遺留分の割合と遺留分侵害額の計算
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第8章 相続 #385/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
長女は友人にいくら請求できるのか
図:冒頭の設例
- 父(A)が亡くなり、遺言で全財産を友人(B)に遺贈した
- 相続人は長女(C)ひとり
- AはBに3年前に別荘(2,000万円)を贈与し、Cに8年前に開業資金500万円を出していた
- 基礎財産は6,500万円
- 長女は友人にいくら請求できるのか
前の回の設例を続けます。父が亡くなりました。遺産は現金6,000万円だけで、借金はありません。母は先に亡くなっていて、子は長女ひとりです。遺言は、全財産を、世話をしてくれた友人に遺贈する、というものでした。父は3年前に友人へ別荘を贈り、8年前には長女へ開業資金500万円を出していました。前の回に数えた結果、友人への別荘は、第三者への贈与で1年より前なので入らず、長女の開業資金は入りました。計算のもとになる財産、つまり基礎財産は、6,000万円に500万円を足して、6,500万円でした。基礎財産の半分をそのまま請求できる、という単純な話ではありません。ここで問いが2つ出ます。長女は友人にいくら請求できるのか。そして、長女はすでに開業資金をもらっていますが、その分は引かれるのか。以前の回では、長女の遺留分を6,000万円の2分の1、つまり3,000万円と、結論だけ見ました。それは、生前の贈与を数える前の数字でした。今回は、きちんと出し直します。今日の順番です。まず割合を決めます。次に、基礎財産へ割合を掛けて、遺留分額を出します。そこから、実際に足りない額、遺留分侵害額を出します。この最後の式に、引くものが2つ、足すものが1つあります。最後に、設例の答えを数字で確かめます。先に軸を言います。式の中身は全部、長女の手元に、最終的に遺留分額が残るようにするための帳尻合わせです。この一本で追えば、符号を暗記する必要はありません。
総体的遺留分
図:問いの板。遺留分の基礎財産は、何を足して何を引いて出すか。
前の回の問いを思い出します。遺留分を算定するための財産は、何を足して、何を引いて出したでしょうか?相続開始の時の財産に、贈与した財産の価額を足して、債務の全額を引きます。その財産に掛ける割合を、これから決めます。
図:1042条の読み方
- 柱書=兄弟姉妹以外の相続人が受ける額
- 一=直系尊属のみが相続人→3分の1
- 二=それ以外→2分の1
- 2項=相続人が数人なら、各号の割合に900条・901条の相続分を掛ける
条文民法1042条
民法 第1042条(遺留分の帰属及びその割合) 兄弟姉妹以外の相続人は、遺留分として、次条第一項に規定する遺留分を算定するための財産の価額に、次の各号に掲げる区分に応じてそれぞれ当該各号に定める割合を乗じた額を受ける。 一 直系尊属のみが相続人である場合 三分の一 二 前号に掲げる場合以外の場合 二分の一 相続人が数人ある場合には、前項各号に定める割合は、これらに第九百条及び第九百一条の規定により算定したその各自の相続分を乗じた割合とする。
1042条です。前の回は、柱書の、兄弟姉妹以外の相続人、だけを読みました。今回は各号と2項が本番です。1号は、直系尊属のみが相続人である場合で、3分の1です。直系尊属とは、父母や祖父母のことです。2号は、それ以外の場合すべてで、2分の1です。ここに罠があります。配偶者と親が相続人の場合です。親がいても、親だけではありませんから、2号で2分の1です。配偶者が加わるだけで、割合は上がります。冒頭の家族で言えば、子の長女がいるので、2号で2分の1です。もし長女がいなくて、相続人が父の両親だけなら、1号で3分の1になります。なぜ親だけなら少ないのか。子や配偶者に比べて、被相続人の財産で暮らす度合いが小さいとみられるため、と説明されます。この3分の1や2分の1は、遺留分を持つ人全員を合わせた割合です。これを、総体的遺留分と呼びます。各人の取り分は、次に出します。
