民訴ゼロから民訴#73

訴えの客観的併合(単純・予備的・選択的併合)

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第4章 複雑訴訟 #73/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

貸した30万円と、遅延損害金

冒頭事案の関係図(A=貸主・原告、B=借主・被告/AはBに30万円を貸したが返済期日を過ぎても元本を返してもらえず、期日を過ぎた分の遅延損害金も発生している/元本の返還請求と遅延損害金の請求を1つの訴えでまとめて求められるか、という問い) 図:冒頭事案の関係図

  • A=貸主・原告、B=借主・被告
  • AはBに30万円を貸したが返済期日を過ぎても元本を返してもらえず、期日を過ぎた分の遅延損害金も発生している
  • 元本の返還請求と遅延損害金の請求を1つの訴えでまとめて求められるか、という問い

ここまでは、原告1人・被告1人・請求1個の訴訟だけを見てきました。今日からは、請求の側を複数にした場合を見ていきます。こんな場面を考えます。Aさんが、Bさんに30万円を貸しました。返済期日を過ぎても、Bさんは元本を返してくれません。しかも、期日を過ぎた分の遅延損害金も発生しています。元本と遅延損害金は、1つの訴えでまとめて請求できます。今日はその根拠と、こういう「請求を複数まとめる」やり方にどんな種類があるか、そしてそれが判決や上訴でどう扱われるかを見ていきます。先に骨組みを言うと、種類は「両立するか・順位があるか・分けてよいか」の3つの物差しで見分けられます。そして上訴では、「上に運ばれる範囲」と「判断してよい範囲」は別。この2点です。

136条——請求は訴訟物で数える

訴えの客観的併合の入口板(136条=請求の併合/条文見出しは「請求の併合」だが「訴えの客観的併合」と呼ぶ/貸金返還請求権と遅延損害金請求権は法律構成が別=訴訟物2個/併合は強制されない=できるだけの話) 図:訴えの客観的併合の入口板

  • 136条=請求の併合
  • 条文見出しは「請求の併合」だが「訴えの客観的併合」と呼ぶ
  • 貸金返還請求権と遅延損害金請求権は法律構成が別=訴訟物2個
  • 併合は強制されない=できるだけの話

条文民事訴訟法136条

民事訴訟法136条(請求の併合) 数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる。

根拠になる条文がこれです。「数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる」。条文の見出しは「請求の併合」ですが、一般に「訴えの客観的併合」と呼びます。貸金返還請求権と遅延損害金請求権は、法律構成が別なので、訴訟物は、2つです。この2つを、1つの訴えにまとめられます。なぜまとめてよいのか。どちらも同じ貸し借りから出た請求なので、契約書も、返したかどうかの証拠も重なります。別々の裁判にすると、同じ証拠調べを2回することになり、AさんもBさんも裁判所も、手間が2倍になります。まとめれば、1回の審理で済むんです。

以前、訴訟物の回で見た、旧訴訟物理論と新訴訟物理論の対立を覚えていますか。あの理論対立が、ここでも効いてきます。どちらの立場を採るかで、そもそも請求が何個あるのか、つまり併合になるのかならないのか自体が変わってくるんです。もう1つ大事なのは、まとめて訴えることは強制されない、ということです。Aさんは、元本だけを先に訴えて、遅延損害金は後回しにしてもかまいません。136条は、あくまで「まとめてもいい」というルールです。

併合の要件——3つ

併合の要件3つの板(①同種の訴訟手続=手形・小切手訴訟や少額訴訟は異種・人事訴訟も職権探知主義で異種だが人訴17条が一定範囲で併合を許す/②各請求について管轄がある=併合請求の裁判籍7条・訴額の合算9条1項/③訴訟要件・職権調査事項=欠けても却下でなく分離+移送16条1項) 図:併合の要件3つの板

  • ①同種の訴訟手続=手形・小切手訴訟や少額訴訟は異種・人事訴訟も職権探知主義で異種だが人訴17条が一定範囲で併合を許す
  • ②各請求について管轄がある=併合請求の裁判籍7条・訴額の合算9条1項
  • ③訴訟要件・職権調査事項=欠けても却下でなく分離+移送16条1項

