2項詐欺の処分意思と利益窃盗(詐欺罪と窃盗罪の区別 後編)
納品されたプロジェクターの代金28万円を払うのが惜しくなり、「現金は隣の自宅の金庫にあるので、取ってきます」と偽って教室を出て立ち去った甲について、代金の支払を免れた点の罪責を答案に書き切る回(詐欺罪と窃盗罪の区別の後編)。客体は財産上の利益なので、検討は窃盗か詐欺かではなく、2項詐欺が成立するか・成立しなければ利益窃盗で不可罰か、になる。処分行為は、代金債権の準占有(事実上弁済を求めうる状態)が終局的に移ったかで見て、目の届かない所へ一人で出ることを許した以上は客観的に処分行為にあたる。処分意思は、債務免除の意思表示を要するとした最決昭30・7・7 を見たうえで、準占有が終局的に移ることの認識があれば足りるとする無意識的処分行為説で書き、2項詐欺罪の成立を導く(意識的処分行為説なら不可罰)。変形として、嘘を言わず黙って立ち去れば欺く行為がなく、どちらの説でも不可罰。最初から払う気がなかったときは1項詐欺(納品)と2項詐欺(代金)が成立し、被害法益の同一・時間的場所的近接・犯意の継続から包括して1個の詐欺罪になる。
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事例
図:木曜日の経過
木曜日の午後4時10分ごろです。学習塾の教室で、電器店の店主Vが、立ったまま待っています。たった今、客の甲が、こう言って出ていったからです。「現金は隣の自宅の金庫にあるので、取ってきます」。Vは「ここで待っています」と答えました。階段を降りる足音が、遠ざかっていきます。甲は、戻ってきません。この場面に至るまでを、順に見ます。登場するのは、40代の甲と、50代のVです。甲は、自宅の隣のビルの2階で、小さな学習塾を営んでいます。Vは、町の電器店の店主で、従業員はおらず、配達も設置も1人で行います。売買の、売り手と買い手です。午前10時ごろ、甲は、Vの店に電話をかけて、業務用のプロジェクター1台を注文しました。代金は28万円です。Vは「納品のときに、その場で現金でお支払いください」と言い、甲は「そうします」と答えました。このときの甲は、約束どおり、払うつもりでした。午後4時ごろ、Vは、プロジェクターを教室に運んで設置し、動作を確かめて、甲に引き渡しました。そして、「代金28万円をお願いします」と言いました。甲は、現金28万円を持っていましたが、払うのが惜しくなりました。午後4時10分ごろが、冒頭の場面です。甲は「取ってきます」と言いましたが、取ってくるつもりはなく、払わずに済ませるつもりでした。Vは、甲が現金を持って戻り、支払ってくれると信じていました。代金を免除するつもりは、まったくありません。甲は、教室を出て階段を降り、自宅には寄らずに、通りに出て立ち去りました。午後5時ごろ、Vは電話をかけましたが、つながりませんでした。
図:甲とVの関係
関係を、図で整理します。Vが、プロジェクターを甲に引き渡しています。現金を取ってくると偽ったのは、甲です。Vは、甲が戻って払うと信じて、待っています。甲は、Vが戻りを信じて待っていること、自分には取ってくる気も払う気もないことを、分かっていました。問いは、次の1つです。甲の罪責のうち、代金28万円の支払を免れた行為について、論じなさい。
罪名と条文の特定
まず、甲が何を得たのかを、見ます。プロジェクターは、有効な売買で、正当に引渡しを受けた物です。新たに奪った物は、ありません。甲が得たのは、財物ではなく、代金28万円の支払を免れる、という利益です。条文を見る前に、前に確認したことを思い出してください(解説 #16-2 詐欺罪②——錯誤と処分行為の意義・終局的移転)。詐欺罪は、何と何と何が順につながって成立するのでしたか?欺罔行為、錯誤、処分行為、それから、財物や財産上の利益の移転、の4つです。どれか1つでも欠ければ、既遂になりません。条文を見ます。
条文刑法235条
刑法235条(窃盗) 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
条文刑法246条