個別的遺留分と早見板
図:個別的遺留分の出し方
- 各人の率=総体的遺留分(1042条1項)×各自の法定相続分(900条・901条で算定)
- 902条の指定相続分は使わない
2項です。相続人が数人いるときは、各号の割合に、900条と901条で算定した、各自の相続分を掛けます。こうして出る各人の率を、個別的遺留分と呼びます。式にすると、個別的遺留分は、総体的遺留分掛ける法定相続分です。902条の、遺言による相続分の指定は使わないのですか。使いません。条文は、900条と901条だけを挙げています。理由は、指定で率を動かせるなら、被相続人の意思ひとつで遺留分を小さくできてしまうからです。指定は、遺留分に反しても有効でした。ただ、遺留分の率そのものは、法定相続分で決まります。代襲相続人の率は、本来の相続人の率と同じです。相続放棄をした人は、初めから相続人でなかったことになります。ですから、その人がいなかったものとして、相続分を出し直します。子2人のうち1人が放棄をすれば、子は1人です。他に相続人がいなければ、その子の率は2分の1になります。
図:早見板
早見板にします。配偶者だけなら、2分の1です。子だけで2人なら、2分の1に法定相続分の2分の1を掛けて、各4分の1です。父母だけなら、3分の1を2人で分けて、各6分の1です。兄弟姉妹だけなら、ゼロです。配偶者と子2人なら、配偶者の法定相続分は2分の1ですから、2分の1掛ける2分の1で、4分の1です。子は、法定相続分が各4分の1ですから、2分の1掛ける4分の1で、各8分の1です。配偶者と父母なら、法定相続分は、配偶者が3分の2、父母が合わせて3分の1です。総体的が2分の1ですから、配偶者は3分の1、父母は合わせて6分の1、ひとり12分の1です。最後が、最大の罠です。配偶者と、被相続人の兄が相続人の場合です。法定相続分は、配偶者が4分の3、兄が4分の1です。ここで確認します。この場合の、配偶者の個別的遺留分は、何分の1でしょうか?
4分の3の半分で、8分の3でしょうか。違います。答えは2分の1です。兄弟姉妹には遺留分がありませんから、遺留分を持つのは配偶者だけです。1項で、財産の2分の1を受けるのは、兄弟姉妹以外の相続人でした。2項は、その2分の1を、受ける人どうしで分けるための定めです。ですから、2項の、相続人が数人ある場合とは、遺留分を持つ相続人が数人いる場合と読みます。兄は、1項で受ける側にいませんから、分ける相手に入りません。配偶者が一人で2分の1を受けます。兄の率はゼロです。似た言葉に、遺留分の放棄があります。遺留分だけを手放すもので、相続放棄と違い、その人は相続人のまま残ります。法定相続分は変わりませんから、他の人の率も増えません。手続は別の回で扱います。
遺留分額
図:式の板
- 遺留分額=基礎財産×個別的遺留分率
- 設例=6,500万円×1/2=3,250万円
- 遺留分額=守られるべき額(入れ物の大きさ)/侵害額=そのうち足りない額(請求できる額)
遺留分額を出します。遺留分額は、基礎財産掛ける個別的遺留分率です。遺留分権利者が最低でもここまでは受け取れる、と法が約束した金額です。設例では、相続人は長女ひとりで、子だけですから、総体的が2分の1、法定相続分が1です。個別的遺留分率は2分の1。6,500万円掛ける2分の1で、3,250万円です。3,250万円は、まだ請求できる額ではありません。ここで、遺留分額と遺留分侵害額を区別します。遺留分額は、守られるべき額、つまり入れ物の大きさです。遺留分侵害額は、そのうち足りない額、つまり実際に請求できる額です。レジの締めで言えば、引き出しに最終的に入っているべき金額が遺留分額で、すでに入っている金額を数えて、足りない分を補充するのが侵害額です。条文では、1046条2項に出てくる、第1042条の規定による遺留分、がこの遺留分額のことです。以前の回で、長女の遺留分は3,000万円、と言ったのも、この遺留分額のほうです。
遺留分侵害額の式
図:式の板
- 遺留分侵害額=遺留分額 −①遺留分権利者が受けた遺贈・903条1項の贈与 −②取得すべき遺産の価額 +③承継する債務の額