まとめられるといっても、何でも一緒にできるわけではありません。要件が3つあります。1つめは、同種の訴訟手続であることです。通常の民事訴訟に対して、手形・小切手訴訟や少額訴訟は、審理の仕組みが違う異種の手続なので、一緒にはできません。人事訴訟も、裁判所が自分で証拠を集める職権探知主義を採っていて異種ですが、人事訴訟法17条が、一定の範囲で通常の民事訴訟との併合を認めています。2つめの要件は、各請求について、受訴裁判所が管轄を持っていることです。以前、土地管轄の回で見た7条は、まさにこの併合請求の裁判籍を定めた条文でした。

条文民事訴訟法7条

民事訴訟法7条(併合請求における管轄) 一の訴えで数個の請求をする場合には、第四条から前条まで(第六条第三項を除く。)の規定により一の請求について管轄権を有する裁判所にその訴えを提起することができる。ただし、数人からの又は数人に対する訴えについては、第三十八条前段に定める場合に限る。

数個の請求のうち、1個についてだけ管轄があれば、その裁判所に全部まとめて訴えを起こせる、というのがこの条文の中身です。事物管轄、つまり訴額については、以前の回で見た9条1項が効いてきます。

条文民事訴訟法9条1項

民事訴訟法9条1項(併合請求の場合の価額の算定) 一の訴えで数個の請求をする場合には、その価額を合算したものを訴訟の目的の価額とする。ただし、その訴えで主張する利益が各請求について共通である場合におけるその各請求については、この限りでない。

Aさんの例なら、元本30万円と遅延損害金を合算した額が、訴訟の目的の価額になります。これらの要件は訴訟要件であり、裁判所が自分から調べる職権調査事項です。ただ、欠けていても、訴え自体が却下されるわけではありません。それぞれの請求ごとに個別の訴訟があると考えて、弁論を分離し、必要があれば移送します。以前、移送の回で見た16条1項のとおりです。

条文民事訴訟法16条1項

民事訴訟法16条1項(管轄違いの場合の取扱い) 裁判所は、訴訟の全部又は一部がその管轄に属しないと認めるときは、申立てにより又は職権で、これを管轄裁判所に移送する。

3類型を見分ける3つの軸

3類型比較板(軸=①両立するか②順位があるか③分離・一部判決できるか/単純併合=両立・順位なし・分離可/予備的併合=両立しない・原告が順位・分離不可/選択的併合=両立するが一方で足りる・順位なし裁判所が自由・分離不可) 図:3類型比較板

  • 軸=①両立するか②順位があるか③分離・一部判決できるか
  • 単純併合=両立・順位なし・分離可
  • 予備的併合=両立しない・原告が順位・分離不可
  • 選択的併合=両立するが一方で足りる・順位なし裁判所が自由・分離不可

ここからが今日の中心です。1つの訴えにまとめられた複数の請求には、3つの類型があります。単純併合、予備的併合、選択的併合です。覚え方は1つの物差しで足ります。3つの軸で見分けるんです。①各請求は両立するか。②原告が順位をつけているか。③裁判所は弁論を分離したり一部だけ先に判決したりできるか。この3軸に、それぞれ答えを当てはめれば、3類型は自動的に見分けられます。

単純併合——貸金と遅延損害金

単純併合の板(冒頭のAB事案に戻る/元本返還請求と遅延損害金請求は両立する/順位はない/弁論の分離152条1項や一部判決243条2項で併合状態を崩せる=職権進行主義) 図:単純併合の板

  • 冒頭のAB事案に戻る
  • 元本返還請求と遅延損害金請求は両立する
  • 順位はない
  • 弁論の分離152条1項や一部判決243条2項で併合状態を崩せる=職権進行主義

冒頭のAさんとBさんの例に戻ります。元本の返還請求と、遅延損害金の請求は、実体法上両立します。両方とも認められてかまいません。順位もありません。これが単純併合です。それぞれ別々に判断を示します。訴訟の進め方も、裁判所の裁量に委ねられています。以前見た弁論の分離の条文を使って、2つの請求を別々の手続に分けることもできますし、一部判決で片方だけ先に判決を出すこともできます。

