民法ゼロから民法#380

遺言書の検認と遺言執行者

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第8章 相続 #380/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

封を切った遺言書はどうなる

冒頭の設例。A=父(遺言者)/B=長男。Aの死亡後、机の引き出しから封をした遺言書が出てきた。Bはその場で封を切り、中を読んだ。この遺言は無効になるのか。 図:冒頭の設例

  • A=父(遺言者)/B=長男
  • Aの死亡後、机の引き出しから封をした遺言書が出てきた
  • Bはその場で封を切り、中を読んだ
  • この遺言は無効になるのか

父が亡くなりました。机の引き出しから、封をした遺言書が出てきました。長男は、その場で封を切って、中を読んでしまいました。この遺言は、無効になるでしょうか。封を切ったことを重く見るのは、自然な感覚です。その感覚は、法律が守ろうとしているものを、よく捉えています。ただ、答えは、封のある遺言書の開け方を見たところで出します。前回までは、遺言を作る側と、変える側を見ました。今回は、遺言者が亡くなったあと、遺言を実現する側です。これを、遺言の執行といいます。先に一言だけ。遺言の方式を見直す改正法が成立していますが、施行はこれからです。検認の条文にも、手が入る予定です。今回は、今の条文で覚えます。

今日の地図。①遺言の執行とは②遺言書の検認③封印のある遺言書の開封④検認と遺言の効力⑤遺言執行者(指定と選任→任務と権限→効果→相続人の処分→訴訟)⑥冒頭の答え。 図:今日の地図

道筋は6つです。1つ目、遺言の執行とは何か。2つ目、遺言書を見つけた人がやる検認。3つ目、封のある遺言書の開け方。4つ目、検認と遺言の有効性の関係。5つ目、遺言を実現する担い手である遺言執行者。後半には、もう1つ問いがあります。遺言執行者がいるのに、相続人が遺産を売ってしまったら、売買はどうなるのか。6つ目が、冒頭の答えです。

遺言の執行とは

遺言の執行=遺言の内容を実現する行為。執行が要る例:遺贈(登記の手続)・認知(戸籍の届出)・廃除(家庭裁判所への請求)。執行が要らない例:相続分の指定・未成年後見人の指定・遺産分割の禁止。見分け方=実現のために誰かが何かをする必要があるか。

  • 遺言の執行=遺言の内容を実現する行為
  • 執行が要る例:遺贈(登記の手続)・認知(戸籍の届出)・廃除(家庭裁判所への請求)
  • 執行が要らない例:相続分の指定・未成年後見人の指定・遺産分割の禁止
  • 見分け方=実現のために誰かが何かをする必要があるか

遺言の執行とは、遺言の内容を実現する行為です。遺言は、死亡の時から効力を生じます。ただ、効力が生じただけでは、書いてあることが現実にならない場合があります。例を3つ挙げます。1つ目、甲土地を友人に遺贈する、という遺言。効力は死亡で生じますが、名義を移す登記の手続が、別に要ります。2つ目、遺言による認知。効力は死亡で生じますが、戸籍の届出が別に要ります。以前見たとおり、この届出をするのは遺言執行者です。3つ目、遺言による推定相続人の廃除。家庭裁判所への請求が要ります。これも遺言執行者の役目でした。反対に、執行が要らない遺言もあります。相続分の指定、未成年後見人の指定、遺産分割の禁止です。これらは、効力が生じれば足り、誰かが追加で何かをしなくても、内容がそのまま通ります。

暗記ではなく、見分け方を持ってください。実現するために、誰かが手続や行為をする必要があるか、です。登記、届出、請求が要るなら、執行が必要です。では、執行は誰がするのか。原則は、相続人です。ただし、遺言執行者がいるときは、執行は遺言執行者に全面的に任されます。相続人は、執行について権限も義務も持ちません。さらに、認知の届出と廃除の請求は、相続人の利害が大きく絡むので、遺言執行者でなければできません。執行には、道具が2つあります。準備のための検認と、担い手である遺言執行者です。まず検認から見ます。

遺言書の検認

検認が要る・要らない。自筆証書遺言=要る(法務局保管なら不要・保管法11条)/公正証書遺言=不要(1004条2項)/秘密証書遺言=要る。 図:検認が要る・要らない

