民法ゼロから民法#363

寄与分と904条の3(10年)

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第8章 相続 #363/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

20年間無給で働いた長男、2,250万円ずつで公平か

冒頭の設例。A(父・死亡・遺産は預金や店の土地建物など合わせて4,500万円)、B(長男・20年間、無給で父の店を手伝い売上げを伸ばした)、C(次男・家を出て一度も手伝っていない)。問い=2,250万円ずつ分けるのは公平か。 図:冒頭の設例

  • A(父・死亡・遺産は預金や店の土地建物など合わせて4,500万円)、B(長男・20年間、無給で父の店を手伝い売上げを伸ばした)、C(次男・家を出て一度も手伝っていない)
  • 問い=2,250万円ずつ分けるのは公平か

設例です。父が亡くなりました。母は、すでに亡くなっています。相続人は、子の2人、長男と次男です。長男は、20年間、給料をもらわずに、父の店を手伝ってきました。そのおかげで、店の売上げは伸びました。次男は、家を出て、一度も手伝っていません。遺産は、預金や店の土地建物などを合わせて、4,500万円です。これを、2,250万円ずつ分けるのは、公平でしょうか。半分ずつで済ませてよいのか、という長男側の引っかかりが、今日の主題です。先に筋だけ言います。相続人の中に、被相続人の財産を守ったり増やしたりするのに、特別に貢献した人がいるときは、その貢献を計算に入れます。これを寄与分と呼びます。金額は、道筋を通ったあとで出します。

地図。相続分の3つ目(具体的相続分)の仕上げ。①寄与分とは何か・認められる条件②どう決まるか(協議→家庭裁判所)③計算(特別受益と両方あるとき)④10年たつと(904条の3)⑤具体的相続分とは結局何か(確認の訴えは不適法)。 図:地図

  • 相続分の3つ目(具体的相続分)の仕上げ
  • ①寄与分とは何か・認められる条件②どう決まるか(協議→家庭裁判所)③計算(特別受益と両方あるとき)④10年たつと(904条の3)⑤具体的相続分とは結局何か(確認の訴えは不適法)

前々回、特別受益の計算を見ました。そのとき、3つ目の相続分は、贈与や遺贈と、被相続人への貢献を考えて調整した取り分だと言いました。贈与と遺贈の側は、前々回と前回で見ました。今日は、貢献の側です。道筋は5つです。1つ目、寄与分とは何か、どういう条件で認められるのか。2つ目、どうやって決まるか。3つ目、計算です。特別受益があるときも含めて、数字で見ます。4つ目、遺産分割を放っておいて、10年たつとどうなるか。5つ目、これまで物差しと呼んできた具体的相続分は、結局、何者なのか。今日で、3つ目の相続分の話は、いったん仕上がります。

寄与分とは何か、特別の寄与

寄与分の3点セットと態様4つ。①共同相続人であること②特別の寄与=無償・身分関係から通常期待される程度を超える③被相続人の財産の維持または増加。態様=事業に関する労務の提供/財産上の給付/療養看護/その他の方法。 図:寄与分の3点セットと態様4つ

  • ①共同相続人であること②特別の寄与=無償・身分関係から通常期待される程度を超える③被相続人の財産の維持または増加
  • 態様=事業に関する労務の提供/財産上の給付/療養看護/その他の方法

まず条文です。904条の2の、1項から4項までを読みます。今日は、ここが中心です。

条文民法904条の2

民法 第九百四条の二(寄与分) 1項 共同相続人中に、被相続人の事業に関する労務の提供又は財産上の給付、被相続人の療養看護その他の方法により被相続人の財産の維持又は増加について特別の寄与をした者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から共同相続人の協議で定めたその者の寄与分を控除したものを相続財産とみなし、第九百条から第九百二条までの規定により算定した相続分に寄与分を加えた額をもってその者の相続分とする。 2項 前項の協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、家庭裁判所は、同項に規定する寄与をした者の請求により、寄与の時期、方法及び程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮して、寄与分を定める。 3項 寄与分は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額から遺贈の価額を控除した残額を超えることができない。 4項 第二項の請求は、第九百七条第二項の規定による請求があった場合又は第九百十条に規定する場合にすることができる。