条文民事訴訟法152条1項

民事訴訟法152条1項(口頭弁論の制限、分離又は併合) 裁判所は、口頭弁論の制限、分離若しくは併合を命じ、又はその命令を取り消すことができる。

単純併合は、あくまで1つの訴えの中に2つの請求を乗せているだけなので、後から分けたり、片方だけ先に終わらせたりすることに支障がないんです。

予備的併合——契約は有効か、無効か

予備的併合の関係図(A=売主・原告、B=買主・被告/骨董品の売買契約をめぐり、Aの主位的請求=契約は有効だから代金を払え/予備的請求=契約が無効だと判断されるなら引き渡した物を返せ/主位的請求が認容されれば予備的請求への審判要求は消える=解除条件) 図:予備的併合の関係図

  • A=売主・原告、B=買主・被告
  • 骨董品の売買契約をめぐり、Aの主位的請求=契約は有効だから代金を払え
  • 予備的請求=契約が無効だと判断されるなら引き渡した物を返せ
  • 主位的請求が認容されれば予備的請求への審判要求は消える=解除条件

次は、まったく別の場面です。Aさんが売主、Bさんが買主で、骨董品の売買契約をめぐって争っています。Aさんの主位的請求は、契約は有効だから代金を払え、というものです。そのうえでAさんは、もし契約が無効だと判断されるなら、代わりに引き渡した骨董品を返してほしい、という請求も一緒に立てています。これが予備的請求です。契約が有効か無効かは、どちらか一方にしかなりません。両立しないんです。しかもAさんは、主位的請求を先に審理してほしい、という順位をつけています。主位的請求が認められれば、予備的請求への審判要求は、その時点で自動的に消えます。ある条件がそろったら申立てが消える、という付け方なので、これを「主位的請求の認容を解除条件にしている」と言います。裁判所は、この原告が決めた順序に拘束されます。判決の種類の回で見た、一部判決ができないという話、思い出せますか?

主位的な請求が認められないときに備えて予備的な請求も一緒に立てているような場合、というやつです。あの回では理由も見ました。別々に判決して別々に上訴されると、矛盾した結論が出かねないからです。骨董品の例なら、代金の裁判では「契約は無効だから払わなくてよい」、返還の裁判では「契約は有効だから返さなくてよい」と判断されて、Aさんが両方とも負けるおそれがあります。だから、弁論を分離することも、片方だけ先に一部判決を出すこともできません。単純併合とは、そこが決定的に違います。

選択的併合——請求権競合

選択的併合の関係図(ジムの事故の受け=A利用者・Bトレーナー兼経営者/同じ被害について債務不履行構成415条と不法行為構成709条のどちらでも請求できる=請求権競合/どちらか一方の認容を解除条件に他方の審判を求める/順位なし・どちらを認めるかは裁判所の自由/新訴訟物理論なら訴訟物は1個で選択的併合を観念する必要がない) 図:選択的併合の関係図

  • ジムの事故の受け=A利用者・Bトレーナー兼経営者
  • 同じ被害について債務不履行構成415条と不法行為構成709条のどちらでも請求できる=請求権競合
  • どちらか一方の認容を解除条件に他方の審判を求める
  • 順位なし・どちらを認めるかは裁判所の自由
  • 新訴訟物理論なら訴訟物は1個で選択的併合を観念する必要がない

もう1つ、選択的併合です。以前、訴訟物の回で見た、ジムの事故の例を思い出してください。利用者のAさんが、トレーナー兼経営者のBさんに対して、ケガの賠償を求めた場面です。同じ1つの被害について、法律構成が2つある。これを請求権競合と言います。Aさんが、どちらか一方の認容を解除条件として、他方も一緒に審判してほしいと申し立てるのが、選択的併合です。

選択的併合の3軸の板(①両立するか=415条構成と709条構成は同時に成り立つ/②順位はあるか=順位なし・どちらを認めるかは裁判所の自由/③分離できるか=一方認容で他方消滅・分離や一部判決は不可/新訴訟物理論なら訴訟物1個で選択的併合を観念する必要がない) 図:選択的併合の3軸の板

