民訴ゼロから民訴#86

控訴と続審制

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第5章 上訴・再審 #86/動画の内容を見返し用にまとめたものです(動画には含みません)。

理由を書かない控訴状は門前払いか

冒頭の関係図(原告A=工務店・被告B=施主/AはBに請負代金200万円を請求/第一審の判決=150万円を認容・50万円を棄却/Aは棄却された50万円が不満で控訴状を提出/控訴状には判決のどこが間違いかを一行も書いていない/問い=この控訴は門前払いか) 図:冒頭の関係図

  • 原告A=工務店・被告B=施主
  • AはBに請負代金200万円を請求
  • 第一審の判決=150万円を認容・50万円を棄却
  • Aは棄却された50万円が不満で控訴状を提出
  • 控訴状には判決のどこが間違いかを一行も書いていない
  • 問い=この控訴は門前払いか

Aさんは工務店を営んでいます。施主のBさんに、請負代金200万円の支払を求めて訴えました。第一審の裁判所は、200万円のうち150万円だけを認め、残りの50万円は認めませんでした。Aさんは、棄却された50万円に納得できません。そこで控訴することにしました。ところが、控訴期間の最終日になって、控訴状に「この判決に不服なので控訴する」とだけ書いて出しました。判決のどこが間違っているのか、その理由は、一行も書いていません。門前払いにはなりません。控訴の理由は、控訴状に書かなくても、控訴はできます。では、いつまでに何を出せばよいのか。そして、控訴を受けた裁判所は、第一審の何を、どこまで調べ直すのか。今日は、控訴の起こし方から終わり方までを、一本の線で通します。

控訴の提起——どこへ、いつまで

控訴の提起の板(提出先=控訴状は第一審裁判所へ・286条1項/提出を受けた第一審裁判所が事件を控訴裁判所へ送付=規則174条/期間=判決書等の送達から2週間の不変期間・285条/言渡し後なら送達前の控訴も有効) 図:控訴の提起の板

  • 提出先=控訴状は第一審裁判所へ・286条1項
  • 提出を受けた第一審裁判所が事件を控訴裁判所へ送付=規則174条
  • 期間=判決書等の送達から2週間の不変期間・285条
  • 言渡し後なら送達前の控訴も有効

控訴の提起を見る前に、前回の内容を思い出してください。上訴を出すと起きる効果は、2つありました。何と何でしたか?確定遮断効と、移審効でした。確定が止まることと、事件が上に移ることです。移審とは、審理の場が下の裁判所から上の裁判所へ移ることでした。では、控訴のやり方を見ていきます。

条文民事訴訟法286条

民事訴訟法286条(控訴提起の方式) 第二百八十六条 控訴の提起は、控訴状を第一審裁判所に提出してしなければならない。 2 控訴状には、次に掲げる事項を記載しなければならない。 一 当事者及び法定代理人 二 第一審判決の表示及びその判決に対して控訴をする旨

1項です。控訴状は、これから審理をしてもらう控訴裁判所ではなく、判決をした第一審の裁判所に出します。間違えやすい点です。出された控訴状を受け取った第一審の裁判所は、控訴を却下する場合を除いて、遅滞なく事件を控訴裁判所に送ります。前回見た、規則174条です。上級の裁判所に判断してほしいのに、なぜ下の裁判所に出すんですか。条文がそう定めているからです。控訴状を受け取るのは第一審の裁判所で、そこから事件が控訴裁判所へ送られます。提出先を間違えないことが大切です。

条文民事訴訟法285条

民事訴訟法285条(控訴期間) 第二百八十五条 控訴は、電子判決書又は第二百五十四条第二項の規定により当事者及び法定代理人、主文、請求並びに理由の要旨が記録された電子調書の送達を受けた日から二週間の不変期間内に提起しなければならない。ただし、その期間前に提起した控訴の効力を妨げない。