1項の前半が、誰に寄与分が認められるかです。条件を3つに分けます。1つ目、共同相続人であること。条文は、共同相続人中に、と書いています。2つ目、特別の寄与をしたこと。3つ目、その寄与によって、被相続人の財産が、維持または増加したこと。つまり、貢献と財産の維持や増加の間に、結びつきが要ります。貢献のしかたは、条文が例を挙げています。被相続人の事業に関する労務の提供。家業を手伝うような場合です。財産上の給付。事業の資金を出すような場合です。被相続人の療養看護。そして、その他の方法。財産の管理や、扶養などが入ります。条文が挙げているのは、この4つです。

頑張ったというだけでは足りません。寄与分は、がんばりへのご褒美ではありません。財産が減らずに済んだ、あるいは増えた、という結果に、その貢献が結びついているかを見ます。たとえば、長男が無給で働いたおかげで、店は人を雇わずに済み、売上げが伸びた。これなら、財産の増加に結びつきます。看護なら、付き添いの人を雇う代わりに家族が看た、というように、財産が減るのを防いだ、と見られる場面がそうです。

特別の寄与の2つの要素。①無償(貢献に見合う対価・報酬を受けていない)②身分関係から通常期待される程度を超える。通常の範囲=夫婦の協力扶助(752条)・直系血族と兄弟姉妹の扶養(877条1項)の範囲内→寄与分にならない。 図:特別の寄与の2つの要素

  • ①無償(貢献に見合う対価・報酬を受けていない)②身分関係から通常期待される程度を超える
  • 通常の範囲=夫婦の協力扶助(752条)・直系血族と兄弟姉妹の扶養(877条1項)の範囲内→寄与分にならない

そして、3点セットの中で、いちばん大事なのが、特別の寄与の意味です。2つの要素があります。1つ目は、無償であること。その貢献に見合う対価や報酬を、受け取っていない、ということです。2つ目は、被相続人との身分関係から見て、通常期待される範囲を超えていること。親子や夫婦なら、このくらいは普通にするだろう、という範囲を、はみ出していることです。普通の範囲まで含めない理由は、寄与分が、相続人どうしの公平を測り直す仕組みだからです。親子や夫婦で助け合うのは、どの家でもあることです。それまで全部、寄与分にしてしまうと、ほとんどの相続人に何かしらの寄与分があることになり、調整の意味がなくなります。ですから、普通を超えた分だけを、特別の寄与として足します。特別受益が、もらいすぎを引く側なら、寄与分は、尽くしすぎを足す側です。同じ物差しの、両端と考えてください。この普通の範囲を決めるのが、親族法で見た2つの条文です。夫婦は、752条により、互いに協力し扶助する義務を負います。直系血族と兄弟姉妹は、877条1項により、互いに扶養する義務を負います。この義務の範囲内でした家事や看病や生活の援助は、身分関係から通常期待される程度にとどまります。ですから、寄与分にはなりません。ここは、論文で論点になりうる部分です。文言を板で確認します。

⭐ 論文で書く規範:特別の寄与の意味 寄与分が認められるには、共同相続人がその寄与について相応の対価を得ていないうえ、その寄与が、被相続人との身分関係から通常期待される範囲を超えるものであることを要する。 夫婦の協力扶助義務や親族の扶養義務の範囲内の貢献は、通常期待される程度にとどまり、特別の寄与にあたらない。 (特別の寄与 出どころ=条文の解釈(通説))