  • ①両立するか=415条構成と709条構成は同時に成り立つ
  • ②順位はあるか=順位なし・どちらを認めるかは裁判所の自由
  • ③分離できるか=一方認容で他方消滅・分離や一部判決は不可/新訴訟物理論なら訴訟物1個で選択的併合を観念する必要がない

3つの軸で見てみましょう。まず、415条の構成と709条の構成は、同時に成り立ちえます。その意味で両立します。ただ、Aさんが求めているのは、ケガの賠償という1つのお金です。両方を認めても、2回払ってもらえるわけではありません。だから「どちらか1つで足りる」という申立てになります。次に順位です。予備的併合には原告がつけた順位がありますが、選択的併合には順位がありません。どちらを認めるかは、裁判所の自由な判断に委ねられています。最後に分離です。一方を認容すれば、もう一方への審判要求は、解除条件どおり消えます。別々の手続に分けてしまうと、両方で認容されて、同じ賠償を二重に命じるおそれが出ます。だから選択的併合も、分離や一部判決はできません。もう1つ触れておくと、新訴訟物理論を採る場合、こうした請求権競合の場面では訴訟物がそもそも1個になります。そうなると、選択的併合という形自体を観念する必要がなくなります。

学説の疑問と実務で使われる理由の板(学説の疑問=AでもBでもいいという申立ては審判対象を特定しておらず処分権主義の建前にそぐわないのでは/実務の理由=原告が求めているのは賠償金を1回払ってもらうことでどちらの構成で勝つかは重要でない・2つの請求はどちらも訴状にはっきり書かれている/選択的併合は請求権競合の場面に限らない=遺産確認請求と共有持分権確認請求の例) 図:学説の疑問と実務で使われる理由の板

  • 学説の疑問=AでもBでもいいという申立ては審判対象を特定しておらず処分権主義の建前にそぐわないのでは
  • 実務の理由=原告が求めているのは賠償金を1回払ってもらうことでどちらの構成で勝つかは重要でない・2つの請求はどちらも訴状にはっきり書かれている
  • 選択的併合は請求権競合の場面に限らない=遺産確認請求と共有持分権確認請求の例

実際、学説からは疑問も出ています。「Aで勝ってもBで勝ってもいい」という頼み方では、原告自身が、どちらの請求で判決をもらいたいのかを決めていません。何について裁判してもらうかは当事者が決める、という処分権主義の建前にそぐわないのではないか、という批判です。それでも実務でこの形が使われているのは、Aさんが本当に求めているのが、賠償金を1回払ってもらうことだからです。どちらの法律構成で勝つかはAさんにとって重要ではなく、どちらで認めても、Bさんが払うのは1回分です。2つの請求は訴状にどちらもはっきり書かれているので、Bさんが何に備えればよいかも分かります。選択的併合は、請求権競合の場面に限りません。例えば、遺産の帰属をめぐって、遺産確認請求と、共有持分権を確認してほしいという請求とが、選択的併合の関係にあるものとして扱われた例があります。

判例最判平成元年9月19日 判時1328号38頁

最高裁判所判決(遺産確認請求と共有持分権確認請求の関係が争われた事件) 右各土地が亡Dの遺産に属することの確認を求める遺産確認の訴えは、共同相続人全員が当事者として関与し、その間で合一にのみ確定することを要するいわゆる固有必要的共同訴訟と解すべきところ……亡Dの相続人の一人であるGを当事者としないで提起されたものであるから、右訴えは不適法というべきであるが、これと選択的併合の関係にある右共有持分確認請求が認容されることによって、原判決及び第一審判決中右各土地につき被上告人らの遺産確認請求を認容した部分は、当然に失効する。

遺産確認の判例のほどきの板(遺産確認の訴え=固有必要的共同訴訟・相続人の1人を欠き不適法/選択的併合の関係にある共有持分権確認請求は認容/結論=共有持分確認の認容により遺産確認を認容していた部分は当然に失効/2つの請求がなぜ選択的併合の関係になるかを理由づけたものではなく実質的な利益が重なる2つの請求を選択的併合の関係にあるものとして扱った例) 図:遺産確認の判例のほどきの板

