執行力・形成力・反射効(承継執行文・外国判決の承認)
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第3章 訴訟の終了 #72/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
争えないことと執行できることは別の話
図:前回の事案の続きの関係図
- A=土地所有者・原告
- B=無権原で建物を建てて占有・被告
- 建物収去土地明渡し請求でAが勝訴し確定
- 確定後にBが建物をCに売却
- Cには既判力が及ぶ=前回の結論
- 今日の問い=Cにそのまま強制執行できるか
前回の結論どおり、Cさんはもう争えません。ただ、そこで一つ、大きな見落としがあります。Cさんが争えないことと、Aさんがそのまま国の力を借りてCさんから建物を取り上げられることは、まったく別の問題です。争えないのだから、そのまま執行してよいはずだ。これが、今日いちばん潰したい誤解です。既判力は、Cさんが後から蒸し返して争おうとしたとき、初めて働く盾のような効力です。これに対して、判決を実際に実現する力、つまり執行力は、争いが起きるのを待たず、いきなり国の実力行使に直結します。盾と、実際に物を動かす力とでは、誰にまで及んでよいかの慎重さが違って当然なんです。今日は、この執行力と、判決が生むほかの2つの効力、形成力と反射効を確定させます。
執行力と債務名義
図:執行力と債務名義の板
- 執行力=給付義務を国の実力行使=強制執行で実現できる資格
- これを公証する書類=債務名義
- 確定判決だけでなく仮執行宣言付き判決・和解調書・認諾調書も債務名義になる
執行力とは、判決や和解調書に書かれた給付義務を、強制執行という国の実力行使によって実現できる資格のことです。ただ、裁判所の外にいる執行官や書記官は、判決の中身を一から読み直すわけにはいきません。そこで、この給付義務が確かに存在すると公に証明してくれる書類が必要になります。これが債務名義です。債務名義は確定判決だけ、というのは誤解しやすいところです。確定判決だけではありません。
条文民事執行法22条(抜粋)
民事執行法第22条(債務名義) 強制執行は、次に掲げるもの(以下「債務名義」という。)により行う。 一 確定判決 二 仮執行の宣言を付した判決 六 確定した執行判決のある外国裁判所の判決(家事事件における裁判を含む。第二十四条において同じ。) 七 確定判決と同一の効力を有するもの
確定判決のほかに、確定する前でも執行できるようにする仮執行の宣言を付した判決も、債務名義になります。これは以前、判決の主文に書き込む仮執行宣言として扱いました。7号の「確定判決と同一の効力を有するもの」には、和解調書や認諾調書が入ります。裁判上の和解や請求の認諾が成立すると、判決を経なくても、その調書に確定判決と同じ効力が生まれるという話を、以前に見たとおりです。6号は外国の裁判所の判決についてで、これは今日の後半で扱います。和解や認諾が成立した段階で、もう強制執行までできます。だからこそ、和解や認諾には、公序良俗に反する内容は認められないという歯止めがかかっていたわけです。
執行力の範囲は既判力に準ずる、ただし主観的範囲は別
図:準じるが違ってよい理由の板
- 執行力の範囲=原則として既判力の範囲に準ずる
- ただし主観的範囲=誰に及ぶかだけは違ってよい
- 理由=既判力は後訴が起きて初めて働く盾
- 執行力は確定した瞬間から実力行使に直結する
前回、承継人には既判力が及ぶ理由は何でしたか?前主から、紛争の主体たる地位を基準時後に引き継いだから、でした。確定判決の執行力が及ぶ範囲も、原則としてこの既判力が及ぶ範囲に準じます。ですが、誰に及ぶか、つまり主観的範囲だけは違いが出てよいと考えられています。理由は、さきほどの盾と実力行使の違いです。既判力は、後訴が起きて実際に争いが蒸し返されたとき、初めて働きます。だから範囲を広げすぎても、実害はその人が争おうとした場面でしか出ません。ところが執行力は、判決が確定した瞬間から、いきなり財産を取り上げる実力行使に直結します。範囲を広げすぎると、争う機会がないまま財産を奪われる人が出てしまいます。だから執行力の主観的範囲は、既判力よりも慎重に、条文で個別に確認する必要があるのです。
