民法ゼロから民法#384

遺留分権利者と基礎財産の算定

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第8章 相続 #384/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

6,000万円は何を数えた数字か

冒頭の設例。父(A)が亡くなり、遺言で全財産を友人(B)に遺贈した。相続人は長女(C)ひとり。AはBに3年前に別荘(2,000万円)を贈与し、Cに8年前に開業資金500万円を出していた。長女の遺留分の計算に、別荘と開業資金は入るのか。 図:冒頭の設例

  • 父(A)が亡くなり、遺言で全財産を友人(B)に遺贈した
  • 相続人は長女(C)ひとり
  • AはBに3年前に別荘(2,000万円)を贈与し、Cに8年前に開業資金500万円を出していた
  • 長女の遺留分の計算に、別荘と開業資金は入るのか

父が亡くなりました。遺産は現金6,000万円だけで、借金はありません。母は先に亡くなっていて、子は長女ひとりです。遺言には、全財産を、長年世話をしてくれた友人に遺贈する、とあります。以前の回で見た設例の続きです。ここで、新しい事実が分かりました。父は3年前に、友人へ別荘を贈っていました。贈った時の価額は2,000万円です。さらに8年前、長女の開業資金として、500万円を出していました。長女が遺留分の計算をするとき、この別荘と開業資金まで入れて数えるのでしょうか。別荘と開業資金のどちらを数えに入れるかは、材料をそろえてから確かめます。以前の回では、長女の遺留分は6,000万円の2分の1、と結論だけ見ました。この6,000万円は、父が亡くなった時に残っていた財産だけを数えた数字です。生前に出ていった財産を、どこまで戻して数えるのか。今回の中心は、そこです。先に言うと、決め手は2つです。贈与の相手が相続人か第三者か、そして何年前の贈与か、です。割合を掛ける計算そのものは、次の回に回します。

遺留分とは何か

遺留分の意義。兄弟姉妹以外の相続人に、被相続人の財産の一定割合を承継できる利益として保障されたもの。遺言は無効にならない/侵害された相続人は金銭の支払を請求する。趣旨=財産処分の自由と相続人の利益の調整。 図:遺留分の意義

  • 兄弟姉妹以外の相続人に、被相続人の財産の一定割合を承継できる利益として保障されたもの
  • 遺言は無効にならない/侵害された相続人は金銭の支払を請求する
  • 趣旨=財産処分の自由と相続人の利益の調整

遺留分とは、兄弟姉妹以外の相続人に、被相続人の財産の一定割合を承継できる利益として保障されたものです。遺言があっても、その分だけは奪えない、最低限の取り分です。冒頭の設例で言えば、父は全財産を友人に遺贈しました。この遺言は、無効にはなりません。友人は遺贈で財産を取得します。そのうえで、侵害された長女が、友人などに対して、侵害された額に相当するお金の支払を請求できます。遺言が有効なら、長女は何も言えなくなりそうですが、請求できるのはなぜですか。遺言の自由と、相続人の利益を、両方立てるためです。喩えると、父の財産は、使い道を自由に決められます。ただし、その一定部分には、家族の名前が付いた仕切りがある、という形です。遺言は使い道を決める力で、仕切りの中は動かせません。仕切りの中身は、2つの利益から説明されます。1つは遺族の生活の保護、もう1つは、遺産の形成に貢献した分の清算です。被相続人の財産を処分する自由と、相続人の利益との調整が、遺留分の趣旨です。平成30年の改正で、請求の中身が変わりました。かつては、侵害された分だけ、物そのものを取り戻す請求でした。今は、金銭の支払を請求する形です。1046条1項の話で、以前の回で条文を見ました。請求の仕方や期間は、別の回で扱います。

今日の順番。持つ人を決める→何を数えるかの式→生前の贈与をどこまで戻すか(相手と時期)→特別受益の計算と比べる→冒頭の設例に当てはめる。 図:今日の順番

ここからの順番です。まず、遺留分を持つ人を決めます。次に、何を数えるかの式を立てます。そのうえで、生前の贈与をどこまで戻すかを、相手と時期で言い分けます。最後に、特別受益の計算と比べてから、冒頭の設例に当てはめます。

遺留分を持つ人

問いの板。兄弟姉妹には遺留分があるか。だから廃除は、誰にだけ使えるのか。 図:問いの板。兄弟姉妹には遺留分があるか。だから廃除は、誰にだけ使えるのか。

以前の回の問いを思い出します。兄弟姉妹には遺留分があるでしょうか。そして、だから廃除は、誰にだけ使えるのでしょうか?兄弟姉妹にはありません。廃除は、遺留分を有する推定相続人にだけ使えます。今回は、遺留分を持つ人を、条文から言い分けます。

