民法ゼロから民法#360

法定相続分と指定相続分

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第8章 相続 #360/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

妻は遺産のどれだけを受け取れるか

冒頭の設例。A(夫・死亡・子なし・両親は既に死亡)、B(妻)、C(兄・父母の双方が同じ)、D(弟・父だけが同じ)、E(亡き父)。問い=妻は遺産のどれだけを受け取れるか。 図:冒頭の設例

  • A(夫・死亡・子なし・両親は既に死亡)、B(妻)、C(兄・父母の双方が同じ)、D(弟・父だけが同じ)、E(亡き父)
  • 問い=妻は遺産のどれだけを受け取れるか

設例です。夫が亡くなりました。子どもはいません。夫の両親も、すでに亡くなっています。夫には、兄と弟がいます。兄は、夫と父母が同じです。弟は、父親だけが同じで、母親は別の人です。妻は、遺産のどれだけを受け取れるのでしょうか。子も親もいないから妻が全部、とはなりません。そこが入口です。子も直系尊属もいないときは、兄弟姉妹が相続人になります。ですから、妻と兄と弟の3人で、遺産を分けることになります。では、どんな割合で分けるのか。そして、父親しか同じでない弟は、兄と同じ扱いなのか。これが今日の問いです。答えは、道筋を通ったあとで出します。前回までに、誰が相続人になるかは決まりました。順位も、代襲相続も、すでに見ています。今日は、相続人が複数いるときに、いくらずつになるか、だけを見ます。

相続分には3つの意味がある

地図。相続分の3つの意味。①法定相続分(900条・901条=民法が決める)②指定相続分(902条=遺言で決まる・指定があれば指定が優先)③具体的相続分(法定・指定をベースに、贈与・遺贈・寄与で修正)。今日の範囲=①と②。 図:地図

  • 相続分の3つの意味
  • ①法定相続分(900条・901条=民法が決める)②指定相続分(902条=遺言で決まる・指定があれば指定が優先)③具体的相続分(法定・指定をベースに、贈与・遺贈・寄与で修正)
  • 今日の範囲=①と②

まず言葉です。相続分とは、共同相続人それぞれの取り分の割合のことです。相続人が1人なら、全部その人のものですから、割合は問題になりません。共同相続人が複数いて、初めて問題になります。ただ、相続分という言葉は、3つの意味で使われます。ここを混ぜると、あとで必ず混乱します。板の3段を見てください。1つ目は、法定相続分です。民法が、あらかじめ決めている割合です。900条と901条で決まります。2つ目は、指定相続分です。被相続人が、遺言で決めた割合です。遺言で、決めることを第三者に任せる場合も含みます。902条1項です。3つ目は、具体的相続分です。生前にもらった贈与や、遺言で与えられた財産、それに被相続人への貢献を考慮して、計算で出す、実際の取り分です。

指定が優先します。法定相続分は、遺言が無いときに、取り分の穴を埋めるための補充の規定だからです。被相続人が自分の意思で決めていたなら、そちらを先に尊重します。3つ目の具体的相続分は、法定相続分や指定相続分を出発点にして、そこに足したり引いたりして出します。たとえば、兄だけが生前に家を買ってもらっていたら、その取り分、兄の取り分を減らして調整する。そういうイメージです。計算の中身は、次の回以降で扱います。今日は、前の2つです。道筋を順に言います。まず900条の組合せ。次に、半血の兄弟姉妹の扱い。そのあと、代襲相続人の相続分の901条。さらに、遺言で決める902条。最後に、指定があっても債権者に対してはどうなるか、902条の2です。先に、今日の結論の形だけ言っておきます。取り分は、まず合計を決めてから、その中で分けます。そして、遺言で決めた取り分は、相続人どうしでは効きますが、債権者には効きません。

法定相続分は、組合せで決まる

900条の組合せ表。配偶者と子=1/2と1/2(1号)/配偶者と直系尊属=2/3と1/3(2号)/配偶者と兄弟姉妹=3/4と1/4(3号)/配偶者のみ=全部/配偶者がいない場合=同順位の血族で頭数均等(4号)。合計を先に決め、中で分ける。 図:900条の組合せ表

