秘密証書遺言と特別方式
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第8章 相続 #378/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
パソコンで作った遺言を有効にする方式はあるか
図:冒頭の設例
- 父は遺言の本文をパソコンで打って印刷し、最後に署名と押印だけした
- 自筆証書遺言は全文の自書が要るので無効
- 本文をパソコンで作った遺言を有効にする方式はあるか
- 方式を欠いた遺言は、すべて無駄になるのか
父が、遺言をパソコンで作りました。本文を打ち込んで印刷し、最後に署名をして、印を押しました。手書きは苦手で、代筆も頼みたくありません。前回見たとおり、自筆証書遺言は全文の自書が要るので、この遺言は無効でした。では、本文をパソコンで作った遺言を、有効にする方式は、ないのでしょうか。方式は、自筆証書遺言のほかにもあります。もう1つ、見落としやすい問いがあります。方式を欠いてしまった遺言は、まったく無駄になるのか、という問いです。答えは、最初に扱う秘密証書遺言で見えてきます。最後のまとめで、はっきりさせます。前回は、遺言が有効になる条件の前半を見ました。遺言の性質と能力、そして自筆証書遺言と公正証書遺言です。今回は、まず方式の残りを片づけます。そのうえで、方式の細部と、遺言の読み方、そして無効と取消しを見ます。
図:今日の地図
道筋は4つです。1つ目、方式の残りで、秘密証書遺言と特別方式です。2つ目、方式の細部で、書き換え方、証人になれない人、2人で1枚に書く遺言の禁止を見ます。3つ目、遺言の読み方と、無効と取消しです。4つ目が、冒頭の答えです。秘密証書遺言も、特別方式も、書き換え方や証人の決まりも、前回の軸で説明できます。遺言は、本人が亡くなってから効きます。だから、本人の真意を、あとから争いにしないように、書き方を決めておくのでした。先に一言だけ。遺言の方式を見直す改正法が成立していますが、施行はこれからです。秘密証書遺言や特別方式の条文も、将来は変わる予定です。今回も、今の条文で覚えます。
秘密証書遺言
図:3つの普通方式の比較
- 自筆証書遺言=本文は自書/証人なし/公証人なし/検認は要る(法務局保管なら不要)
- 公正証書遺言=自書不要/証人2人以上/公証人が内容に関与/検認は不要
- 秘密証書遺言=本文は自書不要/証人2人以上/公証人は存在だけ確認/検認は要る
復習です。パソコンで本文を作り、署名と押印だけした遺言は、自筆証書遺言として有効でしょうか?無効です。全文の自書が要るからです。ところが、方式を変えれば、本文をパソコンで作った遺言も有効になります。それが、前回予告した秘密証書遺言です。秘密証書遺言は、遺言の中身を秘密にしたまま、遺言書があることだけを、公証人と証人の前ではっきりさせる方式です。公証人は、中身を見ません。公正証書遺言とは逆に、内容は誰にも知られませんが、公証人と証人が、遺言者の遺言書であることを見届けます。
図:秘密証書遺言の手順
条文民法970条1項
民法第970条(秘密証書遺言) 秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。 一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。 二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。 三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。 四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。
手順は4つです。1つ目、遺言者が証書に署名して押印します。2つ目、証書を封じて、証書に押した印と同じ印で封印します。3つ目、公証人1人と証人2人以上の前に封書を出して、自分の遺言書であることと、筆者の氏名と住所を述べます。4つ目、公証人が、提出した日付と遺言者の述べたことを封紙に書き、遺言者と証人とともに署名して押印します。本文は、自分で書かなくていいんですか。書かなくてかまいません。パソコンでも、他人の代筆でも有効です。ただし、1号の署名と押印は、遺言者自身がします。本文を誰が書いても、遺言者が自分の遺言書だと確かめる署名は、本人のものでなければならないからです。前回の予告の、署名と押印は要る、の意味はここです。では、3号の筆者とは誰か。遺言の内容を実際に書き記した人です。ワープロで本文を入力して印字した人も、筆者です。判例を読みます。
判例最判平14・9・24 集民207号269頁
