民法ゼロから民法#382

遺贈の効果と死因贈与

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第8章 相続 #382/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

約束と遺言は何が違うか

冒頭の設例。父(A)が長女(B)に「介護してくれたら、自宅をあげる」と生前に約束し、同じことを遺言にも書いた。約束(契約)と遺言(単独行為)は、何が違うのか。 図:冒頭の設例

  • 父(A)が長女(B)に「介護してくれたら、自宅をあげる」と生前に約束し、同じことを遺言にも書いた
  • 約束(契約)と遺言(単独行為)は、何が違うのか

父が長女に、介護してくれたら、父が亡くなったときに自宅をあげる、と生前に約束しました。父は、同じことを遺言にも書きました。約束と遺言は、何が違うのでしょうか。気持ちの上では同じです。でも法律では、扱いがかなり違います。違いが出るのは3つの場面です。方式が要るか、生前の介護を義務にできるか、父があとから取り消せるか、です。答えは最後に出します。前回は、遺贈が効力を生じない場面と、放棄を見ました。今回は、効力を生じたあとの話です。財産は、いつ、どうやって受遺者に移るのか。さらに、条件や負担が付いた遺贈と、生前の約束に近い死因贈与を、比べます。

今日の地図。①特定遺贈で所有権はいつ移るか②引渡しと果実③包括遺贈④停止条件付きの遺贈⑤負担付遺贈と取消し⑥死因贈与との比較⑦冒頭の答え。 図:今日の地図

道筋は7つです。1つ目、特定遺贈で、所有権はいつ移るのか。2つ目、引渡しと果実。3つ目、包括遺贈。4つ目、条件が付いた遺贈。5つ目、負担が付いた遺贈と、その取消し。6つ目、死因贈与との比較です。7つ目が、冒頭の答えです。

特定遺贈で所有権はいつ移るか

特定遺贈の時間軸。父の死亡=甲土地の所有権が長女に移る(物権的効力)→ 登記をしないまま → 次男の債権者が先に登記・差押え → 長女は対抗できない(177条)。 図:特定遺贈の時間軸

特定遺贈から見ます。甲土地を長女に遺贈する、という遺言を考えます。遺言は、遺言者の死亡の時から効力を生じます。985条1項です。では、甲土地の所有権は、いつ長女に移るのでしょうか。実は、父が亡くなった、その瞬間です。特定の物を指定した遺贈は、遺言者の死亡と同時に、目的物の所有権が受遺者に直接移ります。これを、物権的効力と言います。物権とは、物を直接支配する権利のことで、所有権がその代表です。相続人が何かをしてくれるのを待たずに、所有権そのものが受遺者に生じる、という意味です。判例も、この立場です。理由は、遺言が死亡の時から効力を生じること、そして遺贈が、遺言者が自分の財産を直接与える処分であることです。ですから、登記簿の名義が父のままでも、相続人の名義になっていても、甲土地は、父の死亡の時から長女のものです。ただし、目的物がまだ決まっていない遺贈は違います。たとえば、父の家具のうち好きな物を1つ、や、父の車を1台、という遺贈です。この場合は、遺贈義務者が、どの1つかを決めて特定した時に、所有権が移ります。甲土地のように最初から物が決まっていれば死亡の時、決まっていなければ特定した時です。ここで1問です。父の死亡で、甲土地の所有権は長女に移りました。ところが、長女が登記をしないでいるうちに、父の名義のままだった甲土地について、相続人の1人、次男の債権者が、次男に代わって、法定相続分どおりに相続した形の登記をして、次男の持分を差し押さえました。長女は、この債権者に勝てるでしょうか?

実は、負けます。遺贈で動いた所有権も、登記がなければ、第三者には対抗できません。177条です。判例も、受遺者と、相続人の債権者は、対抗関係に立つ、としました。相続放棄と遺贈の登記の回で見たとおりです。遺言で決まったことでも、第三者に対しては登記が要ります。遺贈は、意思表示で物権が動く点で、売買や贈与と変わらないからです。意思表示で物権が動く場面では、先に登記をした人が、他の人に対して強い、という仕組みがそのまま働きます。所有権が移ったことと、それを他の人に主張できることは、別の話です。表札にたとえます。住人が先に入れ替わっていても、表札を先に書き換えた人が、外の人には強いのです。表札の書き換えが、登記にあたります。線引きがあります。相続人本人に対しては、長女は登記がなくても所有権を主張できます。次男は、遺贈を実行する義務を負う側で、第三者ではないからです。登記が必要になるのは、次男の債権者のように、遺贈の当事者でない人が出てきたときです。承継の原因と対抗要件の整理の回で見たとおり、遺贈は177条で処理します。これに対して、自宅は長男に相続させる、という遺言は、遺贈ではなく、899条の2で処理され、法定相続分を超える部分に登記が要るのでした。

