文書提出命令の手続と真実擬制・検証
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第2章 訴訟の審理 #58/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
刑事記録は民事の法廷に出せるか
図:冒頭事案の関係図
Xさんは、ある刑事事件の捜査で自宅を捜索差押えされましたが、結局起訴されませんでした。Xさんは、この捜索差押えそのものが違法だったとして、捜索を行った警察の属する公共団体Yを相手に、国家賠償の訴訟を起こしました。捜索差押えを行うには、裁判官が発付する令状が必要です。Yは、その令状そのものと、発付を求めるために作った請求書を、当時の捜査記録として今も保管しています。Xさんは、この書類を民事の法廷に出させて、令状の要件を欠く違法な捜索だったことを立証したいと考えました。結論から言うと、無理ではありません。刑事事件の記録という理由だけで一律に出せなくなるわけではなく、条件を満たせば命じられる道が残っています。今日はその条件と、命令が出たあとに何が起きるかを、最後まで見ていきます。
前回の受け——4号までの入口
図:前回の受けの板
前回、220条の4号まで見ました。1号から3号は、文書と挙証者、つまりその文書で事実を証明しようとする側との間に、すでに特別なつながりがある場合の限定義務で、ここにはイからホの例外が条文上付いていません。4号は、そういうつながりの無い文書について、原則として提出させたうえで、イからホの除外事由に当たれば免れる一般義務で、前回はそのうちイからニまでを見ました。イからハは、証人として呼ばれた人が、法廷で証言を拒むことが認められる秘密、つまり証言拒絶権で守られる秘密を、文書の側でも守るための除外でした。ニだけは、組織の内部で使うためだけに作った文書を守る除外で、どんな文書がそれに当たるかは、判例が3つの要件で絞り込んできました。今日は、4号の除外事由の最後、ホから始めます。
(ホ)刑事・少年事件関係文書
図:4号ホの板
条文民事訴訟法220条4号ホ
民事訴訟法220条4号ホ(文書提出義務の除外事由) ホ 刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書
ホは、刑事事件に係る訴訟に関する書類、少年の保護事件の記録、それにこれらの事件で押収されている文書です。この3つに当たる文書は、4号に基づく提出義務を免れます。イからニが、秘密や組織の内部事情を守るための除外だったのに対して、ホは刑訴法との関係を条文が正面から取り込んだ規定です。
条文刑事訴訟法47条
刑事訴訟法47条(訴訟に関する書類の公判前の公開禁止) 訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。
刑訴法47条のただし書きが、今日のポイントです。刑訴法47条は、公判が開かれる前は原則として非公開としながら、公益上の必要があって相当と認められる場合には、公開してよいというただし書きを置いています。刑事事件関係文書という理由だけで一律に非公開にする制度ではなく、もともと例外を織り込んだ規定なんです。Yが持つ令状関係書類も、まずこのホに当たるかどうかが問題になります。
(ホ)と3号の交錯——形式判断の先にある実質判断

ホに当たる文書は、4号に基づく提出義務を免れます。しかし、話はそこで終わりません。思い出してください。イからホの除外事由は、4号の中に置かれた例外で、1号から3号の義務には付いていませんでした。ホで外れるのは4号の義務だけで、3号の入口は別に残っています。そこで最高裁は、刑事事件の文書でも、3号の法律関係文書、つまり挙証者と所持者の間の法律関係について作られた文書に当たるなら、なお救済の道があることを示しました。
⭐ 論文で書く規範:3号法律関係文書としての提出命令 当該文書が法律関係文書に該当する場合であって、その保管者が提出を拒否したことが、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、その裁量権の範囲を逸脱し、又は濫用するものであると認められるときは、裁判所は、当該文書の提出を命ずることができる。 (規範(最決平成16・5・25 民集58巻5号1135頁〈百選A23〉))