ワープロを操作して本文を入力した者が筆者である 上記事実関係の下においては、本件遺言の内容を筆記した筆者は、ワープロを操作して本件遺言書の表題及び本文を入力し印字したFであるというべきである。Dは、公証人に対し、本件遺言書の筆者としてFの氏名及び住所を申述しなかったのであるから、本件遺言は、民法970条1項3号所定の方式を欠き、無効である。
事案を、整理します。遺言書は、作成年月日の一部と氏名だけが遺言者の自筆で、あとはワープロの印字でした。印字したのは、遺言者の妻の子の妻です。市販の遺言書の文例を見ながら、入力しました。遺言者は、公証人と証人の前で、自己の遺言書だと述べ、自分が筆記したとも述べました。しかし、実際に入力した人の氏名と住所は述べませんでした。そこで、秘密証書遺言として無効、と判断されました。問いです。この事案で、公証人に筆者として述べるべきなのは、誰の氏名と住所でしょうか。ワープロを操作して入力した、遺言者の妻の子の妻です。筆者を述べさせるのは、誰が書いたのかを明らかにして、遺言者の意思どおりに書かれたかを確かめられるようにするためだと考えられます。
条文民法971条
民法第971条(方式に欠ける秘密証書遺言の効力) 秘密証書による遺言は、前条に定める方式に欠けるものがあっても、第九百六十八条に定める方式を具備しているときは、自筆証書による遺言としてその効力を有する。
次は、方式を欠いたときの救済です。第1章で見た、無効行為の転換の条文が、これです。秘密証書遺言としては方式を欠いていても、自筆証書遺言の方式を備えていれば、自筆証書遺言として有効になります。例です。父が、本文を自分で書き、日付と氏名も書いて押印しました。これを封書にして公証役場に持って行きましたが、証人が1人しか来ませんでした。秘密証書遺言としては、証人が足りず無効です。しかし、全文、日付、氏名の自書と押印がそろっているので、自筆証書遺言として有効です。ワープロで本文を作った先ほどの判例の事案は、本文が自書ではありません。自筆証書遺言の方式を備えていないので、転換で救うことはできません。本文を自書したか、が分かれ目です。細部を、三つ言います。口がきけない人は、通訳人の通訳か、封紙への自書で、筆者の申述に代えます。成年被後見人が遺言するとき、医師が、判断する力を欠く状態になかったと書き添える付記は、前回見ました。秘密証書遺言では、それを封紙に書きます。そして、秘密証書遺言には検認が要ります。検認は、別の回で扱います。
特別方式の遺言
図:特別方式の4類型
- 死亡の危急に迫った者(976条)=証人3人以上・口授→筆記→読み聞かせ→署名押印・20日以内に家庭裁判所の確認が要る
- 伝染病隔離者(977条)=警察官1人+証人1人以上・確認なし
- 在船者(978条)=船長または事務員1人+証人2人以上・確認なし
- 船舶遭難者(979条)=証人2人以上・口頭・遅滞なく家庭裁判所の確認が要る
- 普通の方式ができるようになって6か月生存で失効(983条)
次は、特別方式です。死が迫っているなど、普通方式で作る余裕がない場面のための、略式の方式でした。4種類あります。条文を読みながら、立会人の人数と、家庭裁判所の確認が要るかを、比べてください。
条文民法976条1項・4項・5項
民法第976条(死亡の危急に迫った者の遺言) 疾病その他の事由によって死亡の危急に迫った者が遺言をしようとするときは、証人三人以上の立会いをもって、その一人に遺言の趣旨を口授して、これをすることができる。この場合においては、その口授を受けた者が、これを筆記して、遺言者及び他の証人に読み聞かせ、又は閲覧させ、各証人がその筆記の正確なことを承認した後、これに署名し、印を押さなければならない。 前三項の規定によりした遺言は、遺言の日から二十日以内に、証人の一人又は利害関係人から家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。 家庭裁判所は、前項の遺言が遺言者の真意に出たものであるとの心証を得なければ、これを確認することができない。
1つ目が、死亡の危急に迫った人の遺言です。証人は3人以上です。遺言者が、証人の1人に趣旨を口で伝え、受けた人が筆記して、遺言者と他の証人に読み聞かせるか見せます。各証人が、正確だと認めて、署名と押印をします。そして、遺言の日から20日以内に、家庭裁判所の確認を得なければ、効力を生じません。裁判所は、遺言者の真意に出たものとの心証がなければ、確認できません。例です。入院中の父が、危篤になりました。病室で、証人3人の前で、遺言の趣旨を口で伝えました。急ぐので、公証人は呼べません。こういうときの方式です。書き残す余裕がないぶん、あとから裁判所が真意を確かめるのです。
条文民法977条
