訴えの変更(追加的変更・交換的変更と請求の基礎)
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第4章 複雑訴訟 #74/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
半年争ったバイクが、盗まれていた
図:冒頭事案の関係図
- A=買主・原告、B=売主・被告
- AはBに中古バイクの引渡しを求めて半年争ってきた
- ところがそのバイクは盗難で失われていたと分かる
- 引渡請求のままでは棄却が見えている=ここまでの主張・立証を捨てて訴え直すのか、という問い
こんな場面を考えます。Aさんは、Bさんから中古バイクを買いました。ところがBさんが引き渡してくれないので、引渡しを求めて訴えを起こし、もう半年争っています。そんなとき、あるところで分かります。そのバイクは、すでに盗難で失われていたのです。引渡請求のままでは、棄却が見えています。では、Aさんはここまで半年かけた主張や証拠を全部捨てて、損害賠償を求める訴えを新しく起こし直すしかないのでしょうか。実は、同じ手続の中で、請求を差し替える道があります。これが訴えの変更です。前に二重起訴の回で、先に起こした訴訟の原告のほうから、請求を書き加えたり、書き換えたりできる制度があると触れました。今日はその中身です。持ち帰ってほしいことは4つです。1つめ、訴えの変更とは何を変えることなのか。2つめ、書き加える場合と書き換える場合の違い。3つめ、要件は誰の利益を守るものかで仕分けられること。4つめ、手続と、裁判所が認めないときの扱いです。
訴えの変更とは何を変えることか
図:143条の条文板
- 条文全文
- 変わるのは請求=訴訟物
- 当事者は同じ・手続も同じ・係属は1つのまま
- 趣旨=主張立証の継続利用・訴え直しの手間の回避
条文民事訴訟法143条
民事訴訟法143条(訴えの変更) 1 原告は、請求の基礎に変更がない限り、口頭弁論の終結に至るまで、請求又は請求の原因を変更することができる。ただし、これにより著しく訴訟手続を遅滞させることとなるときは、この限りでない。 2 請求の変更は、書面でしなければならない。 3 前項の書面は、相手方に送達しなければならない。 4 裁判所は、請求又は請求の原因の変更を不当であると認めるときは、申立てにより又は職権で、その変更を許さない旨の決定をしなければならない。
根拠はこの143条です。1項の頭に「請求又は請求の原因を変更することができる」とあります。変えられるのは、訴訟物、つまり何を求めているのかという中身です。当事者は同じ、手続も同じで、係属している訴訟も1つのままです。二重起訴の回で、同じ手続の中にとどまるから142条に反しない、と確認したのは、この点でした。ここで1つ区別しておきます。たとえば、売主は実はBさんではなくCさんだったと分かって、訴える相手をCさんに替えたい、という場面です。これは請求ではなく、当事者そのものを取り換える話なので、この143条の仕組みではありません。任意的当事者変更という、別の仕組みです。当事者の確定の回で、この仕組みの中身は訴えの変更を扱う回で、と言いましたが、ここで見たとおり訴えの変更とは別物なので、中身は訴訟承継と並べて後の回で扱います。今日は、あくまで当事者はそのままで、請求だけを動かす話です。
理由は2つあります。1つめは、それまでに出た主張や証拠を、変更後の請求でもそのまま使えること。半年分の審理が無駄になりません。2つめは、原告が新しい訴えを起こし直す手間を避けられることです。訴訟物の回で見たとおり、旧訴訟物理論では、法律構成を変えると訴訟物が変わり、訴えの変更になります。新訴訟物理論では、構成を変えただけなら攻撃防御方法の変更にとどまります。どちらの立場でも、請求そのものを動かすなら、ここからの話が当てはまります。