刑事事件に関わる文書でも、法律関係文書に当たるなら、話は3号の土俵に移ります。ただ、3号に移っても、刑訴法47条が、公にするかどうかの判断を保管者に任せていることは変わりません。だから裁判所は、保管者の判断を丸ごと置き換えるのではなく、提出を拒んだことが、証拠として取り調べる必要性や、開示による弊害のおそれなど、いろいろな事情に照らして裁量権の逸脱や濫用だと評価できるときに限って、なお提出を命じることができる。これが最高裁の定式です。この事件自体では、命じられていません。最高裁は、保管者だった検察官の提出拒否には裁量権の逸脱も濫用も無いと判断し、最初に申立てを判断した決定、つまり原々決定どおり申立ては退けられました。この定式は「一定の条件を満たせば命じうる」という物差しであって、この事件で実際に命じたわけではありません。物差しと、この事件の結論は分けて覚えてください。
命じられた例・命じられなかった例
図:物差しをあてはめた結果の一覧板
- 捜索差押許可状=法律関係文書に該当し提出命令が確定
- 捜索差押令状請求書=法律関係文書には該当するが弊害のおそれを理由に提出は否定
- 告訴状と供述調書=被疑者本人との関係で提出命令が確定・会社との関係では法律関係文書に該当せず却下
- 司法解剖の写真データ=法律関係文書に該当し提出命令が確定
この物差しを実際に当てはめた後続の決定では、書類の種類によって結論が分かれています。まず、捜索差押許可状そのものです。これは法律関係文書に当たり、開示による捜査への具体的な弊害も認められないとして、提出が命じられました。ただ同じ決定の中で、その令状の発付を求めるために作られた請求書、つまり犯罪事実の要旨や夜間の執行が必要な理由などが書かれた書面については、法律関係文書には当たるものの、開示すると捜査に支障が生じるおそれがあるとして、裁量権の逸脱・濫用までは認められず、提出は否定されています。令状本体と、その請求書とで、同じ決定の中で結論が分かれたことがポイントです。次の例です。性犯罪の被害者が提出した告訴状と、司法警察員に対する供述調書が問題になりました。被疑者本人との関係では法律関係文書に当たり、この事件では、被疑者の勾留が準抗告で取り消されて不起訴になっていたこと、国の側がすでに、担当の検事がこれらの書類を読んで作った陳述書を証拠として出していて、被害者の話の中身がかなり詳しく書かれていたことなど、特有の事情から弊害のおそれが認められないとして、提出が命じられています。
同じ物差しでも、事案の事情次第で結論は変わります。もう1つ、司法解剖で撮影された写真データが問題になった決定があります。警察が保管する電磁的記録でしたが、遺族には、死体を不当に傷つけられないことについて法的な利益があるとして、これも法律関係文書に当たると評価され、提出が命じられました。
同じ日、逆の結論——中身が違えば窓口も違う
図:同日別決定の対比板
実は、この写真データの決定と同じ日に、まったく同じ本案事件をめぐって、もう1つ決定が出ています。今度の対象は、司法解剖を行った医師が作成した鑑定書などの文書です。
判例最決令和2・3・24 集民263号135頁
刑事事件関係書類の該当性が争われた決定 文書等が民事訴訟に提出された場合の弊害の有無や程度を個別に検討すべきではなく、被告事件若しくは被疑事件に関して作成され又はこれらの事件において押収されている文書等であれば当然に刑事事件関係書類に該当すると解するのが相当である。
この鑑定書について、最高裁は、開示しても弊害が無いかどうかを1件ずつ検討するのではなく、刑事事件のために作られた文書か、その事件で押収されている文書かという類型だけで、ホに当たるかどうかを判断すべきだとしました。この鑑定書は、まさに刑事事件のために作られた文書ですから、4号に基づく提出義務は無いという結論です。なぜ1件ずつ見ないのか。刑事記録を公にしてよいかは、刑訴法47条のただし書のとおり、刑事の側で判断する仕組みになっています。民事の裁判所が個別に弊害を量り始めると、その仕組みを横から崩してしまう。だから民事の側は類型で線を引き、救う道は3号に任せているんです。