板のとおりに覚えます。ここで問いです。兄が、同居している老いた母の身の回りの世話を、毎日していました。これだけで、寄与分は認められるでしょうか?通常は認められないと思います。親子の身分関係から期待される範囲で、扶養義務の範囲内だからです。どこまでが通常かは、事案ごとに決まりますが、普通の世話だけでは、特別の寄与になりません。

設例への当てはめ。長男=事業に関する労務の提供・20年無給(無償)・親子で通常期待される手伝いを超える・売上げが伸びた(財産の増加)→寄与分が認められうる。長男の配偶者=相続人でない→寄与分は使えない(別制度=1050条の特別の寄与)。 図:設例への当てはめ

  • 長男=事業に関する労務の提供・20年無給(無償)・親子で通常期待される手伝いを超える・売上げが伸びた(財産の増加)→寄与分が認められうる
  • 長男の配偶者=相続人でない→寄与分は使えない(別制度=1050条の特別の寄与)

冒頭の設例に、当てはめます。長男は、20年間、給料をもらわずに店を手伝いました。態様は、事業に関する労務の提供です。無償です。そして、長期間、無給で店を支えることは、親子の間で通常期待される手伝いを超えます。売上げが伸びたことで、財産の増加にも結びつきます。ですから、長男は、寄与分が認められうる立場にいます。認められうる、と言ったのは、成否も金額も、事案ごとに決まるからです。最後にもう1点。寄与分は、共同相続人に限られます。相続人ではない親族、たとえば長男の配偶者が、父の介護に尽くしても、この寄与分は使えません。その人のための、別の制度があります。名前は、さきほど見た3点セットの2つ目と同じ、特別の寄与です。ただ、こちらは1050条が定める、相続人ではない親族が、相続人に、貢献に見合うお金を請求する、別の制度です。次の回で見ます。

寄与分はどう決まるか

寄与分の決まり方。①共同相続人の協議(1項)→②協議が調わない・できない→家庭裁判所が定める(2項・寄与者の請求・遺産分割の請求があるときなど=4項)。上限(3項)=相続開始時の財産の価額−遺贈の価額。 図:寄与分の決まり方

  • ①共同相続人の協議(1項)→②協議が調わない・できない→家庭裁判所が定める(2項・寄与者の請求・遺産分割の請求があるときなど=4項)
  • 上限(3項)=相続開始時の財産の価額−遺贈の価額

次は、決まり方です。条文を、もう一度見てください。1項は、共同相続人の協議で定めたその者の寄与分、と言っています。まず、相続人全員の話し合いで決めます。話し合いがまとまらないとき、または、話し合いができないときは、2項です。寄与をした人の請求により、家庭裁判所が寄与分を定めます。家庭裁判所は、寄与の時期、方法、程度、相続財産の額その他一切の事情を考慮します。計算式で機械的に出すのではなく、事情を総合して決める、ということです。寄与分だけを、いつでも家庭裁判所に求められるわけではありません。4項を見てください。2項の請求は、907条2項の請求があった場合、または910条に規定する場合に、することができます。907条2項は、協議が調わないときに、各相続人が家庭裁判所に遺産の分割を請求できる、という規定です。つまり、遺産分割の請求があるときに、その中で寄与分も決める。寄与分だけを単独で家庭裁判所に求めることはできません。寄与分は、遺産を分けるときの取り分を直すための数字です。分ける手続と切り離して決めても、使い道がないのです。910条の場合というのは、ほかの相続人がもう遺産を分けたあとで、認知されて相続人になった子が、分け直す代わりに、自分の分をお金で求める場面です。そこでも取り分の計算に寄与分が効くので、入口がもう1つある、とだけ覚えておいてください。もう1つ、上限があります。3項です。寄与分は、相続開始の時の財産の価額から、遺贈の価額を引いた残りを超えることができません。たとえば、遺産が3,000万円で、そのうち2,700万円が、第三者に遺贈される遺言だったとします。残りは300万円です。寄与分は、300万円までです。もし遺産の全部が遺贈されていたら、寄与分は認められません。被相続人が遺言で決めた処分を、寄与分で削ってはいけない、と条文が決めています。