追加的変更——旧請求を残して書き足す
図:追加的変更の板
- 旧請求を残して新請求を足す→結果は併合の状態
- 両立する請求を足す=単純併合の状態(引渡請求に、遅れた間の損害賠償を足す)
- 両立せず順位をつけて足す=予備的併合の状態(引渡しが可能か不能かを判決自身が決める関係で、履行不能による損害賠償を予備的に足す)
- 代償請求(執行不能に備える)は単純併合
訴えの変更には、2種類あります。まず、追加的変更です。従来の請求は残したまま、新しい請求を書き足します。ここで、前回の併合を思い出してください。前回、両立しない請求に、原告が順位をつけて並べる併合を、何と呼んだか覚えていますか?予備的併合です。追加的変更をすると、その結果、訴訟は前回見た併合の状態になります。着地先は、前回の3類型です。バイクの例で見ましょう。引渡請求に加えて、引き渡しが遅れた間の損害賠償を足す。これは引渡請求と両立するので、単純併合の状態になります。もう1つ。バイクが本当に失われたのかがまだ争いになっている段階で、Aさんが、もし引渡しが認められないなら履行不能による損害賠償を認めてほしい、と順位をつけて足す。引渡しが可能か不能かは、判決の中で裁判所が決めますから、両立しません。だから予備的併合の状態になります。
代償請求と同じ扱いにはなりません。代償請求は、返還の強制執行が不能になったときに備えるもので、不能かどうかは判決の後に分かります。判決の時点では両方命じられるので、単純併合でした。今回作る予備的併合は、引渡しが可能か不能かを、判決自身が決める場面です。ここを混ぜないようにしてください。
交換的変更——旧請求を取り換える
図:交換的変更の比較板
- 縦=追加的
- 交換的、横=旧請求はどうなる
- 結果の状態
- 被告の同意
- 追加的=旧請求は残る・併合の状態・不要
- 交換的=旧請求はもう審理を求めない=取下げと同じ構造・新請求のみ・本案について弁論した後は必要(261条2項)
- 同意が無ければ追加的変更として併合のまま
もう1つが、交換的変更です。新しい請求を足すのではなく、旧請求を取り換えます。もう旧請求は審理も裁判もしてもらわなくていい、新請求だけを判断してほしい、という申立てです。冒頭のバイクなら、引渡請求はやめて、損害賠償だけを求める。これが交換的変更です。原告の一存では消せません。旧請求をもう審理してほしくない、というのは、旧請求について訴えの取下げを申し立てているのと同じ構造です。取下げには、この条文の規律が及びます。
条文民事訴訟法261条2項
民事訴訟法261条2項(訴えの取下げ) 訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りでない。
相手方が本案について弁論をした後は、取下げに相手方の同意が要ります。被告は、勝ち負けの判断を受ける立場で防御を尽くしてきたので、原告の一存で、判断が出ないまま終わらせることは許されないからです。訴えの取下げの回で見た理屈が、そのまま交換的変更にも当てはまります。バイクの例では、Bさんは半年争って、すでに本案で弁論しています。だから、引渡しから損害賠償への取り換えには、Bさんの同意が要ります。旧請求は消えません。旧請求と新請求が、併合されたまま審理されます。追加的変更として扱われる、ということです。この場合、引渡請求は、棄却が見込まれるまま、損害賠償請求と並んで進みます。これを示した判例があります。
判例最判昭和32年2月28日 民集11巻2号374頁
最高裁判所判決(控訴審で請求を交替的に変更した事件) 訴の変更の許否ということは旧訴の繋属中新訴を追加的に提起することが許されるか否かの問題であり、一旦繋属した旧訴の訴訟繋属が消滅するか否かの問題とは係りないところだからである。もし原告がその一方的意思に基づいて旧訴の訴訟繋属を消滅せしめんとするならば、法律の定めるところに従いその取下をなすか、或はその請求の拠棄をしなければならない。 ……果して然りとすれば原告が交替的に訴の変更をなし、旧訴に替え新訴のみの審理を求めんとする場合においてもその理を一にするものといわなければならない。