引渡しと果実

遺贈の登場人物。遺言者A(父)→受遺者B(長女)。遺贈義務者C(次男・相続人)が引渡しと登記の協力をする。遺言執行者がいれば執行者だけが履行できる。 図:遺贈の登場人物

  • 遺言者A(父)→受遺者B(長女)
  • 遺贈義務者C(次男・相続人)が引渡しと登記の協力をする
  • 遺言執行者がいれば執行者だけが履行できる

所有権が移ったあと、実際の引渡しは、遺贈義務者がします。この例では、相続人の次男です。前回見たとおり、遺言執行者がいれば、遺贈の履行ができるのは遺言執行者だけです。では、何を、どんな状態で渡すのでしょうか。

条文民法998条

民法第998条(遺贈義務者の引渡義務) 遺贈義務者は、遺贈の目的である物又は権利を、相続開始の時(その後に当該物又は権利について遺贈の目的として特定した場合にあっては、その特定した時)の状態で引き渡し、又は移転する義務を負う。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

998条です。相続開始の時の状態で渡します。さっきの、あとで特定する遺贈なら、特定した時の状態です。ただし、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。例です。父が、甲土地を長女に遺贈しました。父の死亡の時、甲土地には物置が建っていました。次男は、その物置が建ったままの状態で、長女に引き渡します。相続人が勝手に物置を壊して、更地にして渡すことはできません。なぜ、この時の状態なのか。この時が、所有権が受遺者に移る時だからです。物が決まっていれば死亡の時、あとで特定するなら特定した時でした。受遺者のものになった、その時の姿で渡す、ということです。

甲土地の賃料が誰のものになるかは、果実の問題です。果実とは、物から生じる収益です。土地の賃料や、預金の利息が典型です。

条文民法992条

民法第992条(受遺者による果実の取得) 受遺者は、遺贈の履行を請求することができる時から果実を取得する。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

992条です。受遺者は、遺贈の履行を請求できる時から、果実を取得します。通常は、遺言者の死亡の時です。ですから、アパートを遺贈された受遺者は、父が亡くなった日以後の家賃を、受け取ります。死亡より前の分は、父のものです。なぜ、所有権が移る時ではなく、請求できる時なのか。遺贈には、あとで物を決める遺贈のように、所有権がすぐには移らないものもあります。そこで992条は、どの遺贈にも使える基準として、受遺者が、渡してくださいと言える時、を選びました。言えるのに、まだ渡されていない間の収益を、義務者の手元に残すのは、受遺者に不公平だからです。特定の物の遺贈なら、この時は死亡の時で、所有権が移る時と重なります。後で見る停止条件付きの遺贈では、条件が成就するまで履行を請求できないので、果実も、条件が成就した時からです。ただし書で、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。周辺の条文を一言だけ見ます。遺贈義務者が、死亡後に目的物のために費用を出したときは、償還を請求できます。993条です。また、受遺者は、弁済期がまだ来ていない間や、条件の成否が決まっていない間は、遺贈義務者に相当の担保を請求できます。991条です。こういう条文がある、と知っておけば足ります。993条だけ、例で見ておきます。さっきの物置のある甲土地で、父の死亡後に、次男が物置の屋根を直して、費用を出したとします。この費用は、次男が長女に請求できます。引き渡すまでの間、物を守った費用だからです。

包括遺贈

包括遺贈。遺産の全部、または割合で示した一部の遺贈(964条)。例:遺産の全部を知人に(全部包括)/遺産の3分の1を知人に(割合的包括)。990条=相続人と同一の権利義務。 図:包括遺贈

  • 遺産の全部、または割合で示した一部の遺贈(964条)
  • 例:遺産の全部を知人に(全部包括)/遺産の3分の1を知人に(割合的包括)
  • 990条=相続人と同一の権利義務