刑法246条(詐欺) 1項:人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の拘禁刑に処する。 2項:前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。
成立要件は、条文どおりです。窃盗罪の客体は、財物だけです。財産上の利益をこっそり得ても、窃盗罪にはなりません。いわゆる利益窃盗は、条文が用意されていないので、処罰されません。一方、詐欺罪には2項があり、利益も客体になります。したがって、本件の検討は、2項詐欺が成立するか、成立しなければ不可罰、という形になります。窃盗か詐欺か、ではありません。処分行為は、相手が自分の意思で渡したのか、こちらが勝手に取ったのかを分けます。財物なら、だまして渡させれば詐欺、黙って取れば窃盗です。利益では、勝手に取っても罪になりませんから、相手の意思で移させたかどうかが、そのまま、処罰されるかどうかの境界になります。詐欺罪は、だまして、相手に自分から渡させる罪です。ですから、「欺」く行為は、処分行為に向けられたもの、つまり、相手に処分行為をさせるための偽りでなければなりません。向けられていなければ、4つのうちの1つ目、欺罔行為が、そもそもありません。詐欺の実行が始まらないので、詐欺は未遂にもなりません。気になる点は、2つです。1つ目。Vが甲の外出を許した行為は、代金債権について、処分行為といえるのか。2つ目。Vは、債務を免除する意思表示をしていませんし、免除するとも思っていません。それでも、処分行為といえるのか。この順に見ます。
処分行為と準占有
1つ目です。Vは、甲が戻ってきて払うと信じて、教室を出ることを許しています。「取ってきます」「ここで待っています」というやりとりもあります。この許可は、代金債権についての処分行為といえるのか。処分行為とは何かは、条文には書かれていません。次のように考えます(財物の場面は前編 詐欺罪の処分行為と処分意思)。
⭐ 論文で書く規範:処分行為の意義 処分行為(交付行為)とは、錯誤による瑕疵ある意思に基づいて、財物又は財産上の利益を終局的に相手方に移転させる行為をいう。 (規範(通説で立てる))
図:規範カード|処分行為の意義
本件では、財物ではなく、財産上の利益を移す場面です。そこで、移すものが何かを、特定します。財物の場合の占有にあたるのは、代金債権の準占有です。事実上、弁済を求めたり、促したりできる状態のことを、こう呼びます。終局的とは、永久に手放す、という意味ではありません。この請求できる状態が、いったん相手の手に移るなら、終局的な移転にあたります。決め手は、相手がVの目の届かない所にいて、いつ戻るのか、戻るかどうかさえ、Vには分からないことです。事実上、支払いを求めたり促したりできる状態が、そこで失われます。事実を拾って、確かめましょう。観点だけを、表にして示します。
図:事実を拾う観点
左は、拾う事実。真ん中は、その事実のもとで、Vが事実上できること。右は、処分行為の判断への影響です。項目は3つです。
図:事実を拾って評価する
1行目です。Vは、甲が教室を出て、Vの目の届かない所へ一人で行くことを、許しています。そうすると、Vは、その場で代金の支払を求めることも、甲が戻ってくるかを確かめることも、できなくなります。準占有が、甲に移っています。これが決め手です。2行目。「ここで待っています」と答えて、甲が戻ると信じていたことは、戻ってくるという、Vの期待を示すにとどまります。準占有が甲に移った、という事実は、期待があっても変わりません。結論に影響しません。3行目。Vに債務を免除するつもりが全くなかったことは、準占有が移ったかどうか、という客観面の話ではありません。Vが何を認識していたか、という次の節の問題です。当てはめます。Vは、甲が戻って払うと信じて、つまり錯誤のもとで、甲が教室を出ることを許しました。代金債権の準占有は、甲に終局的に移っています。客観的には、処分行為にあたります。ただし、Vは、債務免除までは考えていません。
処分意思
2つ目です。処分行為があるといえるために、渡す側、ここでは債権者のVは、どこまで認識している必要があるのか。処分行為の内側にある、この認識を、処分意思といいます(解説 #16-3 詐欺罪③——処分意思の要否)。条文には書かれていません。判例があり、見解も分かれています。まず、判例を見ます。