期間を定めているのは、285条です。電子判決書などの送達を受けた日から2週間で、不変期間です。裁判所が伸ばしたり縮めたりできない期間で、自分の責任ではない事情で過ぎてしまったときは、期間の回で見た、追完という別の救済がありました。ただし書にも注意してください。その期間前に提起した控訴も有効です。判決の言渡しの回で見たとおり、判決の効力は、言い渡した日に生まれます。だから、言い渡されたあとなら、送達を待たずに控訴しても構いません。期間の始まりより早い控訴は、無効にはならないということです。期間が満了して、判決は確定します。Aさんでいえば、AさんもBさんも、送達から2週間のうちに控訴しなければ、棄却された50万円の部分も含めて、判決はそのまま確定します。補足です。控訴の対象は、原則として終局判決です。争点の一部を先に片づける中間判決などの途中の裁判は、それだけを取り出して控訴することはできず、終局判決への控訴と一緒に控訴審の判断を受けます。また、少額訴訟の終局判決と、法定審理期間訴訟の終局判決には控訴ができず、同じ裁判所への異議で争います。前者は377条と378条、後者は381条の6と381条の7です。ただし、法定審理期間訴訟でも、訴えを却下した判決に対しては、控訴ができます。

控訴理由は書かなくてもよい

控訴状に書くこと(必要的記載事項=1当事者と法定代理人・2第一審判決の表示と控訴する旨/控訴理由=判決の取消し変更を求める事由は必要的記載事項ではない/書いていなければ提起後50日以内に書面=規則182条/攻撃防御方法を書いた控訴状は準備書面を兼ねる) 図:控訴状に書くこと

  • 必要的記載事項=1当事者と法定代理人・2第一審判決の表示と控訴する旨
  • 控訴理由=判決の取消し変更を求める事由は必要的記載事項ではない
  • 書いていなければ提起後50日以内に書面=規則182条
  • 攻撃防御方法を書いた控訴状は準備書面を兼ねる

286条2項をもう一度見てください。控訴状に必ず書かなければならないのは、2つだけです。1つめは、当事者と法定代理人。2つめは、第一審判決の表示と、その判決に対して控訴をする旨です。条文のどこにも、判決のどこが間違いなのかという、控訴の理由は出てきません。つまり控訴の理由は、控訴状の必要的記載事項ではありません。冒頭のAさんの控訴状は、これら2つを満たしていれば、理由が一行もなくても、控訴として成立します。

条文民事訴訟規則182条

民事訴訟規則182条(控訴理由書) 第百八十二条 控訴状に第一審判決の取消し又は変更を求める事由の具体的な記載がないときは、控訴人は、控訴の提起後五十日以内に、これらを記載した書面を控訴裁判所に提出しなければならない。

理由を書いていなければ、その分は後から書面で出します。控訴の提起後50日以内に、取消しや変更を求める事由を書いた書面を、控訴裁判所に出すのです。控訴状の段階で理由を書くことも、もちろんできます。調べてもらえないわけではありません。理由書の出し方と、控訴審が実際に調べる範囲は、別の話です。控訴審が何を調べるかは、このあと続審制のところで見ます。控訴状に、相手の主張への反論や証拠の申出まで書いた場合は、その控訴状が準備書面を兼ねます。理由を書かない控訴状も、控訴として適法です。286条2項に、理由は入っていないからです。50日以内に、理由書を出せばよいのです。

控訴状の審査の板(必要的記載事項の不備=控訴審の裁判長が補正を命じる・補正しなければ命令で控訴状を却下=288条が準用する137条/手数料の不納付=裁判所書記官が納付を命ずる処分・納付しなければ裁判長が命令で控訴状を却下=288条が準用する137条の2/控訴状は被控訴人に送達=289条1項) 図:控訴状の審査の板

  • 必要的記載事項の不備=控訴審の裁判長が補正を命じる・補正しなければ命令で控訴状を却下=288条が準用する137条
  • 手数料の不納付=裁判所書記官が納付を命ずる処分・納付しなければ裁判長が命令で控訴状を却下=288条が準用する137条の2
  • 控訴状は被控訴人に送達=289条1項

控訴状が届いたあとの審査も確認します。必要的記載事項が欠けていると、控訴審の裁判長が、補正を命じます。288条が準用する137条の仕組みです。補正に応じなければ、裁判長が命令で控訴状を却下します。手数料が納められていない場合は、288条が準用する137条の2により、まず裁判所書記官が、納付を命ずる処分をします。それでも納付しなければ、裁判長が命令で控訴状を却下します。審査を通った控訴状は、被控訴人に送達されます。ここまでが、控訴の入口です。

附帯控訴——控訴された側の道具

事案βの板(AとBの関係/第一審=150万円認容・50万円棄却/Aは棄却された50万円について控訴=控訴人A/Bは認容された150万円が不満だが控訴期間内に控訴していない=被控訴人B/問い=BはAの控訴に乗って150万円の部分を争えるか) 図:事案βの板