包括遺贈に入る前に、前回の問いを1つだけ思い出します。受遺者が遺言者より先に亡くなっていた場合、受遺者の子は、遺贈を受けられるでしょうか?遺贈には代襲がないので、受けられません。994条1項でした。包括遺贈でも同じです。包括遺贈は、遺産の全部、または、割合で示した一部の遺贈です。遺産の全部を知人に、という形が全部包括。遺産の3分の1を知人に、という形が、割合的包括です。注意点があります。包括遺贈は、全部をあげる遺贈だけではありません。割合で与えれば、一部でも包括遺贈です。

条文民法990条

民法第990条(包括受遺者の権利義務) 包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。

990条です。包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有します。この中身が、2つあります。1つ目は、債務も承継することです。遺産の3分の1を知人に、と遺言されたとします。遺産に、不動産と預金のほか、借金があれば、知人は、プラスの財産だけでなく、借金も、その割合に応じて引き継ぎます。割合で受ければ、財布の中身を割合で受け取るのと同じで、借金も、その割合で入ってきます。割合でもらうと借金まで付いてくる。そこが、特定遺贈との違いです。前回、包括遺贈の放棄が、相続放棄と同じ慎重な手続になる理由として見ました。家庭裁判所への申述で、期間は、包括遺贈があったことを知った時から3か月です。放棄も限定承認もしないまま、すぎれば、単純承認とみなされます。921条2号です。2つ目は、遺産分割の当事者になることです。相続人と同じ立場なので、遺産分割協議には、包括受遺者も加わります。907条です。以前の遺産分割協議の回で見たとおり、包括受遺者を外した協議は、成立しません。

比較板。相続人/包括受遺者 × 債務の承継・遺産分割の当事者・遺留分・代襲・法人。相続人=債務を承継/当事者/遺留分あり(兄弟姉妹を除く)/代襲あり(子・兄弟姉妹の子)/自然人のみ。包括受遺者=債務を承継/当事者/遺留分なし/代襲なし/法人も可。 図:比較板

  • 相続人/包括受遺者 × 債務の承継・遺産分割の当事者・遺留分・代襲・法人
  • 相続人=債務を承継/当事者/遺留分あり(兄弟姉妹を除く)/代襲あり(子・兄弟姉妹の子)/自然人のみ
  • 包括受遺者=債務を承継/当事者/遺留分なし/代襲なし/法人も可

実は、包括受遺者に遺留分はありません。権利義務は相続人と同じでも、相続人そのものではないからです。遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に認められる権利だと、遺留分の条文が決めています。包括受遺者は相続人ではないので、遺留分はありません。板で整理します。代襲は、ありません。受遺者が先に亡くなれば、遺贈は効力を生じません。相続人なら、子や兄弟姉妹の子が代わりに相続できますが、包括受遺者の子は代わりになれません。そして、遺贈は、遺言者が選んだ相手に与える処分なので、法人でも、包括受遺者になれます。相続人は、法律が決める人で、人間だけです。まとめると、同一とは、相続人と同じ扱いを受ける、という意味です。相続人になる、という意味ではありません。債務の承継と、遺産分割の当事者が同じで、遺留分と代襲と法人が違います。

停止条件付きの遺贈

停止条件付きの遺贈の時間軸。①死亡前に成就→条件のない遺贈として死亡の時から効力/②死亡後に成就→成就した時から効力(985条2項)/③死亡前に不成就が確定→効力を生じない/④成就前に受遺者が死亡→効力を生じない(994条2項)。 図:停止条件付きの遺贈の時間軸

  • ①死亡前に成就→条件のない遺贈として死亡の時から効力
  • ②死亡後に成就→成就した時から効力(985条2項)
  • ③死亡前に不成就が確定→効力を生じない
  • ④成就前に受遺者が死亡→効力を生じない(994条2項)

次は、条件が付いた遺贈です。条件が成就したら効力が生じる、停止条件を、条件の回で見ました。遺言に停止条件を付けたら、いつから効力が生じるのでしょうか。

条文民法985条

民法第985条(遺言の効力の発生時期) 遺言は、遺言者の死亡の時からその効力を生ずる。 遺言に停止条件を付した場合において、その条件が遺言者の死亡後に成就したときは、遺言は、条件が成就した時からその効力を生ずる。