設例では、長男の寄与分を、1,500万円と仮定します。この額は、あくまで、協議か審判で定められたとした場合の数字です。条文には、金額を出す公式はありません。ですから、本当の額は、事情しだいで変わります。ここでは、仮に1,500万円と決まった、として計算を進めます。

寄与分があるときの計算、特別受益との併用

計算の前に思い出す。特別受益のある人の具体的相続分の額は、一応の相続分から何を引いて出しましたか? 図:計算の前に思い出す

計算に入る前に、前々回の計算を思い出してください。特別受益のある人の具体的相続分の額は、一応の相続分から何を引いて出しましたか?受けた贈与や遺贈の価額を引きます。みなし相続財産に掛ける割合で出した額から、引くのでした。では、寄与分が入ると、式はどう変わるか。式は2つです。

2つの算式。①みなし相続財産=相続開始時の積極財産+特別受益の贈与−寄与分②寄与分のある人の具体的相続分額=みなし相続財産×相続分+寄与分。特別受益のある人・遺贈を受ける人=一応の相続分から贈与・遺贈の価額を引く(遺贈は足さない)。 図:2つの算式

  • ①みなし相続財産=相続開始時の積極財産+特別受益の贈与−寄与分②寄与分のある人の具体的相続分額=みなし相続財産×相続分+寄与分
  • 特別受益のある人・遺贈を受ける人=一応の相続分から贈与・遺贈の価額を引く(遺贈は足さない)

1つ目、みなし相続財産です。相続開始の時の積極財産に、特別受益の贈与を足して、寄与分を引きます。2つ目、寄与分のある人の具体的相続分の額です。みなし相続財産に、その人の相続分を掛けて、そこに寄与分を加えます。条文の、寄与分を控除したものを相続財産とみなし、相続分に寄与分を加えた額、という部分が、そのままこの式です。例えます。仲間で打ち上げをして、費用を人数で割るとします。幹事が、買い出しに走り回りました。そこで、幹事の手間賃を、先に別に除けておきます。残りを人数で割ります。最後に、除けておいた手間賃を、幹事に上乗せします。寄与分も同じです。先に取り分けておき、残りを相続分で分け、取り分けた分を寄与者に上乗せします。特別受益のある人は、これまでどおりです。一応の相続分から、贈与や遺贈の価額を引きます。贈与は足し、遺贈は足さない、というのも、そのままです。

計算実演1(冒頭設例)。寄与分1,500万円と定められたとした場合。①みなし相続財産=4,500−1,500=3,000万円②一応の相続分=長男1,500・次男1,500③長男+寄与分1,500④具体的相続分額=長男3,000・次男1,500(合計4,500=遺産)⑤率=長男2/3・次男1/3。2,250ずつとの差=長男+750・次男−750。 図:計算実演1(冒頭設例)

  • 寄与分1,500万円と定められたとした場合。①みなし相続財産=4,500−1,500=3,000万円②一応の相続分=長男1,500・次男1,500③長男
  • 寄与分1,500④具体的相続分額=長男3,000・次男1,500(合計4,500=遺産)⑤率=長男2/3・次男1/3。2,250ずつとの差=長男
  • 750・次男−750。

冒頭の設例を、計算します。長男の寄与分は、1,500万円と定められたものとします。1つ目、みなし相続財産です。遺産の4,500万円から、寄与分の1,500万円を引いて、3,000万円です。2つ目、一応の相続分です。相続人は子が2人ですから、900条により、2分の1ずつです。3,000万円の2分の1で、長男も次男も、1,500万円です。3つ目、寄与分の加算です。長男は、1,500万円に、寄与分の1,500万円を加えます。次男は、寄与分がないので、1,500万円のままです。4つ目、具体的相続分の額です。長男が3,000万円、次男が1,500万円です。足すと4,500万円で、遺産と一致します。検算が合いました。5つ目、率です。長男が3分の2、次男が3分の1です。最初に、2,250万円ずつ分けるのは公平か、と聞きました。答えは、寄与分が1,500万円と定められるなら、公平ではありません。均等な2,250万円ずつと比べると、長男は750万円多く、次男は750万円少なくなります。

