民法ゼロから民法#381

遺贈と受遺者の先死亡

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第8章 相続 #381/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

先に亡くなった友人の子は受け取れるか

冒頭の設例。父(遺言者)の遺言「甲土地を友人Aに遺贈する」。Aは父より先に死亡。Aの子(B)は甲土地を受け取れるのか。 図:冒頭の設例

  • 父(遺言者)の遺言「甲土地を友人Aに遺贈する」
  • Aは父より先に死亡
  • Aの子(B)は甲土地を受け取れるのか

父が遺言に、甲土地を友人Aに遺贈する、と書きました。ところが、Aは、父より先に亡くなっていました。Aには子がいます。Aの子は、甲土地を受け取れるでしょうか。受け取れそうだと感じるのは、気持ちの面では自然です。ただ、法律の答えは、遺贈が効力を生じない場面を見たところで出します。以前、相続の総論の回で、友人が先に亡くなっていたら遺贈は効力を生じない、と一言だけ見ました。今回は、その理由と、まわりの仕組みを見ます。前回は、遺言を実現する側、遺言執行者でした。今回は、遺言で財産をもらう側です。遺贈をめぐる登場人物は、遺贈する人、もらう人、実行する人の3人です。

今日の地図。①遺贈とは②受遺者③受遺欠格と廃除④遺贈義務者⑤遺贈が効力を生じない場面(先死亡・相続財産に属しない物)と取消し⑥特定遺贈の放棄と承認⑦包括遺贈の放棄との比較⑧冒頭の答え。 図:今日の地図

道筋は8つです。1つ目、遺贈とは何か。2つ目、遺贈を受けられる人。3つ目、受遺者の欠格と、廃除との違い。4つ目、遺贈を実行する人。5つ目、遺贈が効力を生じない場面です。受遺者が先に亡くなったとき、遺言者の財産でない物を遺贈したとき、そして取消しを見ます。6つ目、特定遺贈の放棄と承認。7つ目、包括遺贈の放棄との比較。8つ目が、冒頭の答えです。

遺贈とは何か

遺贈=遺言によって、自分の財産を他人に無償で与える処分(964条)。包括遺贈=割合で与える(例:遺産の3分の1を友人に)/特定遺贈=物を決めて与える(例:甲土地を友人に)。当事者3人=遺言者・受遺者(もらう人)・遺贈義務者(実行する人)。

  • 遺贈=遺言によって、自分の財産を他人に無償で与える処分(964条)
  • 包括遺贈=割合で与える(例:遺産の3分の1を友人に)/特定遺贈=物を決めて与える(例:甲土地を友人に)
  • 当事者3人=遺言者・受遺者(もらう人)・遺贈義務者(実行する人)

条文民法964条

民法第964条(包括遺贈及び特定遺贈) 遺言者は、包括又は特定の名義で、その財産の全部又は一部を処分することができる。

遺贈とは、遺言によって、自分の財産を、他人に無償で与える処分です。無償とは、対価をもらわずに与えることです。根拠が、964条です。与え方は2通りあります。包括は、遺産の3分の1を友人に、のように、割合で与える形です。特定は、甲土地を友人に、のように、物を決めて与える形です。この区別が効く場面が、今回は1つ出ます。遺贈の放棄の手続です。物に限りません。たとえば、500万円を友人に、という遺贈も、金額が決まっているので特定遺贈です。預金債権を友人に、という遺贈も同じです。決め手は、割合か、決まった対象か、です。当事者は3人です。遺言者、受遺者、遺贈義務者です。受遺者は、遺贈によって財産を与えられた人です。遺贈義務者は、遺贈を実行する義務を負う人です。誰がなるのかは、あとで見ます。もう1つ大事な点です。遺贈は、遺言者が一方的にする行為です。契約ではないので、受遺者の承諾は要りません。生前の約束による贈与とは、ここが違います。また、遺言で、相続人に財産を承継させる形との違いは、別の回で扱います。

遺贈を受けられる人

受遺者になれる人=相続人・相続人以外の人・法人・胎児(965条→886条)。相続放棄をしても遺贈は受けられる。胎児=生まれたものとみなす(死体で生まれたときは適用しない・886条2項)。

  • 受遺者になれる人=相続人・相続人以外の人・法人・胎児(965条→886条)
  • 相続放棄をしても遺贈は受けられる
  • 胎児=生まれたものとみなす(死体で生まれたときは適用しない・886条2項)

