訴訟承継の基本と当然承継・中断と受継
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第4章 複雑訴訟 #83/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
被告が途中で亡くなった——終わるのか、止まるのか、続くのか
図:冒頭の関係図
- 原告A=土地の貸主・被告B=借地人で建物の所有者
- AはBに建物を取り壊して土地を明け渡せと請求している
- 訴訟の途中でBが死亡
- Bの相続人=D
- 問い=訴えは終わるのか・止まるのか・続くのか・Bに訴訟代理人がいたらどうか
前回までは、はじめから当事者が複数いる訴訟と、途中から第三者が入ってくる参加を見ました。今日は、別の入り方です。途中で、当事者そのものが入れ替わる場面を扱います。場面を用意します。Aさんは、土地の貸主です。Bさんは、その土地を借りて、建物を建てて住んでいる人です。AさんはBさんに、建物を取り壊して土地を明け渡してください、と訴えました。ところが、訴訟の途中で、被告のBさんが亡くなりました。Bさんには、相続人のDさんがいます。終わるのか。それとも、いったん止まるのか。あるいは、何事もなかったように続くのか。しかも、Bさんに訴訟代理人がついていたら、答えは変わるのか。今日は、この問いに答えます。持ち帰ってほしいことは4つです。1つめ、訴訟承継は、判決が出る前に地位が移ったとき、手続そのものを新しい人に引き継がせる制度であること。2つめ、当事者が亡くなっても訴えは却下されず、相続人が当然に新しい当事者になること。3つめ、中断と承継は別の話で、中断しても承継しない場合と、承継しても中断しない場合があること。4つめ、亡くなったことを誰も届け出ないと、誰も承継に気づけないという難所があることです。
訴訟承継とは——判決の前と後で仕組みが違う
図:基準時の前後の対比板
- 基準時=事実審の口頭弁論終結時
- 基準時より後に地位が移った=115条1項3号の承継人・判決の効力を及ぼす
- 基準時より前に地位が移った=訴訟承継・係属中の訴訟手続そのものを新しい人に引き継がせる
- どちらも「紛争の主体たる地位」の移転が出発点
まず、言葉の確認です。口頭弁論終結後の承継人という言葉を、既判力の回で見ました。覚えていますか。判決の基準時、つまり事実審の口頭弁論が終わった時点より後に、前の当事者から紛争の主体たる地位を受け継いだ人のことでした。その人にも、判決の効力が及ぶんです。では、今日の話は、その基準時よりも前に、地位が移った場合です。ここが、今日の出発点です。訴訟承継とは、訴訟が続いている間に、争いの中心にいる当事者の一方の立場、つまり紛争の主体たる地位が第三者に移り、その第三者が新しい当事者として、いまの訴訟手続をそのまま引き継いで進めることをいいます。
口頭弁論終結後の承継人のところで使った言葉を、ここでも使います。使う場面が違うだけです。基準時のあとなら、その地位を受け継いだ人に、判決の効力を及ぼします。基準時の前なら、判決の効力を及ぼすのではなく、いま動いている手続そのものを、その人に引き継がせます。例えば、冒頭の場面で言うと、Bさんが亡くなったのが、口頭弁論が終わる前なら、Dさんが被告として訴訟に入り、続きを争います。終わったあとなら、Dさんは、口頭弁論終結後の承継人として、判決の効力を受けます。リレーで考えてみてください。走っている途中で、走者が交代する場面が、訴訟承継です。バトンを渡して、次の走者は、それまでに走った分も含めて、レースを続けます。一方、ゴールしたあとに、記録だけが後から来た人にも及ぶ、というのが、基準時のあとの話です。
新しい当事者は、それまでに行われた弁論や証拠調べの結果を受け継いで、その続きから手続に加わります。ただし、どこまで引き継がれるのか、その限界は、次の回で扱います。今日は、引き継ぐ、というところまでです。入れ替わり方は、大きく2種類あります。相続や合併のように、法律の規定によって当然に入れ替わる場合。これが当然承継です。もう1つは、売買や賃貸のように、当事者の行為で入れ替わる場合で、参加承継や引受承継と呼ばれます。前者が今日、後者は次の回です。
⭐ 論文で書く規範:訴訟承継の骨格 訴訟の係属中に紛争の主体たる地位が第三者に移ったとき、第三者を新しい当事者として、従来の訴訟手続を引き継がせる。基準時より後の移転は、判決の効力を及ぼす別の話(115条1項3号)。 (定義(基準時前の移転))