寄与分の額しだいで、数字は動きます。ただ、長男の貢献を計算に入れる、という道筋は変わりません。次は、全部入りの例です。寄与分も、特別受益も、遺贈もあるときです。

計算実演2(自前の家族)。相続開始時の積極財産6,400万円(うち400万円は妻Wに遺贈する遺言の目的)。W(妻・1/2)・A(子・1/4)・B(子・1/4)。Aは寄与分1,200万円と定められた。Bは生前に生計の資本として800万円の贈与。みなし相続財産=6,400+800−1,200=6,000万円/一応の相続分=W3,000・A1,500・B1,500/W−遺贈400・A+寄与分1,200・B−贈与800/額=W2,600・A2,700・B700(合計6,000)/率=W13/30・A9/20・B7/60。 図:計算実演2(自前の家族)

  • 相続開始時の積極財産6,400万円(うち400万円は妻Wに遺贈する遺言の目的)。W(妻・1/2)・A(子・1/4)・B(子・1/4)。Aは寄与分1,200万円と定められた。Bは生前に生計の資本として800万円の贈与。みなし相続財産=6,400+800−1,200=6,000万円
  • 一応の相続分=W3,000・A1,500・B1,500
  • W−遺贈400・A+寄与分1,200・B−贈与800
  • 額=W2,600・A2,700・B700(合計6,000)
  • 率=W13/30・A9/20・B7/60。

相続開始の時の財産は、全部で6,400万円です。そのうち400万円の預金は、妻Wに遺贈する、という遺言の目的です。相続人は、妻Wと、子A、子Bです。法定相続分は、Wが2分の1、AとBが4分の1ずつです。Aは、父の事業を長年支えて、寄与分が1,200万円と定められました。Bは、生前に、生計の資本として、800万円の贈与を受けていました。1つ目、みなし相続財産です。6,400万円に、Bへの贈与800万円を足して、Aの寄与分1,200万円を引きます。6,000万円です。妻Wへの遺贈の400万円は、足しません。すでに6,400万円の中に入っているからです。2つ目、一応の相続分です。Wは2分の1で3,000万円。AとBは4分の1で、1,500万円ずつです。3つ目、引くものと足すものです。Wからは、遺贈の400万円を引きます。Aには、寄与分の1,200万円を足します。Bからは、贈与の800万円を引きます。4つ目、額です。Wが2,600万円、Aが2,700万円、Bが700万円です。3人分を足すと6,000万円。これは、遺産6,400万円から、遺贈の400万円を除いた額です。検算が合います。5つ目、率です。6,000万円で割ります。Wは6,000分の2,600で、30分の13。Aは6,000分の2,700で、20分の9。Bは6,000分の700で、60分の7です。分母を60にそろえると、60分の26と27と7。足して、60分の60です。

実際に手にする額も確かめます。Wは、遺産分割で2,600万円に、遺贈の400万円が加わって、3,000万円。Aは2,700万円。Bは、遺産分割で700万円に、生前の800万円が加わって、1,500万円です。3人の合計は7,200万円で、遺産6,400万円に、Bへの贈与800万円を足した額と一致します。ここで問いです。みなし相続財産を出すとき、寄与分は足すでしょうか、引くでしょうか。そして、遺贈は足すでしょうか?寄与分は引きます。先に取り分けておいて、あとで寄与者に上乗せするからです。贈与は足します。遺贈は足しません。寄与分は引く、贈与は足す、遺贈は足さない。この3つを、セットで覚えてください。なお、遺留分を計算するときの寄与分の扱いは、別の計算です。それは、遺留分の回で見ます。先に取り分けて、あとで上乗せする。この計算で、長男の20年の貢献が、具体的相続分に入りました。寄与分が定まれば、2,250万円ずつは公平ではない。これが今日の答えです。

