民法ゼロから民法#377

自筆証書遺言と公正証書遺言

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第8章 相続 #377/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

パソコンで打った遺言は有効か

冒頭の設例。A=父(遺言者)/B=長女/C=二女。A→パソコンで本文を作成→印刷→末尾に自分で署名・押印・日付。内容「自宅→B・預金→C」。この遺言は有効か? 図:冒頭の設例

  • A=父(遺言者)/B=長女/C=二女
  • A→パソコンで本文を作成→印刷→末尾に自分で署名・押印・日付
  • 内容「自宅→B・預金→C」
  • この遺言は有効か?

父がパソコンで遺言を打ちました。内容は、自宅は長女に、預金は二女に、です。印刷して、末尾に自分で署名をして、印を押し、日付も入れました。この遺言は、有効でしょうか。この見立てには、半分だけ正しいところがあります。署名と押印と日付がそろっているのは、確かに大事です。読みやすさも確かに親切です。ただ、遺言が有効かどうかは、読みやすさでは決まりません。署名や押印より前に、本文を誰が、どうやって書いたかが問われます。答えは、回の中ほどで出します。第8章の最初で見たとおり、相続は、遺言が原則で、法定相続はその補充でした。今回は、その遺言が、どうなれば有効になるのか、条件を見ていきます。

地図。①遺言の性質②誰が遺言できるか③何を決められるか・いつ効くか④方式の地図⑤自筆証書遺言(冒頭の答え・保管制度)⑥公正証書遺言⑦比較。 図:地図

道筋は7つです。1つ目、遺言とは何か、という性質。2つ目、誰が遺言をできるか、という能力。3つ目、遺言で何を決められて、いつ効くのか。4つ目、遺言の方式の地図。5つ目、自筆証書遺言。冒頭の答えは、ここで出ます。法務局で預かってもらう制度も、ここで見ます。6つ目、公正証書遺言。7つ目、2つの方式を比べる判定です。先に一言だけ。令和8年に、遺言の方式や成年後見制度を見直す改正法が成立しています。押印が要らなくなる見通しですが、施行はこれからです。今回は、今の条文で覚えます。

遺言の性質

遺言の3つの性質。①相手方のない単独行為(受取人の承諾は不要)②要式行為(960条・方式違反は無効)③本人しかできない(代理不可)。理由=本人の死後に効くので、本人に確かめられない。 図:遺言の3つの性質

  • ①相手方のない単独行為(受取人の承諾は不要)②要式行為(960条・方式違反は無効)③本人しかできない(代理不可)
  • 理由=本人の死後に効くので、本人に確かめられない

まず、遺言とは何か。亡くなったあとの財産の行き先などを、生きているうちに書き残す意思表示です。ここから、性質が3つ出ます。1つ目、相手方のない単独行為です。契約は、申込みと承諾がそろって成り立ちます。遺言は、遺言者が1人で意思を示せば足ります。財産をもらう人に、もらうよ、と伝える必要も、承諾をもらう必要もありません。遺言の成立には関係しません。受け取る側は、遺言の効力が生じたあとに、受けるかどうかを決める立場に立ちます。遺贈の細部は、別の回で扱います。2つ目、要式行為です。960条は、遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができないと定めています。

条文民法960条

民法第960条(遺言の方式) 遺言は、この法律に定める方式に従わなければ、することができない。

方式を欠く遺言は、無効です。無効の一般論は、第1章で見ました。なぜ、ここまで方式を厳しくするのか。遺言は、本人が亡くなってから効きます。そのとき、本人に、本当にこう書きましたか、と確かめることはできません。だから、本人の真意を、あとから争いにしないように、書き方を決めておくのです。この軸は、今回のあらゆる場面で効きます。3つ目、本人にしかできません。成年後見人の回で、遺言は、成年後見人が代わりにすることはできないと見ました。誰に財産を遺すかは、本人が自分で決めたこと自体に意味があり、他人が代わりに決めれば、もう本人の意思ではないからです。司法書士に文案を相談してもかまいませんが、遺言をするのは、本人です。問いです。遺言をした人の生前に、財産をもらう人へ、あらかじめ伝えておく必要はあるでしょうか。