立法主義の対比——日本は訴訟承継主義、見張れない分は仮処分で
図:立法主義の対比板
- 当事者恒定主義=当事者適格に影響を与えず・当事者が受けた判決を承継人に及ぼす
- 訴訟承継主義=新しい当事者に訴訟状態を引き継がせる=日本
- 日本の長所=承継人自身が手続に加わり手続保障を受ける
- 弱み=相手方は譲渡を常に見張れない
地位が移ったときの処理は、国によって考え方が分かれます。1つは、当事者恒定主義です。当事者適格は動かさず、元の当事者が最後まで訴訟を続けて、その判決を、後から来た人に及ぼす、という考え方です。ドイツの仕組みが、その代表とされます。冒頭の場面でいえば、訴訟の途中でBさんが建物を誰かに売っても、被告はBさんのまま最後まで続き、その判決が、買った人にも及ぶ、という仕組みです。もう1つが、訴訟承継主義です。地位を受け継いだ人が、新しい当事者として訴訟に入り、それまでの訴訟状態を引き継ぎます。さっきの例なら、建物を買った人が、Bさんに代わって被告の席に入ります。日本は、こちらです。
混ぜないでください。日本の訴訟法の基本は、訴訟承継主義です。この主義の良いところは、新しく入る人が、自分で手続に加わって、手続保障を受けたうえで判決を受けられる点です。知らないうちに、他人が受けた判決に縛られる、ということがありません。ただし、この仕組みにも弱いところがあります。相手方であるAさんが、Bさんの動きを、常に見張っているわけにはいきません。訴訟の途中で建物の持ち主が変わっていて、勝っても、そのままでは使えない、ということが起こりえます。
図:仮処分2種の対比板
- 処分禁止の仮処分=民事保全法55条・登記で公示・登記後に建物を譲り受けた人にも本案の判決で取壊し・明渡しの強制執行ができる=64条
- 占有移転禁止の仮処分=執行官が公示・執行を知って占有した人と知らずに債務者Bの占有を承継した人に明渡しの強制執行ができる=62条1項・執行後の占有者は知って占有したと推定=62条2項
- 先に札を立てる=この場面だけ当事者恒定主義の良さを取り込む
そこで用意されているのが、仮処分です。仮処分というのは、判決が出るまでの間に、権利を実現できなくなってしまわないよう、裁判所が先に暫定の命令を出しておく手続です。たとえば、建物を取り壊して土地を明け渡してもらう権利を守るために、建物の処分を禁止する仮処分があります。民事保全法の55条です。その登記がされたあとに建物を譲り受けた人に対しても、本案の判決を使って、建物の取壊しと明渡しの強制執行ができます。64条です。これとは別に、建物の占有をほかの人に移すことを禁止する、占有移転禁止の仮処分があります。この仮処分の執行がされたことを知って占有した人や、知らずに債務者、つまりBさんの占有を受け継いだ人に対しても、本案の判決を使って、明渡しの強制執行ができます。62条です。
後から来た人は、訴訟の当事者ではないですよね。どうして、その人にまで判決が使えるんですか。仮処分は、外から見える形で、先に印を付けておくからです。処分禁止なら登記に載りますし、占有移転禁止なら、執行官が、占有を移すことが禁止されている旨を公示します。後から入った人は、その印を見て入ったか、見ることができた人です。62条2項は、執行のあとに占有した人は、知って占有したものと推定する、とまで定めています。立入禁止の札を、先に立てておく、と考えてください。札を立てたあとに入ってきた人には、被告がBさんのままだったのと同じように、Aさんは、判決の力を及ぼせます。さっきの当事者恒定主義の良さを、この場面だけ、仮処分で取り込むわけです。基準時のあとの承継人に対しては、執行力の回で、承継執行文を見ました。承継を示す書類を出せば、判決をそのまま承継人に使える仕組みです。今日は、その前の段階、訴訟の途中の話として、仮処分の仕組みの入口までにします。
当然承継——盤面ごと相続人が引き継ぐ
図:当然承継の関係図
- Bが死亡・Bの相続人=D/Aの請求は変わらない
- Dが新しい当事者としてBの訴訟を引き継ぐ
- 訴えは却下されない=Aの相手方が消えて二当事者対立構造が崩れるわけではない