民法第977条(伝染病隔離者の遺言) 伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所に在る者は、警察官一人及び証人一人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
条文民法978条
民法第978条(在船者の遺言) 船舶中に在る者は、船長又は事務員一人及び証人二人以上の立会いをもって遺言書を作ることができる。
条文民法979条1項・3項
民法第979条(船舶遭難者の遺言) 船舶が遭難した場合において、当該船舶中に在って死亡の危急に迫った者は、証人二人以上の立会いをもって口頭で遺言をすることができる。 前二項の規定に従ってした遺言は、証人が、その趣旨を筆記して、これに署名し、印を押し、かつ、証人の一人又は利害関係人から遅滞なく家庭裁判所に請求してその確認を得なければ、その効力を生じない。
2つ目が、伝染病で隔離された人です。警察官1人と、証人1人以上の立会いで、遺言書を作ります。3つ目が、船の中にいる人です。船長か事務員が1人と、証人2人以上です。4つ目が、船が遭難して、死が迫った人です。証人2人以上の立会いで、口頭で遺言できます。証人が趣旨を筆記して署名と押印をし、遅滞なく家庭裁判所の確認を得ます。人数を暗記するより、対比の軸を持ってください。確認が要るのは、死亡の危急に迫った人の2つ、つまり976条と979条です。隔離された人と船の中にいる人の遺言には、確認の規定がありません。死が迫っている場面だけ、あとから真意を裁判所が確かめます。署名押印や、書けないときの付記は、980条から982条にあります。982条によって、あとで見る書き換えの方式、証人の欠格、共同遺言の禁止は、特別方式にも当てはまります。
条文民法983条
民法第983条(特別の方式による遺言の効力) 第九百七十六条から前条までの規定によりした遺言は、遺言者が普通の方式によって遺言をすることができるようになった時から六箇月間生存するときは、その効力を生じない。
特別方式には、期限があります。普通の方式で遺言できるようになってから、6か月生きていると、効力を失います。例です。危篤の父が、証人3人の前で遺言をして、20日以内に確認を得ました。ところが、父は回復して退院し、普通の方式で遺言できるようになりました。そこから6か月以上生きたなら、この遺言は、効力を生じません。略式の遺言は、余裕がないときだけのもの、という趣旨です。普通の方式で、作り直せるからです。問いです。危急時の遺言で、家庭裁判所の確認を請求する期限は、遺言の日から何日以内でしょうか。20日以内です。
加除変更の方式
図:加除変更の方式
- 968条3項
- 遺言者が①変更の場所を指示②変更した旨を付記③そこに特に署名④変更の場所に押印。欠けると変更は効力を生じない(元の記載が残る)。秘密証書遺言(970条2項)・特別方式(982条)にも準用。
遺言書を書いたあとで、字を直したり、足したり、削ったりするときの決まりです。
条文民法968条3項
民法第968条3項(自筆証書遺言) 自筆証書(前項の目録を含む。)中の加除その他の変更は、遺言者が、その場所を指示し、これを変更した旨を付記して特にこれに署名し、かつ、その変更の場所に印を押さなければ、その効力を生じない。
求められるのは、4つです。変更の場所を示すこと。変更した旨を書くこと。そこに署名すること。変更の場所に押印すること。1つ欠けても、変更は効力を生じません。秘密証書遺言にも、特別方式にも、同じ決まりが当てはまります。例です。自筆の遺言の、自宅は長男に、の長男に二重線を引き、長女と書き込み、訂正印だけ押しました。変更した旨の付記と署名がないので、この変更は効力を生じません。元の、長男に、のままです。面倒にしてあるのです。変更が、本当に遺言者本人の意思によるものだと、確かめられるようにするためです。だから、直したいときは、新しい遺言を書き直して、前の遺言を撤回するほうが確実です。
証人・立会人の欠格
図:証人・立会人になれない者(974条)
- 未成年者
- 利害のある人側=推定相続人・受遺者とその配偶者・直系血族
- 公証人側=公証人の配偶者・4親等内の親族・書記・使用人。遺言者に妻と長女がいて友人に遺贈する設例で、証人候補を判定。
次は、証人と立会人の欠格です。前回、初めて見ました。今回は整理します。公正証書遺言と秘密証書遺言の証人や立会人に適用され、特別方式にも当てはまります。
条文民法974条
民法第974条(証人及び立会人の欠格事由) 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。 一 未成年者 二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族 三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