  • 遺産確認の訴え=固有必要的共同訴訟・相続人の1人を欠き不適法
  • 選択的併合の関係にある共有持分権確認請求は認容
  • 結論=共有持分確認の認容により遺産確認を認容していた部分は当然に失効
  • 2つの請求がなぜ選択的併合の関係になるかを理由づけたものではなく実質的な利益が重なる2つの請求を選択的併合の関係にあるものとして扱った例

難しい言葉が並ぶので、ほどきます。遺産確認の訴えは、相続人全員がそろわないと起こせない種類の訴えで、これを固有必要的共同訴訟と言います。この事件では相続人の1人が抜けていたので、遺産確認のほうは本来、不適法でした。それでも、選択的併合の関係にあるもう一方、共有持分権の確認は認められました。最高裁は、そのことによって、遺産確認を認めていた部分は当然に効力を失う、と判断しました。ただ、この判例は、2つの請求がなぜ選択的併合の関係になるのかを理由づけたものではありません。実質的な利益が重なる2つの請求を選択的併合の関係にあるものとして扱い、そのうえで、一方を認めれば、もう一方を認めていた判決は当然に効力を失う、と判断した例です。

代償請求の罠——単純併合

代償請求の板(A=貸主・原告、B=借主・被告/Aは貸していた楽器の返還を求めると同時に、返還の強制執行が不能になったときに備えて代わりの金銭賠償も求める/「返せ、ダメなら金を払え」は予備的併合に似て聞こえるが判決の時点でどちらも命じられる=両立する=単純併合) 図:代償請求の板

  • A=貸主・原告、B=借主・被告
  • Aは貸していた楽器の返還を求めると同時に、返還の強制執行が不能になったときに備えて代わりの金銭賠償も求める
  • 「返せ、ダメなら金を払え」は予備的併合に似て聞こえるが判決の時点でどちらも命じられる=両立する=単純併合

ここで、間違えやすい罠を1つ見ておきます。Aさんが、Bさんに貸していた楽器の返還を求めると同時に、もしその返還の強制執行が不能になったときに備えて、代わりの金銭賠償も求めたとします。形だけなら、予備的併合と区別がつきにくいところです。でも、さきほどの3つの軸に当てはめてみてください。判決の時点で、裁判所は「楽器を返せ」という判決と、「返還が執行不能になったときは金銭を払え」という判決を、両方とも出すことができます。この2つは両立するんです。違いは、「ダメなら」の「ダメ」がいつ決まるかです。骨董品の予備的併合では、契約が有効か無効かは、判決の中で裁判所が決めます。だから判決の中では、どちらか一方しか選べません。楽器の代償請求では、返せないかどうかは、判決の後、強制執行をしてみて初めて分かります。だから判決の時点では、両方を命じておけるんです。両立する以上、これは単純併合です。「ダメなら」という日本語の言い回しに引きずられず、判決の中身で両立するかどうかを見る、というのが今日の1つめの軸でした。

併合請求の判決と上訴——事件の移審と審判対象は別物

上訴不可分と審判対象の板(単純併合で一部の請求のみに控訴があっても、控訴提起の効果=確定遮断116条2項・移審は併合された全請求に及ぶ=上訴不可分の原則/しかし控訴審が実際に判断してよい範囲は不服を申し立てられた請求に限られる=296条1項・304条/この2つは別物) 図:上訴不可分と審判対象の板

  • 単純併合で一部の請求のみに控訴があっても、控訴提起の効果=確定遮断116条2項・移審は併合された全請求に及ぶ=上訴不可分の原則
  • しかし控訴審が実際に判断してよい範囲は不服を申し立てられた請求に限られる=296条1項・304条
  • この2つは別物

最後に、こうして併合された請求が、判決と上訴の場面でどう扱われるかを見ていきます。単純併合では、各請求にそれぞれ判断が出ます。冒頭のAさんの例で、一審が元本30万円は認め、遅延損害金は認めなかったとします。Aさんが遅延損害金の部分だけに不服を申し立てて控訴したら、どうなるでしょうか。控訴していない請求は、そのまま確定するんじゃないですか。実は違います。控訴提起の効果、つまり判決の確定を遮断する効果と、事件が上級審に移る効果は、併合されて審判を受けたすべての請求に及びます。これを上訴不可分の原則と言います。なぜ全部なのか。2つの請求の判断は、1通の判決にまとまっています。しかも控訴した人は、控訴審の口頭弁論が終わるまで、不服の範囲を後から広げられますし、控訴された相手も、この後見る附帯控訴で、自分の不服を持ち込めます。範囲が途中で動きうるので、判決の全体を確定させずに、まるごと上に運んでおくんです。元本30万円の部分も、まだ確定しません。