条文民事執行法23条1項・3項(抜粋)
民事執行法第23条(強制執行をすることができる者の範囲) 執行証書以外の債務名義による強制執行は、次に掲げる者に対し、又はその者のためにすることができる。 一 債務名義に表示された当事者 二 債務名義に表示された当事者が他人のために当事者となつた場合のその他人 三 前二号に掲げる者の債務名義成立後の承継人(前条第一号、第二号又は第六号に掲げる債務名義にあつては口頭弁論終結後の承継人、同条第三号の二に掲げる債務名義又は同条第七号に掲げる債務名義のうち損害賠償命令に係るものにあつては審理終結後の承継人) 3 第一項に規定する債務名義による強制執行は、同項各号に掲げる者のために請求の目的物を所持する者に対しても、することができる。
1号が当事者、2号が訴訟担当の場面、3号が承継人、3項が所持者という並びは、既判力の115条とほとんど対応しています。ただ3号にはかっこ書きがあることに注意してください。確定判決や仮執行宣言付き判決、それに外国判決の執行判決については、承継人は「口頭弁論終結後の承継人」に限られます。これは、既判力の基準時とぴったり揃えるための限定です。かっこ書きの後半にある審理終結後の承継人は、刑事裁判に付随して犯罪の被害者が損害賠償を求める、損害賠償命令という別の手続についての言い方で、今日の話には出てきません。
そして3項によって、目的物を所持しているだけの人にも、既判力のときと同じように執行力が及びます。範囲の作りは、既判力とほぼ同じ形をしているわけです。
承継執行文
図:承継執行文の仕組みの流れ図
- X=債権者
- Yに対する土地明渡し請求認容判決が確定
- 基準時後にYから建物または土地をZが承継
- Xが承継を証する文書を裁判所書記官に提出
- Yに対する判決に承継執行文が付く
- Zに対して執行できる
では、実際にどうやって承継人に執行するのか、その手続を見ます。債権者Xさんが、Yさんに対する土地明渡し請求で勝訴して、判決が確定したとします。基準時のあと、Yさんから土地や建物をZさんが引き継いだとします。このとき、Xさんは、ZさんがYさんの地位を引き継いだことを示す文書、たとえば戸籍謄本のような書類を裁判所書記官に提出します。それだけで、Yさんに対する判決に承継執行文という文言が付け加えられ、Zさんに対して執行できるようになります。
条文民事執行法27条2項
民事執行法第27条(執行文付与の要件) 2 債務名義に表示された当事者以外の者を債権者又は債務者とする執行文は、その者に対し、又はその者のために強制執行をすることができることが裁判所書記官若しくは公証人に明白であるとき、又は債権者がそのことを証する文書若しくは電磁的記録を提出したときに限り、付与することができる。
Zさんを相手に、あらためて訴訟を起こす必要はありません。ここが承継執行文の便利なところです。Zさんが本当に地位を引き継いだことさえ書記官に明白であるか、Xさんがそれを証明する文書を出せば、あらためて訴訟をしなくても、書記官への申立てだけで執行文がもらえます。冒頭のCさんも、Aさんがこの手続を踏めば、そのまま執行される立場にあるように見えます。
固有の防御方法を持つ承継人への執行
図:94条2項設例の再登場の関係図
- A=土地所有者
- B=Aと通謀して虚偽の売買契約を結び移転登記を得た者
- Aが虚偽表示による登記抹消を求めて勝訴確定
- 基準時後にBが土地をDに売却し移転登記
- Dは承継人として既判力を受けるが、自分は善意の第三者だという固有の言い分を持つ