- 引く・引く・足す
条文民法1046条2項
民法 第1046条第2項(遺留分侵害額の請求) 遺留分侵害額は、第千四十二条の規定による遺留分から第一号及び第二号に掲げる額を控除し、これに第三号に掲げる額を加算して算定する。 一 遺留分権利者が受けた遺贈又は第九百三条第一項に規定する贈与の価額 二 第九百条から第九百二条まで、第九百三条及び第九百四条の規定により算定した相続分に応じて遺留分権利者が取得すべき遺産の価額 三 被相続人が相続開始の時において有した債務のうち、第八百九十九条の規定により遺留分権利者が承継する債務(次条第三項において「遺留分権利者承継債務」という。)の額
1046条2項です。遺留分侵害額は、遺留分額から、1号と2号の額を引き、3号の額を足して出します。引くものが2つ、足すものが1つです。軸は先ほどのとおりです。長女の手元に、最終的に遺留分額が残るようにします。すでに受け取った分、1号と2号は、遺留分をもう満たしているので引きます。借金を背負う分、3号は、手元を減らすので足して戻します。項目ごとに、なぜを見ます。
1号 受けた遺贈と贈与を引く
図:問いの板。特別受益になる贈与の3類型は何か。
その前に、特別受益の回の問いです。特別受益になる贈与の3類型は、何だったでしょうか?婚姻のため、養子縁組のため、生計の資本として受けた贈与です。1号の贈与は、この類型に当たるものです。
図:1号の板
- 引く=遺留分権利者本人が受けた遺贈と903条1項の贈与
- 引かない=友人への別荘(権利者が受けていない)
- 何年前でも引く
- 持戻し免除があっても引く
- 設例=3,250−500=2,750万円
1号は、遺留分権利者が受けた遺贈と、903条1項に規定する贈与の価額を引きます。なぜ引くか。すでに遺留分の一部が満たされているからです。引かなければ、遺言で友人に全部渡され、さらに長女が開業資金500万円を持っているのに、遺留分額3,250万円を満額請求できてしまいます。最低保障を超えて受け取ることになります。設例の長女が受けた開業資金500万円は、生計の資本として受けた贈与です。引きます。友人の別荘は引きません。受けたのは長女ではなく、友人だからです。友人は遺留分権利者ではありません。基礎財産には、相続人への贈与は10年前までしか入らないのでしたよね。引くほうにも、10年の制限はありますか。ありません。足す側の贈与の期間は、1044条3項が定めています。1号は、903条1項に規定する贈与、とだけ書き、1044条3項を挙げていません。ですから、何年前の贈与でも引きます。例で確かめます。開業資金が12年前だったとします。基礎財産に入りませんから、6,000万円です。遺留分額は3,000万円です。でも1号では、500万円を引きます。侵害額は2,500万円です。長女は500万円と2,500万円で、3,000万円。遺留分額にちょうど届きます。
図:持戻し免除と遺留分
- 基礎財産への算入=免除があっても変わらない(判例)
- 1号で引く=免除があっても引く(903条1項だけを引用)
- 免除は遺産分割の取り分の計算の話
持戻し免除についても答えます。前の回で、免除の意思があっても、基礎財産への算入は変わらない、と見ました。侵害額の計算にどう響くかは、次の回で見る、と言いました。ここで答えます。父が、開業資金は持ち戻さなくてよい、と意思表示していたとします。この場合も、1号では引きます。理由は2つです。条文が、903条の1項に規定する贈与とだけ書き、免除を定める3項や4項を引いていないことです。そして、被相続人が免除を言えば、遺留分が増えたり減ったりするのでは、遺留分が遺言で動いてしまうことです。免除は、遺産分割の取り分の計算の話にとどまります。基礎財産の側の結論には、最高裁の判断があります。前の回で見たとおり、かつては物そのものを取り戻す請求でした。そのころの事件ですが、基礎財産に入るという結論は、今の条文でも変わりません。
判例最決平24・1・26 集民239号635頁