904条の3、相続開始から10年たつと

設例の続き。長男は、父の死後、家庭裁判所に遺産分割の請求をしないまま10年以上が過ぎた。問い=長男は寄与分を主張できるか。 図:設例の続き

  • 長男は、父の死後、家庭裁判所に遺産分割の請求をしないまま10年以上が過ぎた
  • 問い=長男は寄与分を主張できるか

ここで、設例を少し変えます。長男は、寄与分を主張できる立場でした。ところが、父が亡くなってから、遺産分割の話が進まないまま、10年以上が過ぎてしまいました。このとき、長男は、寄与分を主張できるでしょうか。答えは、904条の3にあります。条文を読みます。

条文民法904条の3

民法 第九百四条の三(期間経過後の遺産の分割における相続分) 前三条の規定は、相続開始の時から十年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときは、この限りでない。 一 相続開始の時から十年を経過する前に、相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。 二 相続開始の時から始まる十年の期間の満了前六箇月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から六箇月を経過する前に、当該相続人が家庭裁判所に遺産の分割の請求をしたとき。

まず本文です。前三条の規定は、相続開始の時から10年を経過した後にする遺産の分割については、適用しない。前三条というのは、903条、904条、904条の2です。つまり、特別受益の持戻しも、寄与分も、使えなくなります。法定相続分、または指定相続分で、分けることになります。さきほどの問いに答えます。相続開始から10年を過ぎて、遺産分割をするなら、原則として、長男は寄与分を主張できません。2,250万円ずつ、つまり2分の1ずつで、分けることになります。ただ、この本文には、ただし書があります。それを読みます。

904条の3の整理。原則=相続開始から10年を経過した後の遺産分割には903条・904条・904条の2を適用しない。例外①=10年を経過する前に家庭裁判所へ遺産分割の請求。例外②=10年の満了前6か月以内にやむを得ない事由→消滅後6か月経過前に家庭裁判所へ請求。 図:904条の3の整理

  • 原則=相続開始から10年を経過した後の遺産分割には903条・904条・904条の2を適用しない
  • 例外①=10年を経過する前に家庭裁判所へ遺産分割の請求
  • 例外②=10年の満了前6か月以内にやむを得ない事由→消滅後6か月経過前に家庭裁判所へ請求

例外は2つです。1つ目、相続開始の時から10年を経過する前に、相続人が、家庭裁判所に遺産分割の請求をしたとき。この場合は、本文が働きません。ですから、903条などの規定が使えて、寄与分も主張できます。条文が求めているのは、家庭裁判所への請求です。話し合いを続けているだけでは、足りません。2つ目、やむを得ない事由があった場合です。10年の期間が終わる直前の、その6か月以内の間に、遺産の分割を請求することができないやむを得ない事由が、相続人にあった。たとえば、亡くなった人が遭難していて、その死亡が確かめられなかった場合です。その場合は、その事由が消えた時から6か月を経過する前に、家庭裁判所に請求すれば、例外になります。ここで問いです。相続開始から、9年目に、長男が家庭裁判所に遺産分割の請求をしました。審判が出たのは、12年目でした。長男は、寄与分を主張できるでしょうか?