  • 配偶者と子=1/2と1/2(1号)/配偶者と直系尊属=2/3と1/3(2号)/配偶者と兄弟姉妹=3/4と1/4(3号)/配偶者のみ=全部/配偶者がいない場合=同順位の血族で頭数均等(4号)
  • 合計を先に決め、中で分ける

条文民法900条

民法 第九百条(法定相続分) 同順位の相続人が数人あるときは、その相続分は、次の各号の定めるところによる。 一 子及び配偶者が相続人であるときは、子の相続分及び配偶者の相続分は、各二分の一とする。 二 配偶者及び直系尊属が相続人であるときは、配偶者の相続分は、三分の二とし、直系尊属の相続分は、三分の一とする。 三 配偶者及び兄弟姉妹が相続人であるときは、配偶者の相続分は、四分の三とし、兄弟姉妹の相続分は、四分の一とする。 四 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。ただし、父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の二分の一とする。

900条は、組合せごとに、割合を決めています。配偶者は、常に相続人になります。ですから、配偶者と、誰か1つの順位の血族との組合せで決まります。配偶者と子なら、2分の1ずつです。配偶者と直系尊属なら、配偶者が3分の2で、直系尊属が3分の1です。配偶者と兄弟姉妹なら、配偶者が4分の3、兄弟姉妹が4分の1です。順位が後ろになるほど、配偶者の取り分が増えていきます。血族の順位が後ろになるほど、被相続人とのつながりは遠くなります。そのぶん、配偶者の取り分を厚くしている、と考えてください。誰が相続人かは、前に確定しました。今日は、そこから、いくらかを出します。大事なのは、計算の手順です。まず、配偶者側と血族側の合計を決めます。それから、血族側の中を分けます。大きな皿を、配偶者の皿と血族の皿の2枚に分けて、そのあと、血族の皿の中だけを切り分ける、という順番です。切り分けるときの原則が、4号の本文です。子が数人なら、子は等しく分けます。直系尊属が数人なら、等しく分けます。兄弟姉妹が数人でも、等しく分けます。これも、まず合計を出して、その中で割ります。例で確かめます。夫が亡くなり、妻と、長男、二男がいます。1号の場面です。妻が2分の1、子の合計が2分の1です。子は長男と二男の2人なので、それぞれ4分の1ずつです。足すと、2分の1と4分の1と4分の1で、ちょうど1になります。配偶者がいない場合は、組合せがありません。同順位の血族だけを、頭数で等しく分けます。子が3人で配偶者がいなければ、3人で3分の1ずつです。1人だけなら、その人が全部です。

ここで、1つ補足です。4号の「子」には、嫡出子も、嫡出でない子も、養子も含まれます。以前は、嫡出でない子の相続分を、嫡出子の半分とする規定がありました。最高裁判所の大法廷が、この規定を憲法14条1項に違反すると判断しました。現在の民法は、この区別をしていません。詳しくは、憲法の講義で扱います。ここで問いです。配偶者と兄弟姉妹が相続人のとき、兄弟姉妹が受け取る分は、全員の合計でいくらでしょうか? 兄弟姉妹が、3人いても、5人いても同じです。兄弟姉妹の合計は4分の1で、人数が増えても変わりません。その中を、分けていくだけです。もう1問、前に見た放棄を思い出してください。妻と、長男、二男が相続人で、長男が相続を放棄しました。妻と二男の相続分は、どうなるでしょうか?