ありません。単独行為なので、相手の承諾は要らないからです。

遺言能力

遺言能力の比較板。15歳以上(961条)/5条・9条・13条・17条は適用なし(962条)/意思能力は必要(963条)/成年被後見人は医師2人以上の立会い(973条)。行為能力=不要・意思能力=必要。 図:遺言能力の比較板

  • 15歳以上(961条)/5条・9条・13条・17条は適用なし(962条)/意思能力は必要(963条)/成年被後見人は医師2人以上の立会い(973条)
  • 行為能力=不要・意思能力=必要

次は、誰が遺言をできるか、です。その前に、確認です。第1章で、未成年者が一人でできることを見ました。親の同意なしにできる行為には、何がありましたか?身分行為などです。たとえば、15歳になれば、遺言も一人でできる、と見ました。その条文を、読みます。

条文民法961条

民法第961条(遺言能力) 十五歳に達した者は、遺言をすることができる。

15歳に達した人は、遺言ができます。15歳未満の遺言は、無効です。成年年齢は18歳になりましたが、遺言の年齢は15歳のままです。高校1年の年から、遺言ができるのです。次に、行為能力の規定との関係です。

条文民法962条

民法第962条 第五条、第九条、第十三条及び第十七条の規定は、遺言については、適用しない。

第1章で、15歳なら同意なしに遺言できる理由は、別の条文にある、と予告しました。それが、この962条です。5条は未成年者、9条は成年被後見人、13条は被保佐人、17条は被補助人の、行為能力の規定です。この4つが、遺言には働きません。本人の意思で遺言をするので、同意をする人も、取り消す人も、出てこないのです。例で見ます。17歳の高校生が、親に黙って、遺言を書きました。親の同意はありません。この遺言は、有効です。親も、取り消せません。5条の同意の話が、そもそも外れているからです。被保佐人と被補助人も同じで、保佐人や補助人の同意は要りません。成年被後見人の遺言も、9条があるため取り消せる、ということにはなりません。問いです。15歳の未成年者が、親に黙って遺言をしました。親は、取り消せるでしょうか。

取り消せません。962条で、5条が適用されないからです。ここが、ひっかけの出やすいところです。遺言にも、行為能力が要る、と書いてあれば、誤りです。

条文民法963条

民法第963条 遺言者は、遺言をする時においてその能力を有しなければならない。

ただし、無条件ではありません。963条は、遺言をする時に、その能力が要ると定めています。この能力とは、意思能力、つまり、自分が何をしているか分かる力です。行為能力は要らず、意思能力は要る。この対比を覚えてください。理由はこうです。財産の取引では、相手を守る必要があるので、年齢や審判で、画一的に線を引きます。遺言は相手のいない単独行為なので、本人の最後の意思を、できるだけ尊重するのです。最後に、成年被後見人です。成年被後見人は、物事を判断する力を欠くのが普通です。しかし、一時的に力が戻ることがあります。

条文民法973条

民法第973条(成年被後見人の遺言) 成年被後見人が事理を弁識する能力を一時回復した時において遺言をするには、医師二人以上の立会いがなければならない。 遺言に立ち会った医師は、遺言者が遺言をする時において精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く状態になかった旨を遺言書に付記して、これに署名し、印を押さなければならない。ただし、秘密証書による遺言にあっては、その封紙にその旨の記載をし、署名し、印を押さなければならない。

力が一時回復した時に限って、医師2人以上の立会いがあれば、遺言ができます。医師は、遺言をする時に判断する力を欠く状態になかった、と遺言書に書き添えて、署名と押印をします。封のある遺言の場合は、別の回で見ます。この立会いが要るのは、成年被後見人だけです。被保佐人と被補助人には、要りません。体調のよい日に遺言したい成年被後見人には、医師が2人、そばに付くのです。

遺言事項と効力の発生

遺言事項の5分類(暗記不要・一覧)。①家族関係=認知(781条2項)・未成年後見人の指定(839条1項)②法定相続に関すること=廃除(893条)・相続分の指定(902条)・遺産分割方法の指定(908条)③財産の処分=遺贈(964条)④遺言の執行=遺言執行者の指定(1006条)⑤遺言の撤回(1022条)。 図:遺言事項の5分類