  • AとBの関係
  • 第一審=150万円認容・50万円棄却
  • Aは棄却された50万円について控訴=控訴人A/Bは認容された150万円が不満だが控訴期間内に控訴していない=被控訴人B
  • 問い=BはAの控訴に乗って150万円の部分を争えるか

ここで、Bさんの側を見ます。Aさんが、棄却された50万円を不服として控訴しました。Bさんは、認容された150万円の支払にも不満がありますが、自分では控訴期間内に控訴していませんでした。この場合、Bさんはそのままでしょうか。争えます。それが附帯控訴です。

条文民事訴訟法293条

民事訴訟法293条(附帯控訴) 第二百九十三条 被控訴人は、控訴権が消滅した後であっても、口頭弁論の終結に至るまで、附帯控訴をすることができる。 2 附帯控訴は、控訴の取下げがあったとき、又は不適法として控訴の却下があったときは、その効力を失う。ただし、控訴の要件を備えるものは、独立した控訴とみなす。 3 附帯控訴については、控訴に関する規定による。ただし、附帯控訴の提起は、附帯控訴状を控訴裁判所に提出してすることができる。

1項です。被控訴人は、自分の控訴権が消えたあとでも、控訴審の口頭弁論が終わるまで、附帯控訴ができます。Bさんは、控訴期間を過ぎていても、Aさんの控訴に乗って、150万円の認容も変更してほしい、と求められます。なぜ、これが必要なのか。控訴審が判決を変えられるのは、控訴した人が不服を言った範囲に限られるからです。Aさんだけが控訴した事案では、Bさんに有利な方向に、たとえば150万円を100万円に減らす変更は、Bさんが附帯控訴をして初めてできます。なぜ範囲に限られるのか。何について、どこまで裁判を求めるかを決めるのは、当事者です。第一審で、原告が求めた以上の判決ができなかったのと同じ、処分権主義の考え方が、控訴審にも及んでいるのです。つまり附帯控訴は、被控訴人が、控訴審の審判の範囲を、自分のほうにも広げるための道具です。3項は、方式です。基本は控訴の規定によりますが、附帯控訴状は控訴裁判所に直接出してもよい、とされています。控訴状は第一審の裁判所に出しましたが、附帯控訴は、事件がすでに控訴裁判所にあるので、そちらに出せるのです。

附帯控訴の付従性と独立附帯控訴(附帯控訴=控訴に付き従う/Aが控訴を取り下げる→Bの附帯控訴も効力を失う/Aの控訴が不適法で却下→Bの附帯控訴も効力を失う/例外=Bの附帯控訴が控訴期間内にされ控訴の利益もある→独立した控訴とみなす=293条2項ただし書) 図:附帯控訴の付従性と独立附帯控訴

  • 附帯控訴=控訴に付き従う
  • Aが控訴を取り下げる→Bの附帯控訴も効力を失う
  • Aの控訴が不適法で却下→Bの附帯控訴も効力を失う
  • 例外=Bの附帯控訴が控訴期間内にされ控訴の利益もある→独立した控訴とみなす=293条2項ただし書

2項本文が、付従性です。附帯控訴は、控訴に便乗し、控訴に対抗して出すものです。だから、Aさんが控訴を取り下げたり、Aさんの控訴が不適法だとして却下されたりすると、Bさんの附帯控訴も一緒に効力を失います。Aさんが控訴を取り下げれば、Bさんの附帯控訴も効力を失うのが原則です。ただし書が例外です。Bさんの附帯控訴が、控訴の要件をそなえていれば、独立した控訴とみなされます。つまり、控訴期間内に出されていて、前回見た、控訴の利益もあるなら、Aさんの控訴が取り下げられても、Bさんの控訴として残ります。これを独立附帯控訴と呼びます。具体的には、Aさんの控訴を知ったBさんが、自分の控訴期間がまだ残っているうちに、附帯控訴として出したとします。Bさんは、そのとき自分で控訴することもできました。だから、形は附帯控訴でも、実質は自分の控訴として扱われます。あとから期間を過ぎて出した附帯控訴は、Aさんの控訴に付き従うだけで、Aさんが取り下げれば消えます。境目は、期間内に出したかどうかです。試験では、付従性と独立附帯控訴という効果を、しっかり押さえてください。