放棄した長男は、初めから相続人でなかったことになります。939条です。ですから、相続人は妻と二男だけで、1号により、妻が2分の1、二男が2分の1です。長男の取り分が、そのまま妻に移るのではなく、長男を除いて、組合せを引き直します。もし、子が全員放棄すれば、次の順位の直系尊属が相続人になり、妻が3分の2、父母で3分の1と、組合せが変わります。

半血の兄弟姉妹は、全血の2分の1

半血の計算。兄弟姉妹の取り分1/4を、全血2:半血1で分ける。兄=1/4×2/3=1/6、弟=1/4×1/3=1/12。妻3/4。検算=9/12+2/12+1/12=1。 図:半血の計算

  • 兄弟姉妹の取り分1/4を、全血2:半血1で分ける
  • 兄=1/4×2/3=1/6、弟=1/4×1/3=1/12
  • 妻3/4
  • 検算=9/12+2/12+1/12=1

冒頭の設例に戻ります。いま見たとおり、妻と兄弟姉妹が相続人なので、3号で、妻が4分の3、兄弟姉妹が合計4分の1です。問題は、兄弟姉妹の4分の1を、兄と弟でどう分けるかです。ここで、4号のただし書が効きます。900条の板の、4号の2文目です。父母の一方のみを同じくする兄弟姉妹の相続分は、父母の双方を同じくする兄弟姉妹の相続分の2分の1とする。長いので、言葉を整理します。父母の双方を同じくする兄弟姉妹を、全血の兄弟姉妹と呼びます。父母の一方だけを同じくする兄弟姉妹を、半血の兄弟姉妹と呼びます。以降は、この呼び方で話します。設例の兄は、父母が夫と同じなので、全血です。弟は、父だけが同じなので、半血です。ただし書によって、半血の弟の相続分は、全血の兄の2分の1です。

比で考えると簡単です。兄と弟の比は、2対1です。合計は3つ分です。4分の1を3つに分けて、兄が2つ分、弟が1つ分です。兄は、4分の1の3分の2で、6分の1。弟は、4分の1の3分の1で、12分の1です。冒頭の答えです。妻が4分の3、兄が6分の1、弟が12分の1です。検算します。分母を12にそろえると、妻が12分の9、兄が12分の2、弟が12分の1です。足して12分の12、つまり1になります。理由は、血のつながりの太さです。全血の兄は、父と母の両方を通じて夫とつながっています。半血の弟は、父を通じた1本だけです。つながりが半分だから、取り分も半分、と考えるのです。注意が2つあります。1つ目、このただし書は、兄弟姉妹だけの規定です。子には、半血と全血の区別がありません。子は、被相続人の子なので、必ず被相続人が親だからです。2つ目、兄弟姉妹の全員が半血なら、差は出ません。比べる相手がいないからです。反対に、配偶者がいなくて、兄と姉は父母とも夫と同じ、弟だけが父が同じなら、2対2対1です。合計の5つ分のうち、兄が2つ分、姉が2つ分、弟が1つ分で、兄が5分の2、姉が5分の2、弟が5分の1です。もし、3人とも半血なら、3人とも同じ重さになり、3分の1ずつです。もう1つ、順位の前提です。兄弟姉妹が相続人になるのは、子も直系尊属もいないときです。889条1項2号です。設例で、両親がすでに亡くなっていると置いたのは、このためでした。

代襲相続人の相続分は、被代襲者の分を等分

思い出す問い。代襲相続が起きる原因は何か。放棄は含まれるか。 図:思い出す問い。代襲相続が起きる原因は何か。放棄は含まれるか。

次は、代襲相続人の相続分です。その前に、前回までの内容を思い出してください。代襲相続が起きる原因は何でしたか? 放棄は含まれるでしょうか?原因は、相続開始以前の死亡、欠格、廃除の3つです。887条2項です。放棄は含まれません。放棄した人は、初めから相続人でなかったことになるからです。欠格や廃除でも代襲相続は生じます。901条は、その原因を区別しません。

901条。代襲相続人の相続分=被代襲者が受けるべきであった分と同じ。代襲者が数人=その分を900条に従って分ける(等分)。2項=兄弟姉妹の子が相続人になる場合にも準用。 図:901条

  • 代襲相続人の相続分=被代襲者が受けるべきであった分と同じ
  • 代襲者が数人=その分を900条に従って分ける(等分)
  • 2項=兄弟姉妹の子が相続人になる場合にも準用