判例最決昭30・7・7 刑集9巻9号1856頁
2項詐欺で債務の支払を免れたといえる要件 ……すべて相手方の意思によつて財産上不法の利益を得る場合をいうものである。従つて、詐欺罪で得た財産上不法の利益が、債務の支払を免れたことであるとするには、相手方たる債権者を欺罔して債務免除の意思表示をなさしめることを要するものであつて、単に逃走して事実上支払をしなかつただけで足りるものではないと解すべきである。……
債務の支払を免れたといえるには、債権者をだまして、債務免除の意思表示をさせることが要る。単に逃げて払わなかっただけでは足りない、という決定です。この決定は、被欺罔者に債務免除の認識まで求める見解、意識的処分行為説に立つものと、評価されています。もう一つの見解が、無意識的処分行為説です。見解を、表にして並べます。
図:2つの見解の対比
意識的処分行為説は、債務免除の認識まで必要だと見ます。詐欺は、被欺罔者の意思にもとづいて利益が移る構造をもつから、意思の対象は、債務免除にまで及ぶ必要がある、という理由です。無意識的処分行為説は、準占有が終局的に移ることの認識があれば足り、債務免除の認識は不要だと見ます。意識的処分行為説には、批判があります。何が移るのかを相手に知らせないまま、利益を得させることは、詐欺の最も典型的な手口です。それを、詐欺罪の外に置くのは、妥当ではありません。答案では、無意識的処分行為説で書きます。規範は、こうです。
⭐ 論文で書く規範:処分行為に必要な被欺罔者の認識(2項詐欺) 処分行為を認めるには、被欺罔者が、債権について事実上履行を求めうる状態(準占有)が相手方に終局的に移ることを認識していれば足り、債務を免除する意思表示までは要しないと解する。何が移るのかを相手に知らせないまま利益を得させることは、だます手口の典型であり、これを詐欺罪の外に置く理由はないからである。 (規範(学説で立てる))
図:規範カード|処分行為に必要な被欺罔者の認識(2項詐欺)
本件の甲も、払わずに済ませるつもりだとは、Vに知らせていません。知らせれば、Vは、外出を許さないからです。債務免除の認識を必要とすると、この手口が、詐欺から外れてしまいます。名前から、無意識的処分行為説は、認識がまったくなくてよい説だと、思いがちです。そうではありません。認識には、2段あります。1段目は、準占有が終局的に移ることの認識。2段目は、債務免除の認識です。1段目は、どちらの説でも必要です。争いがあるのは、2段目だけです。たとえば、Vが、甲はすぐ近くまで出るだけで、自分の目の届く所にいる、と思っていたなら、1段目がありません。どちらの説でも、処分行為はなく、不可罰です。ここで、先ほどの決定の使い方を、整理します。この決定が取り上げた事案は、宿泊と飲食のあと、店先に出たまま逃げた場面でした。店先に出ただけなら、相手の目の届く所にいますから、1段目すら欠ける場面です。その場面は、どちらの説でも、結論は同じです。ですから、この決定を引いて、意識的処分行為説を採る必要はありません。本件のように、目の届かない所へ一人で出ることを許した場面の結論は、この決定では決まりません。なお、この事案の被告人は、所持金も払う気もないのに、宿泊と飲食をしていました。決定は、第一審が確定したこの事実によれば、逃げる前、宿泊と飲食をした時点で、詐欺罪がすでに既遂に達していたとして、上告を棄却しています。逃げた場面に処分行為があったかどうかは、有罪の結論を左右しなかったのです。
事実を拾って、確かめましょう。観点だけを、表にして示します。
図:認識を拾う観点
項目は、2つの見解です。列は、Vが認識していたもの、処分行為、罪名です。
図:認識を拾って結論を比べる