正反対に見えますが、矛盾ではありません。写真データは3号の窓口で判断され、法律関係文書として救済されました。鑑定書は4号ホの窓口で判断され、こちらは弊害の有無を問わない形式的な判断で、そもそもホに当たると認定されています。日付が同じであることに意味は無く、争われている文書の中身が違うから、通る窓口が違うんです。中身を見ずに日付だけで覚えると、この2つを取り違えます。
申立ての審理
図:申立ての審理の板
条文民事訴訟法223条1項・2項
民事訴訟法223条1項・2項(文書提出命令等) 裁判所は、文書提出命令の申立てを理由があると認めるときは、決定で、文書の所持者に対し、その提出を命ずる。この場合において、文書に取り調べる必要がないと認める部分又は提出の義務があると認めることができない部分があるときは、その部分を除いて、提出を命ずることができる。 2 裁判所は、第三者に対して文書の提出を命じようとする場合には、その第三者を審尋しなければならない。
ここからは、命令が出るまでの審理の話です。提出を命じるかどうかは、本案の審理とは別の、独立した決定手続で判断されます。理由があると認めるときは、決定で提出を命じます。文書の中に、取り調べる必要が無い部分や、提出義務があるとは認められない部分があれば、その部分だけを除いて提出を命じることもできます。一部提出命令です。Yが持つ令状関係書類も、丸ごとではなく一部だけ出させることはあり得ます。もし所持者が第三者、たとえば検察官のような当事者以外の人だったら、命じる前にその第三者の言い分を聞かなければなりません。審尋です。第三者は訴訟の当事者ではないので、法廷で自分の言い分を述べる場がありません。それなのに、命令に従わなければ、あとで見る過料という制裁まで受けうる。だから、命じる前に言い分を聞く機会を、条文で保障しているんです。
イン・カメラ手続
図:イン・カメラ手続の板
条文民事訴訟法223条6項
民事訴訟法223条6項(文書提出命令等) 裁判所は、文書提出命令の申立てに係る文書が第二百二十条第四号イからニまでに掲げる文書のいずれかに該当するかどうかの判断をするため必要があると認めるときは、文書の所持者にその提示をさせることができる。この場合においては、何人も、その提示された文書の開示を求めることができない。
イからニのどれかに当たるかどうかの判断が難しいとき、裁判所は、所持者に文書そのものを提示させることができます。これがイン・カメラ手続です。裁判所だけが中身を見て、当事者を含めて誰にも、その中身を見せません。この場で見られるのはあくまで裁判官だけで、申立てをした当事者自身にも開示されません。だからこそ、申立て当事者が反論する機会を奪われる、当事者公開主義に反するという批判があります。それでも、この手続を置かなければ、そもそも該当性を判断する材料が無く、審理が進まなくなってしまうので、認められています。
ホだけは、イン・カメラの対象から外れています。ここで、鑑定書の決定で見た理屈が効いてきます。その決定自身が、ホは、開示してよいかを民事の裁判所が中身を見て1件ずつ判断するのではなく、刑事手続の側の開示のルールに任せる趣旨で丸ごと外したものだ、と述べていて、その裏づけとして、イン・カメラの対象からホが外されていることを挙げています。刑事記録は刑事の側のルールで開示を判断する、という筋を、民事のイン・カメラで崩さない、ということですね。
不服申立て——即時抗告
図:即時抗告の板
条文民事訴訟法223条7項
民事訴訟法223条7項(文書提出命令等) 文書提出命令の申立てについての決定に対しては、即時抗告をすることができる。
提出を命じる決定にも、申立てを却下する決定にも、即時抗告ができます。ただ、判例は、この即時抗告に3つの面から線を引いています。抗告審がどう審理するか、どんな理由なら争えるか、そして誰が争えるか、です。まず1つ目、抗告審が原決定を取り消して結論を覆すときの手続です。ある事件で、抗告審は、相手方が出した即時抗告の申立書を、もう一方の申立人に送らないまま、最初の決定、つまり原々決定を取り消して申立てを却下してしまいました。
判例最決平成23・4・13 民集65巻3号1290頁〈百選A40〉