条文民法901条

民法 第九百一条(代襲相続人の相続分) 1項 第八百八十七条第二項又は第三項の規定により相続人となる直系卑属の相続分は、その直系尊属が受けるべきであったものと同じとする。ただし、直系卑属が数人あるときは、その各自の直系尊属が受けるべきであった部分について、前条の規定に従ってその相続分を定める。 2項 前項の規定は、第八百八十九条第二項の規定により兄弟姉妹の子が相続人となる場合について準用する。

901条1項の本文は、代襲相続人の相続分は、被代襲者が受けるべきであった取り分と同じ、という意味です。条文の「直系卑属」が代襲相続人、「その直系尊属」が被代襲者を指します。前に見たとおり、相続権を失った被相続人の子が被代襲者、その子が代襲者で、ここでいう代襲相続人です。なぜ親の取り分なのか。親が生きていれば、財産はいずれ親を通じて子に渡ったはずです。その期待を守るために、子が親の座席に座ります。だから取り分も、座席の取り分をそのまま引き継ぎます。ただし書は、代襲相続人が数人いる場合です。被代襲者の取り分を、前条、つまり900条に従って分けます。子は等しく分けるので、等分です。計算例です。夫が亡くなり、妻、長男、二男がいます。ただし、二男は夫より先に亡くなっていて、二男には子が2人、つまり夫の孫が2人います。

計算例1。A(夫・死亡)、B(妻)、C(長男)、D(二男・先に死亡)、E(二男の子2人=孫)。妻1/2・長男1/4・孫各1/8。検算=1/2+1/4+1/8+1/8=1。 図:計算例1

  • A(夫・死亡)、B(妻)、C(長男)、D(二男・先に死亡)、E(二男の子2人=孫)
  • 妻1/2・長男1/4・孫各1/8
  • 検算=1/2+1/4+1/8+1/8=1

順番に出します。1号により、妻が2分の1、子側が2分の1です。子は長男と二男で、それぞれ4分の1が本来の取り分です。二男は先に亡くなっているので、二男の4分の1を、孫が引き継ぎます。孫は2人なので、その4分の1を等分して、1人あたり8分の1です。長男の取り分は、4分の1のまま、変わりません。検算です。2分の1と、4分の1と、8分の1が2つで、足すと1です。代襲相続人が3人なら、1人あたりは減ります。二男の4分の1を3人で割るので、12分の1です。しかし、長男の取り分は4分の1のままです。代襲相続人が何人増えても、動くのは、被代襲者の取り分の中だけです。901条2項です。兄弟姉妹の子が、代襲相続で相続人になる場合にも、同じルールを準用します。このときは、相続権を失った兄弟姉妹が被代襲者、その子が代襲相続人です。ここで効いてくるのが、半血です。引き継ぐのは、親である兄弟姉妹が受けるべきだった取り分だからです。冒頭の設例を、1つ変えます。半血の弟が、夫より先に亡くなっていて、弟には子が2人いるとします。妻の4分の3と、兄の6分の1は、変わりません。弟が受けるべきだった取り分は、ちょうど12分の1です。弟の子2人は、その12分の1を等分して、1人あたり24分の1です。半血の弟の子は、半血の弟の取り分、つまり全血の半分を引き継ぎます。検算します。24分の18と、24分の4と、そして24分の1が二つで、足すと1です。

半血の弟の子の取り分は、全血の兄の子と同じではありません。親の取り分を引き継ぐ、というのが代襲相続の考え方です。なお、兄弟姉妹の子の、さらにその子には、代襲相続は続きません。これは前に見たとおりです。

計算実演

計算実演。例2=妻と父母(妻2/3・父1/6・母1/6/父だけ健在なら父1/3)。例3=配偶者なし・兄と姉は全血・弟は半血(2/5・2/5・1/5)。例4=弟が先に死亡し弟の子2人(妻3/4・兄1/6・弟の子各1/24)。手順=①組合せで合計を決める②中を均等(半血は半分)③代襲相続人は被代襲者の分を等分。 図:計算実演

  • 例2=妻と父母(妻2/3・父1/6・母1/6/父だけ健在なら父1/3)
  • 例3=配偶者なし・兄と姉は全血・弟は半血(2/5・2/5・1/5)
  • 例4=弟が先に死亡し弟の子2人(妻3/4・兄1/6・弟の子各1/24)
  • 手順=①組合せで合計を決める②中を均等(半血は半分)③代襲相続人は被代襲者の分を等分