遺留分を持つ人。〇=配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属・胎児。×=兄弟姉妹とその代襲者(甥・姪)・包括受遺者・相続放棄をした人。欠格・廃除=代襲相続人(孫)が持つ。 図:遺留分を持つ人

  • 〇=配偶者・子(代襲相続人を含む)・直系尊属・胎児
  • ×=兄弟姉妹とその代襲者(甥・姪)・包括受遺者・相続放棄をした人
  • 欠格・廃除=代襲相続人(孫)が持つ

条文民法1042条

民法 第1042条(遺留分の帰属及びその割合) 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。 一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一 二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。

1042条です。今日読むのは、柱書の、兄弟姉妹以外の相続人、というところだけです。各号の割合と、2項の相続分を掛ける話は、次の回で見ます。遺留分を持つのは、兄弟姉妹以外の相続人です。具体的には、配偶者、子、直系尊属です。子には、代襲相続人も含まれます。代襲相続とは、本来の相続人である子が、先に亡くなったり、相続権を失ったりしたとき、その子が代わりに相続することでした。順位は、相続人を決めるときの順位、887条、889条、890条のとおりです。たとえば子がいれば、直系尊属は相続人にならないので、遺留分もありません。遺留分を持つには、前提として、相続人であることが要ります。

兄弟姉妹には、なぜ遺留分がないのですか。兄弟姉妹は、通常、被相続人の生活に頼って暮らす立場ではなく、生活保障の必要が小さいとみられるからです。ですから、兄弟姉妹に財産を渡したくなければ、遺言で足ります。兄弟姉妹の子である甥や姪にも、遺留分はありません。次に、相続人であっても、遺留分を持たなくなる場合です。1つ目は相続放棄です。放棄をした人は、初めから相続人でなかったものとみなされます。939条です。ですから遺留分もありません。しかも、放棄では代襲相続も生じません。相続人の範囲のところで見たとおり、887条2項が挙げる代襲の原因は、死亡と欠格と廃除で、放棄は挙がっていないからです。2つ目は、欠格と廃除です。欠格は、相続制度の基礎を壊すような重大な非行があると、法律上当然に相続人の資格を失う制度でした。廃除は、被相続人の求めで、家庭裁判所が相続人から外す制度でした。この2つは、本人が相続権を失いますが、代襲相続が生じます。887条2項と3項です。放棄は、本人が自分の意思で、初めから相続人でなかったことにする選択です。欠格と廃除は、本人の非行を理由に外すもので、その子には責任がありません。ですから、その人の子が代襲相続人となり、遺留分を持ちます。胎児は、886条により、生きて生まれれば、子として扱われます。ですから遺留分も持ちます。遺贈のところで見たとおり、包括受遺者は、権利義務は相続人と同じでも、相続人そのものではありません。ですから、遺留分はありません。

家族で言い分けます。父が亡くなり、子Cと配偶者Dがいる。この2人は、持ちます。兄だけが相続人なら、持ちません。子Cが相続放棄をしたなら、Cの子にも、ありません。子Cが廃除されたなら、Cの子には、あります。包括遺贈を受けた友人には、ありません。確認します。子が相続放棄をしました。その子の子、つまり孫に、遺留分はあるでしょうか。では、子が廃除された場合は、どうでしょうか?放棄の場合は、代襲がないので、孫にもありません。廃除の場合は、代襲するので、孫にあります。なお、遺留分を持つ人が、自分で遺留分を手放す手続もあります。遺留分の放棄で、相続放棄とは別物です。それは、別の回で扱います。

遺留分を算定するための財産

基礎財産の式。遺留分を算定するための財産の価額=①相続開始の時に有した財産の価額(遺贈・死因贈与の目的も含む)+②贈与した財産の価額−③債務の全額。基準時=相続開始の時。 図:基礎財産の式

  • 遺留分を算定するための財産の価額=①相続開始の時に有した財産の価額(遺贈・死因贈与の目的も含む)+②贈与した財産の価額−③債務の全額
  • 基準時=相続開始の時

条文民法1043条

民法 第1043条(遺留分を算定するための財産の価額) 遺留分を算定するための財産の価額は、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与した財産の価額を加えた額から債務の全額を控除した額とする。 条件付きの権利又は存続期間の不確定な権利は、家庭裁判所が選任した鑑定人の評価に従って、その価格を定める。

