするのか。876条の4です。家庭裁判所は、請求により、被保佐人のために、特定の法律行為について、保佐人に代理権を付与する旨の審判ができます。請求するのは、11条の請求権者や、保佐人、保佐監督人です。大事な点が2つあります。1つ目。代理権は、特定の法律行為ごとに付けます。「自宅を売る」ことについて、というように、決めます。2つ目。本人以外の人が請求するときは、本人の同意が要ります。条文は、876条の4の2項です。設例でいえば、Bさんが、「Aの自宅を売る」ことについて、代理権付与を請求します。Bさんは、本人ではありません。だから、Aさんの同意が要ります。同意と審判がそろって、はじめて、Bさんは、Aさんに代わって、自宅を売れます。
手間をかけるのが、保佐の考え方です。被保佐人は、判断力が著しく不十分でも、原則として、自分で決められる人です。だから、本人に代わって決める権限は、必要な範囲だけ、本人の同意を得て与えます。ここで、保佐人の事務の条文を読みます。
条文民法876条の5第1項・第2項
民法第876条の5(保佐の事務及び保佐人の任務の終了等) 1 保佐人は、保佐の事務を行うに当たっては、被保佐人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない。 2 第六百四十四条、第八百五十九条の二、第八百五十九条の三、第八百六十一条第二項、第八百六十二条及び第八百六十三条の規定は保佐の事務について、第八百二十四条ただし書の規定は保佐人が前条第一項の代理権を付与する旨の審判に基づき被保佐人を代表する場合について準用する。
図:保佐人の事務と、居住用の自宅
- 876条の5第1項=被保佐人の意思を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮する(858条と同じ型)
- 2項の準用の主な3つ=644条(善良な管理者の注意)・859条の2(複数の保佐人の調整)・859条の3(居住用不動産の処分の許可)
- A自身がBの同意を得て売る=13条の問題・許可は要らない/Bが代理権で代わって売る=居住用なら家庭裁判所の許可が要る
1項です。保佐人は、被保佐人の意思を尊重し、心身の状態と生活の状況に配慮します。成年後見人の858条と、同じ型です。2項は、準用です。一覧が長いので、主なものを3つに絞ります。1つ目。644条、善良な管理者の注意です。保佐人は、自分の物を扱う以上の注意で、事務を行います。2つ目。859条の2、複数の保佐人がいるときの調整です。3つ目。859条の3、居住用不動産の処分の許可です。一覧の全部を、暗記する必要はありません。成年後見の規定を借りてくる、という型を、押さえてください。設例に、戻ります。代理権を得たBさんが、自宅を売るとき、その自宅がAさんの居住の用に供する建物と敷地なら、成年後見人の回で、条文全文を読んだ、859条の3が準用されます。家庭裁判所の許可が、さらに要ります。住まいは、暮らしの土台だからです。
同意で売るか、代理で売るかで、許可の要不要は変わります。ここが、実益のある区別です。Aさん自身が、Bさんの同意を得て売る場合は、13条の問題です。同意で足ります。家庭裁判所の許可は、要りません。決めているのが、Aさん自身だからです。許可は、本人に代わって決める人の手を、裁判所が確かめるための仕組みです。だから、許可が要るのは、保佐人が代わって売る場合だけです。冒頭の答えを、確定します。①Bさんは、同意なく売った契約を、取り消せます。同意権と取消権の話です。②Bさんが代わって売るには、代理権付与の審判を受けます。Aさんの同意が要ります。居住用の自宅なら、さらに、家庭裁判所の許可が要ります。同意権で取り消せることと、代理権がなければ売れないこと。この使い分けは、論文でも論点になりうる箇所です。問いです。保佐人は、被保佐人の自宅を、代わって売れるでしょうか?