ここで、計算をまとめます。手順は3つです。1つ目、組合せで、配偶者側と血族側の合計を決めます。2つ目、血族の中を均等に分けます。半血がいれば、半分で数えます。3つ目、代襲相続人がいれば、被代襲者の取り分を等分します。最後に、足して1になるか、検算します。例2です。夫が亡くなり、妻と、夫の父母がいます。子はいません。2号で、妻が3分の2、父母が合計で3分の1です。父母は2人なので、1人あたりは6分の1です。妻が3分の2、父が6分の1、母が6分の1で、足すと1です。例3は、さきほどの、配偶者がいない場合の兄、姉、半血の弟で、5分の2、5分の2、5分の1でした。例4は、先ほど計算した、半血の弟の子の、24分の1です。どれも、同じ3つの手順で出ています。ここで問いです。妻と、夫の父母が相続人の場合です。父だけが生きていて、母は先に亡くなっていたら、父の相続分はいくらでしょうか?

直系尊属の合計が3分の1で、父がただ1人なら、その全部で、3分の1だと思います。直系尊属は、父1人だけになったので、3分の1が全部、父の取り分です。妻は3分の2のままです。合計を先に決めて、中を割る。この癖をつけてください。

指定相続分は、遺言で決める

902条の3場面。①遺言で自ら相続分を指定②遺言で第三者に指定を委託③一部の相続人についてだけ指定(残りは900条・901条で定める)。指定が法定に優先。口約束や遺言以外の書面は指定にならない。 図:902条の3場面

  • ①遺言で自ら相続分を指定②遺言で第三者に指定を委託③一部の相続人についてだけ指定(残りは900条・901条で定める)
  • 指定が法定に優先
  • 口約束や遺言以外の書面は指定にならない

条文民法902条

民法 第九百二条(遺言による相続分の指定) 1項 被相続人は、前二条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定め、又はこれを定めることを第三者に委託することができる。 2項 被相続人が、共同相続人中の一人若しくは数人の相続分のみを定め、又はこれを第三者に定めさせたときは、他の共同相続人の相続分は、前二条の規定により定める。

後半に入ります。902条1項です。被相続人は、900条と901条の規定にかかわらず、遺言で、共同相続人の相続分を定めることができます。法定相続分より、指定が優先します。指定の方法は2つあります。まず、被相続人が自分で、相続分を決める方法です。もうひとつは、決めることを、第三者に委託する方法です。この委託も、遺言でします。遺言によらない指定は、効力を持ちません。条文は、遺言で、と書いています。生前の口約束も、遺言の方式を満たさない書面も、指定相続分の指定にはなりません。その場合は、法定相続分が基準です。2項は、一部の相続人についてだけ指定した場合です。他の共同相続人の相続分は、900条と901条で定めます。例です。夫が遺言で「妻の相続分を3分の2とする」とだけ書きました。相続人は、妻と、長男、二男です。妻は、指定どおり3分の2です。残りの3分の1を、子の長男と二男が受け取りますが、子は等しい割合なので、それぞれ6分の1です。足すと、3分の2と、6分の1と、6分の1で、1になります。

指定した割合が法定相続分を上回っても構いません。指定は、法定相続分に優先するからです。ただ、遺留分に反する指定でも、指定自体は有効ですが、遺留分を侵害された人は、遺留分侵害額請求権を行使できます。遺留分は、別の回で扱います。もう1つだけ。遺言に「相続させる」と書かれているときに、どう読むかは、別の回で詳しく見ます。今日は、遺言で相続分を指定できる、という点だけで足ります。指定相続分は、先ほどの3つ目、具体的相続分のベースにもなります。計算の出発点は、法定相続分だけでなく、指定があれば指定です。

指定相続分と相続債務、債権者には法定相続分で請求できる

思い出す問い。免責的債務引受は、債権者の関与なく、債務者と引受人だけでできるか。 図:思い出す問い。免責的債務引受は、債権者の関与なく、債務者と引受人だけでできるか。