Vが認識していたのは、甲が教室を出て、Vの目の届かない所へ一人で行くことです。1段目は、あります。債務を免除するという認識は、ありません。2段目は、ありません。意識的処分行為説では、2段目まで必要ですから、処分行為がなく、2項詐欺は成立しません。利益窃盗として、不可罰です。無意識的処分行為説では、1段目で足りますから、処分行為があり、2項詐欺罪になります。ここで、結論が分かれます。無意識的処分行為説で、当てはめます。目の届かない所へ一人で行くことを認識して許した以上、Vは、代金債権について事実上履行を求めうる状態が、甲に終局的に移ることを認識していた、といえます。Vが甲の外出を許した行為は、処分行為にあたります。欺く行為には、処分行為に向けられていることのほかに、2つの条件があります。重要な事実を偽ることと、財産的な損害を与える現実的な危険があることです。前の方は、本当のことを知っていれば相手が処分行為をしなかった、という事実を偽らなければ、だまして移させたとはいえないからです。後の方は、詐欺罪が財産を守る罪だから求められます。一言ずつ当てます。Vは、甲が戻って払うつもりがないと知っていれば、外出を許さなかったはずです。戻って払う意思の有無は、判断の基礎となる重要な事実です。また、Vは代金28万円の支払を受けられなくなりますから、財産的な損害を与える現実的な危険もあります。
結論
図:甲の罪責の検討結果
結論です。甲には、代金28万円の支払を免れた点について、詐欺罪、刑法246条2項が成立します。窃盗罪は、成立しません。刑は、10年以下の拘禁刑です。
事実を1か所変える、黙って立ち去る
図:変形の事実
事実を1か所変えて、結論が動く場面を見ます。変わるのは、甲が嘘を言うかどうか、だけです。午後4時ごろ、Vは、プロジェクターを引き渡します。午後4時5分ごろ、Vは「代金の28万円を、お願いします。先に道具を片付けますので、少しお待ちください」と言って、教室の隅で、工具を片付け始めました。甲は、払うのが惜しくなり、何も言わず、Vが片付けているあいだに、教室を出て、階段を降り、通りに出て立ち去ります。数分後、Vは、甲がいないことに気づきますが、甲は戻りません。観点を、表にして示します。
図:変形で拾う観点
左は、Vが許したことと、甲の偽り。真ん中は、2項詐欺罪。右は、窃盗罪です。
図:変形で事実を拾う
Vは、何も許していません。片付けのために少し待ってほしいと言っただけで、甲が出ていくことを認めてはいません。甲も、何も偽っていません。ですから、処分行為に向けられた欺く行為がなく、4つのうちの1つ目が欠けます。2項詐欺は成立せず、詐欺の実行も始まっていないので、未遂にもなりません。窃盗罪はどうか。235条の客体は、財物だけです。甲が得たのは、代金債務の支払を免れる利益ですから、利益窃盗です。処罰されません。結論は、不可罰です。刑法上の犯罪は、何も成立しません。民事上の代金債務は残ります。ここで、先ほどの決定に戻ります。決定は、2項の利益は、すべて相手方の意思によって得る場合をいい、単に逃げて払わなかっただけでは足りない、と述べていました。債務免除の意思表示まで要る、という部分は、答案では採りませんでしたが、この線は、どちらの説に立っても効きます。基本事例の甲は、嘘でVに外出を許させました。相手の意思による移転があります。変形の甲は、一方的に逃げただけで、Vの意思による移転がありません。分かれ目は、そこです。
事実を足す、最初から払うつもりがない
図:変形の事実
もう一つ、今度は事実を足します。甲は、午前の注文のときから、払うつもりがありませんでした。届いたら、代金は払わずに済ませるつもりでした。午後に引渡しを受け、同じ嘘、「取ってきます」で、教室を出て立ち去ります。まず、プロジェクターについてです。払う意思があるように装って注文したことが、欺く行為にあたります。払う意思がないのに、払うと告げる行為です。Vは、払うと信じて、引き渡しました。錯誤、処分行為、財物の移転が、そろっています。注文で偽った時点で、処分行為に向けた欺く行為、つまり詐欺の実行が始まっていますから、ここで未遂です。引き渡させた時点で、既遂です。詐欺罪、刑法246条1項が成立します。次に、代金の支払を免れた点です。ここは、基本事例と同じです。無意識的処分行為説に立つと、詐欺罪、刑法246条2項が成立します。すると、1項詐欺罪と2項詐欺罪の、2つの罪が成立します。2つの罪として刑を重くする、併合罪にも見えます。しかし、プロジェクターを渡させたことと、その代金を払わずに済ませたことは、Vから見れば、同じ取引の、実質的に同じ法益への、1つの侵害です。2つの罪として別々に数えると、同じ法益の侵害を、2度数えることになります。そこで、全体を、1個の罪と評価できないか。ここで、次の規範を使います。