条文民事訴訟法116条2項

民事訴訟法116条2項(判決の確定時期) 判決の確定は、前項の期間内にした控訴の提起、同項の上告の提起又は同項の申立てにより、遮断される。

控訴していない請求まで、控訴審で審理し直されるんですか。そこが今日の2つめの罠です。控訴提起の効果が全請求に及ぶことと、控訴審が実際に判断してよい範囲は、別の話です。控訴審が審判できるのは、不服を申し立てられた請求の限度だけです。

条文民事訴訟法296条1項

民事訴訟法296条1項(口頭弁論の範囲等) 口頭弁論は、当事者が第一審判決の変更を求める限度においてのみ、これをする。

条文民事訴訟法304条

民事訴訟法304条(第一審判決の取消し及び変更の範囲) 第一審判決の取消し及び変更は、不服申立ての限度においてのみ、これをすることができる。

手続としては全部が上に運ばれるけれど、実際に開けて中身を判断してよいのは、争われている部分だけ。Aさんの例なら、元本30万円の部分も箱ごと、上に運ばれますが、控訴審が開けて判断するのは遅延損害金の部分だけです。事件の移審の範囲と、審判対象の範囲は、分けて考える必要があります。

予備的併合の上訴——被告だけ控訴したら

予備的併合の上訴パターン板(骨董品の事案に戻る/一審=主位的請求(代金支払)棄却・予備的請求(返還)認容/原告Aと被告B双方に控訴の利益/双方控訴=控訴審が両方審判/原告のみ控訴=主位的請求に理由ありと考えれば取り消して認容/被告のみ控訴=主位的請求も移審するが審判対象は予備的請求のみ) 図:予備的併合の上訴パターン板

  • 骨董品の事案に戻る
  • 一審=主位的請求(代金支払)棄却・予備的請求(返還)認容
  • 原告Aと被告B双方に控訴の利益
  • 双方控訴=控訴審が両方審判
  • 原告のみ控訴=主位的請求に理由ありと考えれば取り消して認容
  • 被告のみ控訴=主位的請求も移審するが審判対象は予備的請求のみ

さきほどの骨董品の事案に戻ります。一審は、主位的請求である代金支払は棄却し、予備的請求である返還だけを認容しました。この結果には、原告のAさんにも、被告のBさんにも、それぞれ控訴の利益があります。Aさんは、本命だった代金支払が認められなかったことに不服があります。Bさんは、返還を命じられたことに不服があります。双方が控訴すれば、控訴審は両方の請求を審理します。Aさんだけが控訴すれば、控訴審が主位的請求に理由ありと考える場合、原判決を取り消して主位的請求を認容できます。Bさんだけが控訴した場合はどうなりますか。ここが今日いちばんの罠です。予想してみてください。

判例最判昭和58年3月22日 判時1074号55頁

最高裁判所判決(主位的請求棄却・予備的請求認容判決に一方のみ控訴した事件) 主位的請求を棄却し予備的請求を認容した第一審判決に対し、第一審被告のみが控訴し、第一審原告が控訴も附帯控訴もしない場合には、主位的請求に対する第一審の判断の当否は控訴審の審判の対象となるものではないと解するのが相当である。

主位的請求も移審します。でも、この判例が示すとおり、控訴審が実際に審判できるのは、予備的請求だけです。Aさんが控訴していない以上、控訴審は主位的請求に立ち入れません。たとえ控訴審の考えが、一審とは逆に、代金の請求のほうが正しいというものでも、原判決を取り消してAさんの主位的請求を認容することは許されません。それをすれば、控訴したBさんが、控訴しなかったときより不利な判決を受けることになります。控訴した側を、控訴しなかった場合より悪くしない。これを不利益変更禁止と言い、さきほど見た304条の「不服申立ての限度」から出てくるルールです。控訴したら逆に損をするかもしれないのでは、誰も安心して控訴できないからです。そのうえで、控訴審は契約が有効だと見ています。契約が無効であることを前提にした返還の請求は、認められません。だから控訴審は、予備的請求を棄却するほかなくなります。