冒頭の場面に戻ります。役割を言い直します。Aさんは原告、Bさんは被告で、亡くなったのはBさんです。Bさんの相続人が、Dさんです。先に確認です。訴訟には、対立する2人の当事者が必要でした。当事者の確定の回で見た、二当事者対立構造です。被告が亡くなって、対立の相手が消えたとき、訴えは却下されるでしょうか?違います。却下されません。訴えた時点で、はじめから相手がいないなら、却下です。けれども、訴訟の途中で亡くなった場合は、受け継ぐ人がいれば、その人が新しい当事者になって、対立は続きます。今回なら、相続人のDさんが、新しい当事者としてBさんの地位を受け継ぎます。Bさんの側の席に、Dさんが座る、ということです。受け継ぐ者がいないときの話は、このあとで見ます。将棋にたとえます。対局の途中で、指していた人が亡くなったとします。盤面を片づけて、初めから並べ直すことはしません。相続人が、その盤面のまま、指し継ぎます。財産がそのまま相続されるのと、同じ考え方です。土地も借金も、そして、いま進んでいる裁判も、相続人に移ります。初めからやり直すと、Aさんは、ここまで積み上げた主張や証拠を、もう一度出し直すことになります。Dさんの側も、Bさんが持っていた以上の立場をもらう理由はありません。だから、盤面ごと引き継がせるのです。
Dさんには、相続放棄をする余地があります。その扱いは、あとで条文に出てきます。相続や、会社の合併のように、ひとまとめに権利義務を受け継ぐことを、包括承継、または一般承継といいます。既判力の回で、建物の譲渡のような特定承継と対にして見た、あの一般承継です。そのうち、法律の規定で当然に新しい主体が当事者になるのが、当然承継です。実は、当然承継に当たる場合をまとめて定めた規定はありません。手がかりになるのが、訴訟手続の中断と受継を定めた、124条以下です。当事者の死亡や、法人の合併による消滅が、その代表例です。破産手続開始も、中断の原因になりますが、破産管財人が承継人かどうかは別の論点なので、今日は名前を挙げるだけにします。例外もあります。一身専属権、つまりその人だけのものとされる権利です。離婚の訴えを起こしている最中に、一方が亡くなった場合や、扶養を求める権利のように、相続の対象にならない権利は、受け継ぐ人がいません。この場合は、訴訟が意味を失うので、当然に終了します。当事者の確定の回で見た、原告と被告の地位が、相続や合併で一人にまとまった場合も、対立する相手が消えるので、同じく終了します。どちらも、却下ではなく、終了です。
図:相続される権利と相続されない権利の対比板
- 相続される=土地の明渡し・貸金の返還などの財産上の権利→相続人が新しい当事者・訴訟は続く
- 相続されない=離婚訴訟中の一方の死亡・扶養請求権などの一身専属権→受け継ぐ人がいない・訴訟は当然に終了
相続されるかどうかで分かれます。もう1つ、訴訟の前の話と区別しておきます。当事者の確定の回で見たとおり、訴えを起こす時点で、すでに被告が亡くなっていたなら、それは当事者の確定の問題で、任意的当事者変更、つまり訴える相手そのものを別の人に取り換える手続などで扱う話でした。今日のように、訴訟が始まったあとに亡くなったなら、当然承継です。境目は、亡くなった時期です。
中断・受継と承継は別の話
図:中断と中止の復習板
- 中断=当事者側の事情・人の入れ替えが要る・受継を経て再開
- 中止=裁判所側や不可抗力・障害が消えれば当然に続行
ここから、今日のいちばん大事なところです。その前に、確認です。中断と中止の違いは、何でしたか?中断は、当事者側の事情で、受継という手続が要ります。中止は、裁判所側や天災のような不可抗力で、障害がなくなれば、当然に続行されます。期間の回で見たとおり、中断は、議長交代のイメージでした。あの回で、死亡による承継の詳しい中身は別の回で、と言っていました。それが今日です。まず、条文です。
条文民事訴訟法124条1項1号から3号
民事訴訟法124条1項(訴訟手続の中断及び受継) 第百二十四条 次の各号に掲げる事由があるときは、訴訟手続は、中断する。この場合においては、それぞれ当該各号に定める者は、訴訟手続を受け継がなければならない。 一 当事者の死亡 相続人、相続財産の管理人、相続財産の清算人その他法令により訴訟を続行すべき者 二 当事者である法人の合併による消滅 合併によって設立された法人又は合併後存続する法人 三 当事者の訴訟能力の喪失又は法定代理人の死亡若しくは代理権の消滅 法定代理人又は訴訟能力を有するに至った当事者