図:昭32判例のほどきの板
- 新請求を出せるか=訴えの変更の許否の問題
- 旧請求の係属が消えるか=別の問題
- 消すには取下げ(相手方の同意)か請求の放棄が必要
- 交換的でも同じ
- 控訴審で変更すれば新請求は控訴裁判所が事実上第一審として判断
難しい言い回しなので、ほどきます。新しい請求を出してよいか、という問題と、古い請求の係属が消えるか、という問題は別だ、と言っています。原告が自分の意思で旧請求を消したいなら、取下げをするか、請求の放棄をするかしかない。交換的変更でも同じだ、というのです。原告が請求の放棄をする道があります。ただ、放棄は旧請求が理由のないことを認める意味ですから、原告にとっては負けを認めることです。バイクの例なら、盗難で失われて引渡しが不能なのは事実ですから、放棄で片づけるのも選択肢になります。同意は、口に出して「同意します」と言わなくても認められます。交換的変更でされた新請求に、被告が異議を述べずに応訴した場合、旧請求の取下げに、黙って同意したものと扱われます。同意の有無は、行動から認定されうる、という点も押さえてください。
金額の増額と減額
図:増額・減額の対比板
- 増額=訴えの変更(書面・送達の手続を踏む)
- 減額=訴えの一部取下げ(261条1項の「一部」)
- 明示の一部請求の残部を取り込む道=増額=訴えの変更に着地
請求する金額を動かす場合を見ておきます。損害賠償の額に、修理費を上乗せして広げる。これは訴えの変更です。書面を出して、相手に送達する手続を踏みます。逆に、金額を減らす場合は、訴えの一部取下げです。261条1項に、訴えは、判決が確定するまで、その全部又は一部を取り下げることができる、とあります。その「一部」に当たります。増やす分は、まだ裁判所に判断を頼んでいなかった部分を、この手続に新しく持ち込むことです。新しい請求を書き足す追加的変更と同じ形なので、訴えの変更の手続を踏みます。減らす分は、いったん判断を頼んだ部分について、もう審理しなくていい、と申し出ることです。交換的変更で見たとおり、それは取下げと同じ構造です。だから、広げる側が変更、引っ込める側が取下げ、と分かれます。一部請求の回で、明示の一部請求の残りを取り込む道がある、と予告しました。その道は、ここで増額という形の訴えの変更に着地します。
要件1——請求の基礎の同一性
図:請求の基礎の板
- 意味=新旧請求の主要事実が根幹で共通し旧請求の裁判資料を新請求で継続利用できること
- 守るのは主として被告の防御の機会
- 同じ売買契約に基づく引渡し→履行不能の損害賠償=基礎は同じ、引渡請求に無関係な貸金返還請求を足す=基礎が変わる
- 被告が同意すれば不要
143条1項の要件を、順に見ます。1つめは、請求の基礎に変更がないことです。通説の理解では、新旧の請求の事実関係の根っこが共通していて、旧請求のために出された主張や証拠を、新請求でも使い続けられることです。二重起訴の回で、訴訟物が違っても請求の基礎が共通なら、二重起訴の禁止を広げていく傾向がある、と出てきた語です。あのとき事実関係のまとまり、と言ったものを、ここでは訴えの変更の要件として使います。境界のペアで見ましょう。同じ売買契約に基づく、引渡請求から履行不能の損害賠償への変更は、基礎が同じです。同じ契約、同じ代金、同じ引渡しの約束をめぐる話だからです。ところが、バイクの引渡請求に、AさんがBさんに貸していた別件の貸金の返還請求を足すと、基礎が変わります。半年分の審理は、貸金の判断には使えません。