復習です。法務局に保管された自筆証書遺言は、検認が要るでしょうか?要らないはずです。保管制度の条文で、検認の規定を適用しないと決めていました。では、要る遺言と要らない遺言を、全体で整理します。検認とは、遺言書を家庭裁判所で確かめる手続です。相続人に、遺言書の存在と中身を知らせ、その時点の状態を記録します。あとから書き換えられたり、偽造されたりするのを防ぎ、証拠を残すためです。現場の写真を撮って、関係者に見せておく手続だと考えてください。

条文民法1004条

民法第1004条(遺言書の検認) 遺言書の保管者は、相続の開始を知った後、遅滞なく、これを家庭裁判所に提出して、その検認を請求しなければならない。遺言書の保管者がない場合において、相続人が遺言書を発見した後も、同様とする。 前項の規定は、公正証書による遺言については、適用しない。 封印のある遺言書は、家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会いがなければ、開封することができない。

1項と2項です。遺言書を預かっていた人は、相続が始まったと知ったら、遅滞なく、家庭裁判所に提出して、検認を請求しなければなりません。できる、ではなく、しなければならない、です。預かり手がいなくて、相続人が見つけた場合も、同じです。管轄は、相続が開始した地の家庭裁判所です。2項で、公正証書遺言は対象外です。原本が公証役場に保管されていて、偽造や変造のおそれがないからです。法務局に保管された自筆証書遺言も、先ほど見たとおり、検認は要りません。原本を法務局が預かり、画像でも記録しているので、同じく書き換えの心配がないからです。反対に、自宅などで保管された自筆証書遺言は、検認が要ります。秘密証書遺言も要ります。公証人が見届けるのは、遺言書があることだけです。中身は見ず、原本も預からないので、保管中に書き換えられていないかを、確かめる必要があるからです。例で確かめます。父が自宅で保管していた自筆の遺言書を、同居していた長女が、引き出しから見つけました。長女は、何をしなければならないでしょうか。

相続の開始を知ったあと、遅滞なく、です。長女が遺言書を預かっていたのでも、たまたま見つけたのでも、義務の中身は同じです。

封印のある遺言書の開封と過料

封のある遺言書を見つけたときの流れ。発見→開けずに家庭裁判所へ提出・検認の請求→検認の期日(相続人等の立会い)→開封→検認調書。封を切った場合=1005条の過料(5万円以下)。遺言は無効にならない。 図:封のある遺言書を見つけたときの流れ

  • 発見→開けずに家庭裁判所へ提出・検認の請求→検認の期日(相続人等の立会い)→開封→検認調書
  • 封を切った場合=1005条の過料(5万円以下)
  • 遺言は無効にならない

1004条の3項です。封印のある遺言書は、家庭裁判所で、相続人またはその代理人の立会いがなければ、開封できません。封印とは、封じ目に印を押して封をすることです。以前見たとおり、秘密証書遺言は、遺言者が証書を封じて、証書に使った印で封印する方式なので、必ず封印があります。自筆証書遺言でも、封筒に入れて封をしてあることがあります。手順は、こうです。見つけたら、開けずに家庭裁判所へ持っていきます。検認の期日に、相続人などが立ち会うなかで、裁判官が開封します。そのあと、検認の内容が調書に記録されます。

条文民法1005条

民法第1005条(過料) 前条の規定により遺言書を提出することを怠り、その検認を経ないで遺言を執行し、又は家庭裁判所外においてその開封をした者は、五万円以下の過料に処する。

違反した場合です。提出を怠った人、検認を受けずに遺言を執行した人、家庭裁判所の外で開封した人は、5万円以下の過料に処されます。ここで、冒頭の問いに戻ります。封を切った遺言書は、無効になるのでしょうか?過料の定めがあっても、封を切った遺言は、無効になりません。遺言が有効かどうかは、方式、能力、内容で決まります。前の回までで見た問題です。開封のしかたでは決まりません。1005条が定めているのは、過料だけです。長男が封を切ったことは、過料の対象になりえますが、遺言の効力には響きません。ただし、開けてしまっても、義務は消えません。長男は、そのあと、家庭裁判所に提出して、検認を請求しなければなりません。もう1点。開けただけでは、遺言書を破ったことにも、隠したことにもなりません。相続人が遺言書を破棄・隠匿すると、不当な利益を目的とした二重の故意があれば相続欠格になる、という話は前に見ました。封を切って読んだだけでは、その入口にも立っていません。