抗告審の告知義務が争われた事件 「手続的正義の要求に反する」「裁量の範囲を逸脱した違法」があるとして、原決定を破棄し、原審に差し戻す。
最高裁は、これを手続的正義の要求に反する、裁量の範囲を逸脱した違法があるとして、原決定を破棄しました。原決定を取り消すなら、少なくとも抗告が申し立てられたことを相手方に知らせて、反論の機会を与えなければならない、ということです。
図:必要性欠如による却下と抗告の板
判例最決平成12・3・10〈百選A24〉
必要性を理由とする不服申立ての可否 証拠調べの必要性を欠くことを理由として文書提出命令の申立てを却下する決定に対しては、右必要性があることを理由として独立に不服の申立てをすることはできない。
却下されたら必ず即時抗告できるわけではありません。証拠として取り調べる必要性が無いという理由だけで却下された場合、その必要性があるはずだと主張して、独立に不服を申し立てることはできません。取り調べる必要があるかどうかは、本案を審理している裁判所が、その証拠を採るかどうかを決める判断そのものです。提出命令には、証拠を採用する決定という性質もあるので、ふつうの証拠の採否と同じく、そこだけを切り出して上の裁判所で争うことはできない、という考え方です。
図:抗告適格の板
判例最決平成12・12・14
申立人の抗告適格が争われた事件 文書の提出を命じられた所持者及び申立てを却下された申立人以外の者は抗告の利益を有せず、本案事件の当事者であっても即時抗告をすることができない。
もう1つ、別の事件です。文書の提出を命じられた所持者と、申立てを却下された申立人、この2人以外には、そもそも抗告の利益がありません。本案事件の当事者であっても、自分が所持者でも申立人でもなければ、即時抗告はできないということです。提出命令が義務を負わせるのは所持者だけですから、所持者でも申立人でもない人は、その決定で直接の不利益を受けません。争う利益が無い、ということです。「必要性が足りない」という却下にも抗告できない、「自分は所持者でも申立人でもない」という人も抗告できない。似ているようで、理由は別ですか。別です。前者は、却下の理由が必要性の問題だから独立の不服申立てになじまないという話。後者は、そもそも誰に抗告する資格があるかという話です。混同しやすいので、分けて覚えてください。
命令に従わないとどうなるか
図:命令に従わないとどうなるか板——当事者への効果
条文民事訴訟法224条1項・2項・3項
民事訴訟法224条1項・2項・3項(当事者が文書提出命令に従わない場合等の効果) 当事者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、当該文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができる。 2 当事者が相手方の使用を妨げる目的で提出の義務がある文書を滅失させ、その他これを使用することができないようにしたときも、前項と同様とする。 3 前二項に規定する場合において、相手方が、当該文書の記載に関して具体的な主張をすること及び当該文書により証明すべき事実を他の証拠により証明することが著しく困難であるときは、裁判所は、その事実に関する相手方の主張を真実と認めることができる。
ここからは、命令が出たのに従わなかった場合です。当事者が命令に従わないとき、裁判所は、その文書の記載に関する相手方の主張を真実と認めることができます。相手方が使用を妨げる目的で文書を滅失させた場合も同じです。ここで注意してください。1項と2項で真実と認められるのは、あくまでその文書の記載に関する主張、つまり文書の中身についての相手方の言い分までです。要証事実そのものが、自動的に真実になるわけではありません。要証事実は、その文書を使って証明しようとしている事実そのものです。Xさんが「令状請求書には、捜索の理由になる具体的な資料が何も書かれていない」と主張したとします。1項で真実と認められうるのは、請求書にそう書かれている、というところまでです。実際に令状発付の要件を欠く違法な捜索だったかどうかは、そこから先、裁判所がほかの証拠と合わせて判断します。