  • 暗記不要・一覧
  • ①家族関係=認知(781条2項)・未成年後見人の指定(839条1項)②法定相続に関すること=廃除(893条)・相続分の指定(902条)・遺産分割方法の指定(908条)③財産の処分=遺贈(964条)④遺言の執行=遺言執行者の指定(1006条)⑤遺言の撤回(1022条)。

次は、遺言で何を決められるか、です。遺言でできることは、法律で決まっています。これを遺言事項と呼びます。遺言は、本人1人の意思で、死後に、家族や財産の関係を動かします。そのとき本人には確かめられないので、どんな効力を生じさせられるかを、法律が決めておくのです。代表的なものを、五つに整理します。暗記ではなく、イメージを持てば足ります。1つ目、家族関係です。認知は遺言でもできる、と認知の回で見ました。未成年後見人の指定も、遺言だけでできる、と見ました。2つ目、法定相続に関することです。廃除は、廃除の回で、遺言による廃除を見ました。相続分の指定、遺産分割の方法の指定も、ここに入ります。3つ目、財産の処分で、遺贈です。4つ目、遺言の執行で、遺言の内容を実現する役目の人、つまり、遺言執行者を指定できます。5つ目、遺言の撤回です。

遺言に、兄弟仲良くしてほしい、と書いたら、どうなりますか。遺言に、財産の行き先などではない、気持ちや願いを書いた場合です。そのような願いは、書いてあってもかまいません。ただ、遺言事項ではないので、法的な効力は生じません。

条文民法985条

民法第985条(遺言の効力の発生時期) 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

次に、いつ効くのか。遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じます。生前は、何の効力もありません。だから、いつでも書き直せます。遺言による認知も、死亡の時に効力が生じる、と見たとおりです。2項は、停止条件です。たとえば、長女が大学を卒業したら自宅を譲る、という遺言があったとします。父の死亡の時に、まだ卒業していなければ、条件はまだ成就していません。死亡後に卒業した時から、効力が生じます。死亡の時が基本で、条件が成就したのが死亡後なら、成就の時から、と覚えてください。

方式の地図

方式の地図。普通方式=自筆証書遺言/公正証書遺言/秘密証書遺言。特別方式=死亡の危急に迫った者/伝染病隔離者/在船者/船舶遭難者。今回は自筆証書遺言と公正証書遺言。 図:方式の地図

  • 普通方式=自筆証書遺言/公正証書遺言/秘密証書遺言
  • 特別方式=死亡の危急に迫った者/伝染病隔離者/在船者/船舶遭難者
  • 今回は自筆証書遺言と公正証書遺言

遺言の方式は、普通方式と特別方式に分かれます。普通方式は3つで、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言です。特別方式は、死亡の危急に迫った人の遺言、伝染病で隔離された人の遺言、船の中にいる人の遺言、船が遭難した人の遺言の4つです。特別方式は、死が迫っているなど、普通方式で作る余裕がない場面のための、略式の方式です。今回は、普通方式のうち、自筆証書遺言と公正証書遺言を見ます。

自筆証書遺言

自筆証書遺言の要件板。本文=自書/日付=暦上の特定の日/氏名=自書/押印。財産目録=自書不要(パソコン・通帳の写しも可)、ただし毎葉に署名押印。パソコンで作れるのは目録だけ。 図:自筆証書遺言の要件板

  • 本文=自書/日付=暦上の特定の日/氏名=自書/押印
  • 財産目録=自書不要(パソコン・通帳の写しも可)、ただし毎葉に署名押印
  • パソコンで作れるのは目録だけ

条文民法968条1項・2項

民法第968条(自筆証書遺言) 自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。 前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第九百九十七条第一項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。

冒頭の答えに入ります。自筆証書遺言の要件は、全文、日付、氏名を自書して、押印することです。自書とは、本人が自分の手で書くことです。他人の代筆は、できません。パソコンで本文を作って、印刷して、署名と押印だけした遺言は、全文の自書がないので、自筆証書遺言としては、無効です。あっても、無効です。署名と押印は、要件の一部にすぎません。全文の自書が、真意を担保する、中心の要件です。筆跡が本人のものなら、他人が勝手に書いたと争うのが難しくなります。印刷では、その力が働きません。ここで問いです。パソコンで作った本文に手書きの署名と押印をした遺言と、手書きの本文にパソコンで作った目録をつけ、各ページに署名と押印をした遺言。有効なのは、どちらでしょうか。

