反訴と中間確認の訴え(146条・145条)
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第4章 複雑訴訟 #75/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。
50万円の請求に、こちらは80万円の貸金がある
図:冒頭事案の関係図
- A=仕入先・原告、B=取引先・被告
- AはBに売掛金50万円の支払を求めて訴えた
- ところがBもAに貸金80万円を持っている
- 相殺で50万円は消える=残る30万円はこの訴訟で取れないのか、という問い
こんな場面を考えます。Aさんは、取引先のBさんに対して、売掛金50万円の支払を求めて訴えを起こしました。ところがBさんのほうも、Aさんにお金を貸しています。貸金は80万円です。相殺の抗弁を出せば、50万円は消えます。では、Bさんの貸金のうち、消えずに残る30万円はどうなるでしょうか。実は、同じ手続の中で、Bさんのほうから逆に請求を持ち込む道があります。これが反訴です。前に二重起訴の回で、先に起こされた訴訟の被告のほうから、関連する請求を持ち込む制度があると触れました。今日はその中身です。前回は、原告が途中で請求を動かす道具として、訴えの変更を見ました。今日は、その被告の側の道具です。持ち帰ってほしいことは4つです。1つめ、反訴とは何で、なぜ被告に認めるのか。2つめ、反訴を出せる関連性には2通りあること。3つめ、前回と同じ、その要件が誰の利益を守るかという軸、つまり原告が同意すれば外せる要件かどうかで要件を仕分けることと、控訴審での扱い。4つめ、中間確認の訴え、つまり判決の理由の中で判断されることにも既判力を及ぼしたいときの道具です。最後に、一部請求の残りを誰がどう取り込むかを、1枚の板で畳みます。
反訴とは何か——被告からの訴え返し
図:反訴の全体図
- Aの本訴=売掛金50万円
- Bの反訴=貸金の残り30万円
- 2つが1つの手続に入り併合して審理・判決される
- 立場が入れ替わる=本訴原告A=反訴被告、本訴被告B=反訴原告
- 趣旨=当事者の対等+訴訟経済と裁判の統一
反訴とは、訴訟が続いている間に、被告が原告に対して、同じ手続の中で訴えを起こし、原告の訴えと一緒に審理と判決をしてもらうことです。用語を整理します。もとの原告の訴えを本訴と呼びます。反訴を出した被告は反訴原告、その相手方になった、もとの原告は反訴被告です。冒頭の例なら、Aさんが本訴原告で反訴被告、Bさんが本訴被告で反訴原告です。併合審判とは、同じ手続の中で、まとめて審理してまとめて判決を出すことです。被告が別に訴えを起こすこと自体はできます。ただ、別訴を認めるだけでは足りない理由が2つあります。1つめは、当事者の対等です。原告は、複数の請求をまとめて訴える併合や、前回見た訴えの変更で、審理の対象を自分から広げられます。それなら、被告にも、審理の対象を広げる手段が用意されていないとバランスを欠きます。2つめは、訴訟経済と裁判の統一です。Bさんが別に訴えを起こすと、同じ取引をめぐる争いを2つの訴訟で審理することになります。証拠調べが重複しますし、2つの判決が矛盾するおそれもあります。1つの手続に入れれば、これを避けられます。二重起訴の回では、反訴は同じ手続にとどまるので142条に反しない、と確認しました。ただ、何でも持ち込めるわけではありません。要件があります。ここからがその中身です。
反訴の要件1——本訴請求または防御方法との関連
図:146条の要件の板
- 反訴が出せる場合=本訴の目的である請求または防御の方法と関連する請求
- ただし書=専属管轄に属しない・著しい遅滞を生じさせない
- 時期=口頭弁論の終結に至るまで
反訴の要件は、146条の1項と2項に書かれています。
条文民事訴訟法146条1項・2項