1項には、号が6つあります。信託の受託者や、一定の資格を持つ人、選定当事者に関する号も並びますが、今日の話には要らないので、1号から3号を見ます。1号が、当事者の死亡です。冒頭のBさんの場合が、これです。手続を受け継ぐのは、相続人などです。Dさんです。2号は、当事者の法人が合併で消滅した場合で、受け継ぐのは、新しく設立された法人か、合併後に残る法人です。問題は、3号です。当事者が訴訟能力を失った場合や、法定代理人が亡くなったり代理権がなくなったりした場合です。未成年者の親権者が亡くなった場面などが、これです。
3号で大事なのは、当事者が入れ替わらないことです。同じ未成年者が、当事者のままです。それでも訴訟手続は中断します。その未成年者のために手続を進める新しい人が現れるまで、待つ必要があるからです。当事者が入れ替わっていないのに、手続は止まる。訴訟能力の回で、見た場面の続きです。
図:中断と承継の4象限の表
- 中断あり・承継あり=当事者の死亡・法人の合併による消滅124条1項1号2号・相続人や存続会社が受継
- 中断あり・承継なし=訴訟能力の喪失・法定代理人の死亡や代理権の消滅124条1項3号・当事者は変わらない
- 中断なし・承継あり=当事者が死亡したが訴訟代理人がいる124条2項・代理人が続行
- 中断なし・承継なし=通常の進行
ここで、表を作ります。縦に、中断があるか、ないか。横に、承継があるか、ないか。4つの場面ができます。中断あり、承継あり。これが、当事者の死亡や、法人の合併による消滅です。人が入れ替わり、手続も止まります。Dさんは、まだ訴訟の中身を知らないかもしれませんし、代わりに動ける人もいません。だから、Dさんが手続に入るまで待つのです。中断あり、承継なし。今見た3号です。当事者は入れ替わらないのに、止まります。期間の回で、中断は、手続を進めるべき人が入れ替わる場面だ、と言いました。3号で入れ替わるのは、当事者ではなく、手続を実際に進める人、たとえば親権者のような法定代理人の側です。議長が替わるだけで、会議の当事者は替わらない、というわけです。そして、もう1つの組み合わせが、中断なし、承継あり、です。これが、2項です。条文を見ます。
条文民事訴訟法124条2項・3項
民事訴訟法124条2項・3項(訴訟手続の中断及び受継) 2 前項の規定は、訴訟代理人がある間は、適用しない。 3 第一項第一号に掲げる事由がある場合においても、相続人は、相続の放棄をすることができる間は、訴訟手続を受け継ぐことができない。
2項です。訴訟代理人がついている間は、1項は適用されません。つまり、手続は中断しません。ここで、誰の訴訟代理人かを、はっきりさせます。亡くなったBさんが、生前に、弁護士を訴訟代理人にお願いしていたとします。その代理人です。民法の代理なら、本人が亡くなると、代理権は消えるのが原則です。ところが、訴訟代理権は違います。
条文民事訴訟法58条1項柱書・1号、2項
民事訴訟法58条1項・2項(訴訟代理権の不消滅) 第五十八条 訴訟代理権は、次に掲げる事由によっては、消滅しない。 一 当事者の死亡又は訴訟能力の喪失 2 一定の資格を有する者で自己の名で他人のために訴訟の当事者となるものの訴訟代理人の代理権は、当事者の死亡その他の事由による資格の喪失によっては、消滅しない。
訴訟代理人の回で見た条文、58条1項1号です。当事者が亡くなっても、訴訟代理権は消滅しない、と定めています。弁護士がついている以上、本人の側の手続保障は、現に確保されているからでした。だから、代理人が、そのまま手続を進められます。あの回で、58条とこの2項は表と裏だ、と言ったのは、このことです。Bさんが亡くなった時点で、地位はDさんに移っています。承継は、起きているのです。けれども、手続を実際に進める代理人は、替わっていません。だから、待つ理由がありません。3号の裏返しです。表の、3つめの場面です。3項も見ておきます。相続人は、相続の放棄ができる間は、訴訟手続を受け継げません。放棄するかもしれない人に、先に手続を任せてしまうのは、危ないからです。当然承継のところで、Dさんは嫌がって拒めないのか、という疑問がありました。その答えが、これです。Dさんが相続を放棄すれば、はじめから相続人でなかったことになり、訴訟を受け継ぐこともありません。これで、中断と承継が、別の問いに答えていることが分かります。承継は、誰が当事者になるか、という問いです。中断は、手続を今動かしてよいか、という問いです。だから、片方だけが起きる場合も、両方が起きる場合もあります。確認です。訴訟代理人のいる被告が亡くなりました。訴訟手続は止まるでしょうか。当事者は誰になるでしょうか?