最後の山場です。その前に、以前の内容を思い出してください。免責的債務引受は、債務者が債務を免れて、引受人だけが残る型でした。これは、債権者が関与しなくても、債務者と引受人だけの合意でできるでしょうか?できません。472条で、債権者と引受人の契約でするか、債務者と引受人の契約をして債権者が承諾するか、のどちらかが必要でした。債務者が誰になるかは、債権者にとって大きな問題だからです。この考え方が、今日の最後の条文の理由になります。設例です。父が亡くなりました。父には、債権者から借りた600万円の借金があります。相続人は、長男と二男の2人です。父は、遺言で、「長男の相続分を10分の7、二男の相続分を10分の3」と指定していました。債権者は、長男と二男に、いくら請求できるでしょうか。

設例(902条の2)。A(父・死亡・借金600万円)、B(長男・指定10分の7)、C(二男・指定10分の3)、D(債権者・貸金600万円)。内部=B420万円・C180万円。債権者D→B300万円・C300万円。 図:設例

  • 902条の2
  • A(父・死亡・借金600万円)、B(長男・指定10分の7)、C(二男・指定10分の3)、D(債権者・貸金600万円)。内部=B420万円・C180万円。債権者D→B300万円・C300万円。

前提です。前に、分けられる債務は当然に分かれる、という427条の分割債務の原則を見ました。相続でも同じ考え方で、金銭の借金のように分けられる債務は、法定相続分に応じて、当然に分かれて承継されます。詳しくは別の回で扱います。ここでは、法定相続分の2分の1ずつ、つまり300万円ずつに分かれる、と受けてください。

条文民法902条の2

民法 第九百二条の二(相続分の指定がある場合の債権者の権利の行使) 被相続人が相続開始の時において有した債務の債権者は、前条の規定による相続分の指定がされた場合であっても、各共同相続人に対し、第九百条及び第九百一条の規定により算定した相続分に応じてその権利を行使することができる。ただし、その債権者が共同相続人の一人に対してその指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない。

本文は、債権者は、相続分の指定がされた場合でも、900条と901条で算定した相続分、つまり法定相続分に応じて、各共同相続人に請求できる、という意味です。ただし書は、債権者が、共同相続人の1人に対して、指定された相続分に応じた債務の承継を承認したときは、この限りでない、という意味です。設例にあてはめます。債権者は、本文により、法定相続分の2分の1ずつで請求できます。長男に300万円、二男に300万円です。遺言で指定した10分の7と10分の3には、縛られません。請求できます。理由は、相続分の指定が、債権者の関与なく決められたことだからです。遺言は、被相続人が1人で書くもので、債権者は、その内容に何も関わっていません。債務者を、債権者の関与なく変えられない、という472条の発想と同じです。会社の社内の費用分担表を変えても、取引先への請求書が書き換わらないのと、似ています。判例も、同じ考え方です。判決の言葉を読みます。この事件は、全財産を相続人の1人に相続させる、という遺言があった事件です。そのうち、相続債務について述べた部分です。

判例最判平21・3・24 民集63巻3号427頁

相続分の指定と相続債務 判決の言葉 本件のように,相続人のうちの1人に対して財産全部を相続させる旨の遺言により相続分の全部が当該相続人に指定された場合,遺言の趣旨等から相続債務については当該相続人にすべてを相続させる意思のないことが明らかであるなどの特段の事情のない限り,当該相続人に相続債務もすべて相続させる旨の意思が表示されたものと解すべきであり,これにより,相続人間においては,当該相続人が指定相続分の割合に応じて相続債務をすべて承継することになると解するのが相当である。もっとも,上記遺言による相続債務についての相続分の指定は,相続債務の債権者(以下「相続債権者」という。)の関与なくされたものであるから,相続債権者に対してはその効力が及ばないものと解するのが相当であり,各相続人は,相続債権者から法定相続分に従った相続債務の履行を求められたときには,これに応じなければならず,指定相続分に応じて相続債務を承継したことを主張することはできないが,相続債権者の方から相続債務についての相続分の指定の効力を承認し,各相続人に対し,指定相続分に応じた相続債務の履行を請求することは妨げられないというべきである。