民事訴訟法146条(反訴)第1項・第2項 1 被告は、本訴の目的である請求又は防御の方法と関連する請求を目的とする場合に限り、口頭弁論の終結に至るまで、本訴の係属する裁判所に反訴を提起することができる。ただし、次に掲げる場合は、この限りでない。 一 反訴の目的である請求が他の裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属するとき。 二 反訴の提起により著しく訴訟手続を遅滞させることとなるとき。 2 本訴の係属する裁判所が第六条第一項各号に定める裁判所である場合において、反訴の目的である請求が同項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときは、前項第一号の規定は、適用しない。
1項の頭に、関連性の要件があります。反訴の請求は、本訴の目的である請求、または防御の方法と関連していなければなりません。本訴の請求と関連していなくても、防御の方法と関連していれば足りる。ここが試験で狙われるところです。関連性には2通りあります。
図:関連性2通りの比較板
- 本訴請求関連=同じ取引・同じ事故から生じた請求同士
- 例=代金請求の本訴に対し、同じ売買の部品の欠陥による損害賠償を反訴
- 防御方法関連=被告が本訴で出した抗弁と関連する請求
- 例=相殺の抗弁を出した上で超過部分の支払を求める反訴、留置権の抗弁を出した上で被担保債権の弁済を求める反訴
- 非該当例=本訴ともその防御とも関係のない別件の請求
1つめは、本訴請求との関連です。同じ取引や同じ事故から生じた請求同士は、これに当たります。冒頭とは別の場面で見ましょう。Aさんが部品を売って、代金50万円を請求しました。Bさんは、その部品に欠陥があって自分の機械が壊れたと考えています。そこで、同じ売買から生じた損害賠償を反訴で求める。同じ取引を土台にした請求同士なので、本訴請求と関連します。2つめが、防御方法との関連です。防御方法というのは、被告が本訴に対して出す抗弁などです。冒頭の例に戻ります。Bさんは、80万円の貸金のうち、50万円を相殺の抗弁に使います。相殺で消えなかった30万円は、この相殺の抗弁と関連する請求として、反訴で取れます。抗弁に使った50万円と、反訴で求める30万円は別の部分なので、同じお金を二重に持ち出すことにはなりません。これが、冒頭の問いの答えです。
ほかにも、建物の明渡しを求められた被告が、修理代を理由に留置権を主張しつつ、その修理代の支払を求める反訴を立てる形があります。留置権というのは、修理代の支払を受けるまで、その建物を渡さずに留めておける権利です。その修理代のような債権を、被担保債権といいます。逆の例も見ておきます。AさんがBさんに売掛金50万円を請求したところ、BさんがたまたまAさんと去年旅行に行っていて、その旅行中の事故の賠償を、ついでに反訴で持ち込もうとしたとします。売掛金の請求とも、それに対するBさんの防御とも関係がありません。関連性の要件を満たさず、反訴としては出せません。その事故の賠償は、別に訴えることになります。
理由は2つあります。1つは、併合して審理する意味があるからです。関係のない請求を1つの手続に入れても、訴訟経済にも裁判の統一にもなりません。もう1つは、反訴を受ける原告の利益です。全く別の話を持ち込まれると、原告は、備えていない争いに応じなければならなくなります。原告の利益を守るための要件だと考えると、前回の訴えの変更の、請求の基礎の同一性、つまり新しい請求が、もとの請求と同じ事実関係と資料の上に立っていること、と同じ構造です。あの要件は、被告が同意すれば不要になりました。同じように、反訴でも、原告の同意や、異議なく応訴した事実があれば、関連性の要件の意義は小さくなる、または不要になる、と学説では整理されます。これは条文や判例に書いてある結論ではなく、学説の整理です。後で、前回と並べた表にまとめます。
占有の訴えに対して、本権に基づく反訴はできるか
図:占有の訴えと本権の対比板