当然には売れません。代理権付与の審判を受ければ売れます。居住用なら、家庭裁判所の許可も要ります。
利益相反と臨時保佐人 876条の2第3項
図:利益相反の図
- B(保佐人)が、A(被保佐人)の土地を、自分で買い取りたい
- AとBの利益がぶつかる
- D(家庭裁判所)が臨時保佐人を選任する
- 保佐監督人がいる場合は、臨時保佐人は不要
- 名称の違い=親権・後見=特別代理人/保佐=臨時保佐人/補助=臨時補助人
4つ目、利益がぶつかる場面です。始める前に、思い出してください。未成年後見で、後見人と未成年者の利益がぶつかる行為は、どうするのでしたか?特別代理人です。家庭裁判所に選んでもらって、その行為だけ、判断を引き受けてもらいます。後見監督人がいれば、監督人が代表します。では、保佐の場合は、どうなるか。設例を変えます。保佐人のBさんが、被保佐人のAさんの土地を、自分で買い取りたいと考えました。Aさんの得が、Bさんの損になります。Aさんのために値段を交渉する人が、いません。
条文民法876条の2第3項
民法第876条の2(保佐人及び臨時保佐人の選任等) 3 保佐人又はその代表する者と被保佐人との利益が相反する行為については、保佐人は、臨時保佐人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、保佐監督人がある場合は、この限りでない。
呼び方が、変わります。親権や後見では、特別代理人でした。保佐では、臨時保佐人です。補助では、臨時補助人です。型は同じで、名前だけが違います。特別代理人ではなく臨時保佐人と呼ぶのは、保佐人の主な仕事が、代理ではなく、同意だからです。利益がぶつかる行為では、代理だけでなく、同意の場面も、問題になります。代理人というより、保佐人の役目を臨時に引き受ける人、という名前のほうが、実態に合います。監督人がいれば、不要という点は、成年後見監督人の回で見た、後見の860条と同じ型です。すでに見張る役がいるなら、その人が、判断を引き受けます。わざわざ、臨時の人を選ぶ必要はありません。設例では、保佐監督人がいなければ、Bさんは、臨時保佐人の選任を請求しなければなりません。臨時保佐人がAさんの側に立って、売買に関わります。問いです。保佐人と被保佐人の利益がぶつかる行為で、選ばれるのは特別代理人でしょうか?
違います。臨時保佐人です。保佐監督人がいれば、不要です。
補助人の職務 17条・15条3項・876条の7・876条の9
図:補助人の三つの審判
- ①補助開始の審判(15条)②同意を要する旨の審判(17条1項・十個の一部に限る=内から選ぶ)③代理権付与の審判(876条の9第1項)
- 保佐=外へ広げる/補助=内から選ぶ
- 代理権だけの補助人=取消権はない
5つ目、補助人の職務です。補助人は、保佐人より、さらに軽い立場です。最初の状態から、確認します。補助人は、当然には、同意権も代理権も、持ちません。空の工具箱から始まります。道具を入れるのは、家庭裁判所の審判です。同意権から見ます。17条1項です。家庭裁判所は、請求により、被補助人が特定の法律行為をするには、補助人の同意を得なければならない旨の審判ができます。請求するのは、15条1項本文の請求権者や、補助人、補助監督人です。ただし書が、肝心です。同意の対象にできるのは、13条1項に規定する行為の一部に限られます。十個のリストの中から、選ぶのです。保佐の13条2項は、リストの外へ広げられました。補助は、リストの内から選ぶ。向きが、逆です。
具体例で言います。被補助人のEさんが、不動産の売買と、借金だけは、補助人の同意が必要な状態に置かれたとします。十個のうち、2つだけを選んだ形です。同じ十個に入っている贈与や訴訟でも、選ばなかったものは、Eさんが単独でできます。選ばなかった行為には、補助人の関与がありません。本人以外の請求なら、本人の同意が要ります。17条2項です。同意に代わる許可は3項、同意なしの行為が取り消せるのは4項です。保佐の13条と、同じ型です。次に、代理権です。876条の9の1項です。家庭裁判所は、請求により、被補助人のために、特定の法律行為について、補助人に代理権を付与する旨の審判ができます。2項で、876条の4の2項と3項を準用します。つまり、本人以外の請求なら、本人の同意が要ります。ここで、注意が1つあります。代理権だけを付けられた補助人には、取消権がありません。取り消せるのは、同意を要する行為を、同意なしにした場合だからです。同意権を付けた補助人だけが、取消権を持ちます。
図:補助人の工具箱の決まり方