請求の基礎の同一性は、主として被告のための要件です。訴訟が始まったときに被告が備えた防御の範囲を、原告が勝手に別の話にすり替えて広げると、被告は不意打ちを受けます。訴訟物の回で、訴えの変更が守っているのは被告の防御の機会だと確認しました。それがこの要件です。被告のための要件なら、被告が自分の防御の機会を放棄することも許されるはずです。だから、被告が同意すれば、この要件は不要になります。同意は明示でも黙示でもかまいません。
要件1の例外——被告が自分で述べた事実に乗る変更
図:昭39の考え方を置き換えた設例の関係図
- 判例の事案は建物・ここは冒頭とは別のバイク
- A=原告(元の持ち主)、B=被告
- Aは所有権に基づいてバイクの引渡しを請求
- Bは「Aから買い受けた」と自分の側の事実を述べて争う(抗弁)
- AはBの述べた売買に乗って「その売買を前提に代金を払え」と予備的に追加
- 請求の基礎が同じか争いうる変更でも被告は異議を述べられない
請求の基礎が同じかどうか争いになりうる場面でも、被告が自分で述べた事実に乗る変更なら、その点を論じるまでもなく、被告が現実に同意していなくても許されます。判例です。判例の事案は建物の話でしたが、冒頭とは別の、もう1台のバイクの場面に置き換えます。今度はAさんのほうが元の持ち主です。Aさんが、自分に所有権があるとして、バイクの引渡しを請求しました。Bさんは、これに対して「そのバイクは、Aさんから買ったものだ」と、自分の側の事実を持ち出して争いました。そこでAさんは、Bさんが言うとおり売買があったのなら、その売買を前提に代金を払ってほしい、と請求を予備的に足しました。
判例最判昭和39年7月10日 民集18巻6号1093頁
最高裁判所判決(被告の陳述した事実に立脚した請求の追加が争われた事件) 相手方の提出した防禦方法を是認したうえその相手方の主張事実に立脚して新たに請求をする場合、すなわち相手方の陳述した事実をとってもって新請求の原因とする場合においては、かりにその新請求が請求の基礎を変更する訴の変更であっても、相手方はこれに対し異議をとなえその訴の変更の許されないことを主張することはできず、相手方が右の訴の変更に対し現実に同意したかどうかにかかわらず、右の訴の変更は許されると解するのが相当である ……相手方の陳述した事実は、かならずしも、狭義の抗弁、再々抗弁などの防禦方法にかぎられず、相手方において請求の原因を否認して附加陳述するところのいわゆる積極否認の内容となる重要なる間接事実も含まれると解すべきである。
決め手は、新請求の土台が、被告自身の述べた事実だという点です。被告は、その事実への備えをすでにしていますし、そもそも自分で言った話に乗られて、変更を許さないと主張するのは筋が通りません。判例だから許されるのではなく、被告の防御の機会を守るという趣旨に照らして、守る必要がない場面だから許されるのです。対象も広く、狭い意味の抗弁だけでなく、否認するときに別の事実を述べる、いわゆる積極否認の内容になる重要な間接事実も含まれます。逆に、Bさんが単に「知らない」と否認しただけなら、Aさんが乗れる被告の事実はありません。Aさんが自分で別の話を持ち出して請求を足すなら原則に戻り、請求の基礎の同一性か、被告の同意が要ります。整理します。請求の基礎の同一性を外す道は2つです。1つは被告の同意。明示でも黙示でも構いません。もう1つは、被告自身が陳述した事実に乗る変更で、こちらは被告の同意の有無すら問いません。
要件2〜4——著しい遅滞・終結の時期・併合の一般要件
図:残る要件の板
- 著しい遅滞の禁止=143条1項ただし書・手続全体の要件・被告が同意しても消えない
- 事実審の口頭弁論終結まで=控訴審でも可・上告審は原則不可
- 併合の一般要件=前回の併合の要件がそのままかかる・136条の同種の手続・管轄は7条が働かない専属管轄に属さないこと