- A=占有者、B=土地の所有者
- Aが占有の妨害をやめるよう請求=占有の訴え
- Bが防御として「土地は私のもの」と本権を主張=禁じられる
- Bが所有権に基づく反訴を提起=許される
- 民法202条2項が禁じるのは占有の訴えの中で本権に関する理由で裁判すること
関連性の具体例をもう1つ、判例のある場面で見ます。占有の訴えと、本権の訴えです。場面を作ります。Aさんが土地を使っていて、Bさんがそれを妨げているとして、Aさんが、妨害をやめるよう求めて訴えました。占有を守る訴え、占有の訴えです。ところがその土地は、実はBさんの所有です。Bさんは、防御として、この土地は自分のものだと言いたい。言えるでしょうか。言えません。民法202条2項です。
条文民法202条
民法202条(占有の訴えと本権の訴えとの関係) 1 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。 2 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。
占有の訴えでは、本権、つまり所有権のような、占有の裏にある権利の理由で裁判をすることができません。だから、占有の訴えに対する防御として、本権を主張することは許されません。そこで、反訴です。Bさんが、所有権に基づいて、Aさんに土地の明渡しを求める反訴を出す。これは許されるのか。判例があります。
判例最判昭和40年3月4日 民集19巻2号197頁
最高裁判所判決(占有の訴えに対する本権に基づく反訴が争われた事件) 民法二〇二条二項は、占有の訴において本権に関する理由に基づいて裁判することを禁ずるものであり、従つて、占有の訴に対し防禦方法として本権の主張をなすことは許されないけれども、これに対し本権に基づく反訴を提起することは、右法条の禁ずるところではない。そして、本件反訴請求を本訴たる占有の訴における請求と対比すれば、牽連性がないとはいえない。
判例の事案も、占有保持を求める本訴に対して、所有権に基づいて建物の収去と土地の明渡しを求める反訴が出されたものです。最高裁は、その反訴を適法とした原審の判断を是認しました。読み解きます。前半は、区別の話です。202条2項が禁じているのは、占有の訴えの中で、本権の理由で裁判することです。防御として本権を主張すれば、占有の訴えの判断に本権が入り込みます。一方、本権に基づく反訴は、それ自体が別の請求で、占有の訴えとは別に判断されます。だから、禁じられるのは防御で、反訴は禁じられていません。後半が関連性の話です。占有の訴えと本権の反訴を並べると、牽連性がないとはいえない、つまり関連がある。判旨は理由まで述べていませんが、どちらも同じ土地を誰が使えるかをめぐる請求で、審理する事実も重なる、と理解できます。そのうえで、146条の関連性を満たすと認めたわけです。
なお、この判例が述べているのは、ここまでです。次に見る同意や分離の話は、判例の話ではありません。
反訴の要件2——専属管轄・著しい遅滞・時期・併合の一般要件
図:残りの要件の板
- 専属管轄でないこと=146条1項1号・当事者が11条で合意した専属管轄は除く・2項=6条1項各号の裁判所が本訴を審理するときの例外
- 著しい遅滞を生じさせないこと=同項2号
- 時期=本訴の口頭弁論の終結に至るまで=事実審のあいだ
- 併合の一般要件=136条の同種の訴訟手続