985条2項です。条件が、遺言者の死亡後に成就したときは、条件が成就した時から、効力を生じます。例です。父が、長女が10年間、実家の店を続けたら、店舗を長女に遺贈する、と書きました。父の死亡の時には、長女は店を3年続けていました。あと7年続けて、10年が経った時に、条件が成就します。店舗の所有権は、その時に、長女に移ります。それまでは、まだ相続人のものです。死亡の時ではなく、成就した時が起点になります。次に、死亡の前に条件が成就していた場合です。たとえば、遺言を書いたあとに、長女がすでに10年の期間を満たしていたなら、条件のない遺贈として、死亡の時から効力を生じます。逆に、死亡の前に、条件が成就しないことが確定していたなら、遺贈は効力を生じません。店の例で言えば、父の生前に、長女が店を閉じてしまったなら、10年続けるという条件は、もう満たせません。不成就が確定したので、父が亡くなっても、店舗の遺贈は効力を生じないのです。もう1つ、前回の994条第2項です。条件が成就する前に、受遺者が亡くなったときは、効力を生じません。遺贈は、遺言者が、その人を選んで与える処分だからです。受け取る前に本人が亡くなっても、受遺者の子が代わりに受けることはありません。受遺者が先に亡くなった場合に、代襲がないのと同じ理由です。遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。条件の使い方を、もう1つ見ます。受遺者が受け取らなかった財産は、原則として、相続人のものになります。前回の995条本文です。ただし書で、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。そこで、長女が受け取らなかったら、土地は次男に、と書いておけます。長女が受け取らないことを条件にして、次男に遺贈する形です。

ここで、冒頭の設例に戻ります。遺言は、父の死亡の時から効力を生じるので、父が生きている間の介護を、遺言で義務にはできません。でも、条件にはできます。介護してくれたら自宅をあげる、という遺言で、介護が父の生前に果たされたなら、条件のない遺贈として、死亡の時から効力を生じます。遺言は無力ではなく、義務にできないだけで、条件としては使えるのです。

負担付遺贈と取消し

負担付遺贈。例:自宅を長女に遺贈する。ただし、長女は母(遺言者の妻)の生活の面倒をみること。負担の限度=遺贈の目的の価額(1002条1項)。 図:負担付遺贈

  • 例:自宅を長女に遺贈する
  • ただし、長女は母(遺言者の妻)の生活の面倒をみること
  • 負担の限度=遺贈の目的の価額(1002条1項)

次は、負担が付いた遺贈です。負担付遺贈とは、受遺者に、一定の給付をする義務を課して行う遺贈のことです。遺贈に付けられた義務、と考えてください。例です。自宅を長女に遺贈する。ただし、長女は、母の生活の面倒をみること。母は、遺言者の妻です。この、母の面倒をみる、というのが、負担です。

条文民法1002条

民法第1002条(負担付遺贈) 負担付遺贈を受けた者は、遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ、負担した義務を履行する責任を負う。 受遺者が遺贈の放棄をしたときは、負担の利益を受けるべき者は、自ら受遺者となることができる。ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。

1002条1項です。受遺者は、遺贈の目的の価額を超えない限度でだけ、負担を履行する責任を負います。自宅の価額が2,000万円なら、負担の履行は、2,000万円分までです。もらった以上の持ち出しは、させません。2項です。受遺者が遺贈を放棄したとき、負担の利益を受けるはずだった人は、自ら受遺者になれます。さっきの例で言えば、長女が自宅を放棄したら、母が、受遺者になれます。負担を付けたのは、母を支えるためでした。長女が放棄しても、その目的が生きるように、母自身が受け取れるのです。ただし、遺言者が別段の意思を表示していれば、それに従います。1003条は一言です。遺贈の目的の価額が、限定承認や遺留分侵害額の請求で減ったときは、その割合に応じて、受遺者は負担を免れます。

負担を果たさなくても、自宅は長女のものです。遺贈の効力は、遺言者の死亡の時から生じます。負担を履行したかどうかは、遺贈の効力に関係しません。負担を果たさなくても、自宅の所有権は、長女に移っています。では、長女が負担を放っておいたら、相続人は、どうすればよいのでしょうか。

条文民法1027条

民法第1027条(負担付遺贈に係る遺言の取消し) 負担付遺贈を受けた者がその負担した義務を履行しないときは、相続人は、相当の期間を定めてその履行の催告をすることができる。この場合において、その期間内に履行がないときは、その負担付遺贈に係る遺言の取消しを家庭裁判所に請求することができる。