ただ、話はこれで終わりません。前回の終わりに扱った設例を思い出してください。Aさんが、Bさんと通謀した虚偽表示の登記の抹消を求めて勝訴し、確定しました。基準時の後、Bさんが土地をDさんに売って移転登記をしました。Dさんは承継人にあたるので、Bさんの登記抹消義務そのものは争えません。ですが、Dさんには、自分は虚偽表示だと知らずに買った善意の第三者だという固有の防御方法がありました。ここで問題になるのが、Dさんに固有の言い分があるとき、承継執行文でそのままDさんに執行してよいのか、ということです。もしそのまま執行を許すと、Dさんは財産を取り上げられたあとで、ようやく自分の言い分を持ち出すことになってしまいます。
図:2説対立の板
- 固有の防御方法を持つ承継人への執行可否
- 権利確認説=承継人にあたらない・債権者の側が承継執行文付与の訴え(33条)を起こすべき
- 起訴責任転換説=承継人として扱い・承継人の側が執行文付与に対する異議の訴え(34条)や請求異議の訴え(35条)を起こすべき
- 判断軸=主張機会の負担をどちらに負わせるのが公平か
ここで考え方が2つに割れます。1つ目は権利確認説です。固有の防御方法を持つ人は、そもそも執行力の及ぶ承継人にはあたらないと考えます。だから、Aさんの側が、あらためてDさんに対して権利を確認する訴えを起こすべきだ、という立場です。
⭐ 論文で書く規範:権利確認説(判例が採る立場) 承継人が固有の防御方法を有するときは、その者は承継執行文による強制執行を受ける承継人にあたらない。債権者は、承継執行文付与の訴え(民事執行法33条1項)によって、あらためて承継人に対する権利を確認しなければ執行することができない。 (判例の立場)
条文民事執行法33条1項
民事執行法第33条(執行文付与の訴え) 第二十七条第一項又は第二項に規定する文書又は電磁的記録の提出をすることができないときは、債権者は、執行文(同条第三項の規定により付与されるものを除く。)の付与を求めるために、執行文付与の訴えを提起することができる。
もう1つは、起訴責任転換説です。Dさんをいったん承継人として扱ったうえで、固有の言い分を持ち出したいなら、Dさんの側から訴えを起こすべきだ、という立場です。
⭐ 論文で書く規範:起訴責任転換説(学説) 承継人を執行力の及ぶ承継人として扱ったうえで、固有の防御方法を有する承継人の側が、執行文付与に対する異議の訴え(民事執行法34条1項)又は請求異議の訴え(民事執行法35条1項)を提起して、その言い分を主張すべきである。 (学説)
条文民事執行法34条1項
民事執行法第34条(執行文付与に対する異議の訴え) 第二十七条の規定により執行文が付与された場合において、債権者の証明すべき事実の到来したこと又は債務名義に表示された当事者以外の者に対し、若しくはその者のために強制執行をすることができることについて異議のある債務者は、その執行文の付された債務名義の正本に基づく強制執行の不許を求めるために、執行文付与に対する異議の訴えを提起することができる。
条文民事執行法35条1項・2項
民事執行法第35条(請求異議の訴え) 債務名義(第二十二条第二号又は第三号の二から第四号までに掲げる債務名義で確定前のものを除く。以下この項において同じ。)に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者は、その債務名義による強制執行の不許を求めるために、請求異議の訴えを提起することができる。裁判以外の債務名義の成立について異議のある債務者も、同様とする。 2 確定判決についての異議の事由は、口頭弁論の終結後に生じたものに限る。
請求異議の訴えは、以前、基準時後の事由を主張する手段として扱いました。ここでもう一度出てくるのは、起訴責任転換説をとると、Dさんはこの訴えで自分の善意を主張することになるからです。
図:どちらが訴えを起こすべきかの板
- 判断軸=主張する機会の負担をAとDのどちらに負わせるのが公平か
- 起訴責任転換説の理由=勝訴したAに訴え直しを重ねさせると承継執行文を用意した意味が薄れる
- 権利確認説の理由=執行力は確定と同時に実力行使に直結する・誰も争っていない言い分を持つDから先に土地を取り上げない
- 判例=権利確認説
- 事情を知って買ったD=自分だけの言い分なし→承継執行文でそのまま執行