主張できると思います。10年を経過する前に、家庭裁判所へ請求しているので、1つ目の例外にあたります。分割が10年を過ぎても、請求が10年より前なら、例外にあたります。設例に戻します。長男が、寄与分を守りたいなら、父の死後、10年を経過する前に、家庭裁判所に遺産分割の請求をしておく必要があります。話し合いが長引きそうなときは、10年が近づく前に、請求の手続に移る。それが、この規定の求める動き方です。趣旨は、遺産分割を長く放っておくことの弊害を、避けることです。領収書の保管期限に、似ています。何十年もたってから、あのときの精算をしてほしいと言われても、証拠がそろいません。特別受益も寄与分も、昔のことを調べる計算です。時間がたつと、証拠が散らばって、調整が難しくなります。そこで、10年たったら、調整をやめて、法定相続分や指定相続分で、すっきり分けることにしました。紛争を、早く終わらせるための規定です。この規定は、令和3年の改正で新しくできました。令和5年の4月から施行されています。最後に、混ぜてはいけない10年があります。前々回に予告しました。遺留分を計算するときに、相続人への贈与が入るのは、原則として、相続開始前の10年間のものに限られます。その10年は、相続開始の前にさかのぼる年数です。今日の10年は、相続開始の後に流れる年数です。同じ10年ですが、向きが逆です。遺留分の10年は、別の回で扱います。10年経過後の遺産分割の手続の全体も、遺産分割の回で見ます。

具体的相続分は物差し、確認の訴えは不適法

前々回の物差しを思い出す。具体的相続分は「分け方を決める物差し」だと言いました。物差しは、それだけで他の相続人に請求できる権利でしたか? 図:前々回の物差しを思い出す

  • 具体的相続分は「分け方を決める物差し」だと言いました
  • 物差しは、それだけで他の相続人に請求できる権利でしたか?

最後の道筋です。前々回を思い出してください。具体的相続分は、分け方を決める物差しだと言いました。物差しは、それだけで他の相続人に請求できる権利でしたか?請求できる権利ではない、と言っていました。他の相続人に、いくら払えとは言えない、と。今日は、その理由を、判例の結論から見ます。具体的相続分とは、遺産分割の審判などの前提として、分け方を決めるための、計算上の価額、またはその割合です。それ自体は、実体法上の権利関係ではありません。実体法上の権利関係というのは、所有権や債権のように、これは誰のものだ、と言える権利のことです。具体的相続分は、遺産分割で遺産をどう分けるかや、遺留分侵害額請求、つまり、遺言などで遺留分を削られた相続人がお金を求める請求で、侵害額を確かめるときに、その前提問題として判断されるだけです。たとえば、設例で、長男の額が3,000万円、次男が1,500万円と計算できたとします。引越しの見積書を想像してください。見積額を確認してもらっても、荷物は運ばれませんし、最終の請求額は、作業が終わってから決まります。具体的相続分も、見積書のようなものです。遺産分割では、店の土地建物を誰が取るか、多く取った人が、ほかの相続人に代償金というお金を払って調整するか、といったことを決めます。906条は、遺産の種類や性質、各相続人の職業や生活の状況、その他一切の事情を考慮して分けるとしています。その結果として、最終の取り分が決まります。計算上の額は、その途中で使う物差しです。

具体的相続分の位置づけ。計算上の額・率(物差し)→遺産分割の協議・審判で何を誰が取るかを決める(906条)→実際の取得。横に=具体的相続分の価額・割合の確認を求める訴え→確認の利益なし→不適法(却下)。出典=最判平12・2・24 民集54巻2号523頁。 図:具体的相続分の位置づけ

  • 計算上の額・率(物差し)→遺産分割の協議・審判で何を誰が取るかを決める(906条)→実際の取得
  • 横に=具体的相続分の価額・割合の確認を求める訴え→確認の利益なし→不適法(却下)
  • 出典=最判平12・2・24 民集54巻2号523頁