そこで3項です。相手方が、文書の記載について具体的な主張をすることと、その文書で証明すべき事実を他の証拠で証明すること、この両方が著しく困難なとき、裁判所は、その事実そのものに関する相手方の主張を真実と認めることができます。文書の中身の主張までではなく、要証事実そのものまで踏み込む、1項2項より強い効果です。二重の困難と呼ばれる要件です。Xさんは、令状は見せられていても、請求書は一度も見たことがありません。だから、請求書に何が書かれているかを具体的に言えない。そのうえ、令状を出す根拠になった資料を知る手がかりが、Yの持つ請求書のほかに何も無い。この2つがそろうときが3項です。逆に、たとえば捜査に関わった警察官の証言で、令状を求めた時点で根拠が乏しかったことを証明できるなら、他の証拠で証明することの困難が欠けます。3項は使えず、1項の、記載に関する主張までにとどまります。
当事者本人が協力を拒んだときに、証拠を強制的に確保する代わりに、相手方の主張を真実と認めるという枠組みは、208条とも共通しています。
図:第三者への制裁の板
条文民事訴訟法225条1項・2項
民事訴訟法225条1項・2項(過料等) 第三者が文書提出命令に従わないときは、裁判所は、決定で、二十万円以下の過料に処する。 2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
だから第三者には別の制裁が用意されています。所持者が第三者で、提出命令に従わないときは、決定で20万円以下の過料に処せられます。この過料の決定にも、即時抗告ができます。当事者には心理的な圧力としての真実擬制、第三者には金銭的な制裁としての過料。相手が誰かで、効き方の違う制裁を使い分けているんです。
検証
図:検証の定義の板
ここからは、書証の兄弟にあたる検証です。以前、5つの証拠方法を見た回で、手術器具のように、裁判官が自分の目で確かめる証拠調べとして出てきました。実は目に限りません。目的物は、耳や鼻も含めて、五感で感知できるものすべてです。事故現場の状況や、壊れた設備、騒音や臭気の状況など、幅広く含まれます。
条文民事訴訟法185条1項・3項
民事訴訟法185条1項・3項(裁判所外における証拠調べ) 裁判所は、相当と認めるときは、裁判所外において証拠調べをすることができる。この場合においては、合議体の構成員に命じ、又は地方裁判所若しくは簡易裁判所に嘱託して証拠調べをさせることができる。 3 裁判所(第一項の規定により職務を行う受命裁判官及び前二項に規定する嘱託により職務を行う受託裁判官を含む。)は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いて、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法によって、第一項の規定による証拠調べの手続を行うことができる。
目的物が持ち運べる物なら、挙証者が裁判所にそれを提示します。目的物が場所そのものなら、裁判所の外での証拠調べとして、裁判官のほうが現地に出向きます。この裁判所の外での証拠調べの手続は、相当と認めるときは、当事者の意見を聴いたうえで、映像と音声を送受信する方法、つまりウェブ会議の方法で行うこともできます。
検証の手続と対比
図:検証の手続の板
条文民事訴訟法232条1項
民事訴訟法232条1項(検証の目的の提示等) 第二百十九条、第二百二十三条、第二百二十四条、第二百二十六条及び第二百二十七条第一項の規定は、検証の目的の提示又は送付について準用する。
検証物の所持者は、提示する義務と、検証を受け入れる義務を負います。以前見たとおり、この提示の手続は書証の手続を広く借りていて、申立てに関する219条、提出命令に関する223条、従わないときの真実擬制に関する224条、それに文書送付の嘱託の226条と、出された文書を裁判所が預かっておく227条1項が準用されます。荷物を運ぶための台車を、書証の手続からそのまま借りて使っている、というイメージです。
条文民事訴訟法232条2項・3項