判断の軸は、主張する機会の負担をAさんとDさんのどちらに負わせるのが公平か、です。Dさんに固有の言い分があるとき、もう一度訴えを起こすべきなのは、Aさんと、Dさんのどちらだと思いますか。うーん、Dさんはまだ一度も自分の言い分を聞いてもらっていないので、Dさんに先に訴えさせるのは酷な気もします。起訴責任転換説にも理由はあります。Aさんはすでに一度勝って判決を取っているのに、土地が人手に渡るたびに訴え直させられては、承継執行文という簡単な仕組みを用意した意味が薄れます。それでも、執行力は、判決が確定した瞬間から実力行使に直結する力でした。前の裁判で誰も争っていない言い分を持つDさんから、先に土地を取り上げてしまうのは、慎重さが足りません。これが決め手で、判例も、Aさんの側にもう一度確認を求める権利確認説を採っています。
事情を知って買ったDさんには、自分だけの言い分がありません。Bさんの登記抹消義務をそのまま引き継いだ承継人として、承継執行文でそのまま執行を受けます。冒頭のCさんも、建物を買っただけで自分だけの言い分が無ければ、同じ扱いです。分かれ目は、前の裁判で誰も争っていない、自分だけの言い分があるかどうかです。
図:最判昭48の構図の板
- A=土地の元所有者
- Bと通謀虚偽表示・Bが移転登記を得ていた
- AがBに対し真正な登記名義を回復するための所有権移転登記を求めて勝訴確定
- 基準時後にBの土地が強制競売にかけられ、事情を知らない第三者(D)が競落して所有権移転登記
- AはBの承継人としてDに対する承継執行文の付与を受け、自分への移転登記をした
- その登記は無効とされた
実際の事件も、ほぼ同じ構図です。Aさんが、通謀して虚偽表示の登記を得ていたBさんに対し、名義を自分に戻すよう求めて勝訴し、確定していました。求めたのは抹消ではなく、Aさんへの所有権の移転登記でしたが、名義を取り戻すという点は同じです。ところが基準時の後、Bさんの土地が強制競売にかけられ、事情を知らない第三者が競り落として、所有権の移転登記を受けました。Aさんは、この第三者をBさんの承継人だとして、承継執行文の付与を受け、自分への移転登記まで済ませました。その登記が有効かどうかが争われたのです。
判例最高裁判所判決(民集27巻6号712頁・百選87)
承継執行文が及ぶ範囲を示した判例 被上告人は同訴外人の上告人Aに対する本件土地所有権移転登記義務を承継するものではないから、同上告人が、右確定判決につき、同訴外人の承継人として被上告人に対する承継執行文の付与を受けて執行することは許されないといわなければならない。
事情を知らずに買った第三者は、BさんがAさんに負っていた所有権移転登記の義務を引き継ぐわけではないから、Bさんの承継人として、この第三者に承継執行文を付けて執行することは許されない、という判断です。Aさんが済ませた登記も、無効とされました。ただし一つだけ注意が要ります。この判例が答えているのは、あくまで承継執行文で執行してよいかという、執行力の問題です。前回扱った、既判力がこの第三者に及ぶかどうかという場面の理屈、つまり実質説や形式説の根拠として、この判例を引くのは筋が違います。既判力の場面と執行力の場面は、別の問題として区別してください。区別すると、今日の話がよく見えてきます。前回の通説では、Dさんは既判力の上では承継人として、Bさんの抹消義務をもう争えません。それでも執行力の上では、承継執行文で執行される承継人にはあたらない。争えないことと、そのまま執行されることが、ここで実際に分かれるわけです。
外国判決の承認と執行
図:承認と執行の2段階フローの板
- 外国裁判所の確定判決
- 118条の4要件を満たせば承認は自動的=特別な手続不要
- 強制執行するにはさらに執行判決が必要=民執22条6号・24条
ここからは少し話題を変えます。判決の効力は、日本の中だけの話ではありません。外国の裁判所が下した確定判決も、一定の条件を満たせば日本で効力を持ちます。
条文民事訴訟法118条