止まりません。2項で、訴訟代理人がいる間は中断しないからです。当事者は、相続人になっています。
図:受継の手続の板
- 相手方も受継の申立てができる126条
- 申立てがあれば相手方に通知127条
- 裁判所は職権で調べ理由がなければ決定で却下128条1項
- 当事者が申立てをしなくても裁判所は職権で続行を命じられる129条
最後に、受継の手続を、大づかみに見ます。受継を申し立てるのは、受け継ぐ側だけではありません。相手方も、できます。126条です。Bさんが亡くなって、手続が止まっているとき、Aさんは、早く続けたいはずです。Dさんが動かなくても、Aさんの側から、受継を申し立てられます。申立てがあれば、相手方に知らされます。127条です。裁判所は、申立てに理由があるかを、職権で調べます。理由がなければ、決定で却下します。128条1項です。さらに、誰も申立てをしなくても、裁判所は、職権で続行を命じることができます。129条です。
受継は、止まった手続を動かし直すための手続で、誰が当事者かを決める承継とは、ここでも別の話です。中断しても承継しないことも、承継しても中断しないこともある。ここが、今日のいちばん大事なところでした。
コラム——亡くなったことを、誰が伝えるのか
図:死亡と訴訟代理権の流れ図
- 役割の言い直し=このコラムだけ亡くなったのはAの側・Aに訴訟代理人がいる
- Aが死亡→承継人Dが当然に新しい当事者→代理人は誰のために追行するか→Dのために
- しかし死亡も承継人であることも届け出がなければ相手方Bも裁判所も分からない→そのまま当事者が替わったことにして手続を進めてよいのか
最後に、この2項の場面の、難しいところを見ます。ここだけ、役割を変えます。亡くなったのは、Aさんの側です。Aさんには、訴訟代理人がついています。Aさんの相続人がDさんで、相手方はBさんです。一般的な見方は、こうです。Aさんが亡くなった時点で、Dさんは、当然に新しい当事者になっています。Aさんの訴訟代理人の代理権は、さっきの58条で、消えずに残ります。そして、当事者はもうDさんですから、代理人は、今度は、Dさんのために、訴訟を続けます。代理人ができることの範囲は、55条で法律に決まっているので、本人がAさんからDさんに代わっても、その中身は変わりません。受継の手続をとる必要も、ありません。受継は、止まった手続を動かし直すための手続でした。代理人がいて、手続が止まっていない以上、受継の出番がないのです。Dさんは、その弁護士を解任して、別の弁護士を立てることもできます。
ただ、疑問も残ります。代理人か新しい当事者が届け出ない限り、相手方のBさんも裁判所も、相続が起きたことを知る手がかりがありません。そのまま当事者が替わったことにして手続を進めてよいのか、という疑問が出てきます。
図:弁論の再開の事件の板
- 役割はコラムのまま=亡くなったのはAの側・Aに訴訟代理人
- 中断せず承継の手続もとられないまま亡くなった人の名前で弁論が進み終結
- 相手方Bは終結後に死亡を知り弁論の再開を申し立てた
- 判旨=再開するかは原則として裁判所の裁量・明らかに手続的正義の要求するところと認められる特段の事由があれば再開しなければならない・原審の判断を違法とした
- この判決が答えたのは再開すべきかどうか・代理権の理論は決めていない
- 最判昭56・9・24
実際に、こういう事件がありました。訴訟指揮の回で、弁論の再開の話として見た、あの最高裁の事件です。役割は、このコラムのままで言います。訴訟代理人がいて、手続は中断せず、承継の手続もとられないまま、亡くなった人の名前で弁論が進み、終結しました。相手方は、終結したあとで、死亡を知りました。そこで、いったん終わった口頭弁論をもう一度開いてほしいと、弁論の再開を申し立てたのです。
判例最判昭56・9・24 民集35巻6号1088頁〈百選39〉