検認と遺言の効力の関係

検認で決まること/決まらないこと。決まる=遺言書の存在と内容を相続人に知らせる・検認時点の状態の記録(偽造・変造の防止)。決まらない=方式を満たしているか・遺言者の真意か・遺言が有効か。検認を経ても後の訴訟で無効とされることはある。検認を受けなくても遺言は無効にならない。

  • 検認で決まること/決まらないこと
  • 決まる=遺言書の存在と内容を相続人に知らせる・検認時点の状態の記録(偽造・変造の防止)
  • 決まらない=方式を満たしているか・遺言者の真意か・遺言が有効か
  • 検認を経ても後の訴訟で無効とされることはある
  • 検認を受けなくても遺言は無効にならない

検認は、偽造や変造を防ぎ、証拠を残すための手続にとどまります。方式を満たしているか、遺言者の真意か、遺言として有効か、という判断はしません。帰結は2つあります。1つ目、検認を経た遺言でも、あとの訴訟で無効とされることがあります。検認は、お墨付きではありません。2つ目、検認を受けなかったことは、遺言の効力に関係しません。検認を受けなくても、そのせいで遺言が無効になることはありません。冒頭の答えと、同じ筋です。現場の写真の喩えに戻ります。写真は、その時の状態の証拠にはなりますが、契約が有効かどうかを決める判決ではありません。検認は、遺言の中身を相続人全員に知らせ、状態を固定して、あとの争いに備える手続です。費用にも触れます。遺言の執行の費用は、相続財産の負担です。検認の費用や、遺言執行者の報酬も含みます。ただし、遺留分を減らすことはできません。遺留分は、あとの回で扱います。

遺言執行者の指定・選任と欠格

遺言執行者になる3つのルート。①遺言で指定(1006条1項)②遺言で第三者に指定を委託→その第三者が指定(1006条)③利害関係人の請求で家庭裁判所が選任(1010条)。なれない人=未成年者・破産者(1009条)。 図:遺言執行者になる3つのルート

  • ①遺言で指定(1006条1項)②遺言で第三者に指定を委託→その第三者が指定(1006条)③利害関係人の請求で家庭裁判所が選任(1010条)
  • なれない人=未成年者・破産者(1009条)

ここから後半、担い手の遺言執行者です。遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な行為をする役目を持つ人です。死後の事務を託された、進行役と考えてください。なり方は3つあります。1つ目、遺言者が、遺言で指定します。2つ目、遺言者が、遺言で第三者に指定を委ねます。委ねられた第三者は、遅滞なく指定して、相続人に通知します。辞退するときも、遅滞なく相続人に通知します。1006条です。複数でもかまいません。法人もなれます。3つ目が、家庭裁判所による選任です。

条文民法1010条

民法第1010条(遺言執行者の選任) 遺言執行者がないとき、又はなくなったときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求によって、これを選任することができる。

遺言に指定がなかった場合や、指定された者がいなくなった場合に、利害関係人が請求すると、家庭裁判所が選びます。例です。遺言に執行者の指定がなく、遺贈を受ける友人が、手続が進まず困っている。友人は、利害関係人として、家庭裁判所に選任を請求できます。反対に、遺言で、友人の弁護士を指定していた場合は、1つ目のルートです。なれない人も決まっています。未成年者と破産者です。1009条です。遺言執行者は、他人の財産を管理し、処分する役目です。未成年者は、親などの同意がなければ、自分ひとりで確実な取引ができません。破産者は、自分の財産を管理し処分する権限を失っています。そういう人に、遺産を任せることはできないからです。

相続人も、遺言執行者になれます。ただし、受遺者や、他の相続人と利害が対立する場面では、公平な職務が期待しにくくなります。そうなると、務めるのに適さない、解任の理由になりうる、と考えられます。指定された人は、引き受けるか断るか、自由です。相続人などの利害関係人は、期間を定めて、引き受けるか確答するよう催告できます。その期間内に確答がなければ、承諾したものとみなされます。黙っている人を、辞退ではなく承諾の側に倒すのは、その人を選んだ遺言者の意思を生かし、執行を止めないためです。断りたいなら、期間内にそう答えれば足ります。1008条です。