関連性のほかにも、要件があります。146条を見返してください。まず、1項1号です。反訴の請求が、他の裁判所の専属管轄に属しないこと。専属管轄というのは、法律が、特定の裁判所だけに扱わせると決めた事件のことです。反訴は本訴の係属する裁判所に出しますから、その事件が別の裁判所の専属になっていると、そこに持ち込めません。専属管轄は、その事件をその裁判所で扱うのが適切だという、公の理由で法律が決めたものです。反訴という形で、その決まりを崩すわけにはいきません。括弧書きのとおり、11条で当事者が合意で定めた専属管轄は除かれます。合意で決めた専属は、反訴を妨げません。2項は、本訴が6条1項各号の裁判所、つまり特許権などに関する訴えを扱う裁判所で起こされているときの、例外の例外です。深入りせず、1号に例外があるという位置づけだけ押さえてください。次に、1項2号です。反訴によって、著しく訴訟手続を遅滞させることにならないこと。結審の直前に、まったく別の争点を抱える請求を持ち込んで審理が大きく延びる、そういう反訴は認められません。前回の訴えの変更の、著しい遅滞と同じ位置づけです。時期は、口頭弁論の終結に至るまでです。この口頭弁論は、事実を調べる審級、事実審のものです。ただ、控訴審では扱いが変わります。これは後で見ます。最後は、併合の一般要件です。反訴は請求の併合の一形態でもあるので、同種の訴訟手続によることが要ります。審理のルールが違う手続どうしでは、1つにまとめて審理しようがないからです。136条のとおりで、前々回の併合で見た要件が、そのままかかります。
仕分け表——前回と同じ軸で反訴の要件を並べる
図:反訴の要件の仕分け表
- 要件
- 誰の利益か
- 原告(反訴被告)の同意・異議なき応訴でどうなるか
- 関連性=原告の利益(+公益)=意義が小さくなる方向(学説の整理)
- 専属管轄でない=公益=同意では外れない
- 著しい遅滞の禁止=手続全体=同意だけでは処分できない方向(前回と同じ位置づけ)
- 時期=時的な限界
- 併合の一般要件=併合の要件
前回は、訴えの変更の要件を、同意で消えるか、消えないかで仕分けました。反訴も、同じ軸で並べます。関連性は、主に原告の利益を守る要件です。原告が同意したり、異議なく応訴したりすれば、意義は小さくなる、または不要になる、と考えられます。前回の請求の基礎の同一性と同じ位置にあります。たとえば、さっきの旅行中の事故の反訴でも、Aさんが異議を述べずにそのまま応じて争えば、関連性がないことを理由に反訴を退ける必要は薄れる、という整理です。専属管轄でないことは、公益を守る要件です。さっき見たとおり、法律が公の理由で決めた管轄なので、当事者の同意で外せるものではありません。著しい遅滞の禁止は、原告個人の利益ではなく、審理全体を守る要件です。審理が大きく延びると、その負担は原告だけでなく、裁判所や、順番を待つほかの事件にもかかるからです。前回の訴えの変更と同じ位置づけで、同意があるからといって当然に無視できる要件ではないと考えられます。
軸はやはり、その要件が誰の利益を守っているかです。原告個人の利益なら原告が手放せる方向、公益や審理全体の利益なら、原告だけでは手放せない方向です。
反訴の取扱い——書面・独立の訴え・分離
図:反訴の取扱いの板
- 書面=反訴は訴えに関する規定による
- 独立の訴え=本訴が取り下げられても反訴は残る
- 本訴の取下げ後の反訴の取下げ=相手方の同意は不要(261条2項ただし書)
- 分離=通説は裁判所の裁量で可、有力説は主要な争点が共通なら分離も一部判決も不可
反訴が要件を満たしたとして、訴訟の中でどう扱われるかを見ます。まず書面です。
条文民事訴訟法146条4項
民事訴訟法146条(反訴)第4項 反訴については、訴えに関する規定による。
反訴は、訴えに関する規定によります。だから、訴えの提起に準じて、書面で出します。審理の対象を増やす行為なので、口頭で済ませるわけにはいきません。次に、独立の訴えとして存立する点です。適法な反訴は、それ自体が独立した、固有の訴えです。だから、本訴が取り下げられたり却下されたりしても、反訴の存続は影響を受けません。冒頭の例で、Aさんが、50万円の売掛金の本訴を取り下げたとします。それでも、Bさんの30万円の反訴は残ります。Bさんの30万円は、Aさんの請求があってもなくても存在する権利だからです。前回、261条2項で見ました。この条文にただし書があります。
条文民事訴訟法261条2項