最高裁判決(弁論終結前に当事者が死亡し、訴訟承継の手続がとられないまま判決が出された事件) しかしながら、裁判所の右裁量権も絶対無制限のものではなく、弁論を再開して当事者に更に攻撃防禦の方法を提出する機会を与えることが明らかに民事訴訟における手続的正義の要求するところであると認められるような特段の事由がある場合には、裁判所は弁論を再開すべきものであり、これをしないでそのまま判決をするのは違法であることを免れないというべきである。
最高裁は、弁論を再開するかどうかは、原則として、裁判所の裁量だとしました。ただ、再開して、さらに攻撃や防御を尽くさせることが、明らかに手続的正義の要求するところといえる特段の事由があるときは、再開しなければならないとして、原審の判断を違法としました。なぜかというと、終結するまで死亡を知らず、しかも知らなかったことに落ち度のなかった相手方は、相続を前提にした、判決の結果に影響しうる重要な主張を出す機会がありませんでした。その機会を与えないまま敗訴判決が確定すると、既判力、つまり確定した判断を後で争えなくする効力のせいで、後の訴訟でも争えなくなります。だから、手続的正義に反するとされたのです。注意してほしいのは、この判決が答えたのは、再開すべきかどうか、という点です。死亡のあと、訴訟代理権がどうなるか、という理論そのものを、この判決が新しく決めたわけではありません。
一つの整理として、裁判所に承継が届け出られて、それが確認されたときに、手続上は当事者が入れ替わったと見る考え方が提案されています。その場合、それまでの代理人は、新しい当事者から改めて委任を受けるまでは、事務管理、つまり頼まれていないのに他人のために事務を処理すること、として動いている、と整理します。ただ、これは、考え方の1つです。試験では、ここを深く書く場面は多くありません。押さえるのは、代理人がいれば中断しないこと、そして、届出がなければ、誰も承継に気づけないという難所があること、この2点です。論文で論点になりうる場面ですが、型として覚える規範があるわけではありません。
今日の地図(保存版)
図:総括の板
- 冒頭の答え=被告Bが死亡しても訴えは却下されず相続人Dが当然に新しい当事者・訴訟代理人がいなければ手続は中断しDが受継・訴訟代理人がいれば中断しない
- 基準時前の地位の移転=手続を引き継ぐ・基準時後=115条1項3号
- 中断と承継の4象限
- 一身専属権は訴訟が当然に終了
- 死亡の届出がなければ誰も承継を知りえない
まとめます。冒頭のBさんに戻ります。被告のBさんが、訴訟の途中で亡くなりました。答えです。訴えは、却下されません。Bさんの相続人のDさんが、当然に新しい当事者になります。訴訟代理人がいなければ、手続はいったん中断して、Dさんが受継します。訴訟代理人がいれば、中断せず、そのまま続きます。4つ、振り返ります。1つめ、訴訟承継は、判決の前に地位が移ったとき、手続そのものを引き継がせる制度です。判決のあとなら、判決の効力を及ぼす別の話でした。日本は訴訟承継主義で、見張れない相手方の分は、仮処分で補います。2つめ、当事者が亡くなっても、二当事者対立構造の喪失として却下はされません。相続や合併では、当然に新しい当事者が入ります。受け継ぐ者がいない一身専属権の場合と、原告と被告の地位が一人にまとまった場合は、却下ではなく、訴訟が当然に終了します。3つめ、中断と承継は別の話です。承継は、誰が当事者かの問い、中断は、手続を今動かしてよいかの問いでした。3号は、中断するのに承継しない場合、2項は、承継しているのに中断しない場合です。4つめ、代理人がいれば、代理人は新しい当事者のために続けます。ただし、死亡や承継を届け出なければ、誰も気づけません。今日は、相続や合併のように、当然に入れ替わる場合までです。売買や賃貸のように、当事者の行為で入れ替わる場合は、次の回に扱います。
参照条文
- 民事訴訟法124条1項1号から3号
- 民事訴訟法124条2項・3項
- 民事訴訟法58条1項柱書・1号、2項