相続放棄の回を思い出してください。相続放棄をした長男に、父は、遺言で自宅を遺贈していました。長男は、自宅を受け取れるでしょうか?受け取れます。受遺者の地位は、相続人の地位とは別だからです。長男は、相続人としては初めからいなかったことになります。しかし、遺言で自宅をもらう受遺者としての地位は、残ります。受遺者になれる人を整理します。相続人でも、相続人以外の人でもかまいません。法人も、遺贈を受けられます。そして、胎児です。

条文民法965条

民法第965条(相続人に関する規定の準用) 第八百八十六条及び第八百九十一条の規定は、受遺者について準用する。

965条です。886条と891条の規定を、受遺者に準用する、とあります。準用とは、ある場面のために作られた条文を、必要な読み替えをして、別の場面にも当てはめることです。886条は、胎児の相続の条文です。胎児は、相続については、すでに生まれたものとみなされます。これを、遺贈にも使います。以前、胎児の権利能力の回で、出生を借りてくる橋が4つあると見ました。その3つ目が、遺贈でした。例です。生まれてくる孫に、この家を遺贈する、という遺言があります。孫は、生きて生まれれば、遺言者の死亡の時にすでにいたものとして、受遺者になれます。ただし、886条2項があります。胎児が死体で生まれたときは、この扱いは適用されません。橋が架かるのは、生きて生まれた場合だけです。死産なら、遺贈は、初めから受け取る相手がいなかったことになります。

受遺欠格と廃除

比較板。欠格・廃除・相続放棄 × ①相続人の資格 ②遺贈を受ける資格。欠格=どちらも失う/廃除=相続人の資格は失う・遺贈は受けられる/相続放棄=相続人の資格は失う・遺贈は受けられる。決め手=965条の準用の対象に892条が入っているか。 図:比較板

  • 欠格・廃除・相続放棄 ×
  • ①相続人の資格
  • ②遺贈を受ける資格
  • 欠格=どちらも失う/廃除=相続人の資格は失う・遺贈は受けられる/相続放棄=相続人の資格は失う・遺贈は受けられる
  • 決め手=965条の準用の対象に892条が入っているか

965条が準用するもう1つの条文、891条を見ます。891条は、相続欠格の条文です。たとえば1号は、故意に被相続人を死亡させ、またはさせようとして、刑に処せられた者です。この事由に当たる人は、遺贈を受ける資格も失います。これが、受遺欠格です。例です。遺言で、自宅を次男に遺贈すると書かれていた。ところが、次男は、父を故意に殺して、刑に処せられた。次男は、相続人の資格を失うだけでなく、この遺贈も受けられません。一方で、廃除はどうでしょうか。廃除は、被相続人が家庭裁判所に求め、審判があって初めて、相続人から外れる制度です。892条で決まっています。965条が準用するのは、886条と891条です。892条は入っていません。決め手は、965条の準用の対象に、892条が入っているかどうか、です。ですから、欠格と廃除の回で見たとおり、廃除された人は、遺贈を受ける資格を失いません。

理由は、制度の目的の違いです。欠格は、相続制度の基礎を壊すような重大な非行への、民事上の制裁です。法律が当然に外すので、被相続人の意思は関係ありません。だから、同じ非行で、遺贈を受ける資格も失います。廃除は、被相続人が決める制度です。外すかどうかを、被相続人の意思に委ねています。ですから、廃除したあとで、それでもこの人に財産をあげたいと思うなら、その意思は生かされます。遺贈は、遺言者が選んだ人に与える処分だからです。板で整理します。相続放棄は、相続人の資格は失いますが、遺贈は受けられます。廃除も、相続人の資格は失いますが、遺贈は受けられます。欠格だけが、どちらも失います。なお、891条の5号は、相続に関する遺言書を、偽造、変造、破棄、または隠匿した人です。この5号には改正法が成立していて、死亡の危急に迫った人の遺言などを、録音や録画などで記録した電磁的記録について、不正に作ったり、破棄したり、隠したりすることも加わる予定です。施行はこれからなので、今は、現行の条文で読みます。

遺贈義務者

遺贈義務者=遺贈を実行する義務を負う人。原則=相続人。遺言執行者がいるとき=遺言執行者だけが遺贈を履行できる(1012条2項)。例:甲土地の遺贈→引き渡し・登記の協力をする側。