民事訴訟法261条2項(訴えの取下げ) 訴えの取下げは、相手方が本案について準備書面を提出し、弁論準備手続において申述をし、又は口頭弁論をした後にあっては、相手方の同意を得なければ、その効力を生じない。ただし、本訴の取下げがあった場合における反訴の取下げについては、この限りでない。
本文の原則は、相手方が本案で弁論した後の取下げには、相手方の同意が要る、というものでした。ただし書は、本訴が取り下げられた場合の反訴の取下げを、この原則の例外にしています。同意が要りません。最後に、弁論の分離です。反訴が入っても、裁判所は本訴と反訴の弁論を分離できるのか。弁論の分離とは、1つにまとめた請求を、別々の手続に分けて審理することです。二重起訴の回では、分離は禁じられていない、と触れました。学説は分かれます。通説は、裁判所の裁量で分離できる、と考えます。これに対して有力説は、争点の中心が本訴と重なる反訴を分けてしまうと、同じ争点を2度審理し、判断が食い違うおそれがあるとして、分離も一部判決もできないと考えます。
分離を許さないという結論は、判例でも通説でもなく、有力説です。通説と有力説の対立として整理してください。分離の手続そのものは、別の回で扱います。
控訴審の反訴は、原則として相手方の同意が要る
図:控訴審での扱いの対比板
- 訴えの変更=原告=事実審の口頭弁論終結までできる=控訴審でも同意は不要
- 反訴=被告=控訴審では原則として相手方(本訴原告)の同意が必要(300条1項)
- 異議を述べずに反訴の本案について弁論=同意したものとみなす(同条2項)
- 例外=本訴の抗弁として第一審で判断された権利関係の確認の反訴は同意不要(判例)
- 理由=審級の利益
前回、控訴審で被告が反訴を出すには原告の同意が要る、訴えの変更は要らない、この違いは反訴の回でもう一度見る、と言いました。ここで回収します。
条文民事訴訟法300条1項・2項
民事訴訟法300条(反訴の提起等)第1項・第2項 1 控訴審においては、反訴の提起は、相手方の同意がある場合に限り、することができる。 2 相手方が異議を述べないで反訴の本案について弁論をしたときは、反訴の提起に同意したものとみなす。
控訴審では、反訴を出すには、相手方の同意がある場合に限られます。相手方が、異議を述べずに反訴の本案について弁論をしたときは、同意したものとみなされます。冒頭の例で考えます。第一審でBさんは、相殺の抗弁だけを出していました。控訴審になって、初めて30万円の反訴を出したいと考えた。これにはAさんの同意が要ります。Aさんが異議を述べず、その反訴の本案について弁論すれば、同意したものとみなされます。どうして同意が要るんですか。審級の利益のためです。審級の利益というのは、第一審から順に、裁判所の判断を受けられる利益のことです。反訴は新しい請求です。控訴審で初めて出されると、その請求は、第一審で審理も判断もされないまま、いきなり控訴審で扱われます。Aさんは第一審の判断を受ける機会を失うので、その代わりに同意を求める、という構造です。
控訴審では、訴えの変更と反訴で扱いが分かれます。原告が控訴審で訴えを変更するのは、同意が要りません。被告が控訴審で反訴を出すのは、原則として、相手方の同意が要ります。なぜ反訴だけなのか。違いは次のように整理できます。訴えの変更には、請求の基礎の同一性という枠がありました。新しい請求は、第一審で集めた資料をそのまま使える範囲にとどまるので、第一審の審理が実質的に及んでいる、と見られます。反訴の関連性はそこまで狭くないので、第一審で調べていない事実を持ち込むことがありえます。だから、反訴には審級の利益を守る同意が要る、と整理されます。試験では理由づけより先に、どちらに同意が要るかを逆に書かないことが大事です。控訴審の仕組みそのものは、別の回で扱います。ここで1問です。控訴審で、原告が請求を変える訴えの変更と、被告が反訴を出す場合。相手方の同意が要るのは、どちらでしょうか?