続審制——第一審に積み上げる

続審制の導入(第一審の資料はどうなるか=引き継がれる/新しい主張と証拠は出せるか=出せる/やり直しでも点検だけでもない/喩え=家の増築) 図:続審制の導入

  • 第一審の資料はどうなるか=引き継がれる
  • 新しい主張と証拠は出せるか=出せる
  • やり直しでも点検だけでもない
  • 喩え=家の増築

次は、控訴審での審理の進め方です。まず質問です。既判力の時的範囲の回で見た、基準時は、事実審のどの時点でしたか?事実審の口頭弁論終結時です。控訴審まで争えば、控訴審の口頭弁論終結時になったと思います。控訴審の弁論が終わる時点が基準になるのは、控訴審が、第一審とは別に、新しい事実まで取り込んで判断するからです。ここでは、その審理の型を見ます。喩えるなら、家の増築です。既存の壁はそのまま使い、足りない部屋だけを足します。

条文民事訴訟法296条

民事訴訟法296条(口頭弁論の範囲等) 第二百九十六条 口頭弁論は、当事者が第一審判決の変更を求める限度においてのみ、これをする。 2 当事者は、第一審における口頭弁論の結果を陳述しなければならない。

まず1項です。控訴審で口頭弁論をするのは、当事者が第一審判決の変更を求める限度でだけです。何を調べるかを決めるのは、控訴理由書に何を書いたかではなく、どこまでの変更を求めたかです。冒頭のAさんなら、棄却された50万円の部分です。続いて2項です。当事者は、第一審の口頭弁論の結果を陳述します。これを、弁論の更新といいます。第一審でどんな主張や証拠が出たかを、控訴審の口頭弁論に取り込む手続です。既存の壁を、そのまま使う作業にあたります。

条文民事訴訟法298条1項

民事訴訟法298条(第一審の訴訟行為の効力等) 第二百九十八条 第一審においてした訴訟行為は、控訴審においてもその効力を有する。

298条1項です。第一審でした訴訟行為は、控訴審でも効力を持ちます。第一審で自白したことや、提出した証拠は、控訴審でも生きています。そのうえで、控訴審でも新しい主張や証拠を出せます。これを更新権と呼びます。控訴審の審理は、第一審の手続の規定に準じて行われるので、攻撃防御方法は、訴訟の進行状況に応じた適切な時期に、控訴審でも出せます。増築で足す部屋にあたります。たとえばAさんが、第一審では出していなかった、残りの50万円分の工事をしたことを示す写真を、控訴審で初めて出す。これも、控訴審の判断材料になります。

続審・覆審・事後審の比較板(覆審=第一審の資料を使わず新しい資料を出す=ゼロからやり直し/続審=第一審の資料を使う(弁論の更新)・新しい資料も出せる(更新権)=積み上げる・控訴審の口頭弁論終結時の資料で判断/事後審=第一審の資料を使い新しい資料は原則出せない=第一審の資料だけで原判決の当否を点検/日本の民事の控訴審=続審) 図:続審・覆審・事後審の比較板

  • 覆審=第一審の資料を使わず新しい資料を出す=ゼロからやり直し
  • 続審=第一審の資料を使う(弁論の更新)・新しい資料も出せる(更新権)=積み上げる・控訴審の口頭弁論終結時の資料で判断
  • 事後審=第一審の資料を使い新しい資料は原則出せない=第一審の資料だけで原判決の当否を点検
  • 日本の民事の控訴審=続審

3つの型を並べます。覆審は、第一審の資料を使わず、控訴審でゼロからやり直す型です。家でいえば、更地にして建て直します。事後審は、第一審の資料だけで、原判決が正しかったかを点検する型で、新しい資料は原則出せません。建った家を、図面と見比べて検査するだけです。そして続審は、第一審の資料を引き継ぎ、新しい資料も足せる型です。これが増築です。わが国の民事の控訴審は、この続審です。控訴審の口頭弁論が終わった時点の資料で判断します。第一審のあとに起きた事情や、第一審で出さなかった主張も、控訴審の判断材料になります。先ほど確認した、既判力の基準時が控訴審の弁論終結時にずれるのは、そのためです。控訴審で、原告が訴えを変更するのに同意は要らず、被告が反訴を出すには、原則として相手方の同意が要る、というのも、前に見たとおりです。同時審判の申出も、控訴審の口頭弁論が終わるまでできます。これらは、第一審の手続が控訴審に延びる場面の例です。

更新権の歯止めの板(放っておくと第一審が軽視される・控訴審が遅れる/1裁判長が当事者の意見を聴いて提出すべき期間を定められる=301条1項/2期間経過後は期間内にできなかった理由を説明=301条2項/3時機に後れた攻撃防御方法の却下=157条も使える/4第一審で準備的口頭弁論・弁論準備手続を終えた事件では相手方の求めで理由を説明=298条2項) 図:更新権の歯止めの板