後のほうです。目録だけは自書でなくてよいからです。2項です。財産の目録を一体のものとして添付する場合は、その目録は自書しなくてかまいません。パソコンで作ってもよく、通帳の写しや登記事項証明書を添付してもかまいません。財産が多いと、地番や口座番号まで全部を手で書くのは大きな負担で、書き誤りも起きるからです。ただし、目録の差し替えを防ぐため、自書でない記載のある目録は、毎葉、つまり各ページに署名と押印をします。両面に記載があるときは、両面にします。本文は、自書のままです。冒頭の遺言を、直します。父が、本文は、自宅の土地建物と別紙目録記載の預金を、長女に、と自分で書きます。目録をパソコンで作って、各ページに署名と押印をする。これなら有効です。

押印の判例。遺言書の本文:署名の下に押印なし/書簡形式。封筒の封じ目に押印。結論=押印の要件に欠けるところはない。 図:押印の判例

  • 遺言書の本文:署名の下に押印なし/書簡形式
  • 封筒の封じ目に押印
  • 結論=押印の要件に欠けるところはない

次は、押印です。実印でなくてかまいません。では、どこに押すのか。本文の署名の下に押していなくても、よいのでしょうか。事案です。遺言者は、書簡の形式で遺言を書き、本文の署名の下には押印しませんでした。ただ、遺言書であることを意識して、これを入れた封筒の封じ目に、押印しました。

判例最判平6・6・24 集民172号733頁

封筒の封じ目の押印は、押印の要件を満たす 遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印をもって民法九六八条一項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は、正当として是認することができ……

封じ目の押印で、足りると判断しました。押印の趣旨は、本人が、その内容を遺言として確定させた、と示すことです。その趣旨が満たされていれば、押す場所は、本文の末尾でなくてもよいのです。

日付の判例。「昭和四拾壱年七月吉日」=暦上の特定の日が分からない→日付の記載を欠き無効。日付の役割=複数の遺言があるとき、成立の先後を決める。 図:日付の判例

  • 「昭和四拾壱年七月吉日」=暦上の特定の日が分からない→日付の記載を欠き無効
  • 日付の役割=複数の遺言があるとき、成立の先後を決める

次は、日付です。遺言書に、昭和四拾壱年七月吉日、と書いた事案です。

判例最判昭54・5・31 民集33巻4号445頁

「吉日」の日付は、日付の記載を欠く 自筆証書によつて遺言をするには、遺言者は、全文・日附・氏名を自書して押印しなければならないのであるが(民法九六八条一項)、右日附は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきものであるから、証書の日附として単に「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されているにとどまる場合は、暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効であると解するのが相当である。

吉日は、何日のことか決まりません。日付は、暦のうえで特定の日が分かるように書きます。年月日です。なぜ、そこまで厳しいのか。遺言は、書き直しができます。複数の遺言が出てきたとき、どちらが新しいかで、決まるものがあります。日付は、成立の先後を決める役割をもつのです。この続きは、撤回の回で扱います。第1章の無効の回で、秘密証書遺言として無効でも、自筆証書遺言の要件を満たせば救われる、無効行為の転換を見ました。

自筆証書遺言書保管制度

保管制度。遺言者本人が出頭→遺言書保管所(法務局)に無封の遺言書を預ける。保管された遺言書は検認不要(保管法11条)。目的=自宅保管の紛失・改ざん・未発見への対策。 図:保管制度

  • 遺言者本人が出頭→遺言書保管所(法務局)に無封の遺言書を預ける
  • 保管された遺言書は検認不要(保管法11条)
  • 目的=自宅保管の紛失・改ざん・未発見への対策

自筆証書遺言には、弱点があります。自宅に置いておくと、なくなったり、書き換えられたり、死亡後に見つけてもらえなかったりします。その対策が、法務局で遺言書を預かってもらう制度です。

条文法務局における遺言書の保管等に関する法律4条1項・2項・6項

法務局における遺言書の保管等に関する法律第4条(遺言書の保管の申請) 遺言者は、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をすることができる。 前項の遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならない。 遺言者が第一項の申請をするときは、遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならない。