民事訴訟法第118条(外国裁判所の確定判決の効力) 外国裁判所の確定判決は、次に掲げる要件のすべてを具備する場合に限り、その効力を有する。 一 法令又は条約により外国裁判所の裁判権が認められること。 二 敗訴の被告が訴訟の開始に必要な呼出し若しくは命令の送達(公示送達その他これに類する送達を除く。)を受けたこと又はこれを受けなかったが応訴したこと。 三 判決の内容及び訴訟手続が日本における公の秩序又は善良の風俗に反しないこと。 四 相互の保証があること。
1号は裁判権があったこと、2号は負けた被告がきちんと呼び出しを受けたか応訴していたこと、3号が内容や手続が日本の公序良俗に反しないこと、4号が相互の保証、つまり日本の判決も相手国で同じように扱われる関係にあることです。この4つをすべて満たせば、承認は自動的に行われます。あらためて裁判所に承認を求める特別な手続は要りません。外国判決でも、争えないことと執行できることは別、という今日の話がもう一段効いてきます。承認されただけでは、強制執行まではできません。強制執行までするには、もう一段、執行判決という手続が必要です。
条文民事執行法24条4項・5項・6項
民事執行法第24条(外国裁判所の判決の執行判決) 4 執行判決は、裁判の当否を調査しないでしなければならない。 5 第一項の訴えは、外国裁判所の判決が、確定したことが証明されないとき、又は民事訴訟法第百十八条各号(家事事件手続法(平成二十三年法律第五十二号)第七十九条の二において準用する場合を含む。)に掲げる要件を具備しないときは、却下しなければならない。 6 執行判決においては、外国裁判所の判決による強制執行を許す旨を宣言しなければならない。
執行判決を求める訴えでは、裁判所は、外国判決の中身が正しかったかどうかを審査しません。118条の要件を満たしているかどうかだけを確認して、満たしていれば、この判決で強制執行をしてよいと宣言します。これで初めて、外国判決も債務名義の一つになります。
図:懲罰的損害賠償と公序の関係図
- J=外国の裁判で勝訴した原告
- K=敗訴した日本法人
- 外国判決=補償的損害賠償+懲罰的損害賠償の支払を命令
- Kが日本で執行判決を拒む理由=懲罰的損害賠償は公序に反する
3号の公序が実際に問題になった事件があります。外国の裁判で勝訴したJさんが、敗訴した日本法人Kさんに対して、日本での執行判決を求めました。その外国判決は、実際の損害を埋め合わせる補償的損害賠償に加えて、懲罰的損害賠償という、加害者への制裁を目的とした賠償の支払も命じていました。懲罰的損害賠償は、日本には無い制度です。ただ、日本に無い制度だというだけでは公序違反にはなりません。ですが、この事件で最高裁は、もう一歩踏み込みました。
判例最高裁判所判決(民集51巻6号2573頁)
懲罰的損害賠償と公序に関する判例 被害者が加害者から、実際に生じた損害の賠償に加えて、制裁及び一般予防を目的とする賠償金の支払を受け得るとすることは、…我が国における不法行為に基づく損害賠償制度の基本原則ないし基本理念と相いれないものであると認められる。…本件外国判決のうち、補償的損害賠償及び訴訟費用に加えて、見せしめと制裁のために被上告会社に対し懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分は、我が国の公の秩序に反するから、その効力を有しないものとしなければならない。
日本の損害賠償制度は、被害者に生じた実際の損害を埋め合わせることを目的としています。ところが懲罰的損害賠償は、加害者を罰し、同じことを繰り返させないようにすることが目的です。この目的そのものが、日本の制度の基本的な考え方と相いれない、というのが決め手です。だから懲罰的損害賠償を命じた部分だけは、日本では効力を持ちません。
図:一部弁済の充当ルールの板
- 外国判決=補償的損害賠償+懲罰的損害賠償の合算債権
- 外国で強制執行を受け一部弁済
- 日本では懲罰的部分は効力なし=懲罰的部分に係る債権は存在しないと扱う
- 一部弁済は懲罰的部分にはあてられず、それ以外の部分=補償的損害賠償などにあてられたと扱う