反訴です。訴えの変更は、同意は要りません。反訴は、原則として、相手方が第一審の判断を受ける機会を守るために、同意が要ります。
図:控訴審の反訴で同意が要らない場面の板
- 第一審=Aが土地の明渡しを請求
- Bは賃借権があると抗弁
- 第一審は賃借権を認めAの請求を棄却 → 控訴審=Aが控訴
- Bが賃借権の存在確認の反訴
- Aは同意しない → 結論=同意は不要
- 理由=賃借権は第一審で既に争われ判断済み=Aは第一審を失わない
原則、ということは、控訴審の反訴でも、同意が要らない場面があるんですか。あります。場面を作ります。Aさんが、Bさんに土地の明渡しを求めて訴えました。Bさんは、自分には賃借権があると主張して争い、第一審は賃借権を認めて、Aさんの請求を棄却しました。Aさんが控訴すると、Bさんは控訴審で、賃借権が存在することの確認を求める反訴を出しました。Aさんは、この反訴に同意しませんでした。判例があります。
判例最判昭38・2・21 民集17巻1号198頁
最高裁判所判決(控訴審での賃借権確認の反訴が争われた事件) このような本件における反訴提起については、控訴人(上告人)をして一審を失う不利益を与えるものとは解されず、従つて、右反訴提起については同人の同意を要しないものと解するのが相当である。
読み解きます。判旨の言う「一審を失う不利益」を、ここまでの言葉でいえば、第一審の判断を受ける機会、つまり審級の利益を失うことです。この事案で、Bさんに賃借権があるかどうかは、第一審で既に争われて、判断されています。だから、控訴審でBさんの反訴を認めても、Aさんは、第一審で審理されていない権利関係を、いきなり控訴審で争わされるわけではありません。第一審を失わないので、同意は要らない、という結論です。原則は、300条のとおり、相手方の同意が要る。例外として、本訴の抗弁として第一審で判断された権利関係の確認を求める反訴は、同意が要らない。この2段で押さえてください。
中間確認の訴え——理由中の判断に既判力を及ぼす道
図:中間確認の訴えの導入板
- 本訴=Aが賃貸借に基づき事務所の今月分賃料50万円を請求
- Bは「賃貸借契約は成立していない」と争う
- 本訴の判決は賃貸借の成否を理由の中で判断するだけ=既判力なし
- 来月分で蒸し返せる
- 中間確認の訴えで賃貸借の存在確認を足せば主文に載り既判力が及ぶ
もう1つの道具に移ります。ここで1問です。既判力の範囲の回を思い出してください。判決の理由の中で判断されたことに、既判力は生じるでしょうか?生じない、でしたよね。114条1項で、主文に包含するものに限るから。
条文民事訴訟法114条1項
民事訴訟法114条(既判力の範囲)第1項 確定判決は、主文に包含するものに限り、既判力を有する。
判決の理由の中で判断されたことには、既判力がありません。ただ、理由の中でこそ既判力が欲しい場面があります。既判力の範囲の回では、最初から確認の請求を併せて訴えておく自衛策を見ました。訴訟の途中で気づいたときに足せるのが、中間確認の訴えです。場面を作ります。Aさんは、Bさんに事務所を貸しています。今月分の賃料50万円を請求する訴えを起こしました。Bさんは、そもそも賃貸借契約は成立していない、と争います。裁判所は、契約の成否も判断します。ただそれは、判決の理由の中での判断です。主文は、賃料を払え、または、請求を棄却する、という形にしかなりません。理由中の判断には既判力がないので、Aさんが勝っても、来月分の賃料で、Bさんは、また契約は成立していないと蒸し返せます。そこでAさんが、賃貸借契約が存在することの確認を、この訴訟の中で求めます。これが中間確認の訴えです。契約の存否は主文に載ります。だから既判力が及び、同じ争いを繰り返されずに済みます。