  • 遺贈義務者=遺贈を実行する義務を負う人
  • 原則=相続人
  • 遺言執行者がいるとき=遺言執行者だけが遺贈を履行できる(1012条2項)
  • 例:甲土地の遺贈→引き渡し・登記の協力をする側

次は、実行する人です。遺贈義務者は、遺贈の履行をする義務を負う人です。原則は、相続人です。相続人は、被相続人の財産に属した一切の権利義務を、当然に承継します。896条本文です。財産を引き継ぐ人が、その財産から遺贈を実行する義務も負う、という形です。例です。遺言に、甲土地を友人に遺贈する、とあり、相続人は長男と長女の2人です。遺言執行者がいなければ、相続人が、友人への引渡しや、登記の協力をします。ただし、遺言執行者がいるときは、遺贈の履行ができるのは、遺言執行者だけです。前回の1012条2項です。相続人は、自分で履行することはできません。前回見た理由を、もう一度です。遺贈で財産が受遺者に移れば、そのぶん、相続人の取り分は減ります。履行する側と損をする側が同じでは、手続が進みにくいのです。遺贈義務者は、このあと、承認や放棄の相手方として、また、催告をする人として、出てきます。

受遺者が先に亡くなったとき

遺贈が効力を生じない場面(遺言ごと無効な場合を除く)。受遺者の先死亡(994条1項)/停止条件付遺贈で条件成就前に死亡(994条2項)/目的物が相続財産に属しない(996条)/放棄(986条)。行き先=相続人(995条)。 図:遺贈が効力を生じない場面(遺言ごと無効な場合を除く)

  • 受遺者の先死亡(994条1項)
  • 停止条件付遺贈で条件成就前に死亡(994条2項)
  • 目的物が相続財産に属しない(996条)
  • 放棄(986条)。行き先=相続人(995条)。

ここから、冒頭の問いに近づきます。遺贈が効力を生じない場合です。遺言そのものが、方式の違反や能力の不足で無効なら、遺贈もなくなります。これは、以前の遺言の回で見ました。それ以外に、遺贈に固有の事由が2つあります。今回の1つ目が、受遺者の先死亡です。

条文民法994条

民法第994条(受遺者の死亡による遺贈の失効) 遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。 停止条件付きの遺贈については、受遺者がその条件の成就前に死亡したときも、前項と同様とする。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1項です。遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、効力を生じません。理由は、相続の総論の回で見た、同時存在の原則です。遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じます。その時に、受け取る相手がいなければ、財産は誰にも渡せません。あの回のバトンです。渡される瞬間に、受け取る走者が走路にいなければ、バトンは渡せません。条文の文言は、死亡以前です。遺言者と受遺者が同時に死亡した場合も、遺贈は効力を生じません。相続で、同時に亡くなった人の間では相続が起きない、という話と同じ筋です。相続の代襲は、法律が決めた仕組みです。法律が、相続の順番を決めているから、代わりの人が出てきます。遺贈には、代襲がありません。遺贈は、遺言者が、その人を選んで与える処分です。遺言者の意思は、通常、受遺者その人にだけ向けられています。その人の子まで選んだとは、言えません。ですから、受遺者の子は、代わりに受け取れません。2項です。停止条件付きの遺贈とは、条件が成就したら効力が生じる遺贈です。たとえば、大学に合格したら、この時計を贈る、のような遺贈です。受遺者が、条件の成就の前に死亡したときも、効力を生じません。ただし、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。効力を生じなかった遺贈の目的物は、どこへ行くのでしょうか。

条文民法995条

民法第995条(遺贈の無効又は失効の場合の財産の帰属) 遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

995条です。効力を生じなかったときや、放棄で効力を失ったときは、受遺者が受けるはずだったものは、相続人に帰属します。ただし、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。問いに戻ります。父は、甲土地を友人Aに遺贈すると書きました。Aは、父より先に亡くなっていました。Aの子は、甲土地を受け取れるでしょうか?受遺者の先死亡だから、遺贈は効力を生じません。Aの子に代襲はないので、受け取れないと思います。994条1項で、遺贈は効力を生じません。代襲は、ありません。甲土地は、995条により、父の相続人に帰属します。遺産として、遺産分割の対象になります。ただし、遺言で、Aが先に亡くなったときは、Aの子にあげる、のように別の定めが書かれていれば、その意思に従います。995条ただし書の範囲の話です。