計算のもとになる財産の式です。1043条1項。被相続人が相続開始の時に有した財産の価額に、贈与した財産の価額を加え、債務の全額を引きます。条文の言葉は、遺留分を算定するための財産、と長いので、以後は、基礎財産と呼びます。式にします。基礎財産は、相続開始の時の財産、プラス、贈与した財産の価額、マイナス、債務の全額です。基準時は、相続開始の時です。1項目の相続開始の時の財産には、遺贈や死因贈与の目的になった財産も含めます。引きません。友人に遺贈した6,000万円は、もう友人のものになるのに、数えるのですか。数えます。理由は、遺留分が、遺言で消せない最低ラインだからです。もし遺贈された財産を引いて数えるなら、全財産を遺贈するだけで、基礎財産はゼロになります。遺留分そのものを、遺言で消せてしまいます。それでは、保障になりません。しかも、このあと見る1044条の、何年前の贈与までを数えるかという期間の制限は、贈与にだけかかります。遺贈には、期間の制限がありません。生前の贈与を足すのも、同じ理由です。亡くなる前に全部贈ってしまえば、残る財産はゼロになり、遺言と同じく、遺留分を消せてしまいます。最初の仕切りの喩えで言えば、仕切りの大きさは、亡くなった時に残っていた財産だけでなく、先に出ていった分も戻して測る、ということです。3項目の債務は、全額を引きます。基礎財産は、結局、残る財産の純額を測るものだからです。誰がどの債務を負うかは、侵害額を計算するときに出てくる話で、次の回に回します。

寄与分は、ここでは考えません。寄与分は、遺産分割で、共同相続人の取り分を調整する道具で、基礎財産の式には出てこないからです。条文の上でも、このあと見る1044条2項が準用するのは904条だけで、寄与分を定めた904条の2は入っていません。2項です。条件付きの権利や、存続期間が不確定な権利は、その価値が不確かなので、家庭裁判所が選んだ鑑定人の評価で、価格を決めます。

どの贈与が入るか

問いの板。死因贈与には、遺贈の規定がそのまま当てはまるか。 図:問いの板。死因贈与には、遺贈の規定がそのまま当てはまるか。

以前の回の問いです。死因贈与には、遺贈の規定が、そのまま当てはまるでしょうか?554条で、性質に反しない限り、遺贈の規定が準用されます。そのため、死因贈与は、ここでは贈与に入れません。遺贈と同じく、相続開始の時の財産の側に入れます。期間の制限もありません。

時間軸。相続開始から過去へ。第三者への贈与=1年の内は算入/双方が損害を知っていれば1年より前も算入。相続人への贈与=10年の内で、婚姻・養子縁組・生計の資本に限り算入。別荘(3年前・友人)/開業資金(8年前・長女)/住宅資金(12年前・長女)を置く。 図:時間軸

  • 相続開始から過去へ
  • 第三者への贈与=1年の内は算入/双方が損害を知っていれば1年より前も算入
  • 相続人への贈与=10年の内で、婚姻・養子縁組・生計の資本に限り算入
  • 別荘(3年前・友人)/開業資金(8年前・長女)/住宅資金(12年前・長女)を置く

条文民法1044条

民法 第1044条 贈与は、相続開始前の一年間にしたものに限り、前条の規定によりその価額を算入する。当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知って贈与をしたときは、一年前の日より前にしたものについても、同様とする。 第九百四条の規定は、前項に規定する贈与の価額について準用する。 相続人に対する贈与についての第一項の規定の適用については、同項中「一年」とあるのは「十年」と、「価額」とあるのは「価額(婚姻若しくは養子縁組のため又は生計の資本として受けた贈与の価額に限る。)」とする。

1044条です。1項から。贈与は、相続開始前の1年間にしたものに限って、算入します。第三者への贈与は、目的を問わず、この1年の内なら全部入ります。ただし、贈与の当事者の双方が、遺留分権利者に損害を加えることを知っていたときは、1年より前の贈与も入ります。ここでの、知って、とは、損害を加える意図まで要りません。この贈与で、遺留分権利者の取り分が減ると、分かっていれば足ります。3項は、相続人への贈与です。1項の1年が、10年に読み替えられます。そして、価額は、婚姻か養子縁組のため、または生計の資本として受けた贈与に限られます。第三者への贈与より、長く遡ります。種類は、特別受益の贈与の3類型に限ります。生計の資本とは、特別受益の回で見たとおり、生活の基礎になる給付で、扶養の範囲を超えるものです。読み替えの帰結も言えます。相続人への贈与も、双方が損害を知っていれば、10年より前でも入ります。1項の後段も、読み替えの対象になるからです。