この考え方は、その後の事件でさらに発展しました。Jさんが外国ですでに一部の弁済を受けたうえで、残りの金額について日本で執行判決を求めた事件です。
判例最高裁判所判決(民集75巻6号2935頁)
懲罰的損害賠償の一部弁済と充当ルールに関する判例 民訴法118条3号の要件を具備しない懲罰的損害賠償としての金員の支払を命じた部分…が含まれる外国裁判所の判決に係る債権について弁済がされた場合…これが懲罰的損害賠償部分に係る債権に充当されたものとして上記判決についての執行判決をすることはできないというべきである。
懲罰的損害賠償の部分は、そもそも日本では効力が無いのだから、その部分に対応する債権も存在しないと扱われます。だから、外国で受け取った一部の弁済は、懲罰的損害賠償の部分にはあてられず、それ以外の部分、つまり補償的損害賠償などにあてられたものとして扱われます。日本で執行判決を求められるのは、懲罰的損害賠償を除いた部分のうち、まだ弁済されていない残りだけです。
形成力
図:形成力の板
- 形成訴訟の認容判決確定で権利関係が発生・変更・消滅する効力
- 例=離婚判決確定でその瞬間に離婚成立
- 株主総会決議取消判決も同様
- 原則として第三者にも及ぶ
ここからは、既判力・執行力とは別の2つの効力を見ます。まず形成力です。離婚を求める訴えのように、判決によって権利や法律関係そのものを発生させたり、変えたり、消したりする訴えを、形成訴訟と呼びます。原告の請求を認める判決が確定すると、判決に書かれたとおりの権利関係が、その瞬間に生まれます。判決の確定によって、離婚という効果そのものが生まれます。株主総会の決議取消しを求める判決も同じで、確定すればその瞬間に決議が取り消されたことになります。この効力は、原則として第三者にも及びます。形成力が第三者に及ぶことと、前回見た対世効とが同じものなのかは、実ははっきり答えが決まっていません。認容判決の効力が第三者にまで及ぶ理由を、形成力そのものの性質だと見るか、既判力の主観的範囲を広げる対世効だと見るか、学説の間で争いがあります。ここは断定せずに、争いがあるとだけ押さえておいてください。
反射効
図:反射効の設例の関係図
- F=債権者
- G=主債務者
- H=保証人
- 前訴=Fが主債務者Gに対する訴訟で敗訴し主債務不存在の判決確定
- FがHに保証債務の履行を求めて別訴
- Hは主債務不存在の前訴判決を援用できるか
最後は反射効です。まず設例で考えます。債権者Fさんが、主債務者Gさんに対して貸金の返還を求めた訴訟で、Fさんが敗訴し、主債務は存在しないという判決が確定したとします。その後、Fさんが、Gさんの保証人であるHさんに対して、別の訴訟で保証債務の履行を求めたとします。そこで出てくるのが反射効という考え方です。保証債務には附従性という性質があって、主債務が存在しなければ保証債務も存在しません。この附従性を根拠に、当事者ではないHさんにも、前訴の判決の効力が反射的に及ぶとする学説があります。
図:反射効を認めるかどうかの分かれ道の板
- 認める=Hは前の判決を持ち出すだけで足りる・Fは主債務があるとの主張を蒸し返せない
- 認めない=Hは前の訴訟の当事者でないので既判力は及ばない・Fは主債務があると一から主張し直せる
- 認めない場合の食い違い=主債務者Gは払わなくてよいのに保証人Hだけが払わされうる
- 学説が認めようとする理由=保証債務の附従性・Fは前の訴訟で主債務を十分に争った
認められれば、Hさんは前の判決を持ち出すだけで足ります。Fさんは、主債務はあるという主張をもう蒸し返せず、保証債務の請求はそれだけで退けられます。認められなければ、Hさんは前の訴訟の当事者ではないので、既判力は及びません。Fさんは、主債務はあると一から主張し直せて、裁判所もあらためて判断します。その結果、主債務者のGさんは払わなくてよいのに、保証人のHさんだけが払わされる、という食い違いが起こりえます。附従性からすればこの食い違いはおかしいし、Fさんは前の訴訟で主債務について十分に争ったはずだ。学説はそう考えて、反射効を認めようとするわけです。
図:反射効の位置づけの板