時系列の対比板。矢印①受遺者が遺言者より先に死亡→遺贈は効力を生じない(994条1項)・代襲なし。矢印②受遺者が遺言者の死亡後に死亡→遺贈は有効に生じている→受遺者の相続人が承認・放棄をする(988条)。先死亡=失効/後死亡=受遺者の地位が相続人に移る。 図:時系列の対比板

  • 矢印①受遺者が遺言者より先に死亡→遺贈は効力を生じない(994条1項)・代襲なし
  • 矢印②受遺者が遺言者の死亡後に死亡→遺贈は有効に生じている→受遺者の相続人が承認・放棄をする(988条)
  • 先死亡=失効/後死亡=受遺者の地位が相続人に移る

もう1問、弁別します。Aが、父の死亡のあとに亡くなっていたら、どうなるでしょうか?父が亡くなった時点では、Aは生きていたから、遺贈は効力を生じているのです。遺言者の死亡の時に、受遺者は存在しています。ですから、遺贈の効力は生じています。Aが、承認も放棄もしないまま亡くなったなら、Aの相続人が、自己の相続権の範囲内で、承認か放棄をすることができます。たとえば、Aの相続人が子2人なら、それぞれが、自分の相続分について、別々に承認か放棄かを選べます。988条です。ただし、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。板の矢印で整理します。受遺者が遺言者より先に亡くなったなら、失効です。遺言者の死亡のあとなら、受遺者の地位が、その相続人に移ります。分かれ目は、遺言者が亡くなった時に、受遺者が生きていたかどうか、です。

遺言者の財産でない物の遺贈と取消し

996条本文=遺贈の目的である権利が、遺言者の死亡の時に相続財産に属しなかったとき、遺贈は効力を生じない(例:隣人Yの乙土地・火事で焼失した物)。ただし書=相続財産に入っているかに関係なく遺贈の目的にしたと認められるとき→有効。997条=取得して移転する義務/できない・過分の費用なら価額を弁償。

  • 996条本文=遺贈の目的である権利が、遺言者の死亡の時に相続財産に属しなかったとき、遺贈は効力を生じない(例:隣人Yの乙土地・火事で焼失した物)
  • ただし書=相続財産に入っているかに関係なく遺贈の目的にしたと認められるとき→有効
  • 997条=取得して移転する義務/できない・過分の費用なら価額を弁償

遺贈は、遺言者が、自分の財産を、選んだ人に与える処分です。では、遺言者の財産でない物を遺贈したら、どうなるでしょうか。渡すべき財産が、遺言者の手元にありません。

条文民法996条

民法第996条(相続財産に属しない権利の遺贈) 遺贈は、その目的である権利が遺言者の死亡の時において相続財産に属しなかったときは、その効力を生じない。ただし、その権利が相続財産に属するかどうかにかかわらず、これを遺贈の目的としたものと認められるときは、この限りでない。

遺贈が効力を生じない場面の2つ目です。996条です。遺贈は、目的である権利が、遺言者の死亡の時に相続財産に属しなかったときは、効力を生じません。ただし書があります。相続財産に入っているかどうかに関係なく、その権利を遺贈の目的にした、と認められるときは、この限りでない、つまり有効です。例です。遺言者が、隣人Yが所有する乙土地を友人に遺贈する、と書きました。乙土地は、遺言者の財産ではありません。遺言者の死亡の時に、相続財産に属していないので、原則として、遺贈は効力を生じません。もう1つの例です。遺言者が、遺言を書いたあと、遺言者の意思とは関係なく、火事で、遺贈の目的物が焼けてしまいました。死亡の時には、相続財産に存在しません。この場合も、原則として、効力を生じません。

売買と比べます。他人のものの売買は、有効です。売主が、その物を手に入れて買主に移す義務を負う契約だからです。他人のものでも、そのこと自体は約束できます。遺贈は違います。遺言者が、自分の財産を処分する意思で、するのが通常です。自分の財産でない物を、無理に手に入れて渡せ、という意思までは、通常、ないからです。例外です。遺言者が、他人のものであることを分かったうえで、遺贈の目的にしたと認められるときは、有効です。さっきの乙土地で言えば、乙土地は隣人Yの物だが、相続人が買い取って友人に渡すこと、と書いてある場合です。