  • 放っておくと第一審が軽視される・控訴審が遅れる
  • 1裁判長が当事者の意見を聴いて提出すべき期間を定められる=301条1項
  • 2期間経過後は期間内にできなかった理由を説明=301条2項
  • 3時機に後れた攻撃防御方法の却下=157条も使える
  • 4第一審で準備的口頭弁論・弁論準備手続を終えた事件では相手方の求めで理由を説明=298条2項

ただし、何でも際限なく出せるとすると、第一審が軽んじられ、控訴審の審理も遅れます。そこで歯止めがあります。

条文民事訴訟法301条

民事訴訟法301条(攻撃防御方法の提出等の期間) 第三百一条 裁判長は、当事者の意見を聴いて、攻撃若しくは防御の方法の提出、請求若しくは請求の原因の変更、反訴の提起又は選定者に係る請求の追加をすべき期間を定めることができる。 2 前項の規定により定められた期間の経過後に同項に規定する訴訟行為をする当事者は、裁判所に対し、その期間内にこれをすることができなかった理由を説明しなければならない。

裁判長は、当事者の意見を聴いて、攻撃防御方法などを出す期間を定められます。その期間を過ぎてから出す当事者は、なぜ期間内にできなかったのか、理由を説明しなければなりません。このほか、時機に後れた攻撃防御方法を却下する仕組みも、控訴審で使えます。たとえばAさんが、さっきの写真を第一審のうちに出せたのに、わざと出さずにおき、控訴審の審理が終わりかけたころに出して、判決を遅らせるなら、却下されることがあります。第一審で準備的口頭弁論や弁論準備手続を終えた事件では、控訴審で新しい主張を出す当事者は、相手方の求めがあれば、理由を説明します。積み上げることはできても、無制限ではない、と押さえてください。

控訴審の終わり方(1)——取下げと和解

控訴審の終わり方の全体図(取下げ・和解=当事者が終わらせる/却下=形式の門前払い/棄却=第一審判決を正当とする/認容=第一審判決を取り消す→自判・差戻し・移送) 図:控訴審の終わり方の全体図

  • 取下げ・和解=当事者が終わらせる
  • 却下=形式の門前払い
  • 棄却=第一審判決を正当とする
  • 認容=第一審判決を取り消す→自判・差戻し・移送

ここから、控訴審がどう終わるかを見ます。終わり方は、大きく4つに分かれます。当事者が自分で終わらせる取下げと和解。形式が整っていないとして退ける却下。第一審判決を正当とする棄却。そして、第一審判決を取り消す認容です。まず、当事者が終わらせる場合です。控訴は、控訴審の終局判決があるまで、取り下げられます。取り下げると、控訴がなかったことになり、第一審判決がそのまま確定します。訴えを取り下げたことにはなりません。訴え全体を消したいなら、別に訴えの取下げをします。控訴の取下げは、訴えの取下げと扱いが違います。控訴の取下げには、被控訴人の同意は要りません。訴えの取下げで同意が要ったのは、相手が勝つ見込みまで一緒に消してしまうからでした。控訴の取下げは、向きが逆です。Aさんが控訴を取り下げれば、Bさんは、150万円の支払を命じた第一審の結論のまま終わります。Bさんから見れば、控訴審で負けが広がるおそれが消えるだけです。だから、訴えの取下げで必要だった相手方の同意の規定は、控訴の取下げには準用されていません。準用されているのは、取下げの書面や擬制などの規定です。取下げ擬制もあります。口頭弁論期日に双方が出頭せず、1か月以内に期日指定の申立てがなければ、控訴の取下げがあったものとみなされます。控訴審でも、和解はできます。裁判所は、訴訟がどの段階にあっても、和解を勧められます。

控訴審の終わり方(2)——却下

控訴却下の4つの形式(287条=控訴が不適法で補正できないことが明らか→第一審裁判所が決定/288条が準用する137条=必要的記載事項の不備で補正しない→控訴審の裁判長が命令/288条が準用する137条の2=手数料不納付で書記官の納付命令の処分にも応じない→控訴審の裁判長が命令/290条=控訴が不適法で補正できない→控訴裁判所が判決・口頭弁論を経ないでできる/291条=期日の呼出費用を予納しない→控訴裁判所が決定/決定は即時抗告可) 図:控訴却下の4つの形式