申請は、遺言者本人が、法務局に出頭して行います。代理人は、できません。遺言書は、封をしていないものでなければなりません。本人が出頭して本人確認を受けるので、本人の意思で預けたことがはっきりします。封をしないのは、保管官が日付や署名などの外形を確かめて、画像でも記録するためです。

条文法務局における遺言書の保管等に関する法律11条

法務局における遺言書の保管等に関する法律第11条(遺言書の検認の適用除外) 民法第千四条第一項の規定は、遺言書保管所に保管されている遺言書については、適用しない。

もう1つの特徴が、検認が要らないことです。検認とは、遺言書を家庭裁判所で確かめる手続です。相続人に、遺言書があることと、その中身を知らせ、その時の状態を記録して、あとからの書き換えを防ぎます。遺言が有効かどうかを決める手続では、ありません。本体は、別の回で見ます。保管制度を使った自筆証書遺言は、この検認を経ずに済みます。原本を法務局が預かり、画像でも記録しているので、書き換えの心配がないからです。先ほどの、目録つきの遺言を、父が法務局に預けたなら、父の死亡後、相続人は、検認なしで、遺言書の内容を確かめる手続に進めます。

公正証書遺言

公正証書遺言の手順。①証人2人以上の立会い②遺言者が趣旨を公証人に口授③公証人が陳述を聴いて記載④遺言者・証人に読み聞かせまたは閲覧→正確なことを承認⑤遺言者・証人が署名⑥公証人が署名。民法969条は①②だけ・残りは公証人法。 図:公正証書遺言の手順

  • ①証人2人以上の立会い②遺言者が趣旨を公証人に口授③公証人が陳述を聴いて記載④遺言者・証人に読み聞かせまたは閲覧→正確なことを承認⑤遺言者・証人が署名⑥公証人が署名
  • 民法969条は①②だけ・残りは公証人法

次は、公正証書遺言です。公証人という専門の公務員が、遺言を公正証書にする方式です。

条文民法969条1項・2項

民法第969条(公正証書遺言) 公正証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。 一 証人二人以上の立会いがあること。 二 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授すること。 前項の公正証書は、公証人法(明治四十一年法律第五十三号)の定めるところにより作成するものとする。

民法に書いてあるのは、2つです。証人2人以上の立会いと、遺言者が趣旨を公証人に口授すること。口授とは、口で伝えることです。残りの手順は、公証人法に書かれています。

条文公証人法40条1項

公証人法第40条(公正証書の記載又は記録の正確なことの承認等) 公証人は、その作成した公正証書を、列席者に読み聞かせ、又は閲覧させ、列席者からその記載又は記録の正確なことの承認を得なければならない。

流れを、順に追います。公証人が、遺言者の陳述を聴いて、記載します。それを、遺言者と証人に、読み聞かせるか、閲覧させて、正確だと承認を得ます。遺言者と証人が署名をして、公証人も署名をします。答案では、証人と口授は民法969条、筆記、読み聞かせ、署名は公証人法、と書き分けます。例です。手が震えて字が書けない父が、公証役場で、2人の証人の前で、遺言の内容を口で伝えます。公証人が書き取って、読み聞かせ、父は内容を承認して署名します。自書は、要りません。パソコンで作った下書きを、公証人に渡して、文案にするのも、かまいません。ただし、下書きを渡しても、当日、遺言者が公証人に趣旨を口で伝える口授は、省けません。冒頭の問いの、もう1つの答えです。証人には、資格があります。

条文民法974条

民法第974条(証人及び立会人の欠格事由) 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。 一 未成年者 二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族 三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人

長女は、推定相続人です。その配偶者である夫は、2号の欠格者で、証人になれません。遺言の中身で得をしたり損をしたりする側の人では、遺言者の真意を、外から確かめる役になれないからです。次に、問いです。目の見えない人は、公正証書遺言の証人になれるでしょうか。欠格事由には、書いてありませんが、なれるんでしょうか。なれます。目が見えないことは、条文の欠格事由に挙がっていません。判旨を読みます。