2つめは、著しく訴訟手続を遅滞させないことです。143条1項のただし書に書かれています。結審の直前に、まったく別の争点を抱える請求を持ち込むと、新しい主張や立証のやり直しで審理が大きく延びます。そういう変更は認められません。著しい遅滞の禁止は、被告が同意しても消えません。この要件は、被告個人の利益ではなく、裁判所の手続全体、ほかの事件を待つ人まで含めた公益を守るものだからです。当事者が処分できる要件ではないんです。3つめは、時期です。1項の本文は「口頭弁論の終結に至るまで」としています。この口頭弁論は、証拠を調べて事実を認定する審級、つまり事実審の口頭弁論です。控訴審も、事実を調べ直せる事実審なので、第一審だけでなく控訴審でも変更できます。条文の上でも、控訴審には第一審の規定が準用されます。控訴審で変えられた新請求は、事実上、第一審として裁判されます。上告審は、法律の当てはめに誤りがないかを審査するだけで事実を調べ直さないので、新しい請求を審理する場がなく、変更は原則としてできません。4つめは、併合の一般要件です。追加的変更は請求の併合を生みます。
条文民事訴訟法136条
民事訴訟法136条(請求の併合) 数個の請求は、同種の訴訟手続による場合に限り、一の訴えですることができる。
だから、前回見た併合の要件が、そのままかかります。1つめは、136条のとおり、同種の訴訟手続によること。2つめの、各請求に管轄があること、には1点注意があります。前回、7条で、1つの請求に管轄があれば、ほかの請求もまとめて同じ裁判所に起こせる、と見ました。ただ、法律が特定の裁判所だけに扱わせると決めた専属管轄の請求には、この7条が働きません。だから、追加する請求が、他の裁判所の専属管轄に属さないことが要ります。この点は136条には書かれていません。専属管轄の請求には7条が働かないと13条1項が定めていて、それを受けて、追加する請求が他の裁判所の専属管轄に属さないことを要件とするのが通説の整理です。なお、控訴審で被告のほうが反訴を出すには、原告の同意が要ります。訴えの変更のほうは、同意が要りません。この違いは、反訴の回でもう一度見ます。
仕分け表——同意で消える要件、消えない要件
図:要件の仕分け表
- 要件
- 誰の利益か
- 被告の同意で消えるか
- 請求の基礎の同一性=被告の利益=消える(被告の陳述事実に乗る変更では同意すら不要)
- 著しい遅滞の禁止=手続全体=消えない
- 口頭弁論終結まで=時的な限界(控訴審まで)=—
- 136条の一般要件=併合の要件=—
ここまでの要件を1枚に並べます。請求の基礎の同一性は被告の利益を守るもので、同意で消えます。著しい遅滞の禁止は手続全体を守るもので、同意でも消えません。時期は控訴審までで、併合の一般要件は追加的変更が併合を生むから要るものです。ここで1問です。請求の基礎の同一性は、被告が同意すれば不要になりました。では、著しい遅滞の禁止は、被告が同意すれば不要になるでしょうか?不要にならない、ですよね。手続全体の利益を守る要件で、被告が処分できるものではないから。軸は、その要件が誰の利益を守っているかです。被告個人の利益なら被告が放棄でき、手続全体の利益なら誰にも放棄できません。要件を暗記するのではなく、この軸で毎回考えてください。
手続と、許さない決定の扱い
図:手続フロー板
- 請求の変更の書面を裁判所に提出=147条の時点
- 被告に送達(143条3項)
- 裁判所が要件を審査(申立てまたは職権)
- 不当と認めるときは許さない旨の決定(143条4項)
- その決定に独立の不服申立てはできない
- 終局判決後に控訴で争う