条文民事訴訟法145条1項・2項
民事訴訟法145条(中間確認の訴え)第1項・第2項 1 裁判が訴訟の進行中に争いとなっている法律関係の成立又は不成立に係るときは、当事者は、請求を拡張して、その法律関係の確認の判決を求めることができる。ただし、その確認の請求が他の裁判所の専属管轄(当事者が第十一条の規定により合意で定めたものを除く。)に属するときは、この限りでない。 2 前項の訴訟が係属する裁判所が第六条第一項各号に定める裁判所である場合において、前項の確認の請求が同条第一項の規定により他の裁判所の専属管轄に属するときは、前項ただし書の規定は、適用しない。
1項のとおり、訴訟の進行中に争いになっている法律関係の成立や不成立が、裁判に係るときは、当事者は、請求を拡張して、その法律関係の確認を求めることができます。これも、訴訟の途中で審理の対象を増やす制度のひとつです。存在理由を一言でいえば、114条1項の裏返しです。理由中の判断には既判力がない。だから、前提問題にも既判力を及ぼしたいなら、この訴えを立てる、という実定法上の道具が用意されているのです。
図:中間確認の要件の板
- 1=本訴の事実審の係属中
- 2=本訴請求の当否について先決関係にある法律関係の存否(その法律関係が決まらないと本訴の結論が決まらない関係)
- 3=他の裁判所の専属管轄に属しないこと(145条1項ただし書・11条の合意は除く)
- 6条1項各号の裁判所が本訴を審理するときの例外は2項
- 確認の利益の個別審査は不要
要件を見ます。1つめは、本訴が事実審に係属している間であること。2つめは、本訴請求の当否について、先決関係にある法律関係の存否であることです。3つめは、ただし書のとおり、他の裁判所の専属管轄に属さないこと。合意で定めた専属は除かれます。6条1項各号の裁判所が本訴を審理するときの例外は、1項のただし書ではなく、2項に書かれています。先決関係とは、その法律関係が決まらないと、本訴の結論が決まらない関係です。賃料の請求なら、賃貸借契約があるかどうかが決まらないと、賃料の当否は決まりません。契約の存在確認は、先決関係にあります。境界の逆側も見ます。同じ賃料請求の本訴に、同じ事務所の賃貸借契約とは関係のない、隣の駐車場の賃貸借の存在確認を足そうとしても、それは本訴の結論と関係がありません。先決関係にないので、中間確認の訴えとしては出せません。
中間確認の訴えでは、ここが特徴です。先決関係があって、それが争いになっていること自体で足り、確認の利益の個別の審査は要らない、と解されています。確認の利益の中身そのものは、別の回で扱います。最後に、取扱いです。誰が立てるかで、性質が変わります。原告が立てる場合は、条文の「請求を拡張して」のとおり、訴えの追加的変更です。賃貸借契約の存在確認を足す、冒頭の例がこれです。被告が立てる場合は、被告には訴えの変更という道が無いので、反訴の特別類型になります。たとえば、Aさんが所有権に基づいて機械の引渡しを求めたのに対して、Bさんが、その機械は自分の所有だ、と所有権の確認を求める。この場合は、追加的変更とは呼ばず、中間確認の反訴です。
条文民事訴訟法145条4項
民事訴訟法145条(中間確認の訴え)第4項 第百四十三条第二項及び第三項の規定は、第一項の規定による請求の拡張について準用する。
手続は、この4項のとおりです。143条の2項と3項、つまり、請求の変更は書面でして、その書面を相手方に送達する規律が準用されます。被告が反訴として出すときは、反訴の書面の規律に従います。本訴請求と、中間確認の請求は、併合されて審理されるんですよね。どんな併合ですか。単純併合です。前々回の3類型のうち、両方に判決を求める形です。ただ、両方の裁判が矛盾しないよう、弁論の分離も一部判決も許されない、とする見解が有力です。前々回の表では、単純併合は分離できる形でした。中間確認では、確認する法律関係が本訴の結論の前提になっているので、分けると矛盾した判断が出うる。だから例外を認める、という考え方です。これも判例や通説の結論ではなく、有力説です。同時に審理すること自体は、前提問題ですから当然です。