3つのグループです。未成年者。遺言の内容で利害のある人の側、つまり推定相続人と受遺者、そしてそれぞれの配偶者と直系血族。そして公証人の側、つまり公証人の配偶者、4親等内の親族、書記、使用人です。証人は、遺言者の真意を、外から確かめる役でした。遺言の中身で得をしたり損をしたりする人や、公証人の身内や部下には、その役を任せられません。未成年者は、その役を担う力が、まだ十分でないとされます。例で試します。遺言者に、妻と長女がいます。友人に、遺贈もします。証人の候補を並べます。妻は、推定相続人なので、なれません。長女の子、つまり遺言者の孫は、直系血族なので、なれません。友人の妻は、受遺者の配偶者なので、なれません。公証人の書記も、なれません。17歳の隣人も、未成年者なので、なれません。
子は第1順位、兄弟姉妹は第3順位の相続人でした。子がいれば、遺言者の弟や妹は推定相続人ではありません。兄弟姉妹は条文に列挙されていないので、子のいる遺言者の弟は証人になれます。前回見たとおり、目の見えない人も、欠格者ではありません。
共同遺言の禁止
図:共同遺言の禁止
- 975条
- 夫婦が1枚の紙に連名で「私たちの財産は2人とも亡くなったら長男に」→禁止・無効。別々の証書にそれぞれ書く→問題なし。理由=一方の意思や撤回の自由が他方の意思に左右される。
条文民法975条
民法第975条(共同遺言の禁止) 遺言は、二人以上の者が同一の証書ですることができない。
次は、共同遺言の禁止です。2人以上の人が、同じ1枚の証書で遺言をしてはいけません。例です。夫婦が、1枚の紙に連名で、私たちの財産は、2人とも亡くなったら長男に、と書いて、署名と押印をしました。これは、共同遺言で、無効です。夫婦が、別々の紙に、それぞれ書くのは、問題ありません。趣旨は、遺言の自由を守ることです。1枚の紙で一緒に書くと、一方の意思が他方の意思に縛られます。たとえば、夫が遺言を撤回したくなっても、妻の分と一体になっていると、自由に撤回しにくくなります。それを避けるのです。特別方式にも、982条で当てはまります。
判例最判昭56・9・11 民集35巻6号1013頁
一方に方式の違背があっても共同遺言にあたる 同一の証書に二人の遺言が記載されている場合は、そのうちの一方に氏名を自書しない方式の違背があるときでも、右遺言は、民法九七五条により禁止された共同遺言にあたるものと解するのが相当である。
判例です。1枚の証書に2人分の遺言があり、一方は氏名を自書していませんでした。それでも、共同遺言にあたると判断しました。同じ証書に2人分が載っていれば、一方の方式に欠けがあっても、禁止の対象です。一方の方式が欠けていても、1枚に2人の意思が載っている以上、互いに縛り合って撤回しにくくなるおそれは変わらないからです。
遺言の解釈
図:遺言の解釈
- 遺言は相手方のない単独行為→文言を形式的に判断するだけでなく、遺言者の真意を探究
- 特定の条項も、遺言書の全記載・作成当時の事情・遺言者の置かれた状況を考慮
- 有効になる解釈と無効になる解釈があるなら、有効になる解釈を採る
ここからは、方式が整った遺言を、どう読むか、です。契約なら、相手の信頼を守るために、文言を重く見ます。遺言は、相手方のない単独行為です。守るべき相手の信頼が、いません。だから、文言をそのまま読むだけでなく、遺言者の真意を探ります。
判例最判昭58・3・18 集民138号277頁
遺言の解釈は、遺言者の真意を探究して条項の趣旨を確定する 遺言の解釈にあたつては、遺言書の文言を形式的に判断するだけではなく、遺言者の真意を探究すべきものであり、遺言書が多数の条項からなる場合にそのうちの特定の条項を解釈するにあたつても、単に遺言書の中から当該条項のみを他から切り離して抽出しその文言を形式的に解釈するだけでは十分ではなく、遺言書の全記載との関連、遺言書作成当時の事情及び遺言者の置かれていた状況などを考慮して遺言者の真意を探究し当該条項の趣旨を確定すべきものであると解するのが相当である。
事案です。遺言者が、妻に不動産を遺贈し、妻が死亡したら弟妹らに遺贈する、という遺言書を作りました。原審は、この2つの条項だけを抜き出して、後継ぎ遺贈、つまり、まず妻に与え、妻が死んだら次の人へ移す、という順送りの遺贈の型にあてはめ、2つ目の遺贈は、希望を述べただけだと読みました。最高裁は、全体の記載や作成当時の事情を考慮して真意を探りなさい、として、原審を破棄して差し戻しました。条項だけを切り離して読むな、というのが決め手です。例です。遺言に、自宅は長女にゆずる、とだけ書いてあるとします。ゆずる、は、遺贈なのか、相続分の指定なのか、文言だけでは決まりません。遺言書全体の記載や、作成のときの事情から、本人が何をしたかったのかを探ります。もう1つ、判例の考え方があります。有効になる解釈と、無効になる解釈の両方がありうるなら、有効になる解釈を採ります。せっかく本人が遺した意思を、できるだけ生かすためです。