負担付遺贈の流れ。遺贈→受遺者が承認→負担を履行しない→相続人が相当の期間を定めて催告→期間内に履行なし→家庭裁判所に取消しを請求→認められれば遺贈は効力を失う→目的物は相続人へ。 図:負担付遺贈の流れ

1027条です。流れで見ます。長女が負担を履行しない。相続人は、相当の期間を定めて、履行を催告します。期間内に履行がなければ、家庭裁判所に、遺言の取消しを請求できます。注意点が2つあります。1つ目、期間が過ぎるだけで、遺贈が自動的に失効するのではありません。取消しは、家庭裁判所に請求して、それが認められた時に、効力を生じます。2つ目、請求できるのは相続人です。取消しが認められると、遺贈は効力を失い、自宅は相続人のものになるからです。なぜ家庭裁判所を通すのか。遺言者は、もう亡くなっていて、自分では取り消せません。相続人だけの判断で、遺言者の最後の意思を覆せるようにはしない、ということです。最後に、冒頭の答えの半分です。負担は、遺言の効力が生じたあとに果たすものです。遺言は、死亡の時から効力を生じるからです。ですから、父が生きている間の介護を、遺言で、長女の義務にすることはできません。生前の介護を負担にしたいなら、遺言ではなく、生前の約束で決めることになります。

死因贈与との違い

死因贈与=贈与者の死亡によって効力を生じる贈与(契約)。554条=性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。方式は準用しない(口約束でも成立)。

  • 死因贈与=贈与者の死亡によって効力を生じる贈与(契約)
  • 554条=性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する
  • 方式は準用しない(口約束でも成立)

次に、生前の約束にあたる、死因贈与です。

条文民法554条

民法第554条(死因贈与) 贈与者の死亡によって効力を生ずる贈与については、その性質に反しない限り、遺贈に関する規定を準用する。

554条です。死因贈与とは、贈与者の死亡によって効力を生じる贈与です。贈与なので、契約です。そして、その性質に反しない限り、遺贈の規定を準用します。贈与の回で見たとおり、効力は遺贈の規定に従いますが、遺言の方式は準用されません。口約束でも成立します。理由は、成り立ち方の違いです。遺言は、相手のいない一方的な意思表示で、効力が生じる時には、本人にもう確かめられません。だから、厳格な方式で、本人の真意を確かめておきます。死因贈与は、贈与者と受贈者が合意して成立する契約です。相手がいて、合意がある以上、遺言の方式まで求めるのは、契約という性質に反するのです。ここで、1問です。死因贈与の贈与者は、契約書を作ったあとでも、撤回できるでしょうか?

実は、できます。贈与の回で、書面によらない贈与は、履行が終わるまで解除できる、という550条を見ました。契約書を作れば、この550条の解除は、もうできません。それでも撤回できるのは、550条とは別の理由です。それを、判例で確かめます。

遺贈と死因贈与の比較表。①法的性質(単独行為/契約)②方式(遺言の方式/不要)③必要な能力(遺言能力15歳/行為能力18歳)④代理(不可/可)⑤撤回(遺言の方式でいつでも・1022条/1022条を方式を除いて準用・負担(履行期は生前)をほぼ全部履行済みなら原則不可=最判昭57・4・30。準用自体は最判昭47・5・25)⑥承認・放棄(死亡後いつでも放棄・986条/契約なので受贈者の承諾)⑦配偶者居住権(1028条1項2号/554条を通じて)。 図:遺贈と死因贈与の比較表

比較表で整理します。上の4行は、贈与の回の復習です。遺贈は単独行為で、死亡した遺言者の一方的な意思表示です。死因贈与は契約です。方式は、遺贈が遺言の方式、死因贈与は不要です。能力は、遺贈が遺言能力で15歳から、死因贈与は行為能力で18歳です。代理は、遺贈ではできず、契約である死因贈与ではできます。遺言は、本人の最後の意思をできるだけ生かす制度なので、成年より早い15歳から本人だけででき、その代わり、本人の意思そのものが大事なので、代理人にはさせられません。新しい行は、撤回です。最高裁は、死因贈与の撤回について、遺言の撤回に関する1022条が、方式に関する部分を除いて準用される、としました。ですから、贈与者は、契約書を作っていても、生前いつでも撤回できます。理由は、死因贈与も遺贈と同じように、贈与者の死後の財産の処分で、贈与者の最終意思を尊重すべきだからです。遺言の撤回の回では、後の遺言で前の遺言と抵触する部分は撤回したものとみなす、1023条も見ました。この1023条も、死因贈与に準用されます。たとえば、父が死因贈与をしたあとで、同じ自宅を、別の人に遺贈する遺言を書いたなら、死因贈与は撤回されたことになります。