持戻し免除の意思表示があっても、その贈与の価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入される 被相続人が,特別受益に当たる贈与につき,当該贈与に係る財産の価額を相続財産に算入することを要しない旨の意思表示(以下「持戻し免除の意思表示」という。)をしていた場合であっても,上記価額は遺留分算定の基礎となる財産額に算入されるものと解される。
この決定は、基礎財産に入るかを判断したものです。1号で引く結論は、条文から出ます。設例では、3,250万円から500万円を引いて、2,750万円です。
2号 取得すべき遺産を引く
図:2号の計算例
- 子C・Dの2人、預金4,000万円、Dは5年前に生計の資本として2,000万円を受けた
- 遺言は3,000万円を友人Bに遺贈
- 基礎財産6,000万円→遺留分額各1,500万円→遺贈は分割対象外・みなし相続財産3,000万円→取得すべき遺産 C1,000万円・D0→Cの侵害額500万円/Dは0
2号です。900条から902条まで、903条、904条で算定した相続分に応じて、遺留分権利者が取得すべき遺産の価額を引きます。注意点は、実際に分割で取れた額ではなく、算定上取得すべき額だということです。なぜ引くか。遺贈や贈与で持っていかれた後に、遺産がまだ残っていて、そのうち遺留分権利者が相続で取れる分があるなら、その分も遺留分は満たされているからです。設例のように、相続人が長女ひとりで、遺産がすべて遺贈されているなら、取れる遺産はなく、2号はゼロです。902条まで使う点を、さっきの2項と比べます。2項の率は、900条と901条だけで、指定を使いませんでした。2号は、902条の指定も使います。率は法定で固め、実際に取得すべき額は、被相続人の指定を尊重して算定する、という分担です。903条を使うので、特別受益を受けた相続人の分は減り、他の相続人の分は増えます。904条で、贈与の価額は、原状のままで評価します。計算例で見ます。父が亡くなり、相続人は長女Cと長男Dの2人、子のみです。遺産は預金4,000万円で、借金はありません。Dは5年前に、生計の資本として2,000万円の贈与を受けていました。持戻し免除はありません。遺言は、3,000万円を友人Bに遺贈する、というものだけで、残りは遺産分割で分けます。基礎財産は、4,000万円に2,000万円を足して、6,000万円です。個別的遺留分率は各4分の1で、遺留分額は各1,500万円です。
取得すべき遺産を出します。友人への遺贈の3,000万円は、遺産分割で分ける財産から外れます。残る遺産は、4,000万円から3,000万円を引いた1,000万円です。みなし相続財産は、この1,000万円に、Dの贈与2,000万円を足して、3,000万円です。各自の本来の取り分は、1,500万円です。Cは1,500万円。Dは、贈与の2,000万円がすでに1,500万円を超えていますから、遺産から取るべき分はゼロです。超えた分を返す必要もありません。残る1,000万円は、全部Cが取得すべき遺産です。Cの侵害額は、1,500万円から、1号のゼロと2号の1,000万円を引いて、500万円です。長女は友人に500万円を請求できます。検算すると、1,000万円の遺産分割と、500万円の請求で、1,500万円。遺留分額にちょうど届きます。
Dは、1,500万円から、1号の2,000万円と、2号のゼロを引いて、マイナス500万円です。マイナスは、侵害されていないということです。Dは2,000万円をすでに受けていて、1,500万円を上回っています。Dは請求できません。侵害額は、ゼロとして扱います。
寄与分は計算に入らない
図:問いの板。寄与分は、遺産分割の計算で、足すか引くか。
以前の回の問いです。寄与分は、遺産分割の計算で、足すでしょうか、引くでしょうか?引きます。別枠で取り出す形でした。その回で、遺留分を計算するときの寄与分の扱いは、別の計算だと言いました。ここで回収します。
図:比較板
- 遺産分割の計算(具体的相続分)=寄与分あり
- 遺留分の計算(基礎財産・侵害額)=寄与分なし