遺言執行者の任務と権限

任務のタイムライン。指定または選任→就職の承諾→直ちに任務開始→遅滞なく遺言の内容を相続人に通知→財産目録の作成・交付→遺言の内容の実現→任務終了。権限の柱=①一切の行為をする権利義務②遺贈の履行は遺言執行者だけ。 図:任務のタイムライン

  • 指定または選任→就職の承諾→直ちに任務開始→遅滞なく遺言の内容を相続人に通知→財産目録の作成・交付→遺言の内容の実現→任務終了
  • 権限の柱=①一切の行為をする権利義務②遺贈の履行は遺言執行者だけ

任務の流れです。就職を承諾したら、直ちに任務を行わなければなりません。任務を開始したら、遅滞なく、遺言の内容を相続人に通知します。1007条です。さらに、遅滞なく、相続財産の目録を作って、相続人に渡します。1011条です。

条文民法1012条

民法第1012条(遺言執行者の権利義務) 遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。 遺言執行者がある場合には、遺贈の履行は、遺言執行者のみが行うことができる。 第六百四十四条、第六百四十五条から第六百四十七条まで及び第六百五十条の規定は、遺言執行者について準用する。

1項です。遺言執行者は、遺言の内容を実現するために、遺産の管理その他必要な一切の行為をする権利と義務を持ちます。以前、遺産の管理の回で予告した言い方です。2項は、重要です。遺言執行者がいるとき、遺贈の履行ができるのは、遺言執行者だけです。例です。遺言に、甲土地を友人Aに遺贈する、とあり、遺言執行者Eがいます。Aへ名義を移す登記の手続は、Eがします。相続人は、自分でAへ履行することはできません。なぜ相続人にさせないのか。遺贈で甲土地がAに移れば、その分、相続人の取り分は減ります。履行する側と損をする側が同じでは、手続が進みにくいのです。認知の届出や廃除の請求と、同じ筋です。3項です。委任の規定が準用されます。委任のところで、受任者の義務を見ました。善良な管理者の注意を払うこと、報告、受け取ったものの引渡し、金銭を使い込んだときの責任です。委任者の費用償還の規定も準用されます。頼んだのは遺言者ですが、遺言者は、もういません。遺産は、相続人のものになっています。そこで、委任者の立場には相続人が入り、遺言執行者は、相続人に対して、報告や引渡しの責任を負います。委任のところで予告された、本人の死後に頼まれた事務を実現する人が、遺言執行者です。周辺の規定を一言ずつ。遺言執行者は、自己の責任で第三者に任務を行わせることができます。やむを得ない事由があるときは、選任と監督の責任だけです。1016条です。数人いるときは、過半数で決めます。報酬は、遺言者が定めていればそれ、なければ家庭裁判所が定めます。解任は利害関係人の請求で家庭裁判所が行い、辞任には家庭裁判所の許可が要ります。

遺言執行者の行為の効果

1015条。遺言執行者が権限内で、遺言執行者であることを示してした行為→相続人に直接効力を生ずる。例:遺言の定めにそって遺産の絵画を売り、代金を受遺者に渡す。 図:1015条

遺言執行者の行為の効果は、相続人に直接及びます。遺言執行者が、権限の範囲内で、遺言執行者であることを示しておこなった行為は、相続人に対して、直接にその効力を生じます。1015条です。例です。遺言に、遺産の絵画を売って代金を慈善団体に寄付する、とあります。遺言執行者Eが、遺言執行者として買主と売買契約を結びました。この売買の効果は、相続人に帰属します。相続人が承諾したわけではなく、相続人の利益になる行為でなくても、そうなります。注意点が1つあります。遺言執行者は、相続人の代理人ではありません。先ほど、委任者の立場には相続人が入ると言いましたが、相続人の指図に従う人ではなく、遺言者の意思を実現する、独立した地位の人です。以前は、相続人の代理人とみなす、という文言でした。そのため、相続人の利益のために動く人だと受け取られ、遺言の内容が相続人に不利な場面で、もめごとが起きていました。それで改められました。それでも効果が相続人に及ぶのは、売った絵画が、死亡の時から相続人の財産だからです。持ち主の財産について結んだ契約なので、その効果は、持ち主である相続人に帰属します。