第三者への贈与より、相続人への贈与を長く数えるのには、理由があります。相続人への贈与は、相続分の前渡しの意味を持ちます。他の相続人との公平のために、長く遡って数えるのです。第三者への贈与には、その意味がありません。しかも、何年も前の贈与まで、後から遺留分の請求を受けうるとすると、受け取った第三者や、その人と取引した相手が、安心できません。それで、1年に区切ります。条文は、相続人に対する贈与、としています。贈与を受けた相続人が、遺留分を請求する本人でも、ほかの相続人でも、同じです。冒頭の設例で、長女への開業資金が算入される理由が、これです。

贈与の相手×期間の表。第三者=1年/双方が損害を知っていれば外も入る/種類は問わない/例=半年前に友人へ別荘=入る・3年前に友人へ別荘=入らない。相続人=10年/双方が損害を知っていれば外も入る/婚姻・養子縁組・生計の資本に限る/例=8年前に長女へ開業資金=入る・12年前に長女へ住宅資金=入らない・8年前に長女へ旅行の小遣い=入らない。 図:贈与の相手×期間の表

  • 第三者=1年/双方が損害を知っていれば外も入る/種類は問わない/例=半年前に友人へ別荘=入る・3年前に友人へ別荘=入らない
  • 相続人=10年/双方が損害を知っていれば外も入る/婚姻・養子縁組・生計の資本に限る/例=8年前に長女へ開業資金=入る・12年前に長女へ住宅資金=入らない・8年前に長女へ旅行の小遣い=入らない

表にします。第三者へなら、半年前の別荘は、1年の内なので入ります。3年前の別荘は、1年の外なので入りません。ただし双方が損害を知っていれば入ります。相続人へなら、8年前の開業資金は、10年の内で、生計の資本なので入ります。12年前の住宅資金は、10年の外なので、双方が損害を知っていなければ入りません。8年前の旅行の小遣いは、10年の内でも、生計の資本といえないので入りません。確認します。半年前に友人へ別荘を贈った場合、3年前に友人へ別荘を贈った場合、8年前に長女へ旅行の小遣いを渡した場合。それぞれ、入るでしょうか?

半年前の別荘は入ります。3年前の別荘は、双方が知っていなければ入りません。旅行の小遣いは、生計の資本ではないので入りません。次に、2項です。贈与の価額は、904条を準用して評価します。相続開始の時に、なお贈与の時の状態のままであるものとみなして定めます。もらった人が建物を壊したり、値上がりさせたりしても、贈与の時の中身で測ります。もらった人の工夫や不手際で、計算のもとが増えたり減ったりしないようにするためです。904条は、特別受益の回で全文を見ました。金銭の贈与については、最高裁の判断があります。

判例最判昭51・3・18 民集30巻2号111頁

贈与された金銭は、相続開始の時の貨幣価値に換算して評価する 被相続人が相続人に対しその生計の資本として贈与した財産の価額をいわゆる特別受益として遺留分算定の基礎となる財産に加える場合に、右贈与財産が金銭であるときは、その贈与の時の金額を相続開始の時の貨幣価値に換算した価額をもつて評価すべきものと解するのが、相当である。けだし、このように解しなければ、遺留分の算定にあたり、相続分の前渡としての意義を有する特別受益の価額を相続財産の価額に加算することにより、共同相続人相互の衡平を維持することを目的とする特別受益持戻の制度の趣旨を没却することとなるばかりでなく、かつ、右のように解しても、取引における一般的な支払手段としての金銭の性質、機能を損う結果をもたらすものではないからである。

読みます。相続人に、生計の資本として金銭を贈与した場合は、贈与の時の金額を、相続開始の時の貨幣価値に換算した価額で評価します。決め手は、特別受益が相続分の前渡しだという点です。名目の金額のまま数えると、昔の500万円は、今の価値より大きかったのに、小さく数えることになります。すると、ほかの共同相続人との衡平が崩れるからです。設例では、物価は変わらないものとして、500万円のまま数えます。最後に、持戻し免除です。持戻しとは、特別受益の計算で、生前の贈与を、計算の上でいったん遺産に足し戻すことでした。父が、開業資金は持ち戻さなくてよい、と意思表示していたとします。903条3項です。これを、持戻し免除の意思表示と呼びます。それでも、基礎財産への算入は変わりません。条文に、免除を理由に除く定めがないからです。被相続人の意思で計算のもとを小さくできるなら、遺留分を意思で消せてしまいます。免除が、侵害額の計算にどう響くかは、次の回で見ます。冒頭の問いに戻ります。生前に出ていった財産をどこまで戻すかは、贈与の相手が相続人か第三者か、そして何年前の贈与か、で決まります。数字は、最後に当てはめます。