- 1046条2項2号は900〜902条、903条、904条を挙げ、904条の2を挙げない
結論は、侵害額の計算でも寄与分は考えません。根拠は、2号の並べ方です。2号は、900条から902条、903条、904条と並べ、904条の2、つまり寄与分を挙げていません。前の回で見たとおり、基礎財産でも寄与分は考えませんでした。遺留分の計算は、2か所とも寄与分を使いません。さきほどの2号の計算例で、長女Cが、父の介護を長年、無償で続けていたとします。遺産分割では、寄与分でCの取り分が増えることがあります。それでも、侵害額の計算では、2号は1,000万円のままです。介護した分は、この計算に足されません。理由は、3つ考えられます。1つ目、寄与分は、共同相続人の協議や、家庭裁判所の審判で決まる、相続人どうしの調整です。遺留分の請求の相手は、友人のような第三者が多く、その協議や審判の当事者ではありません。2つ目、寄与分は、遺贈を超えられません。相続開始の時の財産から遺贈の価額を引いた残りが、上限です。遺贈より後ろに置かれた寄与分で、遺贈を削る計算はしない、ということです。3つ目、後から決まる寄与分で、最低保障の額が動くのは困ります。遺留分額が、遺言を書いた時点で見通せなくなるからです。寄与分を主張したいなら、遺産分割の手続で、相続人どうしで行います。
3号 承継する債務を足す
図:問いの板。侵害額の式の3項目のうち、足すのはどれか。
ここで問いです。侵害額の式の3項目のうち、足すのは、どれでしょうか?3号の債務です。1号と2号は引きます。3号を詳しく見ます。
図:3号の板
- 基礎財産では債務を全額引いた→長女は相続人として債務を実際に背負う→背負う分だけ手元が減る→足して戻す
- 債務は相続開始で当然に法定相続分に分かれる(899条)
3号は、被相続人が相続開始の時に有した債務のうち、899条の規定により、遺留分権利者が承継する債務の額です。899条は、相続人が相続分に応じて権利義務を承継する、という規定でした。お金の借金のような債務は、相続開始と同時に、法定相続分に応じて当然に分かれました。設例を少し変えます。父に、借金が1,000万円あったとします。相続人の長女は、この1,000万円を返すことになります。なぜ足すか。基礎財産を出すときは、債務を全額引いて、残る財産の純額を測りました。しかし長女は相続人として、その債務を実際に背負います。背負う分だけ、手元に残るお金は減ります。そのまま引き算だけすると、最終的な手元が、遺留分額に届きません。背負う分を足して、戻します。最高裁の判断も、同じ向きです。これも、物そのものを取り戻す請求だったころの事件ですが、3号が899条で承継する債務と書く今の条文でも、同じ向きに読めます。
判例最判平21・3・24 民集63巻3号427頁
遺留分侵害額の算定は、遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき額を出すもの その算定は,相続人間において,遺留分権利者の手元に最終的に取り戻すべき遺産の数額を算出するものというべきである。したがって,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言がされ,当該相続人が相続債務もすべて承継したと解される場合,遺留分の侵害額の算定においては,遺留分権利者の法定相続分に応じた相続債務の額を遺留分の額に加算することは許されないものと解するのが相当である。
読み方です。財産全部を1人に相続させる遺言は、相続分の全部を、その人に指定したことになります。法定相続分と指定相続分の回で読んだ判決のとおり、この場合は、特段の事情がない限り、債務も全部その人に負わせる意思だと読みます。債権者から法定相続分で請求されることはあっても、相続人どうしの内部では、その人が全部を負担します。足すのは、最終的に自分が背負う債務だけです。ですから、その遺言で全部を受ける人以外の遺留分権利者は、足す債務がありません。債務を誰が負担するかが、請求の相手との関係で変わりうる点は、別の回で扱います。