民事訴訟法232条2項・3項(検証の目的の提示等) 2 第三者が正当な理由なく前項において準用する第二百二十三条第一項の規定による提示の命令に従わないときは、裁判所は、決定で、二十万円以下の過料に処する。 3 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。
第三者が検証物を提示しないときも、20万円以下の過料なんですね。文書提出命令のときと同じ扱いですか。同じです。第三者が正当な理由なく提示命令に従わないときは、20万円以下の過料に処せられ、その決定にも即時抗告ができます。文書提出命令の225条と、そろいの制度になっています。
図:web会議による検証と職権鑑定の板
条文民事訴訟法232条の2
民事訴訟法232条の2(映像等の送受信による方法による検証) 裁判所は、当事者に異議がない場合であって、相当と認めるときは、最高裁判所規則で定めるところにより、映像と音声の送受信により検証の目的の状態を認識することができる方法によって、検証をすることができる。
検証そのものをウェブ会議の方法で行う規定もあります。ここは要件を丁寧に見てください。相当と認められることに加えて、当事者に異議が無い場合に限る、という条件が付いています。当事者のどちらかが反対すれば、この方法は使えません。185条3項は、裁判所の外での証拠調べの手続を、映像と音声でつないで進める規定です。232条の2は、検証の目的そのものを、画面越しに見て検証してしまう規定です。検証は、裁判官が自分の五感で確かめる証拠調べですから、画面越しでは伝わらないものが出るおそれがあります。だから、当事者のどちらかが反対すれば使えない、という重い条件になっているんです。
条文民事訴訟法233条
民事訴訟法233条(検証の際の鑑定) 裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、検証をするに当たり、必要があると認めるときは、鑑定を命ずることができる。
鑑定は原則として当事者の申出によりますが、検証の際の鑑定は違います。検証の際の鑑定は、裁判所が必要と認めれば、当事者の申出を待たずに、職権で命じることができます。原則として当事者の申出を前提とする212条以下の鑑定とは、この点が異なります。事故現場を検証している途中で、専門家の分析がその場で必要になった、という場面を思い浮かべてください。
出させる手続から検証まで、一枚の地図
図:まとめの板
今日見てきた流れを、地図としてまとめます。義務があるかどうかは前回まで、義務があってからここまでが今日の話でした。申立てがあると、独立の決定手続で審理が進みます。イからニに当たるかの判断が難しければイン・カメラ、所持者が第三者なら審尋、一部にしか義務が無ければ一部提出命令。決定が出たら、認容にも却下にも即時抗告ができますが、必要性を理由とする却下への独立の不服申立てはできず、所持者でも申立人でもない人には抗告の利益もありません。当事者なら真実擬制、1項2項は文書の記載に関する主張まで、3項は二重の困難があるときに限って要証事実そのものまで。第三者なら20万円以下の過料です。そして検証は、この書証の手続をそのまま借りて動く、書証の兄弟でした。
Yが持つ令状関係書類は、刑事事件に係る訴訟に関する書類として、まずホに当たります。ですが、XさんとYの間には、その捜索差押えをめぐる法律関係がありますから、この書類は同時に3号の法律関係文書にも当たります。あとは、Yの拒否が裁量権の逸脱や濫用と評価されるかどうかです。さっきの決定に当てはめると、令状そのものは、捜査への具体的な支障が無ければ出させられる見込みがあります。一方、請求書は、捜査の手の内が書かれているので、拒否が認められることもありえます。逆にYがそれでも従わなければ、Yは当事者ですから、224条の真実擬制で対応することになります。中身がどんな性質の文書かによって、通る窓口が変わることを忘れないでください。
参照条文
- 民事訴訟法220条4号ホ
- 刑事訴訟法47条
- 民事訴訟法223条1項・2項
- 民事訴訟法223条6項
- 民事訴訟法223条7項
- 民事訴訟法224条1項・2項・3項
- 民事訴訟法225条1項・2項
- 民事訴訟法185条1項・3項
- 民事訴訟法232条1項
- 民事訴訟法232条2項・3項
- 民事訴訟法232条の2
- 民事訴訟法233条