負担付贈与と不相当な対価の取引

1045条の例。負担付贈与=時価2,000万円の別荘+父の借金800万円を引き受ける→算入額1,200万円。不相当な対価=時価3,000万円の土地を1,000万円で売却→差額2,000万円が贈与として算入。 図:1045条の例

  • 負担付贈与=時価2,000万円の別荘+父の借金800万円を引き受ける→算入額1,200万円
  • 不相当な対価=時価3,000万円の土地を1,000万円で売却→差額2,000万円が贈与として算入

条文民法1045条

民法 第1045条 負担付贈与がされた場合における第千四十三条第一項に規定する贈与した財産の価額は、その目的の価額から負担の価額を控除した額とする。 不相当な対価をもってした有償行為は、当事者双方が遺留分権利者に損害を加えることを知ってしたものに限り、当該対価を負担の価額とする負担付贈与とみなす。

1045条です。1項は負担付贈与です。算入する額は、贈与の目的の価額から、負担の価額を引いた額です。たとえば、時価2,000万円の別荘を、父の800万円の借金を引き受けることを条件に贈った。算入するのは、1,200万円です。受け取った側は、800万円分を負担しているので、実質の贈与は1,200万円だからです。2項は、不相当な対価の取引です。時価3,000万円の土地を、1,000万円で売ったとします。売買ですから、形は有償行為です。ただし、双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていた場合に限り、1,000万円を負担の価額とする負担付贈与とみなします。すると、差額の2,000万円が、贈与として算入されます。知らなかった場合は、算入されません。

みなされた贈与にも、1044条の期間はかかりますか。かかります。ただ、みなされるのは、双方が損害を知っていた場合だけです。ですから1044条1項の後段も当てはまり、1年より前の取引でも入ります。

特別受益と基礎財産の違い

問いの板。特別受益になる贈与に、期間の制限はあったか。 図:問いの板。特別受益になる贈与に、期間の制限はあったか。

特別受益の回の問いを、ひとつ思い出します。特別受益になる贈与に、期間の制限はあったでしょうか?903条には、期間の定めはありませんでした。特別受益は、共同相続人が受けた遺贈や一定の贈与を、相続分の前渡しとして、遺産分割の取り分の計算で調整する仕組みでした。その計算で贈与を足し戻した合計は、みなし相続財産と呼びました。式は今回の基礎財産と似ていますが、別物です。今回の1044条は、期間があります。この違いを含め、2つの計算を並べます。

比較表。行=①何のための計算か(遺産分割の取り分/遺留分の計算のもと)②遡る期間(903条=定めなし/1044条=第三者1年・相続人10年)③相手(共同相続人だけ/第三者への贈与も入る)④遺贈(持ち戻さず引くだけ/相続開始時の財産の側)⑤債務(引かない/全額引く)⑥寄与分(別枠で引く/考えない)⑦持戻し免除(903条3項で効く/算入には効かない)。 図:比較表

7行で比べます。1行目、何のための計算か。特別受益は遺産分割の取り分のため、基礎財産は遺留分の計算のもとです。2行目、遡る期間。903条には定めがなく、1044条は、第三者1年、相続人10年です。3行目、相手。特別受益は共同相続人だけですが、基礎財産には、第三者への贈与も入ります。4行目、遺贈。特別受益では、遺贈も対象ですが、みなし相続財産には足さず、遺贈を受けた人の取り分から引くだけです。たとえば、遺産6,000万円のうち1,000万円を長男に遺贈し、子が長男と次男の2人なら、取り分は各3,000万円で、長男は1,000万円を引いた2,000万円を遺産から受け取ります。遺贈の目的は、相続開始の時にまだ遺産の中にあるので、足すと二重に数えるからでした。基礎財産でも、遺贈の目的は、相続開始の時の財産の側に入ります。5行目、債務。特別受益は債務を入れません。遺産分割で分けるのはプラスの財産で、お金の借金のような債務は、相続開始と同時に、法定相続分に応じて当然に分かれるからでした。基礎財産は、残る財産の純額を測るので、全額を引きます。6行目、寄与分。遺産分割では、貢献した相続人の取り分を増やすために別枠で引きますが、基礎財産では考えません。基礎財産は、相続人どうしの分け方ではなく、守るべき最低ラインの大きさを測るものだからです。7行目、持戻し免除。903条3項で、特別受益の計算には効きますが、基礎財産への算入は変わりません。被相続人の意思で計算のもとを小さくできるなら、遺留分を意思で消せてしまうからでした。