今日の地図(保存版)
図:道具の一覧板
- 訴えの変更(143条)=原告
- 請求の基礎の同一性・著しい遅滞・事実審の口頭弁論終結まで
- 控訴審でも同意不要 || 反訴(146条)=被告
- 本訴請求または防御方法との関連・専属管轄でない・著しい遅滞なし・口頭弁論終結前・136条
- 控訴審では原則として相手方の同意(異議なき本案弁論で擬制)・例外=本訴の抗弁として第一審で判断された権利関係の確認の反訴は同意不要(判例) || 中間確認の訴え(145条)=原告(追加的変更)・被告(反訴の特別類型)
- 先決関係・専属管轄でない
- 確認の利益の個別審査は不要
- 単純併合
今日の話をまとめます。反訴は、被告の側から、同じ手続の中で請求を持ち込む道具です。趣旨は、原告との対等と、訴訟経済、裁判の統一でした。関連性は2通りです。本訴請求との関連と、防御方法との関連。冒頭の30万円、つまり相殺で消えなかった分は、防御方法との関連で反訴になります。占有の訴えに対しては、防御として本権を主張するのは禁じられますが、本権に基づく反訴は許されます。前回と同じ、誰の利益を守る要件かという軸で仕分けると、関連性は原告の利益で、同意で意義が小さくなる方向。専属管轄は公益。著しい遅滞は審理全体の要件です。取扱いは、書面で出し、独立の訴えなので、本訴が取り下げられても残ります。分離は、通説と有力説を混ぜないこと。控訴審の反訴は、原則として相手方の同意が要りますが、本訴の抗弁として第一審で判断された権利関係の確認の反訴は、例外として同意が要りません。訴えの変更は同意が要りません。中間確認の訴えは、114条1項の裏返しで、理由の中の判断に既判力を及ぼす道具です。要件は先決関係で、確認の利益の個別審査は要らないと解されています。原告が立てれば追加的変更、被告が立てれば反訴の特別類型です。
図:明示の一部請求の残部の一覧板
- 例=総額1,000万円の貸金のうち300万円だけを明示して請求した本訴
- 原告Aが残りも審判してほしい=訴えの変更(請求の拡張・増額)
- 被告Bが残り700万円について債務がないことを確定したい=反訴(残部の債務不存在確認)
- 先決関係があれば中間確認の反訴の形にもなりうる
- 位置づけ=反訴・中間確認の追加は客観的併合の一種・中間確認は単純併合
最後に、一部請求の残りを、誰がどう取り込むかを1枚にします。総額1,000万円の貸金のうち、300万円だけを明示して請求した訴訟を考えます。原告のAさんが、途中で、残りも審判してほしいと思ったら、訴えの変更です。請求を拡張する、増額の形です。前回見た、増額は訴えの変更、という整理そのものです。被告のBさんが、残りの700万円について債務がないことを、この訴訟で確定したいなら、反訴です。残部の債務不存在確認を求める反訴を出します。先決関係があるときは、中間確認の反訴の形にもなりえます。一部請求の回で出てきた理由が、この一覧で完結します。反訴も中間確認も、請求を足す点では客観的併合の一種で、中間確認は単純併合です。原告には訴えの変更、被告には反訴、と対で押さえてください。
参照条文
- 民事訴訟法146条1項・2項
- 民法202条
- 民事訴訟法146条4項
- 民事訴訟法261条2項
- 民事訴訟法300条1項・2項
- 民事訴訟法114条1項
- 民事訴訟法145条1項・2項
- 民事訴訟法145条4項