死因贈与もいつでも撤回できるのが原則ですが、例外があります。最高裁は、負担付死因贈与で、負担の履行期が贈与者の生前と定められていて、受贈者が負担の全部、またはそれに近い程度を履行したときは、特段の事情がない限り、1022条や1023条の準用は相当でなく、撤回できない、としました。決め手は、受贈者が生前に負担を果たしている点です。ここで撤回を認めると、負担を履行した受贈者の期待を裏切るからです。特段の事情があるかどうかは、贈与の動機、負担の価値と贈与財産の価値の釣り合い、当事者の身分関係などを見て判断されます。境界を示します。父が、介護をしたら自宅をあげる、と約束し、長女が何年も介護を続けて、介護の約束を、ほぼ全部果たしたなら、原則として、父は撤回できません。これに対して、長女がまだ介護を何もしていない間なら、父は、いつでも撤回できます。履行が進んでいるかどうかが、分かれ目です。残りの行です。承認・放棄は、遺贈なら、受遺者が死亡のあとで、いつでも放棄できます。986条です。死因贈与は契約なので、受贈者の承諾で成立し、遺贈の放棄の規定は、そのままは当てはまらないと整理されます。配偶者居住権は、遺贈なら1028条1項2号に書かれています。死因贈与は、554条を通じて、取得の原因になります。以前の配偶者居住権の回で見たとおりです。

冒頭の答えとまとめ

設例の答え。父(A)→長女(B)。約束=負担付死因贈与(契約):方式不要・生前の介護を負担にできる・介護を履行すれば原則として撤回できない。遺言=遺贈(単独行為):方式が要る・生前の介護は負担として義務にできない・いつでも撤回できる・死亡後の負担(例:母の面倒)を履行しなければ1027条で取消し。 図:設例の答え

  • 父(A)→長女(B)
  • 約束=負担付死因贈与(契約):方式不要・生前の介護を負担にできる・介護を履行すれば原則として撤回できない
  • 遺言=遺贈(単独行為):方式が要る・生前の介護は負担として義務にできない・いつでも撤回できる・死亡後の負担(例:母の面倒)を履行しなければ1027条で取消し

冒頭の答えです。父が生前に約束したのは、負担付死因贈与で、契約です。口約束でも成立し、生前の介護を負担にできます。長女が介護の約束をほぼ果たせば、父は原則として撤回できなくなります。同じことを遺言に書いたなら、遺贈で、単独行為です。遺言の方式が要ります。遺言は死亡の時から効力を生じるので、生前の介護を、負担として長女の義務にすることはできません。父は、いつでも撤回できます。遺言で負担にできるのは、父の死亡後のこと、たとえば母の面倒をみることです。それを果たさなければ、相続人は、1027条で取消しを請求できます。同じ文面でも、約束は契約、遺言は単独行為なので、撤回の自由度と、負担を生前に課せるかが違うのです。今日の話は、遺言は死亡の時から効力を生じる、という1本でつながっています。出発点は死亡の時でした。条件が付いていたり、あとで物を決めたりすれば、その時まで後ろにずれるだけです。生前の約束である死因贈与だけが、契約なので、撤回の扱いが変わります。確認します。1つ目、特定遺贈は、死亡と同時に所有権が受遺者に移ります。ただし、登記がなければ、相続人の債権者には対抗できません。2つ目、遺贈義務者は、相続開始の時の状態で引き渡し、受遺者は、履行を請求できる時から果実を取得します。3つ目、包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有し、債務も承継して、遺産分割の当事者になります。ただし、遺留分と代襲はなく、法人もなれます。4つ目、停止条件が死亡後に成就したなら、成就した時から効力を生じます。5つ目、負担付遺贈は、遺贈の目的の価額が限度です。負担を履行しなければ、相続人は、催告のうえ、家庭裁判所に、取消しを請求できます。6つ目、死因贈与は契約です。撤回は、1022条を方式を除いて準用しますが、負担の履行期が生前で、受贈者がほぼ全部を履行したなら、原則として撤回できません。

参照条文

  • 民法998条
  • 民法992条
  • 民法990条
  • 民法985条
  • 民法1002条
  • 民法1027条
  • 民法554条

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