最後に手続です。もう一度143条を見てください。2項で、請求の変更は書面でしなければならず、3項で、その書面は相手方に送達しなければなりません。バイクの例なら、Aさんが損害賠償への変更を書面で裁判所に出し、それがBさんに送達されます。裁判所は、その変更が要件を満たすかどうかを、申立てがなくても職権で調べます。不当だと認めるときは、4項によって、変更を許さない旨の決定をしなければなりません。許さない決定に対して、すぐに抗告することはできません。独立の不服申立ては認められません。この決定は、審理をどう進めるかを裁判所が仕切る判断、訴訟指揮の裁判だからです。弁論をいったん特定の争点に絞る、弁論の制限とよく似た、審理の進め方を仕切る判断です。こうした進め方の判断のたびに上の裁判所へ不服を持ち込めるとすると、そのつど審理が止まってしまいます。だから、決定や命令に対する不服申立てである抗告も、ここでは使えません。
不満は、終局判決が出るのを待って争います。終局判決というのは、その審級の訴訟を終わらせる判決です。実務では、不許可の判断を終局判決の中で示すことも多いです。原告は、その終局判決に対する控訴で、変更を許さなかったことの当否を控訴審に判断してもらいます。判決の種類の回で、中間判決について見たのと同じ仕組みです。終局判決より前に出た裁判は、控訴の中でまとめて控訴裁判所の判断を受ける、と283条が定めています。途中の判断は最後にまとめて争う、という考え方です。
条文民事訴訟法283条
民事訴訟法283条(控訴裁判所の判断を受ける裁判) 終局判決前の裁判は、控訴裁判所の判断を受ける。ただし、不服を申し立てることができない裁判及び抗告により不服を申し立てることができる裁判は、この限りでない。
ただし書のとおり、抗告で争える裁判などは別扱いです。変更を許さない決定は本文の側で、控訴の中でまとめて控訴裁判所の判断を受けます。もう1点、時間の話です。訴えの変更で出した新請求について、時効の完成猶予や期間遵守の効力が生じるのは、いつでしょうか。
条文民事訴訟法147条
民事訴訟法147条(時効の完成猶予等の効力発生時期) 訴えが提起されたとき、又は第百四十三条第二項(第百四十四条第三項及び第百四十五条第四項において準用する場合を含む。)の書面が裁判所に提出されたときは、その時に時効の完成猶予又は法律上の期間の遵守のために必要な裁判上の請求があったものとする。
請求の変更の書面が裁判所に提出された時です。被告に届いた時や、裁判所が認めた時ではありません。書面を出した時点で、新請求について完成猶予の効力が生じます。期間遵守というのは、訴えを起こせる期間が法律で区切られている場合に、その期間内に請求したと扱われることです。
今日の地図(保存版)
図:全体まとめ板
- 訴えの変更=同じ手続・同じ当事者のまま訴訟物を動かす
- 追加的=旧請求が残り併合状態
- 交換的=取下げと同じ構造・被告の同意・無ければ併合のまま
- 増額=変更・減額=一部取下げ
- 要件=誰の利益か(基礎=同意で消える・著しい遅滞=消えない・控訴審まで)
- 許さない決定に独立の不服なし
今日の話をまとめます。訴えの変更は、同じ手続、同じ当事者のまま、訴訟物だけを動かす制度です。旧請求を残して書き足すのが追加的変更で、結果は併合の状態になります。旧請求を取り換えるのが交換的変更で、取下げと同じ構造なので、本案で弁論した後は被告の同意が要ります。同意がなければ、旧請求は消えず、併合のまま進みます。金額は、増額が訴えの変更、減額が一部取下げです。要件は、誰の利益を守るかで仕分けました。請求の基礎の同一性は被告の利益なので、被告の同意で消えます。被告自身が述べた事実に乗る変更なら、同意すら要りません。著しい遅滞の禁止は手続全体の利益なので、同意でも消えません。時期は事実審の口頭弁論の終結までで、控訴審でもできます。冒頭のAさんに戻れば、半年分の審理は無駄にならず、同じ契約をめぐる損害賠償に、同じ手続の中で変えられます。Bさんが同意すれば引渡請求は取下げと同じ形で消え、同意しなければ併合のまま進みます。
参照条文
- 民事訴訟法143条
- 民事訴訟法261条2項
- 民事訴訟法136条
- 民事訴訟法283条
- 民事訴訟法147条