  • 287条=控訴が不適法で補正できないことが明らか→第一審裁判所が決定
  • 288条が準用する137条=必要的記載事項の不備で補正しない→控訴審の裁判長が命令
  • 288条が準用する137条の2=手数料不納付で書記官の納付命令の処分にも応じない→控訴審の裁判長が命令
  • 290条=控訴が不適法で補正できない→控訴裁判所が判決・口頭弁論を経ないでできる
  • 291条=期日の呼出費用を予納しない→控訴裁判所が決定
  • 決定は即時抗告可

却下は、形式が整っていないとして、中身に入らず退ける終わり方です。ここは、誰が、どの形式でするかで、分けて覚えます。

条文民事訴訟法287条

民事訴訟法287条(第一審裁判所による控訴の却下) 第二百八十七条 控訴が不適法でその不備を補正することができないことが明らかであるときは、第一審裁判所は、決定で、控訴を却下しなければならない。 2 前項の決定に対しては、即時抗告をすることができる。

1つめ。控訴が不適法で、補正できないことが明らかなときは、第一審の裁判所が、決定で却下します。287条です。たとえば、Aさんが、控訴期間の2週間を過ぎてから控訴状を出した場合です。期間の遅れは、書き足せば直る不備ではありません。控訴状を受け取るのは第一審の裁判所なので、不適法で補正できないことが明らかなら、その段階で決定で却下するのです。この決定には、即時抗告ができます。2つめ。控訴状の必要的記載事項が欠けていて、補正に応じないときは、控訴審の裁判長が、命令で控訴状を却下します。先ほど見た、288条が準用する137条の場面です。手数料が納められず、書記官の納付命令の処分にも応じないときも、同じく裁判長が命令で却下します。こちらは、137条の2の場面です。

条文民事訴訟法290条

民事訴訟法290条(口頭弁論を経ない控訴の却下) 第二百九十条 控訴が不適法でその不備を補正することができないときは、控訴裁判所は、口頭弁論を経ないで、判決で、控訴を却下することができる。

3つめ。控訴が不適法で、補正できないときは、控訴裁判所が、判決で却下します。290条です。口頭弁論を開かずに判決できる点が特徴です。4つめ。期日の呼出しに必要な費用を予納しないときは、控訴裁判所が、決定で却下します。291条で、これも即時抗告ができます。第一審裁判所が決定、裁判長が命令、控訴裁判所が判決と決定。これら4つを、誰がするかとセットで押さえてください。290条の不適法は、前回見た、上訴の一般的な要件を満たしていない場合のことです。

控訴審の終わり方(3)——棄却

事案δの板(Aの請求を第一審が弁済で消滅したとして棄却/Aが控訴/控訴審の判断=弁済はなかったが時効で消滅している/理由は違うが請求棄却という結論は同じ=控訴棄却/302条1項=判決を相当とするとき棄却・302条2項=理由が不当でも他の理由で正当なら棄却) 図:事案δの板

  • Aの請求を第一審が弁済で消滅したとして棄却
  • Aが控訴
  • 控訴審の判断=弁済はなかったが時効で消滅している
  • 理由は違うが請求棄却という結論は同じ=控訴棄却
  • 302条1項=判決を相当とするとき棄却・302条2項=理由が不当でも他の理由で正当なら棄却

次は、控訴が形式は整っているとして、中身を判断したうえで退ける、棄却です。

条文民事訴訟法302条

民事訴訟法302条(控訴棄却) 第三百二条 控訴裁判所は、第一審判決を相当とするときは、控訴を棄却しなければならない。 2 第一審判決がその理由によれば不当である場合においても、他の理由により正当であるときは、控訴を棄却しなければならない。

1項は、第一審判決が相当なら、控訴を棄却するという、当たり前の内容です。大事なのは、2項です。別の設例で見ます。Aさんが、Bさんに、ある債権の支払を求めました。第一審は、その債権は弁済で消滅したとして、請求を棄却しました。Aさんは控訴しました。控訴審が調べると、弁済はされていませんでした。ただし、その債権は時効で消滅していました。第一審判決は取り消されず、維持されます。理由は弁済から時効に変わりましたが、請求棄却という結論は、変わりません。302条2項により、この場合は、第一審判決を取り消さずに、控訴を棄却します。結論が維持できるなら、理由が違っても棄却する。理由が不当であることと、主文が不当であることは別だ、と覚えてください。なぜ取り消さないのか。既判力の客観的範囲の回で見たとおり、判決が確定して既判力が生じるのは、原則として、主文の判断だけです。理由を弁済から時効に差し替えても、Aさんの請求は認められない、という確定する中身は変わりません。取り消して、同じ主文を言い直す意味がないのです。実は、この「理由が違っても主文が同じなら棄却」には、一つだけ引っかかる場面があります。相殺の抗弁で請求が棄却された事案です。主文がどちらも請求棄却でも、控訴した側の得失が変わることがあります。これは、次の回で扱います。なお、引き延ばしだけを目的にした控訴は、棄却するときに、手数料の10倍以下の金銭の納付を命じられることがあります。303条です。