判例最判昭55・12・4 民集34巻7号835頁

目の見えない人は、公正証書遺言の証人になれる 民法九六九条一号は、公正証書によつて遺言をするには証人二人以上を立ち会わせなければならないことを定めるが、盲人は、同法九七四条に掲げられている証人としての欠格者にはあたらない。 (……) 公証人による筆記の正確なことの承認は、遺言者の口授したところと公証人の読み聞かせたところとをそれぞれ耳で聞き両者を対比することによつてすれば足りるものであつて、

決め手は、証人の役割です。欠格事由は、条文に列挙されたものだけです。目が見えなくても、遺言者の口授と、公証人の読み聞かせを、耳で聞いて、比べられます。確認の役割は果たせるので、欠格者にはなりません。特則もあります。

条文民法969条の2

民法第969条の2(公正証書遺言の方式の特則) 口がきけない者が公正証書によって遺言をする場合には、遺言者は、公証人及び証人の前で、遺言の趣旨を通訳人の通訳により申述し、又は自書して、前条第一項第二号の口授に代えなければならない。 公証人は、前項に定める方式に従って公正証書を作ったときは、その旨をその証書に記載し、又は記録しなければならない。

口がきけない人は、通訳人の通訳で伝えるか、自分で書いて、口授に代えます。耳が聞こえない人は、読み聞かせの代わりに、通訳人の通訳で伝えてもらいます。これは、公証人法に書かれています。最後に、特徴です。公正証書遺言は、公証人が作るので、方式違反や、真意をめぐる争いが減ります。原本は公証役場に保管されるので、あとから書き換えられる心配がありません。だから、家庭裁判所の検認が、要らないのです。

方式の比較

比較板。自筆証書遺言:全文は自書/証人なし/署名・押印/検認=要(保管制度なら不要)/自宅保管ほか。公正証書遺言:自書不要/証人2人以上/口授・公証人の筆記/検認=不要/原本は公証役場。 図:比較板

  • 自筆証書遺言:全文は自書/証人なし/署名・押印/検認=要(保管制度なら不要)/自宅保管ほか
  • 公正証書遺言:自書不要/証人2人以上/口授・公証人の筆記/検認=不要/原本は公証役場

最後に、2つの方式を並べます。自筆証書遺言は、全文の自書が要り、証人は要りません。検認は、法務局に預ければ不要です。公正証書遺言は、自書が要らず、証人が2人以上要り、検認も不要です。判定の練習です。パソコンで作った遺言が有効になるのは、どの場合でしょうか。自筆証書遺言なら、財産目録の部分だけです。本文をパソコンで作るなら、公正証書遺言にして、下書きとして公証人に渡す形です。本文を印刷して署名と押印だけした遺言は、無効です。なお、秘密証書遺言なら、本文をパソコンで作ってもかまいません。ただし署名と押印は要ります。

今日の地図(保存版)

まとめ。①遺言=単独行為・要式行為・本人のみ②15歳・行為能力不要・意思能力要③遺言事項と死亡の時から効力④自筆証書遺言=自書・日付・押印・目録・保管制度⑤公正証書遺言=証人2人以上・口授。 図:まとめ

5つ確認します。1つ目、遺言は、相手方のない単独行為で、要式行為で、本人にしかできません。方式を欠けば、無効です。2つ目、遺言能力は15歳からです。5条、9条、13条、17条は、遺言に適用されません。ただし、意思能力は要り、成年被後見人は、医師2人以上の立会いが要ります。3つ目、遺言でできることは決まっていて、遺言は、死亡の時から効力を生じます。4つ目、自筆証書遺言は、全文、日付、氏名の自書と、押印が要ります。財産目録だけは自書でなくてよく、その場合は各ページに署名と押印をします。封じ目の押印は足り、吉日は日付になりません。法務局に預ければ、検認は要りません。5つ目、公正証書遺言は、証人2人以上の立会いと、口授で作り、検認は要りません。目の見えない人も、証人になれます。冒頭の答えは、本文を印刷した遺言は無効、目録だけなら有効です。

参照条文

  • 民法960条
  • 民法961条
  • 民法962条
  • 民法963条
  • 民法973条
  • 民法985条
  • 民法968条1項・2項
  • 法務局における遺言書の保管等に関する法律4条1項・2項・6項
  • 法務局における遺言書の保管等に関する法律11条
  • 民法969条1項・2項
  • 公証人法40条1項
  • 民法974条
  • 民法969条の2

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