条文民法997条

民法第997条 相続財産に属しない権利を目的とする遺贈が前条ただし書の規定により有効であるときは、遺贈義務者は、その権利を取得して受遺者に移転する義務を負う。 前項の場合において、同項に規定する権利を取得することができないとき、又はこれを取得するについて過分の費用を要するときは、遺贈義務者は、その価額を弁償しなければならない。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

997条です。例外で有効なときは、遺贈義務者が、その権利を取得して、受遺者に移す義務を負います。取得できないときや、取得するのに過分の費用がかかるときは、価額を弁償します。過分とは、物の値打ちに見合わないほど多い、という意味です。ただし、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。ここで線引きです。遺言者が、遺言を書いたあとで、自分で目的物を売った、のような場合があります。これは、遺言と抵触する生前処分として、撤回したとみなされます。1023条2項です。抵触するとは、両立しないことです。遺言の撤回の回で見たとおり、本人が、遺言と両立しないことを自分でしたなら、気持ちが変わったと読めるからです。996条が働くのは、遺言者の意思によらずに、財産が相続財産でなくなった場合です。他人のものだった、火事で焼けた、といった例です。取消しも一言です。錯誤、詐欺、強迫による遺贈は、取り消せます。民法95条と96条です。遺言の取消しの一般論は、以前に見ました。取り消された遺贈は、初めから無効だったことになります。

特定遺贈の放棄と承認

特定遺贈の流れ。遺言者の死亡→効力が生じる(985条1項)→受遺者が承認/放棄(いつでも・986条)or 遺贈義務者が催告(987条)→期間内に意思表示なし→承認とみなす→確定。承認・放棄は撤回できない(989条1項)。 図:特定遺贈の流れ

  • 遺言者の死亡→効力が生じる(985条1項)→受遺者が承認/放棄(いつでも・986条)or 遺贈義務者が催告(987条)→期間内に意思表示なし→承認とみなす→確定
  • 承認・放棄は撤回できない(989条1項)

特定遺贈の放棄と承認です。特定遺贈の効力は、遺言者の死亡で当然に生じます。受遺者の承諾を待ちません。そのうえで、受遺者は、承認も放棄もできます。

条文民法986条

民法第986条(遺贈の放棄) 受遺者は、遺言者の死亡後、いつでも、遺贈の放棄をすることができる。 遺贈の放棄は、遺言者の死亡の時にさかのぼってその効力を生ずる。

986条です。放棄は、遺言者の死亡後、いつでもできます。期間の制限はありません。そして、放棄の効力は、遺言者の死亡の時にさかのぼります。初めから、受遺者でなかったことになります。方式の定めもありません。放棄の意思表示の相手は、遺贈義務者です。遺言執行者がいれば、その人です。家庭裁判所への申述は要りません。承認も同じです。受遺者が、遺贈義務者に承認の意思表示をすれば、遺贈の効力が確定します。ここで困ることがあります。遺贈を受けた人が、いつまでも返事をしない場合です。相続人は、土地がどうなるのか分からず、困ります。相続人は、どうすればよいでしょうか?

条文民法987条

民法第987条(受遺者に対する遺贈の承認又は放棄の催告) 遺贈義務者(遺贈の履行をする義務を負う者をいう。以下この節において同じ。)その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、その期間内に遺贈の承認又は放棄をすべき旨の催告をすることができる。この場合において、受遺者がその期間内に遺贈義務者に対してその意思を表示しないときは、遺贈を承認したものとみなす。

987条です。遺贈義務者や、その他の利害関係人は、受遺者に対し、相当の期間を定めて、承認か放棄かを答えるよう催告できます。期間内に意思を表示しないと、承認したものとみなされます。放棄とはみなされない点に注意してください。特定遺贈は、遺言者の死亡で、すでに効力を生じています。何もしなければ、もらったままの状態が続くので、その状態で確定させるのです。例です。甲土地を遺贈されたAが、返事をしない。相続人が、1か月以内に答えてください、と催告する。Aが何も答えないまま1か月がすぎれば、承認したものとみなされ、土地はAのものとして確定します。みなすとは、実際はどうであれ、そう扱う、という意味です。一度した承認や放棄は、撤回できません。989条1項です。ただし、制限行為能力、錯誤、詐欺、強迫を理由とする取消しは、できます。2項です。これは、相続の承認と放棄の取消しの規定を、準用しているものです。放棄された遺贈の目的物は、どこへ行くのか。先ほどの995条です。受遺者が受けるはずだったものは、相続人に帰属します。ただし、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。