控訴審の終わり方(4)——認容と自判・差戻し

認容と3つの出口(第一審判決を不当とするとき=305条・第一審の判決の手続が法律に違反したとき=306条→控訴裁判所は第一審判決を取り消さなければならない/取り消したあとの出口=自判(原則)・差戻し(必要的・任意的)・移送) 図:認容と3つの出口

  • 第一審判決を不当とするとき=305条・第一審の判決の手続が法律に違反したとき=306条→控訴裁判所は第一審判決を取り消さなければならない
  • 取り消したあとの出口=自判(原則)・差戻し(必要的・任意的)・移送

最後に、認容です。第一審判決を不当とするときは、305条により、控訴裁判所は、第一審判決を取り消さなければなりません。第一審の判決の手続が法律に違反していたときも、306条により、同じく取り消します。取り消したあとの出口は、3つあります。自判、差戻し、移送です。原則は、自判です。控訴審が、第一審に代わって、自分で判決を出します。控訴審は事実審で、続審の型で審理しているので、そのまま結論まで出せるからです。たとえばAさんの50万円が認められるべきだと判断したなら、控訴審が、150万円の認容を200万円に改める判決を、自分で言い渡します。例外が、差戻しです。第一審に審理をやり直させる出口で、必要的な場合と任意的な場合があります。

事案γの板(Aが預かり物の返還をBに請求/第一審は訴えを不適法として却下=本案に入っていない/Aが控訴/控訴審は訴えは適法と判断/本案は第一審で一度も審理されていない→差戻し/自判すると事実審が1回減る=審級の利益) 図:事案γの板

  • Aが預かり物の返還をBに請求
  • 第一審は訴えを不適法として却下=本案に入っていない
  • Aが控訴
  • 控訴審は訴えは適法と判断
  • 本案は第一審で一度も審理されていない→差戻し
  • 自判すると事実審が1回減る=審級の利益

別の設例です。Aさんが、Bさんに預けた物の返還を求めて訴えました。第一審は、訴えが不適法だとして、却下しました。本案、つまり預かり物が本当に返還されるべきかどうかには、入っていません。Aさんが控訴し、控訴審は、訴えは適法だと考えました。

条文民事訴訟法307条

民事訴訟法307条(事件の差戻し) 第三百七条 控訴裁判所は、訴えを不適法として却下した第一審判決を取り消す場合には、事件を第一審裁判所に差し戻さなければならない。ただし、事件につき更に弁論をする必要がないときは、この限りでない。

307条です。訴えを不適法として却下した第一審判決を取り消す場合は、本文により、事件を第一審に差し戻さなければなりません。事案では、預かり物の中身は、第一審で、一度も審理されていません。ここで控訴審が自判して、本案まで一気に判決すると、当事者は、本案について事実審を1回しか受けられなかったことになります。これが、審級の利益です。本案について第一審の審理を受けていない当事者を守るのが、この規定の趣旨です。ただし、ただし書があります。事件につき更に弁論をする必要がないときは、差し戻さなくてかまいません。必ず差し戻す、と言い切らないでください。本案について審理する必要がもうないなら、自判できます。

第一審が本案判決をしていた場合、控訴審がそれを取り消しても、差戻しは必須ではありません。必要的差戻しは、訴えを却下した判決を取り消すときだけの規定です。本案判決を取り消す場合は、自判が原則で、差戻しは任意です。

条文民事訴訟法308条

民事訴訟法308条 第三百八条 前条本文に規定する場合のほか、控訴裁判所が第一審判決を取り消す場合において、事件につき更に弁論をする必要があるときは、これを第一審裁判所に差し戻すことができる。 2 第一審裁判所における訴訟手続が法律に違反したことを理由として事件を差し戻したときは、その訴訟手続は、これによって取り消されたものとみなす。