特別受益の回で、2つの10年を混ぜないでください、と言いました。整理します。1つは、相続開始のあとに流れる10年です。遺産分割をしないまま10年が過ぎると、原則として、特別受益や寄与分を持ち出せず、法定相続分などで分けることになります。904条の3です。もう1つが、今回の、相続開始の前にさかのぼる10年で、1044条3項です。遺留分の請求の期間にも、別の10年が出てきます。1048条の話で、別の回で見ます。特別受益の3類型、婚姻、養子縁組、生計の資本も、1044条3項の、価額に限る、の中身と同じです。学費、開業資金、住宅資金の判断は、特別受益の物差しをそのまま使えます。

冒頭の答え

計算実演。設例=①相続開始時の財産6,000万円(遺贈の目的も数える)②贈与=別荘(友人・3年前)は入らない/開業資金500万円(長女・8年前)は入る③債務なし→6,000+500=6,500万円。変奏=(a)双方が損害を知っていた→別荘も入る→8,500万円/(b)別荘が半年前→8,500万円/(c)借金1,000万円→5,500万円。 図:計算実演

  • 設例=①相続開始時の財産6,000万円(遺贈の目的も数える)②贈与=別荘(友人・3年前)は入らない/開業資金500万円(長女・8年前)は入る③債務なし→6,000+500=6,500万円
  • 変奏=(a)双方が損害を知っていた→別荘も入る→8,500万円/(b)別荘が半年前→8,500万円/(c)借金1,000万円→5,500万円

冒頭の答えを出します。1つ目、相続開始の時の財産は、現金6,000万円です。遺贈の目的も、引かずに数えます。2つ目、贈与です。別荘は、友人、つまり第三者への贈与で、3年前なので、1年の外です。入りません。開業資金は、長女、つまり相続人への贈与で、8年前なので、10年の内で、生計の資本です。入ります。3つ目、債務はありません。6,000万円に500万円を足して、6,500万円です。以前の回の6,000万円は、生前贈与を数える前の数字でした。基礎財産は、6,500万円です。別荘の贈与の条件を変えたら、結論は変わりますか。変わります。3つ変えてみます。まず、父も友人も、この贈与で長女の取り分が減ると、分かっていたとします。すると、別荘は1年の外でも入ります。6,000と500と2,000で、8,500万円です。次に、別荘の贈与が、死の半年前だったとします。1年の内なので入り、同じく8,500万円です。最後に、借金1,000万円が見つかったとします。債務は全額引くので、6,000と500から1,000を引いて、5,500万円です。借金を誰が負担するかは、次の回に回します。遺留分そのものは、この基礎財産に割合を掛けて出します。長女がすでに受け取った開業資金500万円を、侵害額から引くかどうかも、次の回で見ます。

今日の地図(保存版)

まとめ。①式=相続開始時の財産+贈与−債務の全額②贈与=第三者は1年(双方が損害を知っていれば外も)/相続人は10年・生計の資本等に限る/遺贈と死因贈与は開始時の財産の側③遺留分を持つ人=兄弟姉妹以外の相続人(相続放棄をした人と包括受遺者は除く)。 図:まとめ

3点で確認します。1つ目、基礎財産の式は、相続開始の時の財産、プラス、贈与の価額、マイナス、債務の全額です。遺贈と死因贈与の目的は、贈与に入れず、相続開始の時の財産の側に入ります。2つ目、贈与の言い分けです。第三者への贈与は、相続開始前の1年間に限ります。双方が遺留分権利者に損害を加えることを知っていれば、1年より前も入ります。相続人への贈与は、10年に限り、婚姻、養子縁組、生計の資本としての贈与だけです。第三者より長く遡ります。3つ目、遺留分を持つのは、兄弟姉妹以外の相続人です。相続放棄をした人と、包括受遺者には、ありません。欠格や廃除の場合は、代襲相続人が持ちます。

参照条文

  • 民法1042条
  • 民法1043条
  • 民法1044条
  • 民法1045条

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