遺言執行者がいるときの相続人の処分

冒頭の後半の問い。A=父/B=長男/C=長女(受遺者)/D=買主/E=遺言執行者/F=Bの債権者。遺言「自宅はCに遺贈」、Eが遺言執行者。Bが自宅をDに売却。 図:冒頭の後半の問い

  • A=父/B=長男/C=長女(受遺者)/D=買主/E=遺言執行者/F=Bの債権者
  • 遺言「自宅はCに遺贈」、Eが遺言執行者
  • Bが自宅をDに売却

後半の問いです。父の遺言は、自宅は長女に遺贈する、でした。遺言執行者として、Eが指定されています。ところが、父の死後、長男が自宅を、買主に売ってしまいました。この売買は、有効でしょうか。条文に入る前に、考え方です。遺言執行者は、段取りを仕切る進行役でした。進行役がいるのに、相続人が勝手に遺産を動かせば、遺言は実現しません。一方で、事情を知らずに買った人まで巻き込むのは、酷です。1013条は、この2つを調整しています。

条文民法1013条

民法第1013条(遺言の執行の妨害行為の禁止) 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。 前項の規定に違反してした行為は、無効とする。ただし、これをもって善意の第三者に対抗することができない。 前二項の規定は、相続人の債権者(相続債権者を含む。)が相続財産についてその権利を行使することを妨げない。

1項です。遺言執行者がいるとき、相続人は、遺産を処分したり、遺言の執行を妨げたりできません。遺言執行者の職務を公正に行わせるために、相続人の処分権を制限しています。2項です。これに違反した行為は無効です。ただし、善意の第三者には、その無効を対抗できません。ここでの善意とは、遺言執行者がいることを知らないことです。問いです。長男が自宅を売り、買主は、遺言執行者がいることを知りませんでした。長女は、無効を主張して、買主から自宅を取り戻せるでしょうか?買主が知っていたかどうかが、決め手です。買主が、遺言執行者がいることを知らなかったなら、善意の第三者です。長女は、無効を買主に対抗できません。取り戻せません。買主は、遺言執行者の有無を、簡単には調べられません。その買主を、守る規定です。以前の1013条は、1項だけで、善意の第三者にも無効を言えました。改正で、取引の安全が加わりました。反対に、買主が、遺言執行者がいることを知っていたなら、善意の第三者ではありません。長女は、無効を買主に対抗できます。3項です。相続人の債権者が、相続財産に権利を行使することは、妨げられません。例です。長男に借金があり、貸主Fが、自宅を差し押さえました。この差押えは、有効です。遺言執行者がいても、債権者が財産から回収する道までふさぐのは、行き過ぎだからです。また、債権者が知っていたかどうかで、差押えの効力が変わると、強制執行の手続が不安定になります。そこで、知っていたかどうかを問わず、債権者の権利行使は妨げられません。

1014条1項も一言。遺言が特定の財産だけに関するなら、これらの規定はその財産についてだけ適用されます。特定財産承継遺言の場合は、別の回で見ます。

遺言執行者の訴訟上の地位

訴訟の相手方一覧。受遺者が遺贈の履行を請求→被告=遺言執行者/相続人が遺言の無効・持分権の確認を求める→被告=遺言執行者/相続人名義の登記の抹消を遺言執行者が請求→原告=遺言執行者/登記が受遺者に移った後に相続人が抹消を請求→被告=受遺者。 図:訴訟の相手方一覧

遺言執行者は、遺言の執行に関する訴訟で、自分の名前で、原告にも被告にもなります。自分の権利のためではなく、遺産を管理し処分する権限にもとづいて、当事者になります。この権限は法律が与えたものなので、相続人のために、自分の名前で訴訟をするのです。民事訴訟法では、法定訴訟担当の例として学びます。場面は4つあります。遺贈の目的不動産に、相続人名義の登記があるとき、遺言執行者は、相続人に抹消を求めて原告になります。受遺者が遺贈の履行を求めるときは、遺言執行者が被告です。相続人が遺言の無効を主張して、自分の持分の確認を求めるときも、遺言執行者が被告です。遺言が有効なら、遺産を管理し処分するのは遺言執行者なので、遺言の効力を争う相手も、遺言執行者になるのです。そして4つ目が、線引きの場面です。判例を読みます。