308条1項は、任意的差戻しです。必要的差戻し以外の場合で、第一審判決を取り消し、さらに弁論をする必要があるときは、差し戻すことができます。「できる」と書いてあるので、裁量です。2項は、第一審の訴訟手続の法律違反を理由に差し戻したときは、その訴訟手続は取り消されたものとみなす、という規定です。

条文民事訴訟法309条

民事訴訟法309条(第一審の管轄違いを理由とする移送) 第三百九条 控訴裁判所は、事件が管轄違いであることを理由として第一審判決を取り消すときは、判決で、事件を管轄裁判所に移送しなければならない。

最後の出口が、移送です。管轄違いを理由に第一審判決を取り消すときは、判決で、事件を管轄裁判所に移送しなければなりません。ただし、管轄の回で見たとおり、任意管轄は、当事者の便宜のための定めにすぎません。だから控訴審では、その違反を主張できません。299条1項本文です。実際に出番があるのは、専属管轄に違反した場合です。専属管轄に違反した第一審判決は、この規定で取り消されて、移送されます。

取り消したあとの出口の表(自判=原則/必要的差戻し=訴えを不適法として却下した判決を取り消す・ただし更に弁論の必要がなければ例外=307条/任意的差戻し=それ以外で更に弁論をする必要がある=308条1項/移送=管轄違いを理由に取り消す=309条) 図:取り消したあとの出口の表

  • 自判=原則
  • 必要的差戻し=訴えを不適法として却下した判決を取り消す・ただし更に弁論の必要がなければ例外=307条
  • 任意的差戻し=それ以外で更に弁論をする必要がある=308条1項
  • 移送=管轄違いを理由に取り消す=309条

3つの出口を、表で整理します。自判は原則。必要的差戻しは、訴え却下の判決を取り消すとき、ただし更に弁論の必要がなければ例外。任意的差戻しは、それ以外で更に弁論をする必要があるとき。移送は、管轄違いを理由に取り消すときです。

今日の地図(保存版)

総括の板(冒頭の答え=理由を書かない控訴状でも控訴になる・50日以内に理由書/4つ=①控訴状は第一審裁判所へ・2週間・理由は任意的記載事項/②附帯控訴=付従性と独立附帯控訴/③続審制=弁論の更新・更新権・歯止め/④終わり方=取下げ・却下の4形式・棄却(302条)・認容の3つの出口) 図:総括の板

  • 冒頭の答え=理由を書かない控訴状でも控訴になる・50日以内に理由書/4つ=①控訴状は第一審裁判所へ・2週間・理由は任意的記載事項
  • ②附帯控訴=付従性と独立附帯控訴
  • ③続審制=弁論の更新・更新権・歯止め
  • ④終わり方=取下げ・却下の4形式・棄却(302条)・認容の3つの出口

まとめます。冒頭の問いに戻ります。理由を書いていない控訴状は、門前払いになりません。控訴理由は必要的記載事項ではなく、控訴の提起後50日以内に、書面で出せばよいからです。4つ、振り返ります。1つめ、控訴状は第一審の裁判所に出します。期間は、判決書などの送達から2週間の不変期間で、言渡し後なら送達前でも控訴できます。2つめ、附帯控訴は、被控訴人が、審判の範囲を広げる道具です。控訴の取下げや却下で消えますが、控訴の要件を備えていれば、独立した控訴になります。3つめ、続審制です。控訴審は、弁論の更新で第一審の資料を引き継ぎ、更新権で新しい資料も足せます。歯止めとして、期間の定めと理由の説明があります。4つめ、終わり方です。控訴の取下げは終局判決まででき、被控訴人の同意は要りません。却下は、誰がどの形式でするかで4つに分かれます。棄却は、理由が違っても主文が正当なら302条2項で棄却です。認容は、取り消したあと自判が原則で、訴えを却下した判決を取り消すときは、ただし書の場合を除いて差し戻します。控訴審は、移った事件のすべてを、自由に判断できるわけではありません。

参照条文

  • 民事訴訟法286条
  • 民事訴訟法285条
  • 民事訴訟規則182条
  • 民事訴訟法293条
  • 民事訴訟法296条
  • 民事訴訟法298条1項
  • 民事訴訟法301条
  • 民事訴訟法287条
  • 民事訴訟法290条
  • 民事訴訟法302条
  • 民事訴訟法307条
  • 民事訴訟法308条
  • 民事訴訟法309条

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