- 反射効=判決の効力を当事者と実体法上つながる第三者にまで及ぼそうとする学説上の考え方
- 根拠=保証債務の附従性(民448条)
- 既判力の主観的範囲(115条)を条文の文言を超えて広げる説明にはなる
- 判例はこれを正面から採用していない
反射効は、既判力が及ぶはずのない第三者にまで、実体法上の依存関係を理由に、判決の効力を及ぼそうとする学説上の考え方です。ただ、これは115条が定める主観的範囲を、条文に無い理由で広げることでもあります。判例は、この構成を正面からは採用していません。反射効を使わない限り、さきほどのHさんは、主債務が無いことを自分の裁判であらためて主張し、裁判所に判断してもらうことになります。
図:昭51判例の事案の留保の板
- 実際の事件=保証人が先に自分自身の敗訴判決を確定させていた
- その後、主債務者側の判決が主債務者勝訴で確定
- 保証人はこの主債務者勝訴判決を援用して請求異議の訴えを提起
- 判例=保証人はもはや援用できない、ただし理由は反射効ではなく保証人自身の敗訴判決の基準時ルール
ここでも、実際の事件を見ておきます。保証人が、主債務者よりも先に、自分自身の敗訴判決を確定させてしまっていた事件です。その後になって、主債務者側の訴訟で、主債務は存在しないという勝訴判決が確定しました。保証人は、この主債務者勝訴の判決を持ち出して、自分への強制執行を止めようとしました。
判例最高裁判所判決(民集30巻9号903頁・百選90)
保証人による援用の可否に関する判例 保証人がすでに保証人敗訴の確定判決を受けているときは、保証人敗訴の判決確定後に主債務者勝訴の判決が確定しても、同判決が保証人敗訴の確定判決の基礎となつた事実審口頭弁論終結の時までに生じた事実を理由としてされている以上、保証人は右主債務者勝訴の確定判決を保証人敗訴の確定判決に対する請求異議の事由にする余地はないものと解すべきである。
この判例を、反射効を否定した判例と単純化すると、少し誤解を招きます。この判例が使っているのは、反射効という理屈ではなく、保証人自身の敗訴判決の基準時というルールです。保証人は、自分の敗訴判決の基準時よりも前に生じた事実を理由にしては、もう争えません。主債務者勝訴の判決も、保証人の基準時より前の事実にもとづくものだったので、持ち出せなかった、というだけです。保証人の基準時より後の事実にもとづく場合については、この判例は答えていません。この判例は、保証人が絶対に前訴を援用できないと言い切ったわけではなく、援用の可否を、反射効ではなく保証人自身の基準時のルールで処理した、という判断です。反射効そのものを認めるかどうかは、なお学説上の議論として残っています。
今日の地図(保存版)
図:第3章の全体地図の板
- 縦軸=終わり方(当事者の意思=取下げ・放棄・認諾・和解/判決=訴訟判決・本案判決)
- 横軸=確定後に生まれるもの(既判力・執行力・形成力)
- 既判力の3つの物差し=いつ(基準時)・何に(114条)・誰に(115条)
最後に、第3章、訴訟の終了で見てきたことを、1枚の地図にまとめます。訴訟の終わり方には、当事者の意思による終わり方、つまり取下げや放棄、認諾や和解と、裁判所の判決による終わり方、つまり訴訟判決や本案判決があります。本案判決が確定すると、そこから既判力、執行力、そして形成訴訟であれば形成力が生まれます。既判力については、3つの物差しを見てきました。いつの判断が固定されるかは基準時、何について生じるかは114条、誰に及ぶかは115条が決めます。争えないことと、実際に執行されることは、別の物差しで測る必要がある。今日はその物差しを、執行力、形成力、反射効という形で確定させました。第4章では、当事者が複数いたり、請求が複数絡んだりする、複雑な訴訟の形を見ていきます。
参照条文
- 民事執行法22条(抜粋)
- 民事執行法23条1項・3項(抜粋)
- 民事執行法27条2項
- 民事執行法33条1項
- 民事執行法34条1項
- 民事執行法35条1項・2項
- 民事訴訟法118条
- 民事執行法24条4項・5項・6項