遺言の無効と取消し
図:無効・取消し・撤回の比較
- 無効の原因=方式違反(960条・975条)/遺言能力を欠く(961条・963条)/被後見人の遺言の制限(966条)/公序良俗違反(90条)
- 取消し=錯誤・詐欺・強迫(95条・96条)→初めから無効
- 撤回=遺言者本人・生前・理由は不要・遺言の方式が必要
次は、遺言が無効になる場面と、取り消せる場面です。無効とは、最初から効果が生まれていないことでした。無効になる主な原因は、4つです。1つ目、方式違反です。960条のとおり、方式を欠く遺言は無効です。共同遺言も、これにあたります。2つ目、遺言能力を欠くときです。15歳未満や、意思能力のないときです。3つ目は、まだ見ていない条文です。
条文民法966条
民法第966条(被後見人の遺言の制限) 被後見人が、後見の計算の終了前に、後見人又はその配偶者若しくは直系卑属の利益となるべき遺言をしたときは、その遺言は、無効とする。 前項の規定は、直系血族、配偶者又は兄弟姉妹が後見人である場合には、適用しない。
後見の計算とは、後見が終わるときに、後見人が管理してきた財産の収支を明らかにすることです。その計算が終わる前に、後見人が自分に有利な遺言を書かせては、不当な影響が疑われます。そこで、無効としています。例です。高齢の叔父が、後見の計算の終わる前に、後見人である甥に、全財産を与える遺言をしました。これは、無効です。ただし、後見人が叔父の弟、つまり兄弟姉妹なら、この規定は働きません。近い身内が後見人なら、有利な遺言でも、自然な情愛から出たものと見られるからです。4つ目は、公序良俗に反する遺言で、90条により無効です。
取り消せる遺言も、あるんですか。あります。第1章で見た、錯誤、詐欺、強迫による取消しは、遺言にも使えます。取り消された遺言は、第1章で見たとおり、初めから無効だったことになります。撤回との違いを、整理します。撤回は、遺言者本人だけが、生きている間に、理由なしにできます。ただし、遺言の方式が要ります。取消しは、意思表示に錯誤や詐欺、強迫があった場合です。遺言者が生きている間は、撤回で足りるので、取消しが問題になるのは、主に遺言者の死亡後です。そのときは、遺言者の地位を継いだ相続人が、取り消します。なお、詐欺や強迫で遺言をさせた人は、相続欠格になりました。
冒頭の答えとまとめ
図:冒頭の答え
- 本文をパソコンで作った遺言=秘密証書遺言なら有効(署名と押印は本人・封印・公証人1人と証人2人以上の前で申述・筆者の氏名と住所)
- 方式を欠いても自筆証書遺言の方式を備えていれば自筆証書遺言として有効(971条)
- 本文が自書でなければ救えない
冒頭の答えを出します。本文をパソコンで作った遺言は、秘密証書遺言の方式を踏めば、有効にできます。遺言者が証書に署名して押印し、封じて、証書に押した印で封印します。公証人1人と証人2人以上の前に封書を出して、自分の遺言書であることと、筆者の氏名と住所を述べます。本文はパソコンでも代筆でもかまいませんが、署名と押印は遺言者本人です。公証人は、中身を見ません。手順のどれかが抜けたら、その遺言は全部だめになってしまうんですか。そこが、もう1つの問いの答えです。秘密証書遺言として方式を欠いていても、自筆証書遺言の方式を備えていれば、971条によって、自筆証書遺言として有効になります。証人が足りなかった例が、そうでした。ただし、本文がパソコンの印字なら、自筆証書遺言の方式を備えていないので、救えません。パソコンで本文を作るなら、秘密証書遺言の手順を、抜けなく踏む必要があります。5つ確認します。1つ目、秘密証書遺言は、手順が4つで、筆者の氏名と住所を述べます。方式に欠けても、自筆証書遺言の方式を備えていれば、自筆証書遺言として有効です。2つ目、特別方式で家庭裁判所の確認が要るのは、危急時の2つです。普通の方式ができるようになって6か月生きたら、失効します。3つ目、加除変更は、場所の指示、付記、署名、押印が要ります。証人の欠格者は、未成年者、利害のある側、公証人の側です。共同遺言は禁止です。4つ目、遺言の解釈は、遺言者の真意を探ります。5つ目、無効の主な原因は、方式、能力、被後見人の制限、公序良俗で、取消しは錯誤、詐欺、強迫です。
参照条文
- 民法970条1項
- 民法971条
- 民法976条1項・4項・5項
- 民法977条
- 民法978条
- 民法979条1項・3項
- 民法983条
- 民法968条3項
- 民法974条
- 民法975条
- 民法966条