では、判例の結論です。共同相続人の間で、具体的相続分について、その価額、または割合の確認を求める訴えは、確認の利益を欠き、不適法です。最高裁判所が、そう判断しました。却下される、ということです。確認の利益とは、確認の判決を出すことに、紛争を解決する意味があるか、ということです。確認の訴えは、何でも確認してくださいと求められる訴えではありません。確認する意味があるものだけが、対象です。詳しくは、民事訴訟法のシリーズで学びます。ここでは、確認の訴えには、確認の利益が要る、という一言で足ります。理由の骨子を、順番に見ていきます。1つ目、具体的相続分は、遺産分割で分配の前提となる、計算上の価額、または割合です。それ自体は、実体法上の権利関係ではありません。2つ目、具体的相続分は、遺産分割の審判や、遺留分をめぐる訴訟の中で、その前提問題として審理され、判断される事項です。3つ目、ですから、具体的相続分だけを取り出して、別個独立に判決で確認することは、紛争の直接かつ抜本的な解決のために、適切かつ必要とはいえません。確認の利益がない、ということです。もう1つ。特別受益にあたるかどうかの確認を求める訴えも、同様に、確認の利益がなく、不適法とされています。結論の一行だけ、覚えておいてください。では、具体的相続分を争いたいときは、どうするか。遺産分割の調停や審判の中で、特別受益や寄与分を主張します。遺産分割の請求と一緒に出す。それが正しい道です。具体的相続分の確認だけを、裁判に出しても、却下されます。

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まとめ。①寄与分3点セット(共同相続人・特別の寄与=無償かつ通常期待を超える・財産の維持または増加)+態様4つ②決め方=協議→家庭裁判所(遺産分割の請求があるとき)・上限=遺贈を控除した残額③算式=みなし相続財産=積極財産+贈与−寄与分/寄与者の額=みなし×相続分+寄与分④904条の3=10年経過後は903・904・904条の2を適用しない(例外あり)⑤具体的相続分=物差し・確認の訴えは不適法。冒頭の答え=長男3,000万円・次男1,500万円(寄与分1,500万円と定められたとき)。 図:まとめ

  • ①寄与分3点セット(共同相続人・特別の寄与=無償かつ通常期待を超える・財産の維持または増加)+態様4つ②決め方=協議→家庭裁判所(遺産分割の請求があるとき)・上限=遺贈を控除した残額③算式=みなし相続財産=積極財産+贈与−寄与分/寄与者の額=みなし×相続分+寄与分④904条の3=10年経過後は903・904・904条の2を適用しない(例外あり)⑤具体的相続分=物差し・確認の訴えは不適法
  • 冒頭の答え=長男3,000万円・次男1,500万円(寄与分1,500万円と定められたとき)

まとめます。まず、冒頭の答えです。長男の寄与分が、1,500万円と定められたとします。遺産4,500万円から1,500万円を引いて、3,000万円。2分の1ずつで、1,500万円。長男は、そこに寄与分を加えて、3,000万円です。次男は、寄与分がないので、1,500万円です。足すと、遺産の4,500万円と一致します。2,250万円ずつでは、長男は750万円少なく、次男は750万円多くなっていました。区別を6つ確認します。1つ、特別の寄与は、無償で、身分関係から通常期待される程度を超える貢献です。夫婦の協力扶助や、親族の扶養の範囲内は、寄与分になりません。2つ、寄与分は、まず協議で決め、調わなければ家庭裁判所が定めます。家庭裁判所への請求は、遺産分割の請求があるときなどに限られます。3つ、寄与分の上限は、遺産から遺贈を引いた残りです。続けます。4つ、みなし相続財産は、贈与を足して、寄与分を引きます。遺贈は足しません。5つ、相続開始から10年を経過した後の遺産分割には、903条、904条、904条の2を適用しません。ただし、10年を経過する前に家庭裁判所へ請求したときなどは、例外です。6つ、具体的相続分は物差しで、その価額や割合の確認の訴えは、不適法です。今日で、3つ目の相続分は、特別受益と寄与分の両側がそろいました。ところで、寄与分は、共同相続人だけのものでした。では、相続人ではない人が、被相続人の介護に尽くした場合は、どうなるのでしょうか。次は、そこを見ます。

参照条文

  • 民法904条の2
  • 民法904条の3

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