- 15条3項=補助開始の審判は、同意を要する旨の審判(17条1項)か、代理権付与の審判(876条の9第1項)とともにする=少なくとも1つは必ず入る(両方もある)
- 本人の同意が要る場所=補助は3か所(15条2項・17条2項・876条の9第2項)/保佐は1か所(876条の4第2項)
補助人の工具箱は、こう決まります。15条3項です。補助開始の審判は、17条1項の審判、または876条の9第1項の審判と、ともにしなければなりません。両方を持つこともあります。空の箱で始まる、と言いましたが、審判が出る時点では、少なくとも1つ、道具が入っています。問いです。補助人が、同意権も代理権も、持たない状態は、ありうるのでしょうか?ありえません。15条3項で、どちらか一方は必ず持ちます。本人の同意が要る場所も、補助の側で、まとめます。補助は、3か所です。補助開始の審判を、本人以外が請求するとき。同意を要する旨の審判を、本人以外が請求するとき。代理権付与の審判を、本人以外が請求するとき。15条2項、17条2項、876条の9第2項です。保佐は、13条2項に同意の要件がなく、876条の4の2項だけです。理由は、補助が、判断力の衰えがいちばん軽い人の制度だからです。自分で決められる範囲が広いので、制限するのは、本人が納得した行為だけにします。十個の内から選ぶことも、3か所で本人の同意を取ることも、ここから来ています。補助人の選任と、利益相反の条文を、読みます。
条文民法876条の7
民法第876条の7(補助人及び臨時補助人の選任等) 1 家庭裁判所は、補助開始の審判をするときは、職権で、補助人を選任する。 2 第八百四十三条第二項から第四項まで及び第八百四十四条から第八百四十七条までの規定は、補助人について準用する。 3 補助人又はその代表する者と被補助人との利益が相反する行為については、補助人は、臨時補助人の選任を家庭裁判所に請求しなければならない。ただし、補助監督人がある場合は、この限りでない。
1項は、職権での選任です。2項は、843条の2項から4項、844条から847条の準用です。3項は、利益相反のとき、臨時補助人を請求する義務で、補助監督人がいれば不要です。気づいたでしょうか。保佐の876条の2と、ほぼ同じ文言です。保佐人を補助人に、被保佐人を被補助人に、臨時保佐人を臨時補助人に、読み替えた形です。保佐で覚えたことが、そのまま補助にも使えます。事務の細かい決まりは、なお、876条の10に置かれています。善良な管理者の注意、居住用不動産の許可など、準用の一覧は、保佐と同じ型です。意思の尊重と配慮の義務も、準用されています。補助人に代理権があるなら、居住用不動産の処分に許可が要る点も、同じです。
保佐監督人・補助監督人 876条の3・876条の8
図:監督人の位置づけ
- 保佐監督人(876条の3)・補助監督人(876条の8)=家庭裁判所が、必要があると認めるときに選任(被保佐人・親族・保佐人の請求、または職権)
- 職務は後見監督人の規定を準用(851条)
- 保佐監督人=被保佐人を代表し、又は被保佐人がこれをすることに同意する(利益相反の場面)
6つ目、見張る役です。成年後見監督人の回を、思い出してください。見張る役は、必ず付くのでしたか?必ずは付きません。必要があると認めるときに、選ばれます。保佐も、補助も、同じです。876条の3の1項です。家庭裁判所は、必要があると認めるときは、被保佐人、その親族、もしくは保佐人の請求により、または職権で、保佐監督人を選任できます。補助は、876条の8の1項で、補助監督人です。職務は、後見監督人の規定の準用です。見張る役の仕事は、851条で見ました。保佐人の事務を監督する。保佐人が欠けたら、後任の選任を請求する。急迫の事情があれば、必要な処分をする。利益がぶつかる行為で、本人を代表する。この型を、借りてきます。1点だけ、読み替えがあります。851条の4号は、利益相反の行為で、本人を代表する、という内容でした。保佐では、「被保佐人を代表し、又は被保佐人がこれをすることに同意する」と読み替えます。補助では、被補助人です。
「同意する」という言葉も、読み替えに入ります。保佐人の主な仕事は同意でした。利益がぶつかる行為では、代表するだけでなく、同意する形でも、保佐監督人が、判断を引き受けます。設例で言えば、Bさんが、Aさんの土地を買う場面です。保佐監督人がいれば、臨時保佐人は選ばれず、保佐監督人が、Aさんの側に立ちます。
比較表の完成 成年後見人・保佐人・補助人
図:比較表
- 成年後見人
- 保佐人
- 補助人
- ①選ばれ方=開始の審判と同時に職権で必ず(3者とも)②代理権=当然に包括的
- 審判で特定の行為
- 審判で特定の行為③同意権=なし
- 十個+審判で外へ広げる