読み方を、3つに分けます。まず、相続人の間では、指定相続分の割合で、債務を承継します。次に、しかし債権者に対しては、その効力が及びません。理由は、債権者の関与なくされたものだからです。各相続人は、債権者から法定相続分で請求されたら、応じなければならず、指定どおりだと主張して断ることはできません。最後に、債権者の側から指定を承認して、指定相続分どおりに請求することは、妨げられません。この判例の考え方が、のちに902条の2として、条文になりました。

設例の整理。債権者が請求する場合の3場面。①相続人間の負担=指定どおり(B420万円・C180万円)②債権者の請求(本文)=法定相続分でB300万円・C300万円、各相続人は指定を理由に断れない③債権者が指定を承認(ただし書)=B420万円・C180万円の請求。 図:設例の整理

  • 債権者が請求する場合の3場面
  • ①相続人間の負担=指定どおり(B420万円・C180万円)②債権者の請求(本文)=法定相続分でB300万円・C300万円、各相続人は指定を理由に断れない③債権者が指定を承認(ただし書)=B420万円・C180万円の請求

設例を、場面ごとに整理します。まず、相続人の間の負担は、指定どおりです。600万円の7割で長男が420万円、3割で二男が180万円です。次に、債権者に対しては、本文により、長男にも二男にも、300万円ずつ請求できます。さらに、債権者が、指定を承認したときは、ただし書により、長男には420万円、二男には180万円の請求です。

求償の計算。二男が債権者に300万円を支払う→二男の負担は180万円→超えて払った分は120万円→長男に求償できる。対外=法定相続分(300万円ずつ)/内部=指定相続分(420万円と180万円)の二重構造。 図:求償の計算

  • 二男が債権者に300万円を支払う→二男の負担は180万円→超えて払った分は120万円→長男に求償できる
  • 対外=法定相続分(300万円ずつ)/内部=指定相続分(420万円と180万円)の二重構造

最後は、相続人の間の精算です。二男が債権者に300万円を払ったとします。二男の負担は180万円ですから、それを超えた分の120万円を、長男に求償できます。債権者に対しては法定どおり、相続人同士の間では指定どおり、という二重構造です。ここで問いです。二男が、「遺言で自分は180万円だけの負担と決まっているのだから、債権者の300万円の請求は断る」と言いました。二男は、断れるでしょうか?断れないと思います。債権者に対しては、法定相続分に応じて請求できると、902条の2の本文が定めています。払ったあとで、自分の負担を超えた120万円を、長男に求償することになります。指定は相続人の間の話で、債権者には持ち出せません。

今日の地図(保存版)

3つの相続分の比較表。法定(900条・901条=民法が決める/債権者に請求できる基準)/指定(902条=遺言で決める/債権者には効かない・902条の2)/具体的(贈与・遺贈・寄与で修正した計算上の取り分/次回以降)。 図:3つの相続分の比較表

まとめます。まず、冒頭の設例の答えです。妻は4分の3、兄は6分の1、弟は12分の1です。3号で、妻が4分の3、兄弟姉妹が合計4分の1です。その兄弟姉妹の4分の1を、4号ただし書で、全血の兄と半血の弟が、2対1で分けます。3つの相続分の違いは、板のとおりです。法定相続分は、900条と901条で決まり、誰が相続人かで決まります。指定相続分は、902条により、遺言で決まり、法定相続分に優先します。ただし、債権者に対しては効かず、債権者は、法定相続分で請求できます。902条の2です。計算の癖も、もう一度確認します。合計を先に決めて、中を分ける。半血は全血の半分。代襲相続人は、被代襲者の取り分を等分する。放棄があれば、放棄した人を除いて組合せを引き直す。そして、相続人の間では指定どおり、債権者に対しては法定どおり。これが今日の中心でした。次は、3つ目の相続分、具体的相続分を見ます。

参照条文

  • 民法900条
  • 民法901条
  • 民法902条
  • 民法902条の2

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