判例最判昭51・7・19 民集30巻7号706頁

遺贈の登記が受遺者に移った後の抹消請求は、受遺者を被告とすべき 右のように、遺言執行者は、遺言に関し、受遺者あるいは相続人のため、自己の名において、原告あるいは被告となるのであるが、以上の各場合と異なり、遺贈の目的不動産につき遺言の執行としてすでに受遺者宛に遺贈による所有権移転登記あるいは所有権移転仮登記がされているときに相続人が右登記の抹消登記手続を求める場合においては、相続人は、遺言執行者ではなく、受遺者を被告として訴を提起すべきであると解するのが相当である。けだし、かかる場合、遺言執行者において、受遺者のため相続人の抹消登記手続請求を争い、その登記の保持につとめることは、遺言の執行に関係ないことではないが、それ自体遺言の執行ではないし、一旦遺言の執行として受遺者宛に登記が経由された後は、右登記についての権利義務はひとり受遺者に帰属し、遺言執行者が右登記について権利義務を有すると解することはできないからである。

事案です。遺言の執行として、受遺者のために、不動産に所有権移転の仮登記がされていました。相続人は、遺言執行者を被告に、遺言の無効の確認と、仮登記の抹消を求めました。遺言の無効確認の請求は、棄却されました。仮登記の抹消の請求は、被告を間違えているので、訴えが却下されました。決め手は、登記が受遺者に移った後は、登記についての権利義務が受遺者だけに属する点です。登記の保持に努めることは、遺言の執行そのものではありません。そのため、抹消を求めるなら、相手は受遺者です。境界を対にします。登記がまだ相続人名義のままで、受遺者への移転が済んでいないなら、遺言執行者が当事者です。登記が受遺者に移ったあとなら、相続人が抹消を求める相手は受遺者です。ここが、論文でも問われうる分かれ目です。

冒頭の答えとまとめ

まとめの板。封を切った場合=過料(1005条)/遺言は無効にならない/家庭裁判所に提出して検認を請求する義務は残る。後半の設例=Bの売却は無効(1013条2項本文)/善意のDには対抗できない(ただし書)/Fの差押えは有効(3項)。 図:まとめの板

  • 封を切った場合=過料(1005条)/遺言は無効にならない/家庭裁判所に提出して検認を請求する義務は残る
  • 後半の設例=Bの売却は無効(1013条2項本文)/善意のDには対抗できない(ただし書)/Fの差押えは有効(3項)

冒頭の答えを出します。封を切った長男の遺言は、無効になりません。長男の行為は、5万円以下の過料の対象になりえます。しかし、遺言の効力は、方式、能力、内容で決まります。開封のしかたでは決まりません。長男には、家庭裁判所へ提出して検認を請求する義務が、残ります。後半の問いの答えです。遺言執行者がいるのに、長男が売った自宅は、原則として無効です。ただし、遺言執行者がいることを知らない買主には、長女は無効を対抗できません。長男の債権者の差押えは、有効です。4つ確認します。1つ目、遺言の執行は、遺言の内容を実現する行為です。準備が検認、担い手が遺言執行者です。2つ目、検認は、提出して請求する義務があり、封印のある遺言書は、家庭裁判所で相続人等の立会いのもとで開封します。公正証書遺言と法務局保管の自筆証書遺言は不要です。検認は、遺言の有効・無効を決めません。3つ目、遺言執行者は、遺言での指定、第三者への委託、家庭裁判所の選任でなります。権限は一切の行為で、遺贈の履行は遺言執行者だけ、効果は相続人に帰属します。4つ目、相続人の処分は無効、善意の第三者に対抗できず、債権者の差押えは妨げません。訴訟では遺言執行者が当事者になります。

参照条文

  • 民法1004条
  • 民法1005条
  • 民法1010条
  • 民法1012条
  • 民法1013条

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