⭐ 論文で書く規範:包括一罪の要件 数個の行為であっても、①被害法益が同一で、②時間的・場所的に近接した行為が、③同一または継続の犯意に基づくものである場合には、全体を一体として評価し、包括一罪になると解する。 (規範(通説で立てる))
図:規範カード|包括一罪の要件
包括一罪は、前に確認した考え方です。①と②は、侵害が実質的に1つにまとまっているか。③は、それを1つの意思で実行したか、を見ています。①と②の2つで説明されることもありますが、③まで当てておけば、1個にまとめる理由を、意思の面からも示せます。3つの要件を、事実に当てます。
図:包括一罪の3要件の当てはめ
1つ目。被害法益が同一か。プロジェクターの占有と、その代金債権は、同じ取引の財産です。実質的に、同じ法益です。2つ目。時間的、場所的な近接。引渡しから10分後で、同じ教室です。3つ目。同一または継続の犯意。代金を払わずに商品を得る、という意思が、注文から支払を免れるまで、続いています。3つとも、満たします。ですから、甲には、1項詐欺罪と2項詐欺罪が成立しますが、包括して、1個の詐欺罪になります。併合罪にはなりません。なお、意識的処分行為説に立つと、2項は成立せず、1項詐欺罪だけが残ります。どちらの説でも、罪名は、詐欺罪1個です。
場面ごとの結論の整理
図:納品の場面ごとの結論
4つの場面を、1枚の表にして並べます。1つ目は、嘘で外出を許される場合です。意識的処分行為説では処分行為がなく、不可罰。無意識的処分行為説では処分行為があり、2項詐欺罪です。2つ目は、Vが、甲はすぐそこにいる、と思っていた短い離席です。1段目すら欠けますから、どちらの説でも、処分行為がなく、不可罰です。3つ目は、嘘を言わず黙って立ち去る場合です。どちらの説でも、欺く行為がなく、不可罰です。そして4つ目は、最初から払う気がなく、納品を受けて、さらに嘘で外出を許される場合です。1項詐欺は、どちらの説でも成立します。2項は説で分かれますが、全体は、詐欺罪1個です。分かれ目は、2つです。相手の意思による移転があったか。そして、被欺罔者の認識を、どこまで求めるかです。同じ物差しを、他の事案に当てるときの比較表を、1枚だけ見ておきます。短答の知識です(キセル乗車のあてはめは解説 #16-4 詐欺罪④——あてはめ)。
図:キセル乗車の見解の比較
キセル乗車とは、区間の連続しない乗車券を組み合わせて、間の区間の運賃を免れる行為です。詐欺罪が問題になるのは、有人の改札だけです。機械は錯誤に陥りませんから、自動改札では、詐欺罪は成立しません。乗車駅基準説は、欺く行為を乗車駅に見ます。キセル目的の乗車券は無効で、それを黙って呈示すること自体が、有効な券だと偽る嘘になる。言葉ではなく、行動そのものが嘘になる、挙動による欺罔です。処分行為は、鉄道会社が乗客を運ぶという、役務の提供で、運んでもらうこと自体が利益ですから、出発した時点で2項詐欺が既遂です。下車駅基準説は、欺く行為を下車駅に見ます。乗車した区間を偽って、差額運賃の請求をさせずに免れる。処分行為は、無意識的処分行為説なら、係員は乗客が改札の外に出ることを認識していますから、あります。意識的処分行為説なら、運賃債権の存在を認識していませんから、素直には認めにくくなります。否定説は、乗車駅では乗車券が有効で、欺く行為がなく、下車駅では、係員が運賃債権の存在すら認識せず、処分行為がない、と見ます。同じ認識の物差しが、ここでも結論を分けています。
完成答案
図:完成答案:問題の所在、欺く行為と処分行為の意義
こちらが完成答案です。処分行為、処分意思、残りの要件、結論の順に、この動画で検討した順で並んでいます。1枚目は、問題の所在と、欺く行為、処分行為の意義です。
図:完成答案:処分行為のあてはめ、処分意思の問題提起
2枚目は、処分行為のあてはめと、処分意思の問題提起です。
図:完成答案:処分意思の規範とあてはめ
3枚目は、処分意思の規範と、あてはめです。
図:完成答案:詐欺罪のその余の要件、結論
4枚目は、詐欺罪のその余の要件と、結論です。重要な事実を偽ったか、財産的損害の現実的な危険、錯誤から利益の移転までのつながり、そして故意を、1つずつ確かめています。
参照条文
- 刑法235条
- 刑法246条