- 審判で十個の内から選ぶ④取消権=本人の行為を取り消せる(9条)
- 同意の対象の行為
- 同意の対象の行為⑤本人の同意が要る場所=要らない
- 代理権付与の審判(本人以外の請求)
- 開始・同意権・代理権(本人以外の請求)⑥利益相反=特別代理人
- 臨時保佐人
- 臨時補助人⑦見張る人=成年後見監督人
- 保佐監督人
- 補助監督人。
最後に、1枚の表にまとめます。前の回の表は、親権者、未成年後見人、成年後見人の表でした。あの表には、保佐人と補助人は載せませんでした。今回は、別の表です。成年後見人、保佐人、補助人の、3人を並べます。1行目、選ばれ方です。3人とも、開始の審判と同時に、家庭裁判所が、職権で必ず選びます。2行目、代理権です。成年後見人は、当然に、包括的に持ちます。保佐人と補助人は、審判で付けられた特定の行為だけです。3行目、同意権です。成年後見人には、ありません。成年被後見人は、同意を得ても、そのとおりに行動できるとは限らないからです。成年被後見人の回で見た理由です。保佐人は、十個のリストについてあり、審判で外へ広げられます。補助人は、審判で選んだ行為についてだけです。十個の内から選びます。4行目、取消権です。成年後見人は、本人の行為を、取り消せます。保佐人と補助人は、同意の対象になった行為を、同意なしにされたときに、取り消せます。5行目、本人の同意が要る場所です。成年後見は、要りません。保佐は、代理権を付ける審判を、本人以外が請求するときです。補助は、開始、同意権、代理権の3か所で、いずれも本人以外が請求するときです。6行目、利益相反です。後見は特別代理人、保佐は臨時保佐人、補助は臨時補助人です。いずれも、監督人がいれば不要です。7行目、見張る人は、それぞれの監督人で、必要があるときに付きます。
本人の側は、逆の向きです。成年被後見人は、原則ぜんぶ制限されます。被保佐人と被補助人は、原則ぜんぶ自由で、リストの行為だけが制限されます。守る側の道具の量は、その逆で、成年後見人が最も多く、補助人が最も少ない。本人の自由が大きいほど、守る側の道具は、少なくなります。後見の制度を見直す改正法は、すでに成立していて、まだ施行されていません。成年後見監督人の回の最後で見た、あの改正法です。試験の基準は、施行されているかどうかで決まります。施行されるまでは、今日見た現行の条文で学びます。保佐と補助にどう響くかは、次の回で見ます。問いです。保佐人の同意権と、補助人の同意権では、同意の対象にできる行為の範囲が、どう違うでしょうか?
保佐は、十個のリストに加えて、審判で外へ広げられます。補助は、十個の内から、選ぶだけです。
今日の地図(保存版)
図:冒頭の答えと比較表の要点
- 答え=①同意なく自宅を売った被保佐人の売買は、保佐人が取り消せる(13条4項・120条1項)②保佐人が代わって売るには、代理権付与の審判(876条の4・本人の同意)が要る
- 居住用ならさらに家庭裁判所の許可
- 要点=開始と同時に職権で必ず選任/保佐人は同意・取消し・追認は持ち、代理は審判/補助人は審判で入れた分だけ/利益相反は臨時保佐人・臨時補助人/監督人は必要があるとき
まとめます。まず、冒頭の答えです。Bさんは、Aさんが黙って売った自宅の売買を、取り消せます。同意権と取消権があるからです。13条4項と、120条1項です。ただし、Bさんが、Aさんに代わって売ることは、当然にはできません。保佐人は、代理権を持たないからです。代わって売るには、家庭裁判所の、代理権付与の審判が要ります。Aさんの同意も要ります。876条の4です。居住用の自宅なら、さらに、家庭裁判所の許可が要ります。確認は、4つです。1つ目。保佐開始と補助開始の審判をするとき、家庭裁判所は、職権で、保佐人と補助人を必ず選びます。876条の2と、876条の7です。2つ目。保佐人は、同意権、取消権、追認権を持ち、代理権は、審判で付けて、はじめて持ちます。補助人は、空の箱から始まり、審判で入れた分だけを持ちます。15条3項で、同意権か代理権の、どちらかは必ず持ちます。3つ目。利益相反のときは、特別代理人ではなく、臨時保佐人、臨時補助人です。監督人がいれば、不要です。4つ目。保佐監督人と補助監督人は、必要があるときに選ばれ、職務は、後見監督人の型です。
保佐も補助も、法定後見です。本人の判断力が落ちたあとに、家庭裁判所が決める制度です。では、落ちる前に、自分で任せる人を決めておく方法は、あるのでしょうか。次の回で、見ます。
参照条文
- 民法876条の2第1項・第2項
- 民法13条2項〜4項
- 民法876条の5第1項・第2項
- 民法876条の2第3項
- 民法876条の7