包括遺贈の放棄との比較

比較板。特定遺贈の放棄/包括遺贈の放棄 × 根拠・いつまで・どうやって・誰に・効力。特定=986条/いつでも/意思表示(家庭裁判所は不要)/遺贈義務者/遺言者の死亡の時にさかのぼる。包括=990条・915条・938条/3か月以内/家庭裁判所への申述/家庭裁判所/相続放棄と同じ。 図:比較板

  • 特定遺贈の放棄/包括遺贈の放棄 × 根拠・いつまで・どうやって・誰に・効力
  • 特定=986条/いつでも/意思表示(家庭裁判所は不要)/遺贈義務者/遺言者の死亡の時にさかのぼる
  • 包括=990条・915条・938条/3か月以内/家庭裁判所への申述/家庭裁判所/相続放棄と同じ

条文民法990条

民法第990条(包括受遺者の権利義務) 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

包括遺贈の放棄は、手続が違います。990条です。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有します。遺産の3分の1を友人に、のように、割合で受けた人は、相続人と同じ立場になります。ですから、放棄の手続も、相続人と同じです。相続の承認と放棄の規定が、当てはまります。放棄するには、家庭裁判所に申述します。938条です。期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から、3か月以内です。915条1項です。特定遺贈の放棄を定めた986条や987条は、包括遺贈には当てはまりません。板で比べます。特定遺贈の放棄は、いつでもできます。意思表示で足り、家庭裁判所は要りません。相手は、遺贈義務者です。包括遺贈の放棄は、3か月以内です。家庭裁判所への申述が要ります。相続放棄と同じです。

見分け方は、物で見るか、割合で見るか、です。割合で受ければ、相続人と同じ立場になるので、債務も割合で引き継ぎます。だから、相続人と同じ慎重な手続が要ります。物を特定して受けるだけなら、債務を引き継ぎません。いつでも、簡単な意思表示でやめられます。3か月を過ぎるとどうなるかも一言です。包括遺贈を、放棄も限定承認もしないまま3か月がすぎれば、単純承認したものとみなされます。単純承認の回で見た、921条2号です。相続放棄の回で見たとおり、相続放棄は、口で言うだけでは放棄になりません。家庭裁判所への申述が要ります。特定遺贈の放棄は、意思表示で足りるという点が、対比になります。

冒頭の答えとまとめ

まとめの板。設例の答え=Aの子は受け取れない(994条1項・代襲なし)/甲土地は父の相続人へ(995条)/Aが父の死亡後に死亡なら、Aの相続人が承認か放棄(988条)。 図:まとめの板

冒頭の答えです。Aの子は、甲土地を受け取れません。Aは、父より先に亡くなっていたので、994条1項により、遺贈は効力を生じません。遺贈に、代襲はありません。甲土地は、995条により、父の相続人に帰属します。ただし、遺言に別段の意思があれば、それに従います。もし、Aが父の死亡のあとで亡くなっていたなら、遺贈は有効に生じています。Aの相続人が、自己の相続権の範囲内で、承認か放棄をします。988条です。確認します。1つ目、遺贈は、遺言による無償の処分です。包括は割合、特定は物です。2つ目、受遺者は、相続人、他人、法人、胎児です。死体で生まれたときは、適用しません。欠格は遺贈を受けられず、廃除と相続放棄は、受けられます。3つ目、遺贈義務者は、原則、相続人です。遺言執行者がいれば、その人だけです。4つ目、遺贈が効力を生じないのは、受遺者の先死亡で、代襲はなく、同時死亡も含みます。他人のものの遺贈も原則として無効です。例外は、取得して移す義務があります。取消しは、95条と96条です。5つ目、特定遺贈の放棄は、いつでも、意思表示で、遺贈義務者に対してします。催告に答えなければ承認とみなされ、撤回はできません。6つ目、包括遺贈の放棄は、相続放棄と同じで、3か月以内に、家庭裁判所に申述します。

参照条文

  • 民法964条
  • 民法965条
  • 民法994条
  • 民法995条
  • 民法996条
  • 民法997条
  • 民法986条
  • 民法987条
  • 民法990条

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