計算実演
図:問いの板。借金があるのに3号を忘れると、侵害額は大きく出るか、小さく出るか。
計算実演の前に、問いです。借金があるのに、3号を忘れると、侵害額は大きく出るでしょうか、小さく出るでしょうか?足し忘れるのですから、小さく出ます。確かめます。
図:計算実演板。列=基本形/A(長女にも遺贈)/B(借金1,000万円)/C(開業資金12年前)。行=基礎財産/遺留分額/1号/2号/3号/侵害額/検算。基本形=6,500/3,250/500/0/0/2,750。A=6,500/3,250/1,500/0/0/1,750。B=5,500/2,750/500/0/+1,000/3,250。C=6,000/3,000/500/0/0/2,500。
基本形です。冒頭の問いの答えを出します。基礎財産は6,500万円。遺留分額は、2分の1を掛けて3,250万円。1号は、長女の開業資金500万円。2号は、遺産がすべて遺贈されているのでゼロ。3号は、債務がないのでゼロ。侵害額は、3,250万円から500万円を引いて、2,750万円です。長女は友人に、2,750万円を請求できます。検算します。長女は、もらった500万円と、請求した2,750万円で、3,250万円。遺留分額です。友人の手元にも、6,000万円から2,750万円を引いた、3,250万円が残ります。変奏Aです。遺言が、現金のうち1,000万円を長女に、5,000万円を友人に遺贈する、というものだったとします。1号で引くのは、開業資金500万円に、遺贈1,000万円を足した1,500万円です。侵害額は、3,250万円から1,500万円を引いて、1,750万円です。検算は、500万円と1,000万円と1,750万円で、3,250万円です。遺贈を受ければ、その分も引かれます。変奏Bは、さきほどの借金1,000万円です。遺言は、現金6,000万円を友人に遺贈する、というものです。借金の負担を定める文言はありませんから、相続人の長女が、借金を承継します。基礎財産は、6,000万円に500万円を足し、1,000万円を引いて、5,500万円です。遺留分額は2,750万円。1号の500万円を引き、2号のゼロを引き、3号の借金1,000万円を足して、侵害額は3,250万円です。
検算します。長女は、もらった500万円に、請求した3,250万円を足し、借金の返済1,000万円を引いて、2,750万円。遺留分額です。3号を忘れると、2,250万円と出て、1,000万円足りなくなります。変奏Cは、さきほどの12年前の開業資金です。基礎財産は6,000万円で、遺留分額は3,000万円。1号は引くので、侵害額は2,500万円です。足す側は10年、引く側は制限なし、という非対称が、ここで見えます。基本形も変奏も、検算すると、長女の手元には遺留分額が残ります。式は全部、最終的に手元へ遺留分額を残すための帳尻合わせでした。ここは、論文で論点になりうるところです。数字を式に当てはめて、侵害額を出せることが、土台になります。
今日の地図(保存版)
図:まとめ
- ①割合=総体的(親だけ3分の1・それ以外2分の1)×法定相続分=個別的
- 兄弟姉妹はゼロ・配偶者と兄弟姉妹なら配偶者2分の1②侵害額=遺留分額−1号−2号+3号
- 寄与分は入らない
- 1号は何年前でも・免除があっても引く③設例の答え=2,750万円
3点で確認します。1つ目、割合です。総体的遺留分は、親だけが相続人なら3分の1、それ以外は2分の1です。これに法定相続分を掛けたものが、個別的遺留分です。兄弟姉妹はゼロで、配偶者と兄弟姉妹なら、配偶者は2分の1です。2つ目、遺留分侵害額は、遺留分額から、1号の遺贈と903条1項の贈与、2号の取得すべき遺産を引き、3号の承継する債務を足します。寄与分は入りません。1号は、何年前でも、持戻し免除があっても引きます。引くのも足すのも、手元に最終的に遺留分額を残すためです。3つ目、設例の答えは、2,750万円です。次の回は、この侵害額を、誰に、どの順序で、いつまでに請求するかを見ます。
参照条文
- 民法1042条
- 民法1046条2項