Bさんしか控訴していないのに、Aさんは全面敗訴という結果になります。これを避ける手段があります。

条文民事訴訟法293条1項

民事訴訟法293条1項(附帯控訴) 被控訴人は、控訴権が消滅した後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、附帯控訴をすることができる。

附帯控訴というのは、相手が起こした控訴の手続に乗って、控訴された側も、原判決を自分に有利に変えてほしいと求めることです。Aさんは、自分の控訴期間が過ぎていても、被控訴人として、口頭弁論が終わるまで附帯控訴ができます。これができるのは、上訴不可分の原則で、主位的請求の部分もまだ確定せずに上に運ばれているからです。附帯控訴をしておけば、Aさんの主位的請求も、控訴審の審判対象に入ります。上に運ばれることと、開けて判断してもらえることは別。開けてもらうには、自分で不服を申し立てる必要があるんです。

選択的併合の上訴

選択的併合の上訴パターン板(一方の請求を認容した一審判決に控訴/控訴審がその請求に理由なしと考えれば直ちに他方を審理/両方棄却の一審判決に原告が控訴した場合もいずれかに理由があれば認容) 図:選択的併合の上訴パターン板

  • 一方の請求を認容した一審判決に控訴
  • 控訴審がその請求に理由なしと考えれば直ちに他方を審理
  • 両方棄却の一審判決に原告が控訴した場合もいずれかに理由があれば認容

選択的併合でも、事件の移審と審判対象の考え方が生きます。ジムの事故で、一審が415条の構成で賠償を認め、709条のほうは判断しなかったとします。Bさんが控訴しました。それでも、上訴不可分の原則で一緒に上に運ばれています。そして、控訴審が415条には理由がないと考えれば、415条の認容でいったん消えていた709条への審判要求が生き返ります。だから控訴審は、直ちに709条の構成を審理できます。一審が両方とも棄却して原告が控訴した場合も同じで、いずれかに理由があれば、その請求を認容できます。

今日の地図(保存版)

全体まとめ板(3類型=両立するか・順位があるか・分離できるかの3軸/単純併合=両立・順位なし・分離可/予備的併合=両立しない・順位あり・分離不可/選択的併合=両立するが一方で足りる・順位なし・分離不可/上訴不可分=移審は全請求/審判対象=不服の限度) 図:全体まとめ板

  • 3類型=両立するか・順位があるか・分離できるかの3軸
  • 単純併合=両立・順位なし・分離可
  • 予備的併合=両立しない・順位あり・分離不可
  • 選択的併合=両立するが一方で足りる・順位なし・分離不可
  • 上訴不可分=移審は全請求
  • 審判対象=不服の限度

今日見た3類型は、両立するか、順位があるか、分離や一部判決ができるか、この3つの軸で見分けられます。単純併合は両立して順位がなく分離もできる。予備的併合は両立せず原告が順位をつけていて分離もできない。選択的併合は両立するけれど一方で足り、順位はなく、やはり分離できません。そして判決と上訴の場面では、事件の移審の範囲と審判対象の範囲を分けて考えることが決め手でした。控訴提起の効果は併合された全請求に及びますが、控訴審が判断できるのは不服の限度だけです。冒頭のAさんとBさんに戻れば、貸金と遅延損害金は両立するので単純併合、まとめて1つの訴えで請求できます。今日の3つの型を押さえておけば、複数の請求が絡む場面でも、迷わず整理できるはずです。

参照条文

  • 民事訴訟法136条
  • 民事訴訟法7条
  • 民事訴訟法9条1項
  • 民事訴訟法16条1項
  • 民事訴訟法152条1項
  • 民事訴訟法116条2項
  • 民事訴訟法296条1項
  • 民事訴訟法304条